遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(457) 小説 いつか来た道 また行く道(17)  他 本物

2023-07-23 12:35:48 | つぶやき
             本物(2023.7.7日作)


 物事は総て
 無意識の行動の域に達しなければ
 本物とは言えない
 意識しての行動は まだ
 その行動が 身に付いた 本物 とは
 言えない――未熟
 松は松として 無意識の裡に存在する
 竹は竹として 無意識の裡に存在する
 松は松で 竹にはなれない
 竹は竹で 松にはなれない
 松は松の本性そのまま 堅固に
 松として存在する
 竹は竹の本性そのまま 自在に揺れ動き
 竹として存在する
 人も同じ事 自身の身に備わった
 本性そのまま 行動する
 その行動こそが 自己を最も顕著に
 証明する 本物と言える そこに
 計らい 計算はない 
 計らい 計算の世界は
 借り物 無意識裡
 自然に手が 身体が 頭が 心が動く
 本物の世界は そこに在る





           ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 
             
             いつか来た道 また行く道(17)


 

 
 わたしは暗い芝生の上を白樺の落葉を踏みながら車庫へ向かった。
 中沢はアプローチ(通路)を辿って車を廻して来た。
 わたしは車庫の扉を開けると、運転席の窓を開けている中沢に向かって、
「この右側に入れて頂戴」
 と、わたしの車が入っている右の場所を指差して言った。
 中沢はいったん車を戻して方向を変えて来るとバックで車庫に納めた。
 わたしは車庫の入口に立ったまま、ここで一気にやって(殺して)しまう事も出来たのだ、思いをめぐらした。
 中沢が車から出るところを一気に襲うーー
 しかし、すぐに、わたしより背の高い中沢を殺るには少し無理がある、と思い至った。
 それに、ここでは中沢も自由に動けるし、もしもわたしの力が足りずに失敗した時には、取り返しの付かない事になる・・・。
 中沢が車から降りて来た。
 何故か彼は、ひどく寛いでいる風に見えて警戒する様子はまるで見られなかった。二十日の夜、わたしの車の中で見せた怨念のこもったような暗い翳は微塵もなくて、何時もの彼の身に付いた軽薄さだけが浮き立って見えた。
 わたしは中沢が車庫の外へ出ると明かりを消し、電動扉のボタンを押した。
「何処から来たの ? 部落の中を通って来たの ?」
 黄色くなった芝生の上を中沢と並んで歩きながらわたしは聞いた。
「そうだよ。だって、それしか道がないじゃん」
 中沢はわたし達がまだ親しかった頃の打ち解けた口調で答えた。
 当時のわたしにはそんな中沢の軽薄な口調が心地良く感じられたものだったが、今のわたしにはその口調も唾棄したい程の嫌悪感でしか受け止められなかった。
 わたしは彼への苛立ちを懸命に抑えながら、
「誰にも会わなかった ?」
 と聞いた。
「誰にもって ?」
 彼はわたしの質問が理解出来ないように聞き返した。
「部落の人とか、他の車とかに」
「会わないよ。誰か来るの ?」
 彼は初めて軽い疑念を抱いたようにわたしを見て聞き返した。
「誰も来ないわよ。なんで、来なければならないの。こんな所に」
 わたしは彼に警戒心を抱かせたか、と狼狽の気持ちに捉われながら思わず並んで歩く速度を速めていた。
 中沢もわたしの歩調に合わせて後を付いて来たが、別段の疑念も抱かなかったようだった。
 わたしが先立って明かりの無い玄関に入ると、中沢も後に従って、
「なんだ、暗いなあ。明かりを点ければいいのに」
 と言った。
「大丈夫よ。靴はそこに脱いで置けばいいんだから」
 わたしは突き放すように言って先に上がった。
 彼はお客ではない !
 中沢は大広間に入ると、
「でっけえ部屋だなあ」
 と、まず感嘆の声を上げた。
 わたしはそんな中沢は無視したまま、窓際のテーブルに向かいながら、
「管理人のおばさんに食事を頼んであるんだけど、夜遅くなるって言ったので、まだ出来て来ないのよ。お腹が空いていたら、そこにあるバンを食べていて」
 と言った。
 中沢はわたしが指示した袋の中を覗くと缶コーヒーを取り出した。
「クスリはどうしたの ? 持って来たの ?」
 やはりその事が気になって聞いた。
「うん。車の中に置いてある」 
 まるで罪悪感がないように彼は、あっけらかんとして言った。
「嫌よ、わたしの前であんなものをやらないでよ」
 わたしは厳しい口調で言った。
 親密だった二人の関係に亀裂が入ったのもそこからだった。
「大丈夫だよ」
 中沢はわたしの厳しい口調も軽く受け流すように言って、手にした缶コーヒーの蓋を開けた。
「今、お風呂に火を入れて来るから、沸いたら食事が来る前に入っちゃいなさい」
 幼い子供に言い聞かせるようにわたしは言った。
「いや、風呂はいいよ」
 突飛なわたしの言葉も気にする様子もなく彼は言った。
「駄目よ、汚い身体じゃわたし厭よ」
 わたしは言った。
 その言葉で中沢はすぐにわたしの真意を理解したらしかった。軽く微笑んで缶コーヒーを口に運んだ。
「明日はどうせ、午後からでないと相手に会えないから、今夜はゆっくり出来るわ」
 わたしは以前のような親密感を込めて言った。
 彼は軽く肩をすくめてからかうようにわたしを見た。
 わたしには親しい彼の眼差しだった。
 わたしは、総てがわたしの計画通りに進んでいる、と自覚しながら浴室に向かった。
 湯船の湯はそれ程冷めていなかった。
 すぐにガス栓をひねって火を入れ、トレーニングルームの入口に置いてあるタオルにくるんだダンベルを確認してから居間に戻った。
 中沢は菓子パンを取り出して食べていた。その様子を見て、このバカ者は自分が脅迫した相手に対して、こうも無防備でいられるのだろうかと、わたしはその軽薄さに驚きの感情をさえ覚えていた。いずれにしても、わたしに取っては好都合な事だったが。
 わたしは軽いほくそ笑みの気持ちと共に気を良くして言った。
「ちょっと、おばさんに電話をして来るわ。その椅子に座って待っていて」
 無論、電話などする気はなかった。彼と顔を突き合わせていたくなかっただけだった。心の内を悟られる事への警戒心が働いた。
  わたしは電話機の前へ行くと電話を掛ける振りをして三、四分を過ごした。
 その後、浴室へ行った。
 湯船の湯は適温になっていた。
 わたしは広間に戻った。
 中沢は菓子パンも食べ終わって、ソファーの背もたれに頭をもたせ掛け、天井を見つめてぼんやりしていた。
「お風呂が出来たわ、入ってみて。入っているうちに食事も出来て来そうだから」
 中沢の背後からわたしは言った。
 中沢は体を起こし、振り返ってわたしを見た。
「タオルを出して来るからお風呂場へ行っていて」
 中沢は素直にわたしの言葉に従った。
 彼にしてみれば二人の関係は既に完全に元の関係に戻っている、そうとしか思えなかった。
 それに彼の眼にはは、この広い部屋の豪華さが総て新鮮に映るらしかった。その驚きで疑いの気持ちも忘れているようだった。
 わたしが洗顔タオルとバスタオルを持って浴室へ行くと、彼は既に脱衣室に居て浴室を覗いていた。
 浴室は金色をあちこちに散りばめた贅沢な造りになっていた。彼はそこに興味を引かれていたらしかった。
 わたしがタオルを持って近付くと、正面の大きな鏡の中でわたしを見付けて振り返り、
「一緒に入ろう」
 と、わたしの肩を掴んで言った。
 わたしはその手を振り払って、
「駄目よ。おばさんが何時、食事を持って来るか分からないわよ」
 と言った。





            ーーーーーーーーーーーーーーー




            桂蓮様


             御身体不調の中 御眼をお通し戴き有難う御座います
            術後 間もない御身体 余り無理をなさらぬ様にして下さい
            わたくしも大腸がんを手術した経験があります その時の
            身体に器具をつながれて身動きの出来なかった時の苦しさ
            経験があります 二度と病気はしたくないとつくづく思いました 
            バレー まだまだ無理 慌てず焦らず 気軽に気楽にゆきましょう
            それにしても冒頭の写真 いつも見惚れています
            良い絵です 同じ湖 同じ樹でありながら 何故か
            日本に見る雰囲気とは異なって見えるのは何故でしょう 
            アメリカと日本 国土のスケールの違いが 自ずと雰囲気として
            醸し出されるのかも知れません
             それにしてもあの巨木が切り倒される ちよっと残念な気がします
            あの大きさになるのに何年かかった事か でも人の身に降り掛かる災害を思う時
            仕方のない事もあるのかも知れません
            日本でも神宮の森の巨木が切り倒される事への賛否が沸き起こっています
            わたくしとしては勿論 切り倒し反対です 貴重なこの地球上の証拠品を
            一気に葬り去ってしまう訳ですから
            金銭的 商業的思惑の罷り通る世の中を憂うる思いです
             とうぞ 御身体が元の状態に快復するまでくれぐれも無理を
            なさらないで下さい
             有難う御座いました



               takeziisan様


                何時も有難う御座います
               美しい花々の数々 存分に眼を楽しませて戴きました
               それにしてもこれらの花々 正に花博士といったところです
               なんだか見ているだけで楽しくなって来ます
               野に咲く小さな花々 田舎に居た時の自然を思い出します
               懐かしい風景です 先日も書きましたが あの自然の中に  
               当時の状況のまま身を置いてみたいです
                トウモロコシ失敗 ?
               トウモロコシは易しいものだとばかり思っていました
               子供の頃の田舎道は畑の中が多くてその畑の畔には夏の間  
               何処でもトウモロコシが稔っていました
               わたくしにとってはトウモロコシの稔る風景は夏の風物詩です
               昔は確か 農薬などは使わなかったはずです
               記事を拝見して意外感に打たれました
                ゴーヤ ブルーベリー 近所付き合いの暖かさ
               気持ちがほのぼのします
               昔の農村では当たり前の風景でした
                 都々逸 浪曲 漫才 とんち教室・・・
               ラジオが唯一の娯楽 懐かしいですね
               これも以前に書きましたが 夏のお盆の夜など
               庭で遊びながらラジオから流れて来る 俗曲の時間 の
               放送を聞いていました 都々逸 新内 民謡 端唄 小唄
               今でもあの時の景色が記事と共に鮮明に蘇って来ます
               楽しい記事の数々 有難う御座いました
               束の間 息抜きの時間です
               世の中 余りに悲惨な出来事が多過ぎます





遺す言葉(456) 小説 いつか来た道 また行く道(16) 他 ゆうべ(昨夜)みた夢

2023-07-16 11:46:05 | つぶやき
            ゆうべみた夢(2023.4.5日作)



 わたしは泣いていた
 わたしの前には ひどく
 寂しい景色があった 
 広い海原 砂浜には 
 誰もいなかった
 わたしは一人 堅い砂の渚を歩いて行った
 帆柱を林立させて 無数の漁船が
 停泊して 漁港があった
 人の姿は見えなかった
 コンクリートが剝き出しの
 四角く太い柱が何本も建ち並ぶ
 市場があった 数々の
 荷受けカゴが空のまま
 幾つも幾つも 積み重ねられてあった
 人は誰もいなかった
 静まり返った暗い影が
 市場を満たしていた
 孤独の影
 わたしは歩いて行った
 いったいわたしは 何処へ行くのだろう
 わたしは影だけの存在になっていた
 わたしの肉体は消えていた
 影のわたしは泣いていた
 泣きながらわたしは歩いていた
 遠く彼方へ
 いったい わたしは何処へ行くのだろう
 わたしは わたしの影が見えなくなるまで
 歩いて行った
 わたしはいったい 何処へ行くのだろう




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー




            いつか来た道 また行く道(16)




 中沢の来る気配はまだなかった。
 わたしはこの時、また新たな懸念に捉われた。
 闇の中をわたしの別荘目差して登って来る中沢の車の明かりが、部落の人達の眼に触れる事に気付いたのだった。
 夜の闇を切り裂く車の明かりは下の部落からでも、はっきりと見えるのではないか ?
 この静かな場所では、夜遅く来るように言った事がかえって、裏目に出るのでは・・・・。
 わたしは、ほぞを嚙む思いだった。
 でも、もうどうする事も出来ない。
 その明かりが必ず人目に付くとは限らないだろう。それに、この部落にも夜遅く車を走らせる人はいるだろうし、中沢の車の明かりが人目に付いたとしても、怪しむ人はいないのではないか。ーー
 いずれにしても、心配の種は尽きなかったが、わたしは気を取り直して再び広間を出た。
 玄関で靴入れを開け、サンダルを出して履いた。
 靴入れの横に吊るしてある懐中電灯を手にして外へ出た。
 車庫とは反対側にある物置小屋へ向かった。
 物置小屋の木の引き戸には鍵は掛けてなかった。
 懐中電灯の明かりで中へ入るとシャベルを探した。
 普段使いのシャベルはノコギリなどと一緒にすぐに取り出せる場所にあった。
 わたしはシャベルを手にした。
 ノコギリは必要ないだろう。
 シャベルを持って外へ出た。
 遠く幽かに車の音を聞いたように思った。
 シャベルを手にしたまま暗闇の中で耳を澄ました。
 聞いたように思った車の音は空耳らしかった。
 あるいは遠くを走り去った車の音かも知れなかった。
 物置小屋から戻るとシャベルを家の横に立て掛けて玄関へ入った。
 懐中電灯は消して元の場所へ戻した。
 サンダルを脱いで玄関に上がると広間に入った。
 ソファーに身体を埋めて一息入れ、フッと溜息を付いたが風呂の火が付いたままになっているのに気付いて、慌てて腰を上げた。
 風呂はまだ湧いていなかった。それでもガス栓を閉じてまた広間に戻った。
 再びソファーに身体を埋めると身も心も投げ出すようにして思わず、疲れた ! と呟いた。
 一気に緊張感がほどけて体中が溶けてゆくような感覚だった。 
 頭が極度に重かった。何かが詰まっているようで、咄嗟には何も考えられなかった。
 眼をつぶり、ソファーの背もたれに身体をもたせ掛けてしばらくは何も考えず、閉じた瞼の裏に見える黒い闇だけをじっと見つめていた。
 テーブルの上には途中で買って来た菓子パンや缶コーヒーの入った袋がそのまま置かれていたが、手を延ばす気力も起らなかった。
 一日中、食事らしい食事はしていなかった。
 朝食も長時間、車に揺られる事を考えて多くは口にしなかった。
 母は娘のために作った朝食を食べさせたがってしきりに勧めたが、二口三口、口に運んだだけだった。
「そんなでは昼まで持たねえよ」
 母は娘の小食を心配した。
「うん、でも長い時間、車に揺られるので」
 わたしは言い訳を口にした。
 車に乗ってからは食事どころではなかった。
 勝手知らない道を一刻も早くと思いながら、懸命にハンドルを握っていた。
 途中、喉が渇いて立ち寄った小さな店で菓子パン、缶コーヒー、スポーツドリンクを買い、眼に付いた板チョコを買って口に入れた。あとはスポーツドリンクを飲んだだけだった。
 菓子パンは車の中でも手を付けなかった。
 中沢栄二の来る気配はまだ無かった。
 静かだった。信じられないぐらい静かだ、と思った。
 時々、思い出したようにか細い虫の音が聞こえた。
 他には物音一つなかった。
 風もないのか、建物を囲む白樺の木々の葉を揺する音さえも聞こえなかった。総てが深い闇に包まれた沈黙の中で、わたしの居るこの広い空間を持つ広間だけが唯一、明かりを点し生きている人間の世界を演出しているかのようだった。
 わたしは暫く閉じていた眼を開くと、広間の大時計に視線を向けて時刻を確かめた。
 既に七時三十分を過ぎていた。
 総ての準備が整い、自分の心も落ち着いて来ると、今度は中沢が早く来てくれればいい、と待ち望む気持ちが強くなった。
 あまり遅くなったのでは、明日の朝までに仕事が終わらない恐れがある。
 気持ちは不思議に静かだった。
 わたしソファーから立ち上がると、外が覗けるように少しだけ開けてあるカーテンの傍へ行って再び、外の闇に視線を凝らした。
 依然として、中沢の来る気配は感じられなかった。



          三



 中沢栄二は突然のように訪れた。 
 前庭に車の止まるブレーキの音を聞いて我に返った。
 居眠りでもしていたのだろうか ?
 自分でも醒めていたいのか、眠っていたのか判断が付かなかった。
 わたしはソファーから立ち上がると、カーテンの傍へ行って外を覗いた。
 中沢が玄関の正面に車を乗り付け、何処に停めたらいいのか分からなくて右往左往していた。
 わたしはとうとう中沢が来たと思うと弛緩していた神経が一気に緊張感で満たされ、息苦しくなるのを覚えた。
 そんな気持ちを奮い立たせるようにしてシャンと背筋を伸ばし、姿勢を正してから広間を出て行った。
 玄関の明かりは点けなかった。
 中沢栄二は客ではない !
 彼に対しては敵意をだけしか抱く事が出来なかった。
 わたしが玄関の扉を開けて外へ出ると、車を降りた中沢がドアを閉めようとしていた。
「ああ、だめだめ、そこじゃ駄目 !」
 わたしの声は思わず権柄ずくになっていた。
 その声の厳しさに気付いてわたしはハッと自分を取り戻すと、
「車は車庫に入れてちょうだい」
 と、穏やかな声で言った。
「車庫 ?」
 中沢は勝手が分からないままに不審げに言ったが、わたしの声の調子を疑う様子はなかった。
「ええ、こっちにあるから」
 わたしは今度は不機嫌な感情を抑えて優しさを装い、穏やかに言った。
 中沢は運転席に戻ると、わたしの指示のままに再び車を動かした。




