遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 46 ある映像

2015-05-17 14:03:28 | 日記
          ある映像(2013.11.6日作)



   テレビの画面は

   伊豆の温泉宿を舞台にした

   男と女の結ばれない

   愛の一夜をうたう

   男性歌手の姿を映していた 

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   画面はやがて静かに動いて

   舞台を見上げる観客の席を

   映し出した

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   広い会場は中年過ぎの観客で

   埋め尽くされていた

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   テレビの画面はさらにゆっくり動いて

   客席の中程で止まった

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   画面が大きく映し出したのは

   舞台を見上げる

   白いブラウス姿の

   四十代前半かと思われる

   一人の女性だった

   どこか地味な風情の

   所帯やつれも垣間見える

   小柄な女性は

   一心に舞台に見入っていた

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   女性の視線は

   舞台に向けられていた

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   しかし 女性は

   舞台を見ていなかった

   男と女の一夜限りの愛をうたう

   男性歌手の姿を見ていなかった

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   視線は明らかに

   歌手を突き抜け 舞台を突き抜け

   眼に映る現実の

   向こうの世界を見ていた

   もはや帰り来ぬ 過去の日々

   女性はその時 唄の世界に重なる

   自身の過去の姿を見ていた

   結ばれなかった若き日の

   自身の恋------

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   テレビ画面の 女性の視線から その過去

   愛のゆくえ 結末を 知る事は

   出来ない

   それでも画面が映し出す

   どこか地味な風情の

   やつれも垣間見える小柄な女性の

   深い哀しみを湛えた視線は 鋭く

   わたしの胸を捉えた

   いったい 女性には

   唄の世界に重なる

   どのような愛の日々 月日があり

   別れがあったのだろう------?

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   深い哀しみを湛えた

   視線の奥に秘められた 過去-----

   所帯やつれも垣間見える姿が

   哀しみを湛えた視線と共に

   一層色濃く 女性の失くした

   愛の大きさ深さを映し出す

   映像だった