崩れてゆく(2012.6.27日作)
島と島をつなぐ連絡船が 定期的に
港を出てゆくように
始発の電車が 決まった時刻
定められた時間に 毎朝
ホームを 後にして行くように
わたしの生活 時間の中に組み込まれ
定められていた 数々の年中行事
春の筍採り
秋には柚子の収穫
母を先頭に 兄妹夫婦揃っての
故郷を訪ねる行事は 毎年続いた
昭和二十年四月 入学
戦後の一時期
小学校から 中学校卒業までの生活を
共にした 級友達との同窓会は
二年に一度 恒例化していた
時の流れは
誰もがまだ若く
輝く命の キラメキに満ちた日々の中では
移ろいの影一つ 見せる事もなく
皮膚を撫ぜる微風の感触さえも残さず
過ぎていた
眼には見えない 時の流れ
輝く命のキラメキ そのキラメキが
すべての世界を包み込み 華やかな
命の宴を謳い上げる 中で
時はだが 確実に足あとを
人の生の中に刻み込んで行く
ふと 気付いたある日 ある時
いつの間にか過ぎていた 歳月
時の流れが 人の命の老いを 衰退を
手のひら感覚で 伝えて来る
母が亡くなったーー父はすでに亡く
訪れた故郷では いつも訪ねる家の
老夫婦に 明らかな衰えの兆候
わたし達 兄妹夫婦の中にも生じる
身体的不調 不具合
ボツボツ届く 同級生の訃報
ーーいつも届く同窓会の通知は まだ届かず
輝く命のキラメキはいつか 色褪せ
忍び寄る不安 暗い影
去年は出来ていた あの事 この事が
今年は 実行不可能
わたしのまわりを囲んでいた
堅固な世界が少しずつ
削り取られてゆく
命のはかなさ 時の無常
せめて自身だけでもと 身構える心に
見えて来るものは ゆく先の断崖
行き止まりの 道 ・・・・・・・ 死
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付
2018年現在 毎年欠かした事のなかった
筍採りの竹林 柚子採りの柚子の木のあった
千八百平米余りの土地には太陽光発電設備が設置されていて
竹林も柚子の木もなくなっています
いつも訪れていた老夫婦もすでに亡く わたし達兄妹も年老いました