           ‐------------ーーー



            takeziisan様
   

             三十九度の猛暑 わが家の方ではまだ そこまではゆきませんが 連日の猛暑
             気違い熱さです その中での水やり 収穫 
            勿論 規模は話しにもなりませんがわが家の状況 そのまま 
            梅雨時だっていうのになんでこんなに雨が振らないんだ ! 
            プランターの水やりだけでも大変なのに御苦労が身に沁みて理解出来ます 
            その苦労の報酬が新鮮な収穫物 わが家でもキュウリ ピーマン 次から次へと収穫出来ます
            新鮮な味覚の賞味 ささやかな慰めです 
            それにしても井戸水の使用 嬉しい限りですね
            以前にも書きましたが田舎のわが家の井戸水は良い水で評判でした
            記事を拝見し また懐かしく思い出しました
            御近所付き合い 大切ですね 人と人との心の触れ合い
            ホット心が和みます 良い記事でした
             山の写真 今朝 NHKで伊吹山の放送をしていました
            その自然環境の良さを羨望の眼差しで見ていました
            狭苦しい都会の環境に身を置く者に取っては 写真の中でも
            雄大な自然の眺めには心洗われる思いがします
             アカカの滝 初めて聞く曲ですが ハワイアンは良いですね
            その音を聞くだけで若かりし頃の状況が昨日の事のように鮮やかに蘇って来ます
             懐かしいです
             東京までの病院通い この暑さの中 どうぞお気を付け下さい
            肉体は動かさなければ衰えてしまう 一般的な物と一緒で
            使わなれば錆び付いてしまう
            それでもどうぞ 毎日のウォーキング 熱中症には御用心下さい 
             何時も有難う御座います
            楽しい記事の数々を拝見させて戴いた事と共に
            御礼申し上げます


遺す言葉(455) 小説 いつか来た道 また行く道(15) 他 性と羞恥心 宗教

2023-07-09 12:19:20 | つぶやき
            性と羞恥心(2023.6.18日作)


 性への羞恥心は          
 人間の知性 原初的本能との葛藤に根差す感情
 人間は長い長い歳月を経て 知性を獲得
 積み重ねて来た その 人間たる所以の知性
 それを捨て 投げ出して 人間の原初的本能の欲望
 その行為に身を委ねる事への後ろめたさが 人の
 性に対する羞恥の心となって表れる
 一般的動物達に性に対する羞恥心はない



            宗教


 一般的に宗教と言われるものは
 説教 美辞麗句を並べ立て
 権威を振りかざすだけのもの
 究極的に 宗教は無力なもの
 如何なる場合に於いても
 最後に人間を救い得るものは
 人間の心 良心 行動だ




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           いつか来た道 また行く道(15)




 いったん岐阜の市内に出てから、国道二百五十六号線に入った。
 更に百五十六号線へ出て高山へ向かった。
 安房峠を越えて松本市を目差した。
 今度は一切、高速道路を使わなかった。
 わたしの車が通った証拠を少しでも隠したかった。一般道路の混雑する中へ紛れ込んで、わたしの目立つ車をなるべく人目に触れさせたくなかった。
 平日の道路は比較的、空いていた。それでも、初めて走る不案内な道路にしばしば立ち往生させられた。
 とにかく、一時間でも早く長野県に入りたい。急かれる気持ちでひたすら目的地に向かって車を走らせた。
 すっかり葉を落として裸になった白樺の林に囲まれた別荘に着いた時には、まだ日が残っていた。
 ここへ来る時、わたしは何時も下の部落を通って、別荘の管理を頼んである老夫婦の家に寄り、土産物を置いて来るのだったが、今日は寄らなかった。
 わたしが来た事を知られたくなかった。
 老夫婦は別荘を閉じた冬の間も月に何度か、日曜日に来ては建物の中の掃除や、敷地内の手入れをしてくれていた。
 週日の今日は老夫婦の来る気遣いはなかった。
 それを前提にわたしは計画を立てていた。
 鍵は勿論、自分用のものを持っている。
 車がようやく部落に近付いた時、わたしは何時もの習慣でそのまま、部落の中を通り抜けそうになった。
 最初の人家が見えた時、思わず我に返って、そうだ、このまま部落の中を走り抜けるのはまずい、と呟いた。
 人の眼を怖れた。わたしの車が部落の中を走り抜けた事が人の眼に触れては拙いのだ。
 わたしは慌てて引き返し、いったん、部落から遠ざかった。
 改めてわたしは、中沢を車で来させたのは拙かったかな、と考えた。
 でも、彼が来るのは夜、遅くなってからだろうし、車自体も国産のありふれた車種だからと思って気持ちを落ち着かせた。
 いったん、人家が見えなくなるまで遠ざかるとわたしは細い道を辿って迂回し、小高い丘を這うようにしてゆっくりと登っていった。
 頂の平地に辿り着く頃にはもう、道らしい道はなくなっていた。
 山菜取りや猟をする人達が通るのだろうか、辛うじてそれらしいと分かる雑木林の中の細い道を、クマザサや野茨などに車体をこすられる耳障りな音に気持ちを擦り減らしながら、ゆっくりと車を走らせた。
 これでは、掠り傷一つなかった真っ白なジャガーの車体が傷だらけになってしまう。
 心臓の絞られるような痛みに呼吸さえが苦しくなった。
 その車体の傷が、もしかして、ここに来た事の重要な証拠になってしまうのでは・・・、そう思うと心に突き刺さる苦痛は更に増した。
 ようやく裏道を廻って別荘の正面に通じる道に入った時には、一気に緊張感がほどけてめまいがしそうな程だった。
 車体には思いの外、大きな傷はなかった。安堵感と共に別荘の大きな門を開け、車を敷地内に入れた。
 そのまますぐに門を閉めると、広い庭に沿って続いている道を車庫に向かって車を走らせた。
 車庫には三台の乗用車が入る広さがあった。
 わたしは電動シヤッターを開けると真ん中に自分の車を入れた。
 中沢の車をどちらかに寄せて入れさせる為だった。
 車が納まると途中のコンビニエンスストアで買って来たパンと缶コーヒーの入った紙袋を取り出し、車のドアを閉めた。
 車庫の電動シャッターを下ろし、白樺の黄色い落ち葉を踏んで玄関口へ向かった。
 二階建て、十部屋を持つこの建物は六年前、今は亡き著名な舞台俳優だった人の奥さんから譲り受けたものだった。
 贅を尽くしてしっかりと建てられた建物は、十五、六年の歳月を経ていたが、何処にも傷みらしい傷みはなかった。
 雨戸を閉ざした家の中は暗かった。
 わたしは玄関の明かりを点けると更に大広間に入って、中央の大きなシャンデリアに明かりを入れた。
 雨戸は開ける訳にはかなかった。
 家の中に人の気配を感じさせては拙いのだ。
 人気のない四十畳程の大広間はソファーやテーブルをあちこちに置いて、寒々とした気配の中で磨き抜かれた木製の床が鈍い光りを見せていた。
 わたしは一番窓際のテーブルに抱えて来た紙袋を置いて、僅かに雨戸を開け、カーテンで明かりの漏れるのを防ぎながら外が覗けるようにした。
 夕暮れは急速に迫っていた。
 薄闇が周囲を覆い始めていた。
 白樺の白い木肌が鮮やかに映えて見えた。
 中沢の車は狭い視野から見る限りに於いて、まだ見えて来なかった。
 あいつが遅くなるのは計算内の事だ。
 あいつが来る前にすっかり準備を整えて置くのだ。
 わたしは浴室に向かった。
 中はきれいに整理され、乾いていた。スラックスのままで足が濡れないように浴室用の靴を履いた。
 ニットのセーターの腕をたくし上げると早速、準備にかかった。
 まず、シャワーで浴槽内を洗ってから水を満たし、プロパンガスの火を付けた。
 枯れ木を燃やす構造にもなっていたが、人目に付く煙など出す訳にはかない。
 ガスは老夫婦が管理してくれていて、何時でも使えるようになっていた。
 浴室の準備が終わると、右隣にあるトレーニングルームへ行った。
 そこには様々な運動器具が揃えてあった。ルームランナー、エアロバイク等々。
 かつて、俳優の卵達がここで体力づくりに励んだという事だった。
 当時の運動器具は幾つもそのまま残っていた。
 広い原野の開けたこの辺りで、室内運動器具など必要なさそうだったが、夏の間、長逗留をする事のある者達は、運動の成果が数字になって表れる器具には興味を示した。
 わたしはそれらの器具を横目に様々な道具の入った箱が置いてある一つの棚の前へ行くと、二キロの鉄亜鈴の入っている箱を取り出した。
 蓋を開けて対になっているうちの一つを取り出して右手に持ち、振ってみた。
 女のわたしにもそれ程、負担にならなかった。
「よし、これでよし」
 わたしは取り出した方を足元に置いて、あとの片方は箱に入れて元に戻した。
 その後わたしは、タオルの入った収納棚の前へ行き、一本の洗顔タオルを取り出した。
 そのタオルで鉄亜鈴を巻いた。
 やや大きめの洗顔タオルはきれいに鉄亜鈴を包み込んで、形を分からなくしたが、鉄の堅さだけは感触として伝わって来た。
「これでいい」
 わたしは思わず満足感と共に呟いていた。
「タオルで包む事で、傷の出来る確率も小さくなるだろう」 
 出血は当然、避けられないだろうが、それでも出来る限りは小さくしておきたかった。
 わたしはそのタオルで包んだままの鉄亜鈴を部屋の入口にそっと隠して置いて、広間に戻った。
 外は何時の間にか完全な闇になっていた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様



               有難う御座います
              今回も楽しいひと時を過ごさせて戴きました
              蘇る思い出 人生の宝物ですね      
              わたくしは登山の経験はありませんが お写真で見る
              山懐に抱かれた環境の素晴らしさ 写真からも清々しい空気感が伝わって来ます
              病み付きになるのも分かる気がします 反面
              自身の中には危険な場所には足を踏み入れたくないという思いもあります
              出不精の性格も影響しているのかも知れません
               山百合 カワセミ 環境の素晴らしさ 羨ましい限りです
               山百合 カワセミわたくしの育った環境には親しい存在でした ですので
              一層 懐かしく思われます
               夏休み 郷愁を誘う言葉です
              それにしても採れたて野菜の新鮮さ 眼を見張るばかりです
              日々 これを食する事の贅沢さ その中に身を置いていた時分には
              当たり前の事だと思い 分からなかった事です 失って初めて知る当たり前の尊さ 
              人生の時間に於いても同じ事ですね
              幸い わたくしは今年の健康診断の結果も満点で
              何処も悪い所はありませんでした
               都心まで出向く検査の必要性 どうぞお気を付け
              御大事にして下さい
                久し振りの東京散歩 おのぼりさん気分の
              お爺ちゃん お婆ちゃんの原宿散歩 思わず笑い出しました
               サマータイム 好い曲です それにしても見事な歌唱
               素晴らしいひと時でした こういう歌唱なら何度聴いても飽きません
                今回もいろいろ楽しませて戴きました
                有難う御座いました





遺す言葉(454) 小説 いつか来た道 また行く道(14) 他 魔船タイタニック

2023-07-02 13:08:04 | つぶやき
            魔船タイタニック(2023.6.23日作)


 呪われた船 タイタニック
 またしてもの悲劇
 あの海域が魔海なのか ?
 かつて沈んだ船
 タイタニックが魔船なのか ?
 恐らく 多分 偶然の事故 に
 過ぎないのだろうが かつて
 千五百余もの人の命を奪った タイタニックは
 またしても その魔の手を延ばして
 尊い人の命を奪い 新しい
 悲劇を生み出した
 魔船 タイタニック 新たな悲劇はまた
 語り継がれてゆく事になるのだろう


 世界は偶然による 必然の上に成り立っている




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(14)



 
 しかし、やらない訳にはゆかなかった。
 彼がいる限り、わたしは落ち着いた生活を送る事が出来ない。
 麻薬常習者と係わりを持った女として、絶えず不安に怯えていなければならないのだ。
 あるいは、わたし自身が彼の前から姿を消す事も、選択肢の一つかも知れなかったが、それは実行不可能だった。これまでわたしの総てを注ぎ込んで築いて来た店を放り出して、何処へ行けと言うのか ? 何処に隠れて、どうやって生きて行けと言うのか ?
 中沢がわたしから離れて行ってくれる事が一番だったが、期待する方が無理だった。弱みを握ったハイエナがみすみす獲物を手放すはずがない 。彼はわたしから搾れるだけのものを搾り取ろうとするだろう。
 無論、金を出すだけなら妥協も出来る。ただ、問題はあくまでも彼が麻薬常習者という点だった。
 わたしは再度、警察に訴える事に思いを馳せた。しかし、その思いはまたしても即座に否定された。
 中沢栄二という<ブラック ホース>の元ホステスは麻薬常習者です、と訴えて彼が警察に捕まったとしても、永遠に刑務所にいる訳ではない。何時か彼は釈放されるだろう。その時彼は、誰が警察にチクった(密告)かぐらいはすぐに想像して、再度の復讐をわたしに仕掛けて来るに違いない。
 結局、わたしは彼がいる限り落ち着いた日々を生きる事が出来ないのだ。
 彼が居る限り、わたしは脅し続けられるだろう。 
 彼が麻薬中毒で死んでくれる事が一番だったが、その前にわたし自身の神経が参ってしまいそうだった。
 わたしの不穏な思惑はそうしてわたしの胸の内で次第に強く、揺るぎないものになっていた。
 わたしは考えた。
 別荘の浴室で一気に殺(やっ)てしまえばいい。
 浴室ならたとえ血が流れても後の処置が簡単に済む。
 洗い流してしまうのだ。
 凶器はトレーニングルームにある鉄アレイを使えばいい。
 わたしが鉄アレイを思い付いたのには訳があった。何かの本で読んだのか、テレビドラマで見たのか忘れてしまったが、冷凍ラム(羊肉)の固まりで夫の後頭部を殴打して殺害する、という話しに着想を得たものだった。
 凶器の牡羊肉はオーブンで調理して、捜査に来た、刑事だった夫の同僚達に食事として出して証拠品隠滅を図るという奇抜な話しからだった。
 わたしの場合、冷凍肉を使う訳にはゆかなかったが、別荘には他の運動器具と共に鉄アレイが置いてある。わたしだけではない、社員達も利用する事の多い別荘で誰もが、体力維持の為にすぐに使用出来るようにしてあるのものだった。
 もともと、薬物の知識もなく、凶器となるような物など何一つ持っていないわたしに取っては、それが最上の方法に思えた。
 当然の事ながら、調理室にある包丁などを使う事も考えたが、腕力の乏しい自分に取っては確実に相手を刺殺出来るという自信も持てなかった。手を滑らせて失敗した時には取り返しの付かない事になる・・・・。
 わたしは計画実行までの日々、普段と変わらずに行動した。
 中沢栄二からの電話はなかった。
 二十六日の朝、わたしは秘書の浅川すみ子にファックスを入れた。
「急用が出来て実家へ帰らなければならなくなりました。四、五日は戻れなくなりそうなので宜しく頼みます。重要事項は総て専務が掌握しているはずですから、何かあったら専務に相談して下さい」 
 車で自宅を出たのは午前九時過ぎだった。
 狛江から高速道路の東名に入るとずっとその道を走り続けた。
 パーキングエリアでは必ず車を停めてわざと長い時間を過ごした。
 わたしの車がこの方面を走った事を、出来るだけ多くの人の眼に焼き付けておく為だった。
 わたしが母の元へ赴いた事実を証明する為にも、世田谷ナンバーの白いロングノーズのジャガーが西へ向かった事実を記憶しておいて貰いたかったのだ。
 わたしが岐阜の実家に着いた時には午後九時を過ぎていた。
 既に布団に入っていた母は、突然のわたしの、しかもこんな遅い帰郷に驚いた。
「なんだね ? 今頃」 
 一人暮らしの母は、わたし達、姉兄が一緒に暮らすように勧めても古い家を離れたがらなかった。「爺ちゃんの三回忌が終わるまで」と言っていたものが「七回忌」になり、今度は十三回忌が終わるまでになっていた。
 母は至って元気だった。
 突然、叩き起こされた寝間着姿のままで八畳の部屋の卓袱台の前に座ると、
「夕餉が終わってしまって、口にすんものがあんにもねえよ」
 と言った。
「何もいらない。途中で食べて来たから」
 わたしは疲れ切っていた。着ている物さえが重く感じられてそれを脱ぎながら言った。
「あんでまた、こんな夜中に突然 ?」
 母は、やはりわたしの帰郷が呑み込めない様子で不審気に言った。
「名古屋に用事があったものだから、ちよっと足を延ばして寄ってみたの。明日の朝はまた、早く出なければならないんだけど、明後日(あさって)はまた、寄らせて貰うわ」
 母は娘の突然の、久し振りの帰郷に何か、訳でもあるのではないかと探るような眼でわたしの顔を見ていた。
 わたしはそんな母の視線を鬱陶しく感じながら、なるべく顔を見られないように体を背けていた。
 母の視線を正面から受け止めるだけの勇気がなかった。胸に抱いた黒い思惑がわたしの心を卑屈にしていた。
「風呂は ? 冷めちゃってるかも知んねえけっど、すぐに焚ぐから」 
 母は娘の疲れた様子を見て気を使ってくれた。
「いいの。何もしなくていいから、もう、寝て。わたしも布団だけ貸して貰えば、それでいいから。東京から車を走らせて来たので疲れちゃったわ」
「そうかね。じゃあ、そうするよ」
 母は卓袱台の前を立ち上がって六畳の間の押し入れに向かった。
 その夜、わたしと母は枕を並べて寝た。
 母はしきりにわたしに話し掛けて来た。
 名古屋にはなんの用事があって来たのか、姉兄達の所へは顔を出さないのか、明日は何処まで行くのか、また来て、何時まで居られるのか、今年は天気が良かったので、畑の作物もよく出来た・・・・、わたしは枕に頭を載せて暗い天井を見つめながら、心ここに無い母への合槌を打っていた。久し振りに話し相手が出来て嬉しいらしい母に、上の空の返事を気付かれないようにするのに苦心した。
 やがて母は、長い話しにも疲れたのか、何時の間にか眠っていた。
 わたしは母の眠りに気付いてわたしも眠ろうとしたが、眠りはいっこうに訪れて来なかった。
 体中に疲労感が蓄積されているのを感じながら、頭脳だけは異様に冴えていた。その冴えた脳裡には次々と様々な想念が湧き上がって来て、わたしの神経を休ませなかった。
 いったい、わたしの思惑は成功するのだろうか ?
 中沢はどのような顔で現れるのだろう ?
 果たして一人で来るのだろうか ?
 もし、誰かを連れて来た時にはどうしょう ?
 当然、計画は中止しなければならなくなるだろうが、その時にはどんな口実を使うのか ?
 別荘の白樺はもう、葉を落としているだろうか ? 穴を掘った跡を隠す為には充分な落ち葉が必要だ。
 その行為が今、横にいるこの母に哀しみをもたらすような結果にならなければいいが・・・・。
 わたし自身の為にも、絶対、そうしなければならない。
 もし、この行為が世間に知られれば、わたしの総てが終わりになる・・・。
 それでも、わたしはやるのか ?
 その覚悟は出来ているのか ?
 それが極めて危険な行為だと理解しているのか ?
 いや、大丈夫だ。多分、大丈夫だ。
 中沢栄二は世間からはみ出した人間だ。
 格別、親しい人間のいるらしい様子もない事も分かっている。
 無論。麻薬の売人はいるだろうが、彼等が大袈裟に騒ぎ立てる事はないだろう。彼等に取っては彼等自身の身を守る事の方が先決だ。
 その夜、わたしはとうとう一睡も出来なかった。微かに眠ったかと思った瞬間にはもう眼が醒めていた。

