遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉316 小説 海辺の宿(2) 他 希望三題

2020-10-18 11:00:21 | つぶやき
          希望三題(2020.9.24日作)

         すべて良し

 人生を賭けても 望むもの 希望 が 必ずしも 
 達成されする とは 限らない 
 人はその時 どうするか ?
 この世を仮相 虚無 とみれば
 希望が達成されなくても
 嘆く事はない
 自分の思いを生きる事
 それのみが 真に大切
 あれも人生 これも人生
 すべて良し

          保証書

 希望とは 
 人が生きる源 
 命の保証書
 希望がある事は
 人の命の保証されている事であり
 希望を失くした時 人は
 死への旅路を歩み始める

          希望

 陸と 空と 海の ずっと彼方に
 白い雲の峰が 立ち上がっている



          ----------------



          海辺の宿(2)

 夫がクラブへ通うのはある意味、仕方のない事であった。小さな、それでも優良と言われる商社にいて、貿易に携わるせいで、よく、そのクラブを利用した。足を運ばなければならない理由もあったのだ。そして、女の顔を見れば自ずと関係が続く事になった。夫の身勝手、あるいは、意志の弱さのため、と言えない事もなかったが、しかし、夫にしてみれば、今時の女性には珍しいとも言える、クラブの女のいじらしさに心惹かれていた、と言うのが本音に近かった。夫が女のマンションに泊まった事も幾度かあった。今度の出来事も、海外への出張だと偽り、女の部屋に泊まった事が発端だった。夫が三日後に帰宅した時には妻は居なかった。書き置き一つなかった。夫はあちこち手を尽くして探したが、手掛かりが掴めなかった。妻の実家にまで電話をして聞いてみた。しかし、妻の母親の、無言のうちに非難しているような、冷ややかな返事を聞いただけだった。ようやく夫が妻の居場所を突き止めた時には十日が過ぎていたーー。

 窓辺に向かって立っていた男は長い沈黙のあとで、ふと、虚ろな表情を浮かべると女を振り返った。
「まあ、いい。きみがそこまで決心したんなら、それはそれで仕方がない。ぼく自身の失敗から始まった事なんだから。それはそれとして、とにかく、一度、東京へ帰れよ」
 男は静かに諭す口調で言った。
「ええ、あなたが帰ったら、すぐに帰るわ」
 女も心の揺らぎをみせない納得の表情で、穏やかに言った。
「何時までもゴタゴタを引き摺っていたくないし、ぼくも、そんなに休んでいられないから。もし、きみが本当にそのつもりでいるんなら、ぼくも初めからやり直してみようと思う。いろいろ、困る事があるかも知れないけど、仕方がない、自分自身で蒔いた種なんだから」
 男の言葉には諦めを受け入れた静けさがあった。
「あなたがそう言ってくれると嬉しいわ。あなたに済まないと思うわ。もし、あなたが今でもあの人が好きなのなら、あの人と一緒になってくれて結構よ。わたしの方は気にしなくていいから」
「いゃ、そんな事は考えてないね」
 男の脳裡には、まだ幼いとも言えるようなクラブの女との年齢差が浮かんだ。最初からその女性とは、その積もりのなかった事も改めて認識された。
「なぜ ?」
「なぜでも、そんな気にはなれない」 
 男は初めて女を失う悲しみを意識するかのように、虚ろな面持ちで言った。
 女はそれには答えなかった。うつむいたまま、慣れた感じの素早い手つきで編み物の針を動かし続けていた。
「まあ、きみと別れるのは仕方がないとしても、ぼくに心残りがあるとすれば、きみとの間に子供を持てなかった事だ。ぼくらの間に子供でもいたら、あるいはぼくの気持ちもまた、違っていたのかも知れない」
 男は心の内の何処かに潜んでいる空虚を探すかのように言った。
 編み物の針を動かし続けていた女は、男の言葉に思い掛けない事を聞いたように、息を呑む気配をみせた。それから、たちまち涙ぐむと、
「それはあなたに悪いと思うわ」
 と言った。
「いや、非難しているんじゃないさ。病院でも原因が分からないって言うんだから」
 女は激しくすすり上げた。編み物の針を動かしたままだった。
「どっちにしても、いいさ。そうと決まればかすえって、すっきりする。これからも、なんのわだかまりもなく付き合えるかも知れないよ」
 男は達観したように言った。
「あなたは誰かと再婚すればいいわ」
 ようやく気持ちを静めた女が、また言った。
「いや、そんな事はないね。当分、ないね」
 男は断言するように言った。
 女はうつむいたまま、膝の上に編み物を広げた。男物のセーターらしかった。
 男はそれには眼を留める事もなく、窓の外を見詰めていた。
 夜の闇に包まれた海の、砕ける波の音だけが窓の下に押し寄せて来るかのように聞こえていた。
 二人の間に沈黙が生まれた。女は編み物の目を数えていた。
「海辺へ行ってみないか ?」
 突然、男が女を振り返って言った。
 女はその声に我に返ったように顔を上げると、
「これから ?」
 と、訝るように聞いた。
「うん」
 男は気のない返事をした。
「寒くないかしら ?」
「何かを着ればいい」
 普段の会話と変わらなかった。
「そうね」
 女もそれに答えた。
「夜の海もいいかも知れない」
「そうね」
 女はそう言うと考える事もないかのよう、すぐに編み物をソファーの上に置いた。膝に掛けていたものを外しながら、
「あなた、寒くない ? それで」
 と、男のスーツ姿に視線を向けて言った。
「大丈夫さ、ぼくは大丈夫さ」
「わたしは宿の人に借りたカーデガンを羽織ってゆくわ」
 ふたりで部屋を出ると、廊下を玄関口の階段に向かって歩いて行った。
 階段を降りる時、下の部屋の何処かから線香の匂いが漂って来た。
 玄関には小奇麗な下駄や草履がいっぱいに並んでいた。
「なんだい、これは ?」 
 男は訳の分からない様子で呟いた。
「人が死んだのよ、昨夜」
 女が男に耳打ちするように呟いた。
「この宿でかい ?」
「ええ」
 ふたりはそのまま、黙って玄関を出た。線香の匂いがどの部屋から漂って来るのかは分からなかった。
 夜の中にサルビアの花が赤い庭を抜けて門を出た。
 砂利の敷かれた県道を横切り、眼の前の松林に入った。
 松林は暗かった。部屋の明かりに慣れた眼に、松林の中の深い闇は苦痛だった。
 女が先に立って歩いた。もう、何度か通って知っている道だった。
 男は女の背中を頼りに暗闇の中を歩いた。時々、ススキの穂や葉先が体に触れた。松の木の下枝が腕に絡んで来る事もあった。
 松林を抜けると砂浜だった。砂の白さが星の見えない夜の中でも、仄かに浮かび上がって見えた。遮るものの影一つない砂浜は砂に這う雑草を従え、幾つもの小さな砂丘を形作りながら、果ての見えない彼方にまで続いていた。
 海は暗かった。絶え間なく砕ける波がその響きで、雄大な海の広がりを感じさせた。渚の近くで崩れる波が時おり、ほの白く見えた。
 ふたりは無言のまま、渚の方へ降りて行った
 宿の下駄を履いたふたりの足は砂にめり込んだ。
 ようやく水に濡れた堅い砂の渚に辿り着いた。
 渚に沿ってふたりは歩いた。足元に寄せて来る小さな波が微かに光って見えた。秋の夜の海風が肌に冷たく感じられた。
「今日、あなたが来てくれて良かったわ。わたし今夜、一人でどうしようかと思っていたの。死んだ人のいる家に一人で眠るなんて、なんだか怖かったの」
 突然、女が男に寄り添い、肩を並べると言った。
「誰が死んだの ?」
 男がそれに答えて言った。
「よく知らないけど、宿の女将さんの妹さんだって言ってたわ」
「なんで死んだんだい ?」
「病気のようよ。朝起きたら、宿の人が挨拶に来て知らされたの」
「あの家から柩(ひつぎ)が出るのかなあ」
「そうらしいわ」
「泊り客は居ないのかい ?」
「居ないわよ。わたし一人よ。こんな季節はずれの海辺になんか誰が来るもんですか」
「それもそうだな」
 男は単純に納得した。
「--東京へ帰ったら、きみは何をしようと思ってるの ?」 
 少しの沈黙の後で男は話題を変えて言った。
 




