運命 ほか三篇(2021.4.22日作)
人は運命から 逃れる事は出来ない
しかし 運命は 様々な可能性を秘めている
日々 全力で今を生きる それのみが
人の出来る事 あとは
その人の運命が 運命の定めた方向へと
運んでくれるだろう
予測する事の出来ない運命
時には 偶然がもたらす 僥倖もある
だが 人は 精一杯 今を生きる 人の出来る
その努力で 開ける運命もある
運命は常に 隠れている
誰もその 正体を見る事は出来ない
叩けよ されば開かれん
叩かなければ 扉は開かない
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人は常に 控えめであった方がいい
自分を大きく見せようとすればする程
態度が大きく 傲慢になり 他者の眼には
その人格が小さく見えて来る
常に控えめであれば 他者は自ずと
等身大 あるいは
それ以上に自分を見てくれるだろう
心が大事 気持ちが大事
人は心と心で繋がり合う存在
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人は常に
今 眼の前にあるものに
心を動かされる
どんなに美しく 貴重な存在であっても
今現在 眼の前にある欲望に
打ち勝つ事は出来ない
人間の多くの不実もそこから生じる
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人生は 大半が虚構
自身の真実を生きる物語は
少ない
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化(あだしの)野
奇妙な体験をした。それは多分 " まぼろし " と
言われる類のものであろうが、わたしの感覚の中
では、明らかな現実だった。現在、こうして生きて
いる日常の感覚と異なるものは何一つなかった。そ
して、それが " まぼろし " だったとは今になっても
思えない。しかし、それは事実 "まぼろし " だった
に違いない。何故なら、それは再び見る事が出来な
かったのだから。それはそこに存在しなかった。
一
草原の太陽は西に傾きかけていた。その時、猟犬のポリーに追い立てられてススキの茂みから、見事な大きさの一羽の雄キジが飛び立った。わたしの眼の前、二、三メートル程の距離だった。
わたしは咄嗟に二連の銃を構えてキジに狙いを定めた。
人差し指の素早い動きと共に二度の銃声が響いて、中空に飛び立ったキジは明らかに二発目の散弾をその身に浴びていた。
キジは一瞬、何かに驚いたように羽ばたきをやめると瞬く間に、無様にもがきながらの落下を始めた。
ポリーは素早くそのキジを追った。キジはたちまちススキの原に没していった。
ポリーがすぐにでも獲物を捕らえて来るであろう事は誰の眼にも明らかに見えた。ポリーは事実、早くもキジの没した辺りに到達していた。
その時だった。思いがけずポリーの眼の前から傷付いたキジが飛び立った。
飛び立ったそのキジはススキの穂先を渡り歩くかのように低く飛翔しながら、懸命に後を追う猟犬の追跡から逃れて行った。白銀に輝くススキの穂先に点々として血の跡が残された。
キジは二、三メートル程の距離を飛翔したかと思うと、やがて、力尽きたように草原を取り囲む巨大な杉林の中の、ススキの繁みへと再び没して行った。
ポリーは猛然と獲物を追い、杉林に飛び込んだ。
わたしは胸元まで迫るススキの穂を掻き分けて、やがては獲物をくわえて来るであろうポリーを想像しながら、白銀の穂先に記された血の跡を辿った。
ポリーはだが、いつまで経っても戻って来なかった。杉林の中には早くも夕闇の気配が漂いはじめていた。
わたしはそれでも構わずポリーが辿ったと思われる跡を追って、なおも林の中へ踏み込んで行った。
ポリーは過去に於いて、いつでもわたしの期待を裏切る事のなかった優秀なセッター犬だった。すぐに獲物をくわえて来るだろうと信じ切っていた。
杉林の闇はその間にも一段と暗さを増していた。急速に迫り来る闇がまたたく間に周囲を包み込んでいた。
わたしはいつの間にか視界の失われてしまった事に気付いて、慌てて帰ろうとした。二本の指を口に含むと指笛を鳴らした。ポリーにわたしの傍へ戻れという指笛だった。二度三度と鳴らした。