 翌日、わたしは午前八時少し前に母に送られて家を出た。





           ーーーーーーーーーーーーーーーーー




            桂蓮様

             有難う御座います
            新作がなく 旧作を再拝見しました
            心と体のダイエット 再読にも拘わらず大変 面白く拝見しました
            物の計り方 メートル法など アメリカは何故 世界の流れに反して異なるのでしょうね
            馴れない間はさぞ大変だったろうと拝見しながら含み笑いをしていました
            終わりの部分の箇条書き 水を飲むという部分を除いて
            ほとんどがわたくしの実行している事です              
            そうだ そうだと頷きなから拝見していました
            英文との合わせ読みで飽きないのです
             体調の方は如何でしょう 御無理をなさらないようにして下さい
            わたくしは一週間ほど前に健康診断の結果が出て
            総て合格でした
            健康体をつくづく有難く思っているところです
             何時もお眼をお通し戴き 有難う御座います




             takeziisan様

              
              今回もブログ 大変楽しく拝見させて戴きました
             今頃クンシラン ? 驚き以外の何ものでもありません
             やはり気候が違うのでしょうか
             この地方は温暖で災害なども少なく いろいろ地方の災害などを見聞きする度に
             この辺りは暮らし易いよね などと話し合っています
             その代わり 傑出した人物もなかなか出ないようです
              クーラーわが家もあまり使いません 去年だったか一昨年だったか
             最近の熱気を思い 取り入れたのですが 夜なども未だに
             窓を開けて寝ているような始末です 勿論 防犯の対策はしていますが
             割合と犯罪の少ない地域です
              生キュウリにミソ 最高のさかな 収穫の品々の写真を拝見
             つくづくその生活が羨ましくなります
              栗林の木陰で休憩 以前 兄妹揃って田舎の家のあった跡地で
             タケノコを採ったり 作った野菜を収穫していた事を懐かしく思い出しました
              夜 眼を醒まさない ? 驚きです
              わたくしも昔は宵っ張りで一時二時近くまで起きていたものですが
              最近は十一時前に寝るように心掛けています
              起床は六時半で その間に二回あるいは三回とトイレに立ちます
              そして その時間が何時も決まったように同じ時間帯で
               自分でも まあよく こんな決まった時間に眼が醒めるものだと
              不思議な気がしています 体調は至って良好です
               川柳 楽しませて戴きました よく見ているなあ と感服の一言 
              とても面白かったです また次回を楽しみにしています
               城ヶ島の雨 もっとも好きな歌の一つです
              いい曲です
              先週 月曜日 BSニッポン 心のうた で放送しました
              やはり音楽大学卒業の歌い手さん達が唄う歌に
              改めて良い曲だなあ と感動したばかりでした
              船頭小唄 森繫久彌
              わたくしにはちよっとぴんと来ない所があるのです
              森繫久彌の唄以前に耳にしていた歌の記憶が強くて
              なんとなく森繫の唄には二番煎じという思いが抜けきれないものがあるのです             
              でも 今では船頭小唄と言えば 森繁のあの独特の節回しの唄という理解が
              当たり前になっているようです
               謝恩会 ありました
              みなさん積極的に歌われたようですね
              わたくしのいた学年では田舎の子供の恥ずかしがりやが多かったせいか
              歌う者がいなくて 余りの場の白けに耐えられなくなって
              わたしが東海林太郎の「国境の町」を唄いました
              それだけです
              遠い思い出です それにしても皆さん 積極的だったのですね
              地方の田舎育ちをよく口になさいますが 皆さん
              わたくしのいた地方よりははるかに進んでいたのではないですか
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
               有難う御座いました 何時もお眼をお通し下さいまして
              御礼申し上げます





遺す言葉(453)  小説 いつか来た道 また行く道(13) 他 有難う そして感謝 同窓会

2023-06-25 12:37:10 | つぶやき
           有難う そして感謝 同窓会(2016.8.9日作) 



 昭和二十九年(1954)三月
 千葉県匝瑳郡白浜村中学校卒業生
 卒業写真に写る まだ
 幼さを残す面影 総勢六十六名
 あれから既に六十年余
 ほぼ二年に一度の割合で行われた
 同窓会が今 最終局面 終わりの時を
 迎えようとしている 有り難う
 今日まで幹事を務めてくれた
 地元の皆さん 有り難う
 良くぞ今日まで続いた同窓会
 地元の皆さん 幹事の皆さん方の
 努力と骨折りがあったればこその成果
「同窓会なんか一度も開かれた事がないよ」
 そんな声も聴かれる中
 昭和二十九年白浜村中学校卒業生は
 二年に一度の顔合わせ 同窓会で あの
 卒業写真に写る まだ 幼さを残す面影の
 あの時代 あの頃に 何時でも還る事が出来た
 幸せなひと時 しかし その時も今
 終わりを迎えようとしている 過ぎ逝く時
 移ろう時の 如何ともし難い現実 人は
 若さを失い 老いを迎える
 昭和二十九年白浜村中学校卒業生もまた 皆
 老いた あの卒業写真に写る 幼い頃のみんなの
 未来を見つめる眼 希望に輝く頬の色は もはや
 見る事は出来ない 失われた未来
 迫り来る 人生の終わりの時 その足音だけが
 日々刻刻 高くなり 身近になる現実 今日この頃
 さよなら さよなら 
 遠く旅立ち 還らぬ人となった あの人 この人
 さよなら さよなら
 耳に 眼に 届いて来るのは その声 現実
「また 来年」
「また 会いましょう」
 次第にか細く 影を薄くしてゆく
 明日への約束 未来への誓い
  閉ざされた未来 現実が滅入る気持ち
 絶望の暗鬱だけを運んで来る
 さよなら さよなら
 さよならだけが 残された人生
 今一度の青春
 昭和二十九年白浜村中学校卒業生 あの当時の
 若さへの立ち返り 僅かに残る可能性
 あと幾度かの同窓会に せめてもの
 希望を託し 人生の終わりの時の今を生きる
 慰めとしながら か細い命の糸に掴まり
 今日という日を生きてゆこう
 さよなら さよなら もう 再び 会う事は出来ない 
 必ず訪れるその時 その日を前に
 あの時 この時 豊かだった同窓会の記憶 
 その時々の思い出を胸に 今
 深い感謝の気持ちと共に 地元の皆さん
 幹事を務めてくれた皆さんに 心よりの
 御礼を申し上げます
 長い間 有難う御座いました そして
 御苦労様でした これから後(のち) ふたたび
 顔を合わせる事 会う事は出来なくなっても どうか
 皆さん お元気で 豊かな時 人生の終わりの日々を
 悔いなく生きて下さい
 地元の皆さん 幹事の皆さん そして 
 何時も元気な顔を見せてくれた 遠方からの出席者の皆さん
 楽しい思い出 豊かな記憶の数々を 本当に
 有難う御座いました では
 永遠(とわ)のさよならを
 今ここに




          ーーーーーーーーーーーーーーーーー




            
             いつか来た道 また行く道(13)



 
 わたしは言葉もなかった。
 確かに彼はわたしの生活を邪魔する心算は無いのかも知れなかった。純粋に金だけが欲しいのかも知れなかった。
 しかし、こうしてしつこくわたしに纏わり付いて来る事自体が既に、わたしに取ってはわたしの生活の邪魔以外の何ものでもなかった。
 わたしは彼の鈍感とも思える神経の鈍さに苛々した。
 車は既に駒場を過ぎていた。
 北沢に入って間もなくわたしは、苛立つ気持ちのままに路上の暗がりで車を停めた。
 中沢は急にわたしが車を停めた事にふと、不可解そうな表情を見せてわたしを見た。
 わたしは彼のその視線など無視して車内灯を点けるとハンドバッグを手に取り、中から財布を取り出した。
 中沢は不可解気な表情のままわたしの手元を見ていた。
 わたしは財布の中から五枚の一万円札を抜き取り彼の前に突き出した。
「取り敢えずこれをあげるから、今夜はこれで帰って頂戴」
 中沢は一瞬、驚いた様子だったが黙ったまま手を出した。
 わたしは言った。
「あなた、さっき、わたしと商売をしてるって言ったわね」
「ああ、言ったよ」
 居直ったように中沢は答えた。
「それなら、相談があるんだけど、どう、乗ってみない ?」
 腹を据えた心をそのまま声に滲ませてわたしは言った。
「どんな相談 ?」
 中沢は幾分、警戒する様にわたしを見つめて言った。
「ちよっと、まとまった売掛金があるのよ。それを回収して貰いたいの。相手は何時でも都合のいい時に来てくれって言ってるんだけど、このところ、なんだかんだ忙しくて行ってられないのよ。どう ? 行ってくれない ?」
「まとまった金って、幾らぐらいなんだ ?」
 中沢は興味を見せて言った。
「一千万近くあるわ。どう ? もしそのお金を回収してくれたら六十パーセント、あなたにあげてもいいわ。勿論、写真のネガとは交換だけど」
「相手は ?」
「普通の洋装店よ」
「まさか、暴力団の店なんかじゃないだろうな ?」
 わたしの示した金額に興味を見せるのと同時に警戒感をも抱いているようで、中沢は言った。
「暴力団なんかじゃないわよ。なぜ、わたしが暴力団なんかと付き合わなければならないの ?」
 強い怒りを滲ませてわたしは言った。
 中沢は黙っていた。
「あなたって、悪のくせに案外、臆病なのね」
 嘲笑する様にわたしは言った。
「冗談じゃない ! こっちは真面(まとも)に生きてんだ」
  中沢はわたしの口調に侮辱でもされたかの様に強い口調で言い返した。
「まあ、よくもぬけぬけとそんな事が言えたわね。わたしをさんざん罠に嵌めて脅迫しておいて」
 わたしは腹立たしさと共にさらに強い蔑みの色合いを込めて言い返した。
 その言葉に返すように中沢は、
「あんたが悪いんだよ。人に隠れて、陰でいい思いをしようなんてすっからだよ。世の中、そんなに甘くはないよ」
 と、嘲笑的に言った。
「大したものだわ。わたしにお説教が出来るなんて」
 わたしも嘲笑的に言い返した。
「これでも俺は、いろんな苦労してるからね。あんたみたいに華やかな表通りを歩いているような人間とは訳が違うんだ」
 中沢は言った。
「バカな事を言わないでよ。わたしが今みたいになるまでに、どんな苦労をして来たか、あんたみたいな遊び人なんかには分かりはしないわよ。わたしは真面目に一生懸命働いて、ようやくこれまでになったのよ。あんたみたいにふわふわしながら今のようになった訳じゃないわ。それをあんたみたいな薄汚い人間に引っ掻き回されたんじゃ、たまったものじゃあないわ」
「俺の事を薄汚いって言ったな !」
 中沢は突然、激怒した。紅潮した顔で今にも襲い掛かって来かねない様子だった。
 わたしはそれでも負けてはいなかった。
「そうよ、薄汚いわよ。ーーやれるものなら、やってみなさい。こんな所で暴れて警察に捕まれば、クスリの事もすぐバレちゃうわよ」
 中沢は警察という言葉に敏感に反応した。体中を怒りで震わせながらもわたしに襲い掛かって来る事だけはしなかった。
「そんなに悔しかったら、わたしを殺してもいいわよ。どう ? 殺すなら殺してみなさい」
 わたしは静かに言った。
 中沢は怒りを滲ませたまま黙っていた。
 わたしはそんな彼を見て静かに言った。
「どう ? わたしの相談に乗ってみる ?」
 わたしは中沢の返事を待たずに言葉を続けた。
「もし、あなたが出来ないって言うんならそれまでよ。ただ、わたしにはもう、何百万だっていうお金を出す気はないから、その心算でいてよ。写真はバラ撒くんならバラ撒いてもいいわ。わたしはそれで世間に顔向けが出来なくなるけど、仕方がないわ。自分で撒いた種なんだから。でも、あなたに窮迫されているよりはずっといいわ。それに、もし、そうした時にはあなただって、無事でいられると思ったら大間違いよ。わたしは警察へクスリの事も含めて全部を正直に話すから。そうすれば結局は一蓮托生という事になるのだから」
 中沢は怒りを堪えた不機嫌な表情のまま黙っていた。
「あなた、お金が欲しいんでしょう。借金があるんでしょう。もし、あなたにさっき言った話しを受ける気があるんなら、わたしの別荘へ来なさい。あなも知ってるあの別荘よ。わたしはあの近くでお仕事があって行ってるから。お金を取りに行くお店もちょっと離れているけど、あっちにあるのでちょうどいいわ」
「何時、別荘へ行けばいいんだ」
 わたしの説得にようやく怒りを収めた中沢はぶすりと言った。
「いつ ?」
 わたしは戸惑った。そこまでは考えていなかった。
「ちょっと待って。今、予定表を見てみるわ」
 ハンドバッグから取り出した手帳には、びっしりと予定が詰まっていた。
 わたしは比較的重要ではない、変更も可能な日を選んで中沢に言った。
「二十八日ではどう ?」
「この二十八日か ?」
「そうよ。今日は二十日だから。来月になると年末だし、忙しくなるから」
「二十八日に行けばいいのか ?」
「そうじゃないわよ。二十八日に相手の方へ行くんだから、二十七日にわたしの別荘へ来なさい。どう ?」
「行けるよ」
「一人で来るの、誰か、仲間と一緒にくるの ?」
「なんで ?」
「だって、食事の支度があるでしょう。別荘番のおばさんに頼んでおかなければ」 
「俺一人で行くよ」
 大方は予想していた事だったが、一人で来るという彼の言葉にわたしは安堵した。
 邪魔者に来られてはまずい !
「じゃあ、今日はこれで帰ってちょうだい」 
 わたしは彼を車から降ろすと、
「二十七日には夜、七時過ぎに来てよ。あんまり早く来られても誰も居ないから」
 と言い添えた。
 中沢は全く見知らぬ場所で放り出されて途方に暮れているようだった。
 彼がこれから何処へ行くのか分からなかったが、わたしの知った事ではなかった。
 わたしは中沢を歩道に残したまま一気に車を発進させてその場所を後にした。

 その夜、わたしは自宅へ帰ると極度の疲労感で居間のソファーにへたり込んだ。
 自分の背負い込んだ荷物の重さを改めて実感した。
 本当にそれを遣るのか ?



 
           ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 



             桂蓮様
            
            
            新作 拝見しました  
           AI は正確であっても感情がない
           いろいろ読書をして知識を詰め込んだ知識人のようなものですね
           でも わたくしは知識人というものをあまり信用していないのです
           いざという時 実践の場に於いて大切なものは感覚です 経験です
           身に付いた知識 感覚です 感覚の伴わない知識など結局は
           絵空事にしか過ぎません
           例えば農作業 知識でああだこうだと分かっていても
           雨の量 風の吹く様子 日の照り具合い それぞれ幾百 幾千もの組み合わせがあります          
           それを理解出来るのは長年積み重ねて来た経験と勘です
           単なる知識は中身のない人形にしか過ぎません
            以前 当時も此処に書いたのですが 日本に於ける福島原発事故
           あの事故も単なる理論や知識の積み重ねだけではなく
           経験により積み重ねた知識を持つ人がいたら あの事故は防げたのではないか・・・・
           あの当時も書いた事です     
           日本が世界に誇る新幹線 あの先頭 頭の部分のあのしなやかなフォルム
           あれはいちいち作業員の方々が手の平でその感触を調べて造っているという事です
           作業員の手の感覚があの見事なフォルムを生み出しているという事です
           知識はあったに越した事はありません でも
             知識だけでは実際の役に立たない事はままあります
            AIも同じ事 AIは 考えない事 が出来ません
           知識の詰め込みにしか過ぎません
            コメント 有難う御座います
            御夫婦間の日常 何時もながらにお羨ましい限りです 
           どうぞ一日も早く健康体を取り戻して またの日の溌溂としたバレーの練習風景を
           お届け戴ける事を願っております
            有難う御座いました



             takeziisan様


              有難う御座います
             今回も美しい花の数々 堪能させて戴きました
             どの花を見ても色鮮やか 心が洗われる思いです
             それにしても数々の花々 よく見付けられます
             感服です それだけに自然が身近にあるという事でしょうか
              平岩弓枝さん 亡くなりましたね
             新聞記事を眼にして咄嗟にtakeziisanブログが頭に浮かびました
             わたくしはこの方の本を読んでいませんし ドラマなども見ていないので
             もっぱらブログ記事が頼りでしたので咄嗟に頭に浮かんだという事です
             全盛を過ぎていたとはいえ やはり一つの巨星が落ちたという感があります
              南国の夜 並木の雨 共に懐かしく聴きました
             あの当時の音楽は郷愁ばかりでは無く真実 良いですね
             情緒があり 感情が豊かです 今の無意味な言葉を並べ立て
             ガチャガチャ騒ぐような音楽はわたくしには雑音としか聞こえません
             並木の雨には幼い頃 小学校の教室から雨の降るのを見ながら
             友達がこの歌を小さな声で口ずさんでいた事などを思い出し
             目頭が熱くなりました
             南国の夜では 何故かふと 南かおるの名前が浮んで来ました
             早くに亡くなったハワイアンの歌手ですね
              今週もいろいろ楽しませて戴きました
             わが家の屋上でもプランター菜園のキュウリとピーマンが収穫されました
             勿論 ブログ上の立派なキュウリなどとは桁違いですが
             それでもなんとなく嬉しいものです
              わが家は金木犀です 年々木は大きくなるし 自身の体力は落ちて来るしで
             手入れが大変になります
              ナメクジとカタツムリ ナメクジには毎年 今の時期
             悩まされます 何処から湧いて来るのか 至る所に居るので
             不思議な気がします
              今回も楽しいブログ 有難う御座いました でも
             くれぐれも御無理をなさらぬ様に細く長く無事で
             続けて下さい


