芭蕉の四つの句(2017.3.2日作)
古池や 蛙飛び込む 水の音
鬱蒼とした樹々に覆われた
澱んだ水の古い池
一匹の蛙が飛び込んだ 音と共に
小波(さざなみ)一つなかった水面(みなも)が
にわかに動き 小さな波紋が生まれる
波紋は次第に大きくなり やがて
池全体に広がって 水面を乱す
人の世もまた同じ
古い習慣 因習に囚われた 澱んだ空気の
世の中 社会 異端児ーー蛙が飛び込んだ
蛙の行動は 何かと物議を醸し 世間を騒がせ
最初の 小さな波紋が生じる
小さな波紋は 徐々に拡大 のちには
世の中 社会を覆って
その姿 その有り様を変えてゆく
蛙と古池
人間社会の縮図を写し出す
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(この句は何匹もの蛙が 池に飛び込む様を写したものだという事だが・・・)
五月雨を 集めて早し 最上川
一つ一つの小さな雨粒が寄り集まって
人をも 舟をも 翻弄する 激流 急流に
穏やかな川を変えてゆく
無名の人々 名もない人の 一人一人は 五月雨
その五月雨が寄り集まれば 大河
時の権力 支配者 その存在の 足下をも
揺り動かし 押し流して
壊滅させる
見事な暗示の一句
田一枚 植えて立ち去る 柳かな
田圃の中の畦道に 一本の柳の木がある
人々は 年々歳々 その柳の下(もと)で田植えをし
秋になれば 稲刈りをし 人の世の
営みを続けてゆく 変わる事のない
人の営み それでも 時は移り
人は老い 人の姿は変わり 季節は巡る
変わり逝くもの 変わらぬもの 柳の木は
自身 少しずつ成長しながらも 去年 今年 と また
変わる事なく 田圃の中の畦道に立ち続け
人々の営み 変わり逝く人の世の姿を静かに
見つめ続けている 永遠と今
人間存在根源の象徴 柳と人
閑(しずけ)さや 岩にしみ入る 蝉の声
人の言葉も同様 静けさの中でこそ
話す言葉も 聞く人の心に沁み込み
胸を打つ 大声 怒声 に包まれた 言葉は
声 そのものが 人の心を乱し 動揺
混乱させて 言葉の中味 内容 を
霧散 散逸 させる
大声 怒声 憤怒の声 に 満ちた言葉は
人が閉ざした心の扉に反響し
砕け散る
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教訓
長ったらしい凡百の物語より
たった一行の優れた言葉の方が
はるかに深い真実を語り得るものだ