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          桂蓮様

          コメント有難う御座います
          いろいろ御心配戴きまして有難う御座います
          先の見えて来たわたくし共の人生です
          確かに生き急いではいますが 幸い 身体も   
          元気で まだ 当分 大丈夫だとは思っております
          しかし 人生一寸先は闇 この事実は変わりません
          年々 総ての事に慎重になっている自分を
          実感します
          このブログですが わたくしは自分の生きたその
          証を この欄にお世話になっている間に
          記録して置きたいと思っていますので 特別
          誰かに知らせるなどの事はしておりません
          ですから このページの途切れた時が
          わたくしの人生の終わり という事に
          なるかも知れません
          それが実際の死であるか 認識的死 つまり
          思考的能力に於ける死であるかは分かりませんが
          いずれその時が来るのは間違いありませんので
          その前兆が見えて来た時には必ず桂蓮様には
          何かの形で 御連絡させて戴きます
          メールアドレスもしっかり書き留めさせて戴きました
          残念ながら、事故などによる突然死の場合には
          それが不可能になると思いますので、このブログで
          わたくしの記事が消えた時が わたくしの人生の
          終わりだと思って戴ければ と思います
          宜しくお願いいたします
          人間の魂 難しい問題ですね
          魂があるのかないのか しかし 人間の心の
          通い合いというものは確かにあると思っています
          桂蓮様がブログに書いて折られます
          師の影を見たという話しですが
          ここに師との心の通い合いが生まれたのだと思います
          桂蓮様が見たのは実在の師の姿ではなく
          思念の中の師の姿ではなかったのでしょうか
          師との心の通い合いかあった という事です
          わたくしもかつて そのような経験をした事が
          ありましてそれを「三つの不思議な出来事」という
          文章にまとめてあります
          いつかそれもここに掲載する積もりでいます
          風邪をおひきとの事 お気を付け下さいませ
          暴風 何処もかしこも気象の荒れ模様
          やっぱり温暖化のせいではないのでしょうか
          いろいろ 有難う御座いました