遺す言葉(452) 小説 いつか来た道 また行く道(12) 他 幕引きー同窓会

2023-06-18 12:55:55 | つぶやき
             幕引きー同窓会(2015.7.28日作)



 今年 平成二十七年(2015)
 わたしは七十七歳
 取り立てての病状もない
 比較的 元気だ まだまだ
 生きる意欲 生への執着心は
 失っていない 胸に抱く希望も
 失くしてはいない
 何も 変わっていない 
 あの頃 遠い昔に生きた日常 日々が 
 今を生きるわたしの意識の中で
 そのまま生きている 何も
 変わってはいない 真実
 絶対的真実 変わらぬ意識
 絶対的真実 変わるもの 肉体 その
 明らかな衰え 眼に見えての衰退
 豊かな頭髪 髪の減少
 堅固 柔軟な筋肉 その喪失
 色つや 張りを失くした皮膚の
 眼に見える現実
 おととし 去年 半年前に可能だった
 あの動き この動作 困難 不可能
 時々刻々 移りゆく時が 削り取り 
 侵蝕して来る
 存在 個が 重さと厚さを失くし
 次第に稀薄化する 時が
 七十七歳の命を生き急がせる
 昭和二十九年 千九百五十四年
 千葉県匝瑳郡白浜村中学校卒業生
 卒業以来続いて来た
 二年に一度の同窓会 その同窓会も
 一年に一度となって 今
 幕引き 終焉が話題となり
 間近となる
 抗い得ぬ現実 老い 人の世の運命(さだめ)
 憂愁が胸を塞ぐ



            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
            




            いつか来た道 また行く道(12)




「いや、少し前まで上にいたんだけど、あんたが事務所を出るのが見えたんで、急いで先回りして来たんだ」
 わたしは運転席に腰を下ろすと中沢の眼の前でドアを閉めた。
 すぐにキイを差してエンジンを掛けた。
 中沢は慌てた様子でドアのガラスを叩くと、
「向こうを開けてよ」
 と言った。
 口の動きと身振りで分かった。
 わたしは構わず車を出した。
 中沢は咄嗟に車の前へ廻ると立ちはだかった。
 わたしは怒りに充ちた視線を彼に向けた。
 彼はそれでもひるまなかった。
「ドアを開けなよ」
 と、また言った。
 わたしはドアを開けた。
 彼はすぐに乗り込んで来た。
「俺を轢き殺そうっていうの ?」
 彼は冗談交じりに言った。
「そうよ」
 わたしは彼の顔も見ずに言った。
「おっかないね。よっぽど気を付けないと危ないね」
 彼はわたしに語り掛けるように言った。
「気を付けた方がいいわよ」
 わたしは車を動かしながら前方を見詰めたまま言った。
 中沢はそれでも上機嫌だった。わたしの言葉など気にする様子もなかった。
 わたしは無言のままハンドルを握っていた。
 いつかの夜、鏡の中を見つめるわたしの意識の中を走り抜けた殺意への記憶が蘇った。
 わたしはそれでも冷静に車のハンドルを操作していた。
 地上へ出ると夜の街はすっかりネオンサインの光りと深い闇に包まれていた。
「何処へ行くつもりなの ?」
 わたしは言った。
「あんたの行く所さ。金が無くなっちゃったんだ」
 彼は言った。
「それがどうしてわたしと関係があるの ?」
「写真を買って貰おうと思ってさ」
「今、持ってるの ?」
「持ってるよ」
「まだ、いっぱいあるの ?」
「焼き増しすれば幾らでもあるよ」
「卑怯ね、あなたは」
 わたしは冷たく言った。
「卑怯なわけじゃないけど、これも世間を生きる為の知恵なんだ。出来ればあんたに迷惑を掛けたくなかったんだけど、仕方がなかったんだ」
「他に好いカモは見付からなかったの ?」
「まあ、そんなとこだけどね」
「菅原さんはどうしてるの ? 菅原さんに頼めばいいじゃない」
「知らないよ、あの人の事なんか」
 怒ったように彼は言った。
「あなたとは関係ないの ?」
「関係ないよ、あんなおばあちゃん」
「どうしてクスリ(麻薬)をやめないの。やめなさいよ、そうすればお金をあげるから」
「やめられれば、とっくにやめてるさ」
 嘲るように彼は言った。
 その嘲りが彼自身に向けたものなのか、わたしの無知に向けられたものなのかは分からなかった。
「仲間は居るの ?」
「なんの仲間 ?」
 訝し気に彼は言った。
「クスリをやる仲間よ」
「そんなもの、居る訳ないだろう」
「でも、クスリを買う相手は居るでしょう」
「それは居るよ」
「暴力団なの ?」
「暴力団なんかじゃないよ」
 吐き捨てるように彼は言った。
「クスリを買う相手は何人居るの ?」
「一人さ」
「じゃあ、お金の都合が付かないから、少し待ってくれって頼めばいいじゃない」
「そうはゆかないさ。向こうだって遊びで商売してる訳じゃないんだから」
「ずいぶん、物分かりがいいのね」
「物分かりがいい訳じゃないけど、しょうがないよ。これまでにも借金があるんだから」
「わたしが上げたお金は、全部、使っちゃったの ?」
「使っちゃったから、くれって言ってるんだ」
「そんなにしてまで、どうしてクスリなんかやめようとしないの ?」
「あんたには関係ないだろう」
「関係ないわよ。だからもう、わたしには纏わり付かないでよ」
「纏わり付いている訳じゃないよ。俺はあんたと商売してるんだ」
 中沢はふてぶてしく言った。
「そう、好い商売相手を見付けたわね」
 不機嫌そうに彼は黙っていた。
「警察に訴えるわよ」
「訴えればいいだろう。だけど、前にも言ったように、訴えればあんただって麻薬常習者と寝た女って週刊誌に書き立てられて、世間からああだこうだって言われて信用はがた落ちだよ。俺なんかはどうでもいいけど、あんたの方は大事になるよ」
「あなたのお仲間がどうにかするって言う訳け ?」
「そんな事、関係ないよ」
「じゃあ、あなたが捕まれば、写真も無駄になっちゃうじゃない」
「だけど、喋ることは幾らでも出来るよ。警察である事ない事、あんたの悪口を喋れば警察だって、あんたに手を廻さない訳にはゆかなくなるよ。そうすればこれまでの事がみんなバレてしまって、あんたは週刊誌の好い餌食だよ」
 以前にも彼が口にした言葉だった。
 わたしは彼のその言葉を再び耳にして、思わず彼への激しい憎悪を搔き立てられ、危うく赤信号の手前で停車している車にぶつかりそうになって、慌てて急ブレーキを掛けた。
「おうッ、危ないなあ」
 シートベルトをしていない中沢は大きく体を揺すられて座席の前に顔をぶつけそうになった。
 わたしは赤信号の前方を見詰めたまま、
「で、今度は幾ら出せって言うの ?」
 と、静かに聞いた。
「三百万」
 彼は言った。
「ふざけないでよ。そんなお金、二度も三度も、誰が出すと思ってるの」
 わたしは野放図な彼の要求に思わず熱くなって言い放った。
「しょうがないよ。借りてる分も払わなければなんないんだから」
「それがわたしに、なんの関係があるのよ。冗談じゃないわよ。あなただって働いているんだから、お客さんから搾り取ればいいじゃない」
「あんな店、辞めちゃったよ」
「辞めたの ? じゃあ、今は何もしてないの ?」
「してないさ」
「それじゃあ、カモだって捕まるはずがないわ」
「だから、写真を買ってくれって言ってるんだ」
「わたしが上げたお金で遊んでいたのね」
 中沢は何も言わなかった。
「あなた、自分の顔を鏡で見た事がある ? その土気色の皮膚や引っ込んだ眼、まるで骸骨だわ」
「俺がどうしょうと俺の勝手だろう」
 彼は怒りを滲ませた口調で言った。
「そうよ、あなたがどうしょうとあなたの勝手よ。だから、さっきも言ったように、わたしにしつこく纏わり付かないでよ。わたしにはわたしの生活があるんだから」
「あんたが金さえ出せば、それでいいんだよ。俺は何にも、あんたの生活を邪魔しようなんて思ってないよ」
 中沢は凄味を利かせた口調で言った。




           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



            takeziisan様

            有難う御座います
           方言 おっかない
           もはや 一地方都市の方言とは言えないようです
           わたくしの方でも使いますし 東京などでも一般的に使われていますね
           関西地方や九州などではどうなのでしょう   
            雨に歩けば ジョニー レイ
           彼が長い下積みを経て ようやくブレイクした歌ですね
           冒頭の歌声 頭に浮かびます
            雨に唄えば これもまたいいですね あのタップダンス
           思わず心が浮き立ちます 今の時代 かってのハリウッドを盛り立てた
           各分野の名手達に比肩するような人達はいるのでしょうか 
           寡聞にしてあまり耳に眼にしないのですが
            パペーテの夜明け この音楽は耳にしたような記憶がありますが 
           曲自体は知りませんでした
            採り立てのキュウリで一杯 至福の時ですね 贅沢な時間
           このような時間が何時までも続いて欲しいものです
            足が攣る 老化の現象でしょうか
           わたくしも最近 ひょっとした調子に足が攣ります
           あの痛さときたら・・・願い下げです 
           どうぞ 細く長く無理をせず
           この楽しいブログが何時までも続く事を願っております
           有難う御座いました         





           桂蓮様

            新作 拝見しました
           健康な体に健康な感情
           肉体が不調だと確かに心に影響します
           肉体は心だと言えるかも知れませんね
           マイナスを呑み込んで流す 克服しようとするのではなく
           そのまま受け入れる ここでも禅の世界が役立ちます
           禅は否定しない あるがままに受け入れている これが現実なら
           その現実を受け入れて今 最善の道を選ぶ 人には
           それしか出来る事はありません 現実に不満を並べ
           ああだこうだと言っても 現実は変わるものではありません
            今を生きる 今の自分を精一杯生きる
           人に出来る事はそれだけです どうぞ より良い明日に向けて
           日々 充実した時をお過ごし下さい
            苦痛の多い中 記事を書き 拙文にお眼をお通し戴く事に
           感謝 御礼申し上げます
           有難う御座いました

























遺す言葉(451) 小説 いつか来た道 また行く道(11) 他 雑感四題

2023-06-11 13:01:19 | つぶやき
            雑感四題(2020年.1.20日作)


      偉大な道   

 世俗的に名が知られた人が 偉いとは言えない
 世間的に名の通る人が 偉いとは言えない
 真に価値ある事は
 人が人としての本道を歩む 
 人が人として幸福に生きる
 人の世界が目差す究極の目的 頂点
 無名であっても 隠れていても その
 本道に向き合い 真摯に生きる その
 実践者こそが 真に
 偉い人

       金    

 金を汚いものだと思うな
 金があれば相当の事が出来る
 金のない人 貧しい人を
 哀れ 不幸だと思うな
 人にはそれぞれの事情がある
 事情を無視し 知らずに
 物事 人を判断するのは
 傲慢 愚か

       鏡

 自身の姿を鏡に映して見る事の出来ない人間の
 哀れさ 滑稽さ

       優れたもの

 真に優れたものには それぞれの
 美しさがある
 美しさのないものは
 優れたものとは言えない




          ーーーーーーーーーーーーーーーーー




          いつか来た道 また行く道(11)



 
 マンションの部屋へ帰って一人になるとむしゃくしゃした気分を払拭したくて風呂に浸かった。
 頭からシャワーを浴びてずぶ濡れになった。
 風呂から上がって鏡に向かい、初めて中沢栄二との交渉に思いを馳せた。
 沈み込むような暗い気分の中に浮かんで来る一つの思いがあった。
 わたしは鏡の中のバスローブ姿のわたしに向かって、それが可能だろうか ? と呟いていた。
 あいつは世間からはみ出したような麻薬常習者の、落ちこぼれにも等しい人間だ。あいつが居なくなっても大袈裟に騒ぎ立てる人間達は居ないのではないか ?
 おそらく、麻薬売買に係わる人間は居るだろう。
 それでも、その人間達が大袈裟に騒ぎ立てる可能性は少ないのではないか。
 彼等にしてみれば自分の身を守る事が先決で、麻薬中毒患者の一人が居なくなったぐらいで大袈裟に騒ぎ立てる事はないのでは・・・・
 わたしは <ブラック・ホース>の事も考えた。
 なん日も顔を出さない中沢を不審に思って、訪ねて行く人間は居るのだろうか ?
 無論、経営者か店長かは分からないが、中沢が店に顔を出さない事を不審に思う人間は居るに違いない。
 その者達が果たして、どれ位深く中沢に関心を寄せているのか ? 
 中沢が店に借金をしていれば別だが・・・・。
 恐らく、中沢の店に対する借金は、ないに違いない、とわたしは思った。
 もし、店に借金があればあれ程しつこく、何度もわたしに金銭を要求して来ないはずだ ?
 それとも、店自体が麻薬と係わりを持っているのだろうか ?
 店と中沢との関係はどうなっているのだろう ?
 わたしには分からない事ばっかりだったが、幸い、わたしと店との関係は深くはなかった。二度だったか、三度だったか顔を出しただけで、あとは店の外で中沢に会っていた。中沢とわたしの関係を知る人間はそれ程多くはないはずだった.
 ーーあるいは、中沢は誰かにわたしとの関係を話していたのだろうか ?
 いいカモが見っかったよ・・・
 中沢が店べったりの模範店員でない事だけは確かっだった。
 日頃の彼の言動から察しが付いた。
 親しい友人が店内にいたらしい形跡もなかった。
 しかし だからと言って、思惑通りに総てが運ぶだろうか ?
  ーーわたしは思わず我に返った。
  いったい、わたしは何を考えていたのだろう ?
 知らず知らずに、わたし自身驚くような暗い想念に没頭していた自分に気付いてわたしは狼狽した。
 中沢を殺(や)る !
 何時の間にか深く染み込んでいた無意識の意識がわたしを怯えさた。
 わたしは言い知れぬ恐怖の感情に突き動かされたまま鏡の前の椅子から立ち上がった。
 鏡の前を離れると居間に入ってテレビを付けた。
 傍にある戸棚からブランデーの瓶とグラスを取り出して丸テーブルの上でグラスに満たすと、そのまま沈み込むようにソファーに腰を下ろした。
 テレビでは遅い夜の時間のニュースを伝えていた。
 わたしはブランデーの入ったグラスを口元に運びながらニュースの画面に視線を向けていた。

 中沢には五日間も電話を掛けずに放って置いた。
 中沢はしびれを切らして自分から掛けて来た。
「ちっとも電話をくれないじゃないか、何時くれるんだよ !」
 彼の言葉は激していた。
「わたしにだって都合があるのよ。あなたの思い通りばかりにはゆかないわよ」
 わたしも突然に怒声を投げ付けて来た中沢に返すように強い口調で言っていた。
「いったい、話しをする気があんのかよう」
「あるから待ってなさいって言うのよ」
「いつまで待つんだよう !」
「とにかく、わたしの方で都合が付いたら電話をするから、それまで待ってなさいよ。わたしだって、そんなものを世間にばら撒かれたりしたんじゃたまらないから、なんとかするわよ」
「金が要るんだよう」
 中沢は切迫感を滲ませて言った。
「わたしの知った事じゃないわ」
「いいか、やたらに時間を引き延ばしたりしたら何をすっか分からないぞ」
 わたしは彼の言葉を脅迫と受け取りながらも、自ら電話を切った。
 ーーこうも度々、おかしな電話をして来られたのではたまらない !
 わたしの耳の中には中沢が最後に言った、何をするか分からないぞ、という言葉が残っていた。
 わたしは受話器を置いた手をそのままに暫くは、放心したようにその言葉を頭の中で繰り返し反芻していた。
 わたしは思った。
 この前のように金を渡して暫くの間、大人しくさせて置こうか ?
 わたしに取って、不可能な事ではなかった。
 しかし、問題はそこにあるのではなかった。
 彼が麻薬常習者だという事が、最大の問題点だった。
 世の中の暗部に係わっていた女 !
 中沢が警察に捕まった時の事を思うと体が震えた。
 わたしが今、係わりを持つ取り引き相手はほとんどが高級ブランド品を扱う業者だった。彼等の格式から言って一度、黒い噂が立ってしまえば潮が引くように、みんながわたしの前から去って行くだろう。
 わたし自身、今日まで必死に働いて築いて来た自分の城だった。それを失う事の苦痛を思うと絶えられない気がした。
 
 中沢から電話のあった翌日、わたしが事務所を出たのは午後十一時を過ぎていた。
 高級ハンドバックの輸入品の選定に手間取って、思わぬ時間を費やしていた。
 専務も秘書も三人の担当者もわたしより早く事務所を出ていた。わたしが最後になった。
 わたしが地下の駐車場に降りた時には知らない車が三台あるだけになっていた。
 わたしはハンドバックを開けてキイを取り出しながら車に急いだ。
 車に近付き、ドアを開けようとした時、不意に車の陰から立ち上がる人影があった。
 その唐突さにわたしは息を呑んだが、人影は中沢だった。
 すぐに判別出来た。
「何 ? なんでこんな所に居るの ?」
 わたしは驚きと共に思わず言っていた。
「ずいぶん待ったよ」
 中沢は人懐こい笑顔で言った。
「わたしの帰りを待っていたの ?」
 わたしは言った。
「そうさ」
 中沢は相変わらず、馴れ馴れしい口調で言った。
 暗い灯りの下で見るせいか、彼の顔が以前会った時より、幾分、やつれているように見える気がした。その、どす黒くも見える気がする顔を意識するとわたしは、麻薬のせいか、という思いに捉われて彼への強い拒否感が働いた。
 わたしは車の扉を開けると助手席にハンドバッグと資料の入った紙袋を置いて、
「ずっと、ここで待ってたの ?」
 と聞いた。





