遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 188 映画がやって来た

2018-05-06 13:18:15 | 日記

          映画がやって来た(2018.4.30日作)

 

   あれは女性への憧れの

   最初の目覚めであったのか

   海辺に近い 片田舎の小さな村で

   校庭の片隅に白い幕を張り

   地面に敷いた筵(むしろ)の座席で観た

   映画「月よりの使者」

   すでに 半世紀以上の歳月が流れている

   昭和二十年 敗戦の年の四月

   国民学校一年生になったわたしは

   何歳の時に あの映画を観たのだろう

   当時 国も貧しく 人々も貧しく

   生きる事に追われる日々の中で

   娯楽と言えるものも乏しかった ーー

   年に一度の村祭りで行われる

   村の青年団の素人芝居や学校の

   運動会 学芸会 などに

   村中の人々 大勢が集まった

   そんな村に 何時からか

   映画が来るようになった

   小学生のわたしは 多分 母に連れられて

   その映画「月よりの使者」を 

   観に行ったに違いない

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   戦前 東京 深川にいたわたしは

   幼い頃から 父に連れられてゆき

   映画を観ていた

   成人してからも 映画への関心は

   薄れる事がなかった

   名画 傑作と言われる類の映画は

   数限りなく観て来ている

   生涯 忘れる事が出来ないであろう

   それらの映画の名場面の数々も 深く

   脳裡に刻み込まれている

   歳を経て 今では 自身の内面と                                                        

   世相との乖離(かいり)から

   映画へ寄せる関心も 薄くなって来てはいるが

   昔日に観た映画の 数々の名場面だけは

   過去への 郷愁と共に しきりに思い出され

   ふたたびの感動を その都度 新たにしている

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   映画「月よりの使者」

   物語全体の記憶は薄れている

   それでいて 今でもなお その映画が

   忘れ難く わたしの心に焼き付いているのは

   一つの場面のためだ

   月の光りに浮かび上がる 白い木肌の

   白樺林の中を歩む

   愛の哀しみを胸に秘めた 白衣の女性の姿

   その哀愁に満ちた女性の姿が

   あの映画を観たあの日から

   永遠の美しさを備えて わたしの心に

   今もなお 生き続けている