遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉271 小説 ある女の風景 他 命・・・中村哲医師逝去に際して

2019-12-14 17:38:56 | つぶやき
       遺す言葉271 ーー前週に掲載するはずのものでしたが、
       公開ボタンを押さずにいたため、下書きのまま残ってしまいました。
       今日、改めて公開いたします。
                           命(2015.11.15日作)
           この文章は2016年Ⅰ月24日(81)に掲載したものです が、
           アフガンに於ける中村哲医師事件に際して、再度、
           掲載いたします

        中村医師の死に際して、心底よりお悔やみ申し上げます。

   人間存在は崇高だ などと 誰が言えるだろう
   今現在 世界中で起きている様々な出来事を思い起してみるがいい
   歴史を遡り 数々の出来事を想い返してみるがいい
   宗教 正義 権利
   それぞれが口にする美名の下 正当性の下に
   いかに多くの残虐 非道な行為が 平然と行われて来た事か
   人の手によって 惜しげもなく人の命が奪われ
   人の手によって 幾多の人の血が流され
   人の手によって どれ程多くの人の身体機能が損なわれて来た事か
   正義とはいったい なにに対して言う言葉か
   正当性とはいったい なにに対して言える言葉か
   宗教はいったい なにを目指しているのか
   人間が真に向き合うべきもの
   それはいったい なんなのか ?

      ------ー

   人間存在が愚かなものだ などと誰が言えるだろう
   今現在 世界中で他者のため 我が身の危険をも省みず
   懸命に働く人たちが数多くいるではないか
   祖国を離れ 家族とも離れて
   見知らぬ国の 見知らぬ土地で 見知らぬ人たちの中へ入ってゆく
   自分の祖国 豊かな国の豊かな土地で
   両親 兄妹 友人知己に囲まれて
   心穏やかな時を過ごす事も可能な人たち
   そんな人たちが祖国を離れ 家族を離れて 他国の地で
   苦難の道を歩んでゆく
   いつたい なにが 彼等や彼女等を突き動かしているのだろう
   人間の心の真実とはいったい なんなのか
   自己と他者 彼等や彼女等の心の内では
   どちらが重く どちらが価値を持つものなのだろう ?
         ---------
   混沌たるもの この人間存在
   天使がいて悪魔がいて 強者がいて弱者がいる
   善に悪 正に負 上があって下がある
   前後左右を持つこの存在 人間
   人間 その核を成すものは命
   命こそが人間存在 すべての源
   真に人間が向き合うべきものは命
   命は命から命へと連なり 世界を形成する
   一つの命は世界の命 一つの命が奪われる事は
   世界の命の奪われる事
   命の尊厳 失われる命への畏れ
   その思いこそが 人間存在の中心命題
   混沌たる存在 この人間の生の根源
   命


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        小説 ある女の風景(1)

 
          一

 夫の志村昌弘は土曜日の夜に電話を掛けて来た。
「明日、午後一時頃、子供達を引き取りに伺いますので」
 電話口に出た父に夫はそう言った。
「うーん」
 父は電話口で唸っただけだった。
 父にしてみれば言うべき言葉もなかったのだ。
 日曜日、夫は車で来た。
 応接室に、父母とわたしと夫が顔を揃えた。
 六十九歳になる父は、始終むっつりとした顔で口を噤んでいた。夫とわたしのどちらの肩を持つでもなかった。夫婦間の争いに巻き込まれた事への不快感が、明らかに面に表れていた。
 母はわたしの非を責めるかのように、何かと夫に気を使った。初めはわたし達の結婚に反対した母だったが、最近では馬が合っていたようだった。
 夫がわたしの気紛れな行動に対する怒りを懸命に抑えている事は、平静を装ったその態度の中にも、はっきりと見て取れた。夫にしてみれば怒りも、当然に違いなかった。
 わたしは夫がいる間、ほとんど口を開かなかった。この事に関してはなるべく係わりたくないという思いからのみだった。五歳の真由美と三歳になったばかりの弘志の引き渡しに関しても、我を張る事はしなかった。始めから夫が、簡単に二人の子供達をわたしに渡すなどとは考えていなかった。母親としての本能的行動で、子供達を連れて来てしまっただけの事であった。夫と別れたあと、子供達をどうするのか、その処遇についても確かな見通しがあるわけではなかった。夫の態度からも、それは見えて来なかった。
 夫は、子供達を引き取る事だけが目的のようで、他の事に関しては余り多く口にしなかった。
「僕の方だって、こんな滅茶苦茶をされたんじゃあ、困ってしまいますよ。何一つ訳も言わないで、別居させてくれじゃあ,話しにも何もなりませんよ」
 夫はそれだけを不満げに言った。
「それは、そうですよね」
 母は夫の言葉に頷いた。
 父はやっぱり黙ったままだった。
 わたしには、両親がわたしをノイローゼだと見ている事が分かっていた。それ以外に、両親がわたしの不可解な行動を理解する手立てはなかったのだ。
 両親の家に居る五日間、わたしは比較的、平静に暮らしていた。自分の行動をそれ程、大げさに考える事もなかった。夫の呼吸の範囲内から逃れ得た事に、安堵する思いだけが強かった。迷いも後悔も不思議なほど、きれいさっぱりと湧いて来なかった。自分を取り戻し得たというような喜びにも似た気持ちに満たされていた。
 夫はその日、離婚については一切、口にせずに帰って行った。
「とにかく、子供達の面倒はわたしの方でみます」
 強い意志のこもった口調で夫は言った。
 わたしと両親にしてみれば、そんな夫の口調と言葉を拒否し得る立場にはなかった。理由はどうあれ、我がままとしか言えない今度のわたしの行動だったのだ。
 同じ敷地内の別棟に住む兄夫婦の子供達と遊んでいた二人の子供は、夫の呼び掛けに嫌がりもせず、車に乗った。二人は、門の外にまで見送りに出たわたしの母や、今まで遊んでいた兄夫婦の子供達に、バイバイと言って手を振った。
 わたしは昔、わたしの部屋だった二階の部屋のカーテン越しに見送った。   
 車が塀の陰に隠れて見えなくなった時にも、不思議に涙は湧いて来なかった。子供達を連れ去られた事への空虚感もなかった。漠然とした、取り留めのない思いだけが強かった。

         二

 夫が子供達を引き取って行ってから、六日が過ぎた土曜日、わたしは里見一枝に電話をした。
「今夜は土曜日だから、ゆっくり出来るかと思って」
 里見一枝は、服飾関係の仕事に土曜日も日曜日もない、と言って笑った。
 わたしは、その言葉に夫といた頃の生活習慣にまだ囚われている自分に気付いて、ハットした。
 日々、積み重ねている生活習慣の根深さを改めて思い知らされる気がした。
 商社員の夫との生活は、土曜、日曜を中心に生活が回転していた。いついつが日曜日だから、と家庭内の行事は総て、休日を中心に組み立てられていた。その習慣が、幾つもの洋装店を経営する里見一枝に電話をする時にも、知らず知らずのうちに表れていたのだった。
「わたしのところはかえって、土曜、日曜の方が忙しいわよ」
 火曜日が定休日の一枝は言った。
「そうか、ごめん、ごめん。つい、自分の習慣が出てしまって」
「いいわよ。たいした予定もないから。で、なに ?」
「詳しい事は、あとで」
 そう言ってわたしは電話を切った。



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      KYUKOTOKKYU9190様              

KYUKOTOKKYU相変わらず好調の様ですね 
ちょっと意味不明の掛け声、何処から出て来るものですかね。
知りたいものです。相変わらずの含み笑い。
次の列車を楽しみに待っています。