          ーーーーーーーーーーーーーーーーー




           takeziisan様


            有難う御座います
           今週も楽しませて戴きました
           山々の風景 色とりどりの花々
           心が洗われるようです 登山好きの人間の
           山に魅かれる気が分かります
           ネジバナ 懐かしく思い出しました 
           山小屋の灯 ラジオ歌謡が昨日の事のように脳裡に浮かんで来ます
           思い掛けない山の湯での会話 いいですね
           人の心の通い合う暖かさが心を満たします
           都会に居ては知る事の出来ない人と人との心の交流
           それが少しも不自然ではない 不思議です
           都会に於ける日常でもこう出来たら素晴らしいでしょうがとても無理
           やはり自然環境のせいでしょうか
            畑仕事 無理は禁物 
           ツクバイが奏でるショパンは 「雨だれ」ですかね
           欲しかった スマホにしたが 電話だけ
            入選 おめでとう御座います
           川柳 楽しませて戴きました
           これからも頑張って下さい
           有難う御座いまし


遺す言葉(450) 小説 いつか来た道 また行く道(10) 他 あなたへ

2023-06-04 12:08:49 | つぶやき
            あなたへ(2023.4.24日作)


もし 人生に
生きる事に 目的
目標が持てない 見い出せない
そういう あなた 日々
眠って過ごしなさい
眠って 眠って 眠って 眠る
眠りは人に取っての仮相の死 
眠っているその間 人は
夢を見る事はあっても 何も
眼にする事はない
仮相の死 その死 眠りに
総てを託し 眠り 眠りなさい
仮相の死 死者は何も思い煩う事がない
そして もし あなたがその死
仮相の死 眠りに疲れたら
あなたはただ 歩いて 歩いて
歩きなさい 何も考えず 何にも
心を留めず ただ歩きなさい
歩いて 歩いて 歩いて行く
何処までも 何時までも
あの道 この道
あの村 この町
あの川 あの森
あの山 あの谷
あの景色 ただただ 何も考えず
何も見ないで歩いて行く 歩いて行く
歩いて行く事は あなたの日常
あなたの人生 あなたの人生そのもの
あなの日々は ただ 同じように過ぎて行く
朝が来て 夜が来る その繰り返し
日々 あなたは
時間の中を歩いている
歩いている その時間の中 あなたの意識は
あなたの脳裡は確実 着実に 無意識裡 きっと
何かを掴み取っている
ただ歩く 歩いて行く 日々 あなたは眠り
眠りーー仮相の死に疲れたら 歩いて行く
何処までも 何時までも 歩いて行く 
歩いて 歩いて 歩いて行く 歩いて行くその中で
あの道 この道
あの村 この町
あの川 あの森
あの山 あの谷
あの景色 あなたが眼にする
野に咲く花々 小川のせせらぎ  鳥の声
家々 各 家々 おのおの過ごす家庭の灯り
そのたたずまい 町の様子 それらの景色
見たもの総てが あなたの心に灯りを点し
あなたの心に何かを生み出し
あなたが掴み取った何かはやがて あなたの心に
何時の日か あなたが気付かぬままに きっと
何かの花を咲かせてくれるだろう
何時かはきっと 何かの実を稔らせてくれるだろう
眠って 眠って 眠って 眠る
歩いて 歩いて 歩いて 歩く
何処までも 何時までも
何時までも 何処までも
歩いて 歩いて 歩いて 歩く
眠って 眠って 眠って 眠る
あなたの人生あなたのもの




          ーーーーーーーーーーーーーーーーー



            
           いつか来た道 また行く道(10)



 
宮本俊介は今度もまた、わたしを信用して一任してくれた。
秋も深まったこの季節、来年に向けての準備で忙しい、と宮本俊介は言った。
わたしは早速、交渉に入ると伝えた。
中沢栄二からの電話が来たのは二日後だった。
彼からの電話だと分かるとわたしは即座に受話器を置いた。
彼は何度も掛け直して来た。
わたしは受話器を取らなかった。
翌日も彼は掛けて来た。
彼だと分かった後は受話器を取らなかった。
電話はしつこく鳴り続けた。
頭の芯に突き刺さるようなその音に耐え切れなくなってわたしは受話器を取った。商談電話が何時、掛かって来るかも知れない事から受話器を外して置く訳にはゆかなかったのだ。
「なによ ! 煩いわね。電話もしない約束よ」
 彼の声を聞くとわたしは受話器に向かって怒鳴り返していた。
「いゃ、ちょっとだけ会って貰いたいんだ。その事とは違うんだ」
 わたしの気迫にたじろいだかのように中沢は言い訳がましい言葉をしどろもどろに並べた。
「その事もこの事もないわよ。もう、あなたとは関係ないはずよ」
「いゃ、ちょっとだけ話しを聞いて貰いたいんだ」
「聞く話しなんてないわ」
 わたしは投げ捨てるように言って受話器を置いた。
 怒りに満ちた声が外に漏れなかったか心配した。
 その日はそれで電話がなかった。
 翌日もなかった。
 わたしはそれでも落ち着かなかった。
 中沢栄二が一年以上も過ぎた今になって、改めて電話を掛けて来た事がわたしの不安を誘った。
 これからも同じ事が繰り返されるのではないか ?
 最初の金を渡す時、わたしは今日の日のある事を想像していなかった訳ではなかった。それでいて彼との交渉に応じたのは、あるいは、という微かな可能性に望みを託してのすがる思いからだった。そして今、その思いが打ち砕かれていた。
 わたしは、宮本俊介の依頼を受けて本格的な店舗造りが始まろうという矢先の、中沢栄二からの電話に苛立った。古傷をえぐられるような心の痛みと共に、彼の存在が障害物のように眼の前に立ち塞がって来るのを意識した。
 わたしの心は晴れなかった。憂鬱な日々が続いた。
 中沢はあの翌日から電話を掛けて来る事はなかった。
 それが一週間程続いた。
 だが、わたしの不安は不安に留まらなかった。彼からの封書がまたわたしの事務所に届いた。前回と全く同じ手口だった。
 中身は違っていた。
 ベッドの上の写真である事と、下手な文字の手紙が添えられている事だけは違っていなかった。
" どこかにかくれていた箱の中からこの写真が出てきたので送ります。たぶんこれでおしまいだと思うので買ってください "
 わたしは下手な文字の書かれた一枚の紙切れと数枚の写真を掴み取ると、誰がこんなものを相手にするもんか、と怒りに任せて呟きながら手の中で破り裂いた。
 残った写真も次々に破り捨てた。
 遣れるんなら、遣ってみるがいい !
 わたしは煮えたぎる怒りの感情と共に、眼の前にはいない中沢に向かって言っていた。
 中沢栄二は翌々日に前回と同じように電話を掛けて来た。
「写真、見てくれた ?」
「ええ、見たわ」
 わたしは煮えたぎる怒りを抑えて静かな声で冷静に答えた。
「今度は何が欲しいの ?」
「会って貰える ?」
 中沢は言った。
「ええ、いいわ。何を条件に会うの ?」。
「細かい事は会って話せば分かると思うんだ」
「バカな事を言わないでよ。あなたの話しなんて百年経ったって分かりっこないわよ」
「ずいぶん手厳しいんだね」
 感情を昂ぶらせたわたしをからかうかのように中沢は言った。
「当たり前でしょう。こんな卑怯な事をされて好い顔が出来ると思ってるの。で、何時会うの ?」
「会って貰えるんなら、今日でも明日でもいいんだ」
「駄目よ、今日や明日だなんて。あんたみたいな暇人じゃないのよ」
「じゃあ、何時がいい ? なるべく早い方がいいんだ」
「相変わらず身勝手ね。なるべく早くって言ったって、わたしにはわたしの都合があるのよ」
「じゃあ、何時がいいんだよお」
 中沢はしびれを切らしたように声を荒らげた。
「とにかく、二、三日待ってみなさいよ。わたしの方から電話をするから。電話番号はこれまで通りでいいんでしょう」
「うん。じゃあ、待ってる」
「でも、電話番号、忘れちゃったわ。教えて頂戴」
 中沢栄二の電話番号を改めてメモをするとわたしは受話器を置いた。と同時に一気に湧き上がる怒りの感情に捉われて、書き留めた電話番号の上に大きく力を込めて✕印を書き込んだ。
 誰が、あいつなんかの思い通りにさせるもんか !
 心の内で呟いた。
 その日、わたしは一日中、仕事が手に付かなかった。中沢栄二の影があらゆるものの上に絡み付いて来てわたしの気持ちを乱した。わたしは早目に事務所を出た。気分がすぐれないので、と秘書には言い残した。




         ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




         桂蓮様

          お身体の悪い中 有難う御座います
          新作 拝見しました
          良い言葉が並んでいます
         長いトンネルは通ってゆくより出る方法がない
          目先の危ない橋もわたらないと向こうへゆけない       
         好悪ないまぜそれが人生ですね 人は死ぬ その死を意識した時
         人生の素晴らしさが見えて来る 人間の深みも増す
         それでもなんでも 人生 悪運の無い事が何よりも一番の望みですが
         人の運命だけはどうする事も出来ません ただ 一日一日を精一杯生きる   
         人に出来る事はそれだけですね
         長いトンネルも抜ければ明るい空が開ける
         危ない橋も渡れば大地がしっかりと支えてくれる
         暗いトンネルを抜ける 危ない橋を渡る 人の努力以外
         達成できるものはありません
         どうぞ 長いトンネルの中を通過中だと思い 日々 頑張って再び
         明るい日々をお迎えになられる事を願っております
         それにしても くれぐれも御無理をなさらない様にして下さい
         何事に於いても無理強いは禁物です
         冒頭の写真 相変わらず心洗われる風景です
         こんな良い環境にお住まい 羨ましい限りです
          有難う御座いました




           takeziisan様
           

            美しい花々 写真 堪能致しました
          なにやら梅雨の気配 鬱陶しい日が続いたりしますが
          花々は一層鮮やかにその色彩を増しているように拝見出来ます
          それにしてもこれだけの花々 カメラに収めるのも並大抵ではないと思います
          感服です
           内臓脂肪 御本人に取っては意外や意外 という結果でしょうか
          日々の散歩 水泳 畑仕事 身体を動かしているはずなのに・・・・
          分からないものですね
          わたくしはほとんど自己流体操が習慣のようになっていますので
          事改まって体操教室に通ったりはしませんが おおむね検査結果は毎年
          合格点が出ます 病院通いもしていません
          毎年 六月十五日を検査の日と決めていますので 今年もその予定です
           うつらうつら 眠くなったら即 眠る それが一番良いようです
          やはり年齢には勝てません 無理は禁物と自戒しています
           おたいらに・・・良い響きですね 以前 何処かで耳にしたような記憶があります
          柔らかい響きに感銘した覚えがあります
          それにしても東北地方始め 北国の言葉はなぜ こうも優しく心に沁みて来るのでしょう
          寒さの厳しい中 お互いに労わり合う心が芽生えるせいでしょうか
          なぜか北の国々 新潟 秋田 青森 岩手等々 北の国々には心惹かれます 
          以前にも書きましたが暖かい地方で育った者の無いものねだりかも知れません 
           今回も楽しい時間を過ごさせて戴きました
           有難う御座いました








遺す言葉(448) 小説 いつか来た道 また行く道(8) 他 悟るということ

2023-05-21 13:03:54 | つぶやき
            悟るということ(2021.10.10日作)


 禅に於ける 悟り は ただ
 坐る 坐禅 しただけで
 得られるものではない また
 禅僧の説教を聞き あるいは
 書物による 知識を詰め込んだだけで
 得られるものではない
 日々 日常を生きる 
 悪戦苦闘 七転八倒 その
 苦しみの中から掴み取る 一つの真実 
 その真実を掴み得た時 悟りは 生まれる
 これは こう言う事だ  という実感
 その 実感 が悟りの正体 悟りを得た と
 言う事だ
 悟りは実感 感覚の世界
 知識ではない





            ーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(8)



「七百万出してくれたら、写真は全部あげるよ」
 中沢は軽快に言って、今にも口笛でも吹き出し兼ねない様子だった。
「それにしても、よく、わたしの直通電話番号が分かったわね」
「ぼくにだって生活がかかってるもの。今年の夏、野尻湖近くの別荘へ行った事も知ってるよ」
 わたしは彼の思い掛けない言葉に身体のふるえる思いがした。
 そこまでしていたのか !
「わたしを尾行(つけた)のね」
「そう。いろいろ調べた。大事な宝物を無くしたくなかったから」
 瞬間、わたしは彼に殺意に近い感情さえ覚えて、思わず飛び掛かりたい衝動に駆られた。
 その激情を懸命に抑制するとわたしは、静かな声で言った。
「勿論、ネガもくれるわね」
「勿論」
 彼も同じ言葉を言った。
「でも、残らずくれたって、どうやって証明するの ?」
「それは証文を書くからいいさ。今後、一切、関係ないって」
 わたしは思わず笑い出した。
「まったく、暢気な事を言わないでよ。そんな物を貰ったって、なんの役に立つって言うの  ?」
「ぼくが信用出来ないって言うの ?」
「当たり前でしょう。信用出来る訳がないでしょう。こんな卑怯な事をしておいて」
「大丈夫、嘘だけは言わないから。ただ、ちょっと金が欲しかったんだ」
「クスリ(麻薬)のため ?」
「そう」
「いいわ、七百万円はあげるわ。その代わり、これっ切りよ。後は一切関係ないって約束出来る ?」
「出来るさ」
「電話もしないわね」
「しないよ」
「もう、誰かにこの事を喋っているんじゃないの ?」
「喋ってなんかいないさ。ぼくだってクスリの事が人に知られたら、どうなるか分からないもん。危ない橋なんか渡りたくないよ」
「そう、それならいいわ。だけど、約束だけはちゃんと守ってよ」
「大丈夫だよ、その為の証文なんだから」
「紙屑同然だわよ、そんなもの」
 わたしは吐き捨てるように言った。
「ちゃんと印鑑も押すよ」
 わたしはまた吹き出した。
 このバカ者は捺印さえすれば、それが有効だと思っている。
 その浅はかさは話しにもならなかったが、悪(わる)にかけては抜け目がないのだ 。
「でも、あなたの事だから七百万円がなくなったら、また、出せって言って来るわね」
 その思いはわたし自身、払拭出来なかった。
「それはないよ。心配ないよ。また、別の人を探すから。あんまり一人に拘っているとかえって自分が危なくなるから」
「これまでにも、何人もの人にこんな事をして来たの ?」
「そんな事はないさ」
 わたしは中沢が口にした、危なくなる、という言葉に微かな希望を見る思いがした。
 彼がどのような意味を込めて言ったのかは分からなかったが、その言葉に賭けてみようか、という気になった。
 無論、わたしは警察に相談する事も考えた。
 警察ではわたしの名前を隠してくれるのではないか ?
 中沢栄二との事は根掘り葉掘り聞かれるだろうが、それぐらいなら我慢出来る。
 問題は麻薬だった。わたし自身は係わってはいないが、中沢の麻薬歴が明るみに出れば、わたしもまた、資金提供の一画を担った者としてなんらかの追及を受けるのではないか ?
 麻薬常習犯に金を貢いでいた恋狂いの女性ブテック経営者。
 鵜の目鷹の目でスキャンダルを探し廻っているマスコミはいち早く嗅ぎ付けて、水に落ちた犬を叩くようにわたしを叩くだろう・・・・
 わたしは改めて、ちょっとした気の緩みからの自分がした事の重大さに臍(ほぞ)を嚙む思いを味わった。
 なんて厄介な道に踏み込んでしまったんだろう。
  もし、中沢の背後にいる人間達が暴力団関係者だったら・・・骨の髄までしゃぶられてしまうだろう。
 その思いにはだが、すぐに否定の気持ちが働いた。
 暴力団に訴えるのか、と中沢はわたしに言った。
 と言う事は、中沢自身は暴力団には係わっていない、という事ではないのか ?
 そう納得するとわたしは改めて、彼の人間関係に思いを馳せた。
 当然ながら、麻薬の売人はいるだろう。
 その人間達は写真の事まで知っているのだろうか ?
 そして、<ブラックホース>の店員仲間や経営者は ?
 だが、それらの事は今更ながらに、思い悩んでも始まらない事だった。経営者に話しをして中沢を罰して貰ったとしても、写真を撮られたという事実は決して消し去る事の出来ない真実として存在する。写真が何処かに隠されていれば、なんの意味もない事になる。 
 わたしには諦めに似た気持ちが強かった。取り敢えず、中沢に金を渡して様子を見る。ーー他にに取るべき方法が見付からなかった。頼る人もいなかった。もし、宮本俊介が東京に居てくれたら、あるいは相談も出来たかも知れなかったが、現在、バリに居る宮本俊介は、来年早々に開かれる新作発表に向けての準備で忙しかった。わたしの愚行などに係わっている暇はなかった。それにわたし自身としても、今日まで信頼して来てくれた宮本俊介に、愚かな相談事などを持ち掛けて不興を買うだけの勇気もなかった。
 その他、わたしには菅原綾子が親しい存在だったが、相談相手としての彼女が論外である事は言うを待たなかった。結局わたしは、腹をくくるより仕方がないという思いの中で、もし、彼がまた別の行動に出て来た時には、その時に改めて考えようと覚悟を決めた。

 中沢栄二は七百万の総てを現金で持参するように言った。取引の場所はラブホテルだった。
「まさか、カメラやテープレコーダーが仕込んである訳じゃないでしょうね」




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー            




             takeziisan様
           

              コメント 有難う御座います
             お身体 さして御心配のない御様子 他人事ながらほっと ひと安心という気分です
             何事に於いても人の苦しむ様子を見聞きするのは愉快なものではありません
              コピー どうぞ御自由になさって下さいませ    
             わたくしとしましてもtakeziiブログの美しさと楽しさを満喫している人間が居る
             という事を他の人に知って貰うのになんの不都合もありません
             むしろ№Ⅰを誇るtakeziiブログを眼にする多くの方々に知って貰うのは歓迎です 
             本来ならtakeziiブログ内のコメント欄に書き込むのが本筋なのかも知れませんが 
             余り文が長くなったりして御迷惑をお掛けしてはと思い 
             自身のページの中で書かせて戴いております 
             今回も記事 楽しませて戴きました
             畑の野菜 木々の実 豊かな自然が感じられて羨ましい限りです
             桑の実 ドドメですね 以前にも書いたと思いますが
             田舎のわが家の横に桑畑があり その桑の実 ドドメを
             唇を紫色にしながら食べた事を思い出します
             ジャムは自家製 なんと贅沢な !
              シラサギ 懐かしい鳥です 昔 田圃の中でよく見かけたものでした        
             近年になって故郷へ帰る汽車・・・今では電車ですね
             その電車の中からふと眼にした 田圃の中で餌をついばむシラサギを見て
             思わず「シラサギの ポツンと一羽 八月田」と
             頭に浮かんだ言葉を書き留め このブログ内にも書き込みました           
             八月の稲の青々と生い茂る田圃の中にたたずむ真っ白なシラサギの姿      
             絵になる 何処か懐かしい光景です
              クンシラン シャコバサボテン 植木も手入れが大切ですね
             わが家はほったらかし シャコバサボテンは今年の冬は駄目かも・・・
              何時も楽しいブログ 有難う御座います
             普段 いろいろな事で忙しくしてますので このひと時はホット
             息抜きの時間です
              有難う御座いました

             原爆許すまじ
             初めて知りました
             写真の中の光景 わたくし自身が体験した光景です
             それにしても 今更ながらに人間の愚かさ 進歩の無さを実感する
             今日この頃です


遺す言葉(447) 小説 いつか来た道 また行く道(7) 他 おかしな話しだ

2023-05-14 12:08:08 | つぶやき
          おかしな話だ(2023.5.6日作)



Ⅰ 辞書によれば
  貢献するとは 貢ぎものを捧げる
  あるいは その捧げ物とある
  貢献-ー物事や社会に力を尽くし
  良い結果をもたらす事 そこに
  人 人の心 意志 精神性 の
  感じ取れる行為を指す言葉
  今の世の中 やたらに 貢献
  この言葉を使いたがる
  風が貢献して船が動いた
  雨が貢献して作物が稔った
  風や雨 自然が引き起こす現象
  人の力ではどうする事も出来ない事象
  言わば 物質的 無機質的現象 そこには
  捧げる という意志も 精神性もない ゆえに
  この場合 風や雨の力が寄与して と言うべきところ
  それを今は やたらに 貢献という言葉を使いたがる
  しかも 新聞 放送 その分野で
  一流と思われるマスコミ関係者までもが
  臆面もなく この言葉を使っている
  おかしな話だ

 2 予想ーー結果を心に思い描き推し量る
  想定ーー思い定める 考えを巡らし仮に決める
  この二つの間には明らかな違いがある
  それを今は混同して なんでもかんでも「想定」
  という言葉を使う
  予想 想定 この微妙な違いを理解出来ない人の
  如何に多い事か !
  おかしな話だ

3  今の現状
  現状とは 只今現在 眼の前にある状況
  現在の有り様
 「今の状況」これが正しい使い方
 「今の現状」ーー「馬から落ちて落馬した」
  これと全く同じ言い方
  知識人 いわゆる知識人ー(この言葉のなんと厭な響き)までもが
  平気で「今の現状にかんがみ」などと使っている
  おかしな話だ






          ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

           いつか来た道 また行く道(7)
          

 

 今日、わたしは事務所の終業時間の六時になると遣りかけの仕事も放り出して帰宅した。
 中沢栄二に会うためだった。
 自宅へ帰ったわたしはシャワーを浴び、化粧を落として髪まで洗った。
 普段のわたしとは別のわたしになる為だった。
 鏡に向かったわたしは、目尻の皺も皮膚のたるみも隠そうとはしなかった。誰が見ても一目でわたしとは気付かないようにする為だった。
 人目を避ける意味でわたしは、夜も遅い午後十一時を中沢と会う時間に指定した。

 若いバーテンダーは中沢栄二にオンザロックを出すと離れて行った。
 彼が再びわたし達の前に来る事はなかった。わたしと中沢との間に流れる不穏な空気を敏感に感じ取っていたらしかった。
 中沢はポケットから煙草の箱を取り出すと一本を抜き取り、わたしに差し出した。
 わたしは黙ったまま小さく首を左右に振った。
 中沢はその煙草を口に咥えるとライターを取り出し、火を付けた。
 吸い込んだ煙りを天井に向かって大きく吐き出した。
 彼もまた、そうして気持ちを静めているのかも知れなかった。
 空いた右手でオンザロックを手元に引き寄せると中沢はわたしに視線を向けて、
「驚いた ?」
 と聞いた。
「なぜ、あんな事をしたの ?」
 わたしは彼に横顔を向けたまま、怒りを抑えた声で静かに言った。
 中沢栄二は悪びれる様子もなかった。
「これも生活の為なんだ」
 と、まるで他人事のように言った。
「これまでも何人もの女(ひと)にこんな事をして来たの ?」
 わたしは言った。
「そんな事はないよ。でも、女の人は気まぐで、何時、心変わりをするか分からないから」
 と、以前と少しも変わらな穏やかな口調で彼は言った。
「誰が撮ったの ? 何処で撮ったの ?」
「それは言えない。言える訳ないでしょう」
「ベッドの様子から大体、見当は付くわ」
「訴えるの ?」
 彼は面白そうにわたしを見て言った。
「訴えるって、何処へ訴えればいいの」
 中沢は思わず笑い出した。
「そうだね。訴える所なんてないものね。でも、警察や弁護士なら秘密にしてくれるかも知れないよ。ホストクラブの店員と寝て、写真を撮られたって言えば」
 わたしは怒りが込み上げた。
 弄ばれているような気がした。
「でも、そんな勇気はないでしょう。それとも暴力団を雇ってぼくを消して貰う ?」
「警察に訴えるぐらいの勇気はあるわよ」
 わたしは 彼の弄びに対抗するように怒りを込めた強い口調で言った。
 中沢はまるでからかうかのように驚いた様子を見せて首をすくめた。
 何時もの優男という印象は何処にもなかった。
 ふてぶてしくさえ見えた。
「じゃあ、やってみる ?」
 彼は言った。
「ええ、やってみるわ」
「面白い。だけど、そんな事をしたら杉本美和の面目は丸潰れだよ。ぼくなんかこんな風だからどうなってもいいけど、マスコミに写真が流れたりしたら今日まで築き上げて来た<ブティック・美和>の総てが台無しになってしまうよ」
 中沢は言った。
「いいわよ。あなたに脅迫されるぐらいなら、よほど、その方が増しよ」
「それならやってもいいよ。ぼくは止めないし、何も言わないから。ただ、写真とネガはいっばいあるんで、ぼくの方としてはマスコミに売り込む事は何時でも出来るんだ」
 わたしは身のふるえる思いがした。
 出来事の根の深さを思わずにはいられなかった。
「ーーその写真、幾らで買えって言うの ?」
 わたしは聞いた。
「別に、買って貰わなくてもいいんだ。今までのようにお小遣いが貰えさえすれば」
  そう言ってから彼は、
「どうして、急に気が変わっちゃったの ?」 
 と聞いた。
「自分の胸に聞けば分かるでしょう」
 わたしは言った。
「ぼくの腕を見たんでしょう。それで、ぼくが怖くなったんでしょう。もしもの事があって、ぼくが警察に捕まったらスキャンダルになると思って、怖くなったんでしょう」
  図星だった。
 わたしには返事の仕様がなかった。
 中沢はわたしが無言でいる事で、自分の言葉がわたしの中で何らかの効果を持ち得た事に満足したかのように、短くなった煙草を口に運ぶとまた天井に向かって煙りを吐き出した。
 わたしはそんな彼の傍に居る事が急に苦痛になって来て、一刻も早くこの場を立ち去りたい思いに捉われた。
「一体、その写真、幾らで買えって言うの ?」
 再びわたしは聞いた。
 彼は途端に興味を見せて乗り気になったようにわたしを見ると、
「一千万円・・・でどう ?」
 と言った。
「バカな事を言わないでよ。そんなお金ある訳ないでしょう」
 腹立たしさと共にわたしは言った。
「<ブテック・美和>の社長にそれぐらいのお金がない訳ないでしょう」
 彼は言った。
「あなたに遣るお金なんかないって事よ」
「じゃあ、写真はどうする ?」
「どうにでもすればいいわ。好きなようにすればいいわよ」
「マスコミに流してもいい ? マスコミは飛び付いて来ると思うけど」
「いいわよ。その代わり、あなたも警察に捕まるわ」
「そんな事は平気さ。ぼくの一生がそれで終わってしまう訳ではないし、それに比べたら美和の社長のダメージは比べ物にならないぐらい大きいから」
 何か楽し気な様子さえ見せて彼は言った。
 それからふと、思い直したように、
「じゃあ、無理を言ってもしょうがないから、七百万という事ではどう ?」
 身を乗り出して言って来た。
 わたしはその中沢を見ながら、独りでいい気になっている、と思った。




             
          ーーーーーーーーーーーーーーーーー



            takeziisan様
           

             有難う御座います
            体調の優れない御様子 検査で異常なし
            いわゆる老化現象・・・ではないのでしょうか
            わたくしも幸い 持病はないのですが 八十歳を超えてからは
            年々、体力の衰えとあちこち なんとはない不調感を意識する事が
            多くなりました
            とにかく体は動かさなければ衰えるばかりだと思って
            動く事を心掛けているのですが その動く事自体が億劫で苦痛になって来ます
            他に食事は勿論 栄養バランスに充分 気を配っていますが
            サプリメントには頼りません それに睡眠にも最近
            注意を払うようになりました 眠れないという事がないので助かります
            どうぞ 御無理をなさらず この楽しいブログをお続け下さいませ
             花々の美しさ 眼の保養です
            以前 早い時期にクンシランが咲いた記事を拝見したと思いますが
            また別の君子ランが ? わが家ではすっかり散りました
             栴檀 以前にも書きましたが田舎の家の門の前に二本立っていた木です
            花や実の生った光景が思い浮かびます 冬には枝先に残った実をついばむ為に
            シギなどが来てうるさく鳴いていたものです
            懐かしく思い出されます
             ボレロ 好きな曲の一つです 同じメロディーを繰り返しながら 
            飽きさせないこの凄さ 感服です
             都都逸 最近 聴く機会がすっかりなくなってしまいましたが
            軽い皮肉とユーモア 川柳に通じる面白さですね
            こういうものの失われてゆく事に寂しさを覚えます
            せめてNHKだけでも大事にしてくれるといいのですが
            最近のNHK番組のつまらなさ やたらにドラマとその宣伝ばっりが多くて
            民間放送と変わりがありません しかも その番組に料金を取る
            腹立たしさを覚えるばかりです ですから ほとんどテレビは観ません 
            見るに値する番組がないのです
             今回も楽しませて戴きました
             有難う御座いました












遺す言葉(446) 小説 いつか来た道 また行く道(6) 他 禅の世界

2023-05-07 13:11:14 | つぶやき
           禅の世界(2023.3.10日作)



 現実は理論では動かない
 禅の世界では
 青山 湖上を走る
 橋が流れて 川が止まる
 と言う
 世の中 すべからく
 現実を見る眼が必要

   ーーーーーーー

 柳は緑 花は紅 
 山は高く 川の 流れは長い
 この根本は いつの世も
 常に変わらない それを
 どう見るか どのように
 心に捉え 刻むか
 それにより
 柳は緑 花は紅
 山は高く 川の流れは長い
 この世界が 深くも 浅くも
 なって来る
 世の中 この世界の真実は常に
 一定 不変 それを見る
 人の心によって 世界は
 動く 変わって来る




          ーーーーーーーーーーーーーーーー




            いつか来た道 また行く道(6)



 封書には中沢とだけ署名があった。
 名前も住所も書かれていなかった。
 わたしはこの封書が中沢栄二からのものだとすぐに察知すると、彼への激しい憎悪に捉われながら乱暴に封を切った。
 中から出て来たものを眼にしてわたしは気を失い兼ねない程の驚きに捉われた。
 おびただしい枚数の写真の数々だった。
 そのどれもがわたしと中沢がベッドの上で絡み合っている裸の写真だった。
 中にはわたしの顔がまともに写し出されているものもあった。
 わたしは思わず手の中でその写真を破り捨てていた。
 次から次へとわたしは手の中の写真を破り捨てていった。
 これらの写真の撮られたホテルは大体が想像出来た。
 どのように撮られたのかはまったく思い描けなかった。
 何処かに盗写用のカメラが据えられていたに違いない。
 でも、何時仕掛けたのだろう ?
 あるいは、ホテル自体がそういうホテルだったのだろうか ?
 何枚かも分からない写真の数々はわたしの手の中で、それが写真だという形体さえ分からない程に細かく切り裂かれた。
 わたしはそれらを足元の屑籠に投げ入れると、最後に残った手紙を手に取った。
 そこには小学生が書いたのかとも思われるような乱暴な文字が書かれていた。
< 二人の記念の写真を送ります。もし、ぼくに会えないのなら、この写真を買ってください。まだ、ほかにもいろいろあるので、くわしい事は会ってくれれば話します >
 翌日、早速、中沢から電話があった。
「写真、見てくれた ?」
「あなた、ずいぶん卑怯な人ね」
 わたしは怒りを抑えた声で静かに言った。
 中沢は電話の向こうで静かに笑った。
 ほくそ笑んでいるかのようだった。
 わたしは新宿歌舞伎町のコマ劇場裏にあるバー <ダイヤル・M>で会う約束をした。

 わたしが記憶している<ダイヤル・M>は、十人程が座るといっぱいになるカウンターと四つの椅子席があった。
 まだお金がなかった頃によく足を運んだ店だった。
 十数年ぶりで入った店はすっかり変わっていた。
 馬蹄形をしたカウンターが店内の全部を占めていた。
 若者の姿が多かった。
 わたしは人目に付かない事を願って右隅の一つの椅子に座を占めた。
 中沢栄二は午後十一時の約束の時間かっきりに入口の扉を開けて入って来た。
 店内は客の姿がまばらになっていた。
 中沢はすぐにわたしの姿を見付けると、アアーッ、という顔をして微笑みを浮かべた。
 わたしはカウンターの奥の壁一面をおおった鏡の中で彼を見ていた。
 彼はわたしがまだ、気付かないと思ったらしかった。すぐにわたしの背後に来て、如何にも親し気な様子でわたしの肩に手を置いて、
「こんばんわ」
 と言った。
 わたしはブランデーの入ったグラスを両手でつつんでカウンターに肘を付き、顔だけ彼に向けた。
「こんばんわ」
 わたしは言った。
 感情のない声だった。 
 わたしに取っては、戦闘開始の合図のようなものだった。
 中沢はすぐにスツールを引いて隣りの席に腰を降ろした。
「ばかに地味造りだったから、違う人かと思った」
 腰を落ち着けた安堵感の混じったような皮肉めいた口調で彼は言った。
 わたしは彼の言葉には答えず、両手に包んだブランデーのグラスを口元に運んだ。
 二十代後半と思われるバーテンダーがすぐに中沢の前に来た。
「ウイスキー、ロックで」
 中沢は愛想よく言った。
 わたしはそんな彼とは関係がないかのように、カウンターの奥に並んだ様々なボトルやグラスを映している鏡の中を見詰めていた。
 その鏡の中に映るわたしは、まるでわたしとは関係のない赤の他人のように見えた。
 化粧を落とし、イヤリングを外して、首まで埋まる朽ち葉色のセーターをざっくり着こんだ中年女、それを見詰めているわたしーー。
 二人の女がそこに居た。どちらも自分であり、自分ではないかのようだった。
 真実のわたしは何処に? 
 わたしが何時も鏡の中に見詰めるのはブティック経営者としての杉本美和だった。
 身だしなみの見事な魅力に満ちた女性だった。
 やや細めの顎、引き締まった両の頬、豊かな眼、そして細い鼻筋、華やいだ化粧が何時も一際くっきりと、その個性を浮き立たせていた。
 ともすれば他人にはそんなわたしが冷たく見えて、近づき難い印象を与えていた。
 それに加えて、わたしの強い性格がなおさらに、人々を遠ざけるような効果をもたらしているように思えた。




          ーーーーーーーーーーーーーーー




          桂連様


           お身体不調の中 退屈な文章にお眼をお通し戴き御礼申し上げます
          今回 新作が見えなかったので過去にも拝見しました作品を拝見しました
          わたくし自身 今回 禅に付いての文をまとめて見ましたものですからーー
           他人の悟り 
          悟りは人によって異なる
          花は何一つ同じ花はない
          まさしく禅の世界です
          いい御文章でした
          良い文章というものは何度読み直しても飽きる事がなく
          読む度ごとに心に触れてくるものです
          どうぞ お身体全快の折りにはまた このような御文章をお寄せ下さいませ
           お身体の具合いは如何ですか
          くれぐれも御無理をなさらぬようにして下さい
          有難う御座いました


           
          takeziisan様


           今週も楽しませて戴きました
          珍しい花々 野の花々の世界の奥の深さ 驚くばかりです
          この豊かな世界 大切にしたいものです
          小判草 一見 イモムシ 気味悪いようでもあり金色の小判のようでもあり
          面白く拝見しました
          初めて知る花です
           きぬさや 新鮮 雑草 でも よく見ればどれも花はきれい
          捨てたものではないですね  ただ 農作業には大敵
          畑地で汗だく 近所の井戸水・・・なんだか 子供の頃の田舎の情景が蘇って来ます
          懐かしい風景です
           茶摘みの景色 懐かしい景色 あの作業着 センスがいいですよね     
          美しい景色です それも最早 懐かしの景色 今は機械が一気に・・・
           川柳 ゴミ屋敷・・・ わが家
              八十すぎて ノーサンキュ・・・ このあいだ 用事で電車に乗り
              行きと帰り 二度 席を譲られました
              行きは丁重にお礼を言い なんとか断りましたが
              帰りは混雑の中で断りきれず 座る羽目に・・
              譲られながらなんだかプライドが傷付けられたようで
              複雑な気分でした
              もう二度と混雑した電車には乗りたくないと思った次第です
          トビ 房州へ旅行した折り 旅館の窓から見た夕闇の中 
          しきりに海の上を飛びまわるトビの群れを見た事が強く印象に残っています
          夕闇が濃くなるにつれ 一羽また一羽と近くの森の中へ姿を消してゆき
          やがて一羽も見えなくなった海の上の光景が鮮やかに眼に残っています
          こんな何でもない光景が実は なんとも言えない美しさを持っているのですね         
           和製プレスリー小坂一也 ステージで見ましたが
          プレスリーの迫力には今ひとつ なんだこんなものか と              
          思った記憶があります
           今回もいろいろ楽しませて戴きました
           有難う御座いました














遺す言葉(445) 小説 いつか来た道 また行く道(5) 他 名声 地位ほか三篇

2023-04-30 11:46:26 | つぶやき
          名声 地位 他三篇(2023.4.22日作)


 名前や名声 地位に惑わされるな
 この世界 世の中には
 眼には見えない場所 葉隠れで
 それ以上の仕事をしている人は
 数多くいる
 石垣の石は堅固 質実 充実していても
 個々の存在として 人の眼に触れる事は少ない
 突出した場所 その位置に建つ城だけが
 人の眼に触れる 脚光を浴び 尊ばれる その城は
 石垣が無ければ存在しない

 リーダーとは
 人の話しを「耳」で聞き
 「口」で人に伝える「王」である
 人の話しを耳で聞き
 口で人に伝える「王」とは
「聖」の人である
 リーダーとは
 その「聖」の人
 聖人であるべき存在

 突出した存在は
 並みの存在に取っては 常に 異質な 
 居心地の悪い存在に思える
 突出した存在が
 善の存在か 悪の存在か
 突出した存在自身の問題
 善の存在であれば 尊敬 崇拝の的となり
 悪の存在であれば 忌み嫌われ
 嫌悪の的と なる

 理論より
 現実をしっかり把握する その眼を
 持つ事
 現実は常に動いている





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           いつか来た道 また行く道(5)




「だって、準備なんて何もしてないじゃない」
 彼は言った。
 口調は穏やかだった。
 わたしを脅迫しているようには思えなかった。
 それでもわたしの心は息苦しい程の圧迫感で押し潰されそうになっていた。
「しているわよ ! 誰がそんな事を言ったの ?」
 わたしは思わず喧嘩腰の口調になって強く言っていた。
「誰も言わないよ。でも、分かってるんだ」
 彼は何か、楽し気な気配を漂わせた口調で嬉しそうに言った。
「いったい、何を言うの、あなたは 。変な事を言わないでよ !」
 わたしはますます喧嘩腰の口調になって言っていた。
「じゃあ、今晩会って、どんな準備をしているか教えてよ」
 彼の口調は依然として穏やかで、この会話を楽しんでいるのようにさえ思えた。
 わたしはそんな彼を意識するとなぜか自分自身も奇妙に冷静になっていて、
「なぜ、あなたにそんな事まで教えなければならないの」
 と、冷たく突き放すようにして静かに言った。
「パリやニューヨークへ行くなんて嘘だからさ」
 彼はそんなわたしの冷やかさを意識したのか、これまでとは違った冷徹な口調で静かに言った。
「嘘じゃないわよ !」
 わたしはこの時、彼はすでに事情を知っている、と思った。すると彼は、
「ぼくの腕の注射の跡を見たんでしょう。それでぼくが怖くなったんでしょう」
 と言った。
 ふと、わしは何故か、自分が追い詰められたような感覚を抱いた。
 彼の言葉は明確に、わたしが彼の腕に見た注射の跡に気付いている事を彼が知っている事実を告げているように思えた。
 わたしは逃げ場のないという思いと共に、
「何を言っているの、あなたは」
 とだけしか言う事が出来なかった。
「クスリ(麻薬)を使っているぼくが怖くなったんでしょう」
 彼は言った。
 その声は静かだった。
「電話を切るわよ」
 わたしは言った。
 ただ、彼との関わり合いを断ち切りたい思いのみが激しくなっていた。
 わたしは彼の返事も待たずにそのまま電話を切った。
 息苦しい程に動悸が速くなっていた。
 わたしは電話を戻した手を机の上に置いたまま、空白になった頭でしばらくは何も考えられにずいた。
 どれだけの時間が過ぎていたのかも分からなかった。
 ようやく我を取り戻した時に最初に浮かんだのは、麻薬常習者の彼、という存在だった。中沢栄二。
 拭い難くわたしの存在の中に関りを持って来ている。
 払拭したくても今更に払拭出来ない事実だった。
 わたしに取っての一番の恐怖は、これ以降、中沢栄二がどのような行動に出て来るか、という点だった。判断も予測も出来なかった。
 最早、彼とは完全に手を切ってしまいたかった。それにはどうすればいいのだろう ?
 何よりもわたしには、麻薬常習者との関りを持つ女として世間に知られてしまう事が一番の恐怖だった。この事実だけは、どんな事があっても隠しておきたかった。それでなければ今日まで営々と築いて来た努力の跡が一瞬の間に灰燼に帰してしまう。
 少しの後の冷静になったわたしの頭に最初に浮かんだ思いは、金で総てを解決する方法だった。
 彼に望むだけの金額を与えて口を封じる。
 しかし、この方法にはすぐに疑問符が浮んで来た。
 彼が一度の現金手渡しで引き下がるとは思えなかった。いい餌食を見付けた肉食動物のようにしつこく何度も何度も後を追いかけて来るだろう。その間に二人の交際が目敏い週刊誌などの記者に知られてしまわないとも限らない。
 では、どうする ?
  他に方法はあるのか ?
 わたしの思いはそこでまた、ゆき場を失った。
 ほとんど絶望感に捉われたわたしは、取り敢えず、これ以降の中沢の出方をみてみるより仕方がない、という思いに総てを託して待つ心算になった。
 わたしは中沢からの電話は必ず、またあるものと読んでいた。
 翌日、二日と過ぎても電話はなかった。
 それでもわたしは、彼がこのまま大人しく引き下がるとは思っていなかった。
 だが、彼からの電話は四日が過ぎてもなかった。
 わたしの心では彼が何を企んでいるのだろう、という漠とした不安が拭い切れなかった。
 そして事実、五日目に彼からの分厚い封書が届いた。

   


            ーーーーーーーーーーーーーーーー




            takeziisan様


             有難う御座います
            アメイジンググレイス 好い曲ですね
            わたくしは神などまったく信じないのですが この曲を聞くと
            何故か神の恩寵というイメージが湧いて来ます 黒人ーこの言葉は嫌いなんですがー霊歌 
            アフリカ系アメリカ人の魂の叫びが伝わって来るような気がするのです いい歌です
             グレイダ―マン いろいろありますね 流行りました
             懐かしの曲という感じです
              様々な花々 林の中の木道 好い景色です 心が洗われます
             花の盛り 花の命は短くて
             わが家のクンシラン 今年も遅ればせながら咲いてくれましたが
             そろそろ終わりです 散り始めています
             ハゴロモジャスミンも茶色が混じって来て季節の終わりを漂わせています
              休日 終日家にいる事の多い身には土曜 日曜  
             休日の区別が付きません 昨日土曜 新聞夕刊が来ないので電話をしたら
             今日は旗日で夕刊はお休みです 販売所の答えでした
             ああ 今日は休日 ?
             そうです 販売所の人は笑っていました
             困ったものです
               何時も美しい風景の数々 有難う御座います
             楽しませて貰っております





            桂連様

      
             有難う御座います
            いろいろ大変な御様子 お大事にして下さいませ
            アインシュタインの理論はわたくしにはよく分かりませんが
            人に取っての時間は確かに相対的なものですね
            一日二十四時間は絶対的なものですが 人によってその場によって
            人が感じ取る時間はそれぞれ異なります
            新作 興味深く拝見しました
             何時もの事ですが冒頭のお写真 美しいです
            住環境の良さが想像されます
             朝八時の面談 ? 早いですね いつも何時にお起きに
            なっているのか分かりませんが パートナーの方としても大変では・・・・
            突然にこのような症状が現れたのでしょうか     
            いずれにしても一日も早い御快復を願っております
            実際 何処かが悪いと普段している事も億劫になって来ますから
            くれぐれも御無理をなさらぬよう お気を付け下さいませ     
             何かと多忙 多難の中 いつも有難う御座います





遺す言葉(444) 小説 いつか来た道 また行く道(4) 他 働く

2023-04-23 13:29:07 | つぶやき
               働く(2022.2.23日作) 


 働くという事は
 人が動くという
 休むという事は
 人の動きを止める事
 人は働き その結果
 世界に 国に 社会に
 何かの恩恵をもたらす
 人が休み 動きを止める事は
 自身の安息 安らぎは得られても
 産み出せるものは少ない
 自然に生きる自然の中の木々 樹木は
 動かず 休んでいるように見えても
 人の眼には見えない所で 動き
 働いている 自然の中の木々は
 怠惰をむさぼっている訳ではない
 週休三日 今 この話しが
 話題に上っている
 人が心の潤い 安らぎを求めて休む
 休息を取り 休む しばしの間 
 動きを止める 必要な事だ
 過重労働 働き過ぎ 
 百害あって一利無し 労働後の休息
 絶対的条件 必要不可欠 だが
 休息が人の 人類の 究極目的 で あってはならない
 もし そうであるなら 
 次の人の世に訪れるものは 人類の 人の世の
 進歩の停滞 世界の衰退 それだけだ
 働き 何かを産み出し 人は
 この世界を創って来た その活動を止めてしまえば
 人の世の末は分かっている 眼に見える
 働く 働く事は尊い事 適度の休息 休養 必要な事
 その中で 今 人に取って 真 に必要な物は 何か
 考える
 考える事は 人間 人に与えられた特権
 考えない事は人間廃業 
 週休三日 労働時間短縮 休養 休息
 真に今 何が必要なのか ?
 最良のバランス その均衡を考慮すべし 




          

            いつか来た道 また行く道(4)


 
 
 その間わたしは、犯罪者に狙われでもしたかのように落ち着かない日々を過ごしていた。
 日常生活の何気ない折りにふと浮かんで来るのは、中沢栄二の腕の黒いシミの事で、それがわたしを脅かした。ーー麻薬常習者としての中沢。
 彼との関係を持ったわたしは、思いも掛けない泥沼に引きずり込まれるのではないか・・・。
 自分のどん底に落ちてゆく姿を想像するとわたしは耐えられなくなって、このまま、何もしないでいていいんだろうか、と思い悩んだ。
 無論、わたしの方から中沢に電話をする気はなかったが、彼の方から掛けて来るのではないか ?
 番号は教えてはいないものの、<ブティック 美和>の電話を調べればすぐに分かる事だった。
 彼が電話をして来る前に何か、手を打った方がいいのではないか ?
 わたしは思い悩んだ末に、一時的にでも彼との関係を断ち切っておきたくて心を決め電話をした。
「中沢君 ? わたしだけど」
「ああ・・・・、なんですか ?」
 何時もなら、「ああ、こんにちわ」と答えるのだったが、その時の中沢は敏感に何時もと違うわたしの声を感じ取っていたらしかった。
 わたし自身もその事には咄嗟に気付いて、それでも構わず言っていた。
「これから、しばらくの間、会えなくなると思うの。急な用事が出来てしまって」
「急な用事  ?・・・・」
 彼は言った。
「ええ、御免なさい」
「何処かへ行くの ?」
「うん、ちょっと遠出で、外国へ行かなければならないの」
「外国 ? 何処ですか」
「お店の仕事でパリやニューヨークへ行かなければならないの」 
「パリやニューヨーク ? いいなあ、それで長くかかるんですか」
「ええ、ちょっと期間は分からないんだけど、でも、帰って来たらまた電話をするわ」
「うん。それまで待ってます。でも、行く前に一度、今日か明日にでも会えないんですか」
 何時ものような口調で彼は言った。
 だが、彼のその言葉を聞いた時、何故かわたしは途端に感情的になっていた。  
「無理よ !」
 と、思わず彼を拒否するような攻撃的な口調で言っていた。と、同時に私はすぐに自分のその強い口調に気付いて、中沢に何かを感じ取られはしなかったかと思いながら、
「無理よ。これから急いで準備をしなければならない事がいっぱいあって忙しいんだから」
 と、笑顔を交えた口調で静かに言った。
「そうか。でも、ちょっと、つまんないなあ。ーー帰って来たらまた電話してくれる ?」
 彼は聞き分けのいい子供のように言った。

 電話を切った後もわたしの気持ちは落ち着かなかった。
 すぐに頭に浮かんだのは菅原綾子の存在だった。
 頻繁に< ブラックホース >へ足を運んでいるらしい彼女の口から、わたしの動静が漏れてしまうのではないか ?
 菅原綾子が中沢栄二とどれぐらい深い関係にあるのかは知る由もなかっが、それ程、深い関係ではない事だけは確かだった。
 いずれにしても、今更、心配しても始まらない・・・・。わたしは思った。運を天に任せるより仕方がない。

 中沢栄二に電話をしてから一週間、そして二週間と過ぎた。その間、彼からの電話はなかった。
 わたしは、このまま彼がわたしを忘れてくれればいい、と祈るような気持ちで日々を過ごしていた。
 彼に新しい客が出来て、そちらに気を取られるようになれば、それもあり得ない事ではないと、儚い望みを託した。
 実際には、わたしが心配するように中沢栄二が麻薬の常習者であるのかどうかは、まだ分かってはいなかった。彼の口からそれを確かめた訳でもなかったし、ただ単に、彼の左の腕に薄黒く注射の跡らしきもの見た、という事だけが総てだった。
 しかし、今のわたしに取ってはそれらの事柄はどうでもいい事であった。わたしの心の中では小さく生まれた不安と共に、中沢栄二に対する興味は既に薄いものになっていた。
 バカな事をしていないで仕事に励もう。
 危険な場所からの逃避感覚が働いた。
 少しでも怪しい匂いのするものからは遠ざかっていなければいけない。
 わたしにはまだ、未来へ向けての大きな夢があった。海外へ向けての夢だった。
 パリやニューヨーク、ロンドン、ミラノ、海外の一流都市に自分の店を展開する夢だった。
 その為には現在、わたしのたった一人の助言者であり、協力者でもある宮本俊介が力を貸してくれるはずだった。
 今、わたしの店では宮本俊介はブランド物として、一番の人気銘柄になっていた。
 わたしが自分の店舗で力を入れた結果が、東京での彼の人を築く基になっていた。
 宮本俊介もそれは知っていて、やがては東京に自分のブランドの基盤となる店を開きたいと思うので、何処か、良い場所があったら確保して置いてくれないか、とも言って来ていた。
 わたしは彼の言葉を受けて知り合いの不動産会社へも声を掛けていた。
 そんな現在のわたしに取っては中沢栄二は、一点の曇りもない青空に浮かんだ黒雲のように唯一の鬱陶しい存在になっていた。
 
 中沢栄二への最後の電話をしてから丁度、二十日が過ぎていた。
 わたしは事務所に居て何時ものように鳴る電話を手に取った。
「もしもし、ブテック・美和 で御座います」
「ああ、良かった。おれ、中沢」
 中沢栄二はこれまでと少しも変わらない口調で穏やかに少し嬉し気な気配を滲ませ、電話口の向こうで言った。
 わたしは思わず息を呑んだ。
 体中が緊張感で強張った。
 すぐには声が出せなかった。
「まだ居るかどうか心配だったんだけど、居てくれて良かった。元気 ? 変わりない ?」
「ええ、元気よ」
 わたしはようやくそれだけを言った。。
「もう、パリやニューヨークへは行って来たの ?」
 彼の声は変わらなかった。
「あら、まだ行ってないわよ !」
 わたしは彼の言葉を突き返すように強い口調で言った。
「まだ、準備しているの ?」
 彼の口調は変わらなかった。
「ええ、そうよ」
 わたしは彼の何時もと変わらない声の調子に自分を取り戻して、極めて感情を抑えた声で静かに言った。
「でも、パリへ行くなんて嘘でしょう」
 中沢栄二はずばりと言って来た。
「あらッ、嘘なんかじゃないわよ。なぜ ?」 
 わたしの口調はまたしても彼を押え付けるかのような強い調子になっていた。
 中沢は勘付いて いる !
 わたしは咄嗟に、自分が逃れ道のない窮した場面に追い込まれている事を自覚した。





           ーーーーーーーーーーーーーーーー




           桂連様

            お身体の御様子 大分 良くないようで人様の事ながら ちっょと心配です
           どうぞ無理をなさらぬように
           日常生活にも不便をきたすとの事 バレーの記事を拝見していた当時の
           溌溂とした御様子を思いますと 他人事(ひとごと)ながら心が痛みます
            秋ごろに手術 なぜそんな先に・・・・ もっと早くできないのでしょうか ?
            日常が変わってしまった――理解出来ます
           バレーでの熱心さのあまりの無理がたたったのでは ?
           いずれにしても一日も早く 再び お元気で溌溂としたバレーの御様子を
           このブログで拝見出来る日を楽しみにしております
            季節は美しい花の季節 庭に花が咲いても心の中は
           冬景色
           人生の失われてしまった思い理解出来ます
            どえぞ お大事になさって下さいませ
           有難う御座いました



             takeziisan様


              有難う御座います
              美しい花の季節 まさに春爛漫 御文章の中にもありましたが
             移り逝く時の速さ 確かに歳と共に速さを増します
             人生 子供の頃 少年期は上り坂 憧れの頂上にはなかなか手が届かない
             時間が遅く感じられる
             その人生の頂上 絶頂期 中年時代 夢中で働き生きる
             時を感じている暇もない
             しかし 老年期 下り坂 下りの道は背中を押されなくても
             下って行く 
             眼前に見えているものは衰退 未来は次第に狭くなってゆく
             好む時間はアッと過ぎ 嫌な時間はなかなか過ぎない
             好悪 居る場所 状況次第で時間は変わる
             老年期 衰えて逝く自身を少しでも先に延ばしたい
             延ばしたい時間は瞬く間に迫って来る
             人に取っての一時間 時間はけっして同じ速さでは進まない
             人間の感覚の中で時間は過ぎて逝く
              美しい花の数々 雉の姿 雉は伊豆旅行に行った時
             走る車の眼の前を歩いて繁みの中に消えて行きました
             運転していた者と前の座席に座っていた者が眼にして
             アッ 雉が歩いてる と言った時には既に運転手の後ろにいたわたくしには
             見る事が出来ませんでした ちょっと残念に思ったものでした
              白い花の咲く頃 以前にも書きましたが 最初に聞いたラジオ歌謡謡です
             懐かしく思い出します
              野菜植え付け 収穫の喜びはあれど その前の準備 苦労も大変
             人生 楽をしていて手に入る物はないようです
              腰 痛ッ 痛ッ 理解実感出来ます
             どうぞ 御無理をなさらぬように
             美しい花 写真の数々 堪能させて戴きました
              有難う御座いました



              

遺す言葉(443) 小説 いつか来た道 また行く道(3) 他 神とは

2023-04-16 11:58:03 | つぶやき
            神とは(2022.4.16日作)


 神とは
 人それぞれの中に
 自ずと生まれ
 眼には見えないが
 人の心が 育むもの
 説教などで 押し付けられる
 神など 神ではない
 全知全能 そんな神など
 存在しない
 道端の 一つの石
 田圃の畦道 そこに立つ
 一本の柳の木 
 神は そこにも宿る 存在する
 ましてや 神の存在に
 金銀 財宝など
 必要ない
 神に 必要なもの
 人の心 信じる心
 自身の心が生み出す神
 自身の心を託す事の出来る 物 
 その存在こそが 真の神
 真実の神





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           いつか来た道 また行く道(3)



 わたしは彼を店から連れ出す時に使った金に加えて、更に店で使っていた分に近い金額をも彼に渡した。
 一晩で二十万に近い金が使われた。
 彼が店に出る前に連絡しさえすればよかった。
 何時でも好きな時に会えた。
 彼はそれでもわたしの生活に侵入して来る事はなかった。
 わたしが仕事で忙しい昼の時間帯に夜の仕事の彼は、マンションの自分の部屋で眠っていた。
 わたしに取っては、そんな二人の生活環境はこれ以上にない組み合わせのように思えた。その上、彼はわたしの仕事に関してもまるで関心がないかのように尋ねる事もなかった。
 無論、彼もわたしが幾つものブテックを経営している事は知っていた。
 それでいて彼が、そんなわたしの生活環境に踏み込んで来る気配さえ見せない事にわたしは、彼の職業意識の高さを見る思いがして、一層の好感情を抱いた。
「どうしたの、それ ?」
 初めて会った夜から中沢の左腕には、白いサポーターが巻かれていた。何度、夜を重ねてもそのサポーターの外される事がなくてわたしは、幾分、気持ちも打ち解けて来た頃に、如何にも不自由そうにシャワーを使っている彼に聞いた。
「ああ、これ ? 子供の頃に傷めた関節のずれが慢性化しちゃってサポーターが外せないんだ」
 彼はわたしの顔に視線を返してから、顔色一つ変えずに言った。
「シャワーを使う時ぐらい外せないの ?」
「取ると関節がずれちゃって力が入らないんだよ」
 彼に取っては既にそれが当たり前の事で、気にもしていないかのよう言った。
 そのサポーターが、注射の跡を隠す為のものだと分かったのは偶然からだった。
 外で会うようになってから五カ月近くが過ぎていた。
 その夜の中沢は珍しく無防備だった。少し、深酒をしたせいかも知れなかった。
 それとも、何度も同じような夜を過ごした馴れによる、気の緩みがあったのか ?
 ベッドの上の乱れた上掛けから彼の裸の上半身がのぞいていた。
 これまでにも、同じような事は何度かあったが、左腕のサポーターがずれているのは初めて眼にする光景だった。
 サポーターの下には更に、白い包帯が巻かれていた。
 それも僅かに緩んでずれていた。
 注射の跡は始め、枕元の暗い灯りの中で黒いシミのように、僅かにわたしの眼に映っただけだった。
 それでもわたしはその時、何故か不穏なものを感じ取って、おやッ、と思っていた。
 わたしには麻薬の知識はなかった。
 注射の跡さえ見た事がなかった。
 それでいながらわたしはその時、何故か咄嗟に、不穏なものを感じ取っていた。
 おそらく、わたしの防衛本能の為させる業に違いなかった。
 わたしの胸は早鐘のように打った。
 わたしはその時既に、それが麻薬注射の跡だという事を全く疑っていなかった。
 週刊誌か何かで麻薬に関する記事は何度か読んでいて、そういうものか、というぐらいの知識は持っていた。
 どうしよう、どうしよう、わたしはわたしの気配にも気付かずぐっすりと眠り込んでいる中沢の傍らでただ、おろおろするばかりだった。
 そのうち、中沢がわたしの気配に気付いたかのように、突然、身体を動かして寝返りを打った。
 わたしは慌てて、片肘をついて中沢の顔を覗き込んでいた姿勢からベッドに身を戻し、眠ったふりをした。
 中沢は眼を覚ました訳ではなかった。
 再び、深い眠りの吐息を吐き出した。
 その夜、わたしはそれ以上、眠る事が出来なかった。
 じりじりとする長い時間だった。
 翌朝、中沢が眼を覚ましたのは五時頃だった。
 わたしは彼の目覚めに気付くと眠ったふりをしたまま、様子を窺うために少し体の向きを変えた。
 彼はわたしのそんな動きを気にする様子はなかった。そしてすぐに彼は、自分の腕のサポーターのずれている事に気付いて瞬間、息を呑む気配を見せた。
 慌てたように彼はわたしに視線を向けるとずれているサポーターを引きずり上げた。
 枕元の暗い灯りがそんな彼の一部始終をわたしの眼に投じさせていたが、薄眼を開けてまつ毛の間から彼の動作を見守っていたわたしの視線には、彼は気付かなかった。
 わたしの動かない様子を見ると彼は安心したようにベッドを下りて急いだ様子でシャワー室へ向かった。
 戻って来た時には、左腕の白いサポーターはきっちりと元の位置に戻されていた。黒いシミの跡は隠されていた。
 わたし達は何時もと同じように夜明け前にホテルを出た。
 何時もと同じように別れた。
 わたしはだが、自分が居るマンションへ向かうタクシーの中で、何時ものような幸福感に酔う事が出来なかった。
 突然に変わった局面が黒い感覚を伴って重苦しくわたしの心にのしかかって来た。
 これからわたしはどうしたらいいんだろう ?
 中沢栄二とは二度と会いたくなかった。
 出来れば彼の存在を過去をも含めて、わたしの世界から抹殺してしまいたかった。
 麻薬常習者の彼・・・・?
 そんな男と付き合っていたら、わたし自身がどうなってしまうか分からない。
 わたしは、わたしの身に黒い噂が立つ事はどうしても避けなければならなかった。
  たとえ、彼の麻薬が遊び半分のものであったにしてもだ !
 高校卒業以来、一人で東京へ出て来てようやく手にした現在のわたしの地位だった。< 女性経営者会議 >の会員にもなれて、経営者としてもようやく世間に認められるようになっていた。
 そんなわたしの現在を、危険に陥れるような事は絶対にしてはならない のだ!
 世間から後ろ指を差されるような麻薬常習者との関係など、断ち切ってしまわなければならない ・・・・。 
 それには、どうすればいいんだろう ?
 中沢栄二との関係は最初は<ブラックホース>という得体の知れない店を通しての客と店員との関係だった。しかし、今度の場合、それで済まされるか、という事だった。
 そこに愛情関係はないにしても、既に二人だけの密約の世界が築かれていた。事柄はそれ程、単純に済まされるようなものではなかった。
 取り敢えずは、中沢栄二への電話は控えなければならないが、それで彼が納得するだろうか ?
 麻薬常習者の彼が金欲しさから付きまとって来る事はないか ?
 わたしは自分の眼の前が全くの暗黒に覆われている事を自覚せずにはいられなかった。

 わたしが気持ちを取り直して、中沢栄二に電話をしたのは二週間程が過ぎてからだった。







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             桂連様

              苦痛の中 よくブログを載せられました
             意識をそらす 何事もあまり拘ると事態を悪化させるようです 
             御文章に納得です
               バレーも退屈な人生の中での一つの楽しみかも知れませんが  
             趣味として楽しんで 余りのめり込まないようにして下さい
             身体を悪くしてしまっては 元も子もありません
             でも 楽しい趣味はやっぱりそれに携わっていないと
             日々の生活が物足りない よく分かります
             一日も早く お元気な御報告の御文章の拝見出来る日を楽しみにしております
              有難う御座いました
             くれぐれも御大事に・・・・

    


               takeziisan様

                今回も様々な花の様子 堪能させて戴きました
               正に春爛漫 でも この良い季節もあっという間に過ぎて逝きます
               人生と同じですね
                ネギ畑の雑草 なんと無遠慮な輩 御苦労が想像出来ます
               二時間で限界 理解 実感出来ます
               ネギボウズが食べられる 新鮮な驚き でも考えてみれば
               当たり前の事かとも
               一度食してみます
                カロライナジャスミン わが家ではハゴロモジャスミンが今 満開です
                強烈な甘い香りが何処に居ても漂って来ます
               秋の金木犀と共に至福の時を与えてくれる香りです
               それでも ジャスミン 余りに強烈過ぎて頭が痛くなるような感覚にも捉われます
                伸脚 屈伸・・・分かる 分かる でも日頃の散歩歩数は・・・
               見事なものです 数日前 新聞に一日 七千歩だったか      
               歩く人は長生き出来るというような記事がありました
               ふと takeziisn様の姿が脳裡に浮かびました
               どうぞ御元気でこれからも続けて下さい
                アルハンブラの思い出 好い曲ですね    
               十指に入る好きな曲の一つです
                ふるさとのはなをしよう 
               当時を思い出します わたくしもこのごろしきりに故郷の事
               若き日々の事を懐かしく回想するようになりました
               既に先の限られた人生 そうしてもう一度
               あの頃の日々を生きているのかも知れません
                どうぞ これからも美しいブログが何時までも続きますよう
               御健康でいて下さい
                有難う御座いました

遺す言葉(442) 小説 いつか来た道 また行く道(2) 他 弱気になるな

2023-04-09 11:57:24 | つぶやき
             弱気になるな(2023.2.9日作)


 弱気になるな
 弱気の心は何も もたらさない
 強気になれ やれば出来る
 出来るまでやる 食らい付く
 食らい付き 出来るまでやって
 出来なくても 悔いることはない
 人の一生は短い
 強気で闘い 闘う その間に
 時は過ぎ逝き 人生は終わるだろう
 人は終わりが総て 何も成し遂げられなかった
 でも 最後まで食らい付き やり遂げた
 満足感 自身の心を生きた満足感は 死
 総てのものを奪い去る その死を目前
 眼の前にしても 消える事はない
 精一杯生きた 自身の心を生きた
 毀誉褒貶 名誉名声 与り知らぬ事
 死の恐怖 消えゆく命の終わりの前では
 毀誉褒貶 名誉名声 無意味なもの 無力なもの
 自身を生きた 自分の心を生きた 精一杯生きた
 その充足感 満足感のみが 消えゆく命
 死の恐怖 命の絶望 その前で
 自身の心を慰め 癒してくれるだろう
 弱気になるな 強気になれ
 強気の心で悔いない人生
 その生涯を終えるのだ




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           いつか来た道 また行く道(2)




 菅原綾子は生来のものとも思えるお節介やきから、わたしを<女性経営者会議>に誘っていた。
 彼女はその組織の理事だった。
 その誘いはわたしにしても、嬉しくない事はなかった。
 多くの女性経営者達に取っては、< 女性経営者会議 >は憧れの組織だった。
 その組織への加入によって誰もが、経営者として世間に認められたという思いを抱いた。
「これで、わたしも一人前の経営者として、認められたという気がします」
 新会員になった女性経営者達の誰もがそのような言葉を口にした。
 わたしもまた、同じだった。
 新会員紹介の席でそのような言葉を口にしていた。
 その夜、わたし達は菅原綾子の誘いのもと、六本木のホストクラブへ繰り出した。
 わたしが経営者会議の会員になってから、三度目の総会の後だった。 
 五人か六人の仲間がいた。
 わたしに取っては、初めて経験するホストクラブだった。
 わたしの相手には二十四歳の中沢栄二という若者が付いた。
 長身でやせ型、美貌の持ち主だった。
 一見、ひ弱そうに見えるのが中年女性を引き付ける魅力にもなっていた。
 わたしの思いのままになるのでは・・・・、そんな錯覚を起こさせる魅力だった。
 事実、わたしもその魅力にはまっていた。
 離婚以来、わたしに男は存在しなかった。
 仕事だけが、わたしの心の糧だった。
  仕事以外、わたしが必要とする物は何もなかった。
 仕事が終わった後の気ままな食事、二、三の女友達との軽い憂さ晴らし、--映画を観たり、劇場へ足を運んだりと、そんな時間がありさえすれば、それでよかった。
 当然の事ながら、中沢栄二に入れ込むつもりはなかった。
 この場だけの軽い遊び・・・。
 そこに少しの酒の酔いと、店の雰囲気に酔ったものがなかったとは言い切れなかった。
 菅原綾子に煽られるままにわたしは、中沢栄二を誘っていた。
 菅原綾子はそのクラブの常連でもあるらしかった。
 その夜の中沢栄二は外見そのままだった。
 素直な子供のようにわたしの指示に従った。
 わたしは彼の気の弱そうな外見から、わたしの思いのままに行動した。
 そして、わたしはその夜のわたしに満足していた。
 わたしのこれまで知る事のなかった世界がそこにはあった。
 知らぬ間に溜め込んでいた心の澱みを吐き出すようにわたしは大胆だった。
 奇妙に男臭さを感じさせない中沢栄二が最適なペットのようにさえ思えた。
 彼ならわたしの欲求を素直な子供のように満たしてくれる。
 その時のわたしは、わたし自身に立ち返ってみる事さえしなかった。
 歓喜に酔い、知らない世界に酔ったかのように、目新しい体験に酔っていた愚かなわたし・・・・。
 危険な世界を想像する事さえしなかった。

 わたしが二度目に中沢栄二のいる< ブラックホース >を訪ねた時は一人だった。
 ほぼ、ひと月半が過ぎていた。
 暗い灯りの点った室内への扉を開ける時には、少しの勇気が必要だった。
 中沢栄二を訪ねる事自体には、ためらいを覚えなかった。
 彼の持つ存在感の軽さが、わたしにそう思わせていたのかも知れなかった。
 食べなれた料理とは異なる別のメニュー。しかもそこには、これまでわたしの知る事のなかった新鮮さと、刺激に満ちた味があり、喜びがあった。
 二度目のその夜も彼は変わらなかった。わたしは最初の夜にも増して大胆になっていた。
 ベットとしての彼の存在は、わたしの心の中ではますます大きくなっていた。
「今度からは、わざわざお店へ来てくれなくてもいいよ。メールをくれれば僕の方から出向いて行くから。その代わり、お店に払っていたお金の半分だけ僕にくれる ?」
 彼がそう言い出したのは、四度目に会った後での事だった。
 素直な子供のような言い方だった。
 その口振りからわたしは、わたしの気持ちを思って言ってくれているのかとさえ思った。
 わたしに取ってもその提案は、いささかも不都合のない提案だった。
 わたしは何も< ブラックホース >へ行きたいわけではなかった。中沢栄二に会えさえすればそれでよかった。
 わたしは一も二もなく彼の提案を受け入れた。
 わたし達は< ブラックホース >の外で会うようになった。





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              takeziisan様

             有難う御座います
            チェリーピンク マンボ レッツ ダンス
             懐かしいですね どちらも一世を風靡した曲で
            音楽は当時をまざまざと蘇らせてくれます
            あの頃に戻りたい そんな気持ちです 
             サクラサク 春爛漫 雑草と格闘 学費が高い
            何事にも苦労が絶えません
            雑草との闘いは自身の健康のためと思えば多少の我慢も出来ますが
            学費が高い これには困ったものです
            昨日だったか一昨日だったか 日経新聞に大学費用の高さが
            書いてありましたが これでは おいそれと大学へも進めないなあ 
            と感じ入りました
            この衰退国日本 学問だけは力さえあれば誰もが自由に学べる
            そんな環境を作るべきです せめて義務教育ぐらいは総て無料にして人を育てる
            国立大学は無料 その代わり落第点は許されない 
            それぐらいの処置はすべきです その費用は役にも立たない国会議員を今の半分にして 
            足しにする
            国家予算の無駄な部分は多いはずです
            資源のない日本 人材だけが頼りです
            人を育てる 無能な現国会議員にもそれぐらいの事は
            して貰いたいものです
             女子会 カニ無口 しゃべれない
            うるさい女にはカニを・・・・コマーシャルとゆきましょうか
             飲み会 億劫 もともと好みではないものですから
            ですが 元同僚 幼馴染との束の間のひと時 これは楽しいものですね
             花の春 春爛漫 美しい花の数々 楽しませて戴きました
              わが家の庭の隅にもツルニチソウ 咲いています 
              有難う御座いました




             桂蓮様

             身体のお加減はどうでしょうか
            今年は厄年かと嘆いていらっしゃいますが 新作がなく
            旧作を拝見していましたら 一月に座骨神経痛に付いてお書きになっていらっしゃる
            正に厄年がらみですね
            もっとも こういう病気はおいそれと治るような病気ではないので
            いずれにしても厄介です
            桂連様へ寄せられたコメントの中でも 実に多くの方がいろいろ
            告白していますね 
            同病相哀れむ・・・・このようなコメントを読むと励まされるのではないでしょうか
            どうぞ 焦らず 気長に 根本から治すには何が必要なのか
            お医者さんと相談しながら全快に向けて いや 全快は無理にしても
            少しでも良くなるよう 頑張って下さい
             また新しい記事にお眼にかかれるのを楽しみにしております
            バレーの記事にお眼にかかれないのがちとょっと寂しいです           
             痛みを伴う中 わたくしの記事にお眼をお通し戴く事に感謝
            御礼申し上げます
            有難う御座いました