わたしはポリーがその指笛を聞いてすぐに戻って来るものと信じていた。取りあえず、自分が入って来た道を辿って草原の方へ戻り始めた。
それ程深く、林に踏み込んだという感覚はなかった。すぐに草原に出られるものと思っていた。しかし、わたしは何処かで方角を違えていたようだった。草原はいつまで経っても見えて来なかった。
わたしはようやく、自分が方向違いをしているらしいと気付いて狼狽した。
それでも自分に出来る事は何もなかった。眼の前に広がる丈高いススキの群れを掻き分けながら闇雲に、巨木の林立した杉林の中を歩いて行くより仕方がなかった。
いったい、ポリーの奴は何処へ行ってしまったんだ。
わたしは苛立ちと共に不満を吐き出すように呟いた。
再び、二本の指を口に含むと指笛を鳴らした。
指笛はすでに木立の見極めも困難になり始めた林の闇を縫って鋭く響いた。
ポリーがこの林の中にいれば当然、聞こえるはずだった。
わたしは耳を澄まして辺りの様子を窺った。ポリーがススキの繁みを掻き分けて走り寄って来る音を探った。
微かな葉擦れの音を響かせれる林の闇に、だが、ポリーの来る気配は無かった。
突然、何処かの杉の梢でねぐらを争うのか、喉を引き裂かれるような不気味な声で叫びあう鳥たちの大きな声がした。
その声が途絶えると一際深い静寂(しじま)が辺りを領した。
わたしは静寂を嫌って大きな声でポリーを呼んだ。
「ポリー、ポリー !」
わたしの声はだが、林の闇に吸い込まれるだけで、やはりポリーは戻らなかった。
わたしはますます困惑した。方角も分からないこの林の闇の中で、いったい、どのように行動したらいいのだろう ?
足元にはススキや木々の枝枝に絡まり合う蔓草の繁茂があった。闇の中でともすればその蔓草に足を取られそうになり、危険が察知された。
依然としてポリーが戻らない事を確認するとわたしは仕方なく、また、歩き出した。胸の高さにまで迫るススキの繁みの中で闇に囲まれ、じっとしている訳にはゆかなかった。とにかく、歩いていれば、何時かは草原に出られるに違いない。この林を出てしまえば、あとはなんとかなるだろう。
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takeziisan様
コメント 有難う御座います
拙文を正確にお読み戴き 感謝
御礼申し上げます
この物語のテーマ 明子が恩師 滝川裕子に憧れ
無意識裡に求めていた名声 地位 それを手にした
時の幸福感 だが それを手にした時 名声 地位
などというものも結局は 人と人との繋がり
心と心の触れ合い その中でこそ始めて生き 輝いて
来るものであり それの無い場所では単なる飾り
空虚なものにしか過ぎなくて 心の満たされる事はない
明子が辿り着いた場所 仕事一筋に生きて来て心の潤い
の無い場所では かつて夢見た幸福な思いも蜃気楼のよ
うに消えてしまっていて心の満たされる事はない
人が生きる上で真に大切なものは何か ?
それを主人公の心の荒みとして描いてみました
ブログ 今回も楽しく拝見しました
北陸と関東の外れ 遠いようで誓いものですね
サーカス 運動会 そのままわたくしの
記憶の中の出来事です シバタサーカス 来ました
ハクビシン イタチ タヌキとの競争 外から
拝見する限り いや 楽しいです 頑張って下さい
年々 体力の衰え 実感します 何時まで出来るか
そんな事などが頭をよぎる年齢になりました
ブログ記事 同感です アッという間に消えてしまう
恐ろしさ 反面 この便利さ 当分 ここで
御厄介になる積もりでいます
毎回 お励まし戴き 有難う御座います
桂蓮様
今回もコメント 有難う御座います
拙文に対する思わぬ方向からの御批評
ちょっとびっくりしていますが そういう
見方もあるのかな とも思っています
二人の続きがあるのか という御指摘
でも 二人の関係はもうありません
男性が無言で電話を切った その時点で
総ての幕が下ろされました 二人の関係は
遮断されました
二人を再会させたのは お互いの気持ちを
確認させる為の仕掛けです その時 男は
家庭を持ち 社会人としても真摯に生きている
その気持ちに迷いはない ですから タクシーの中で
女主人公を眼にしていても 言葉を掛けることも
しなかた 男の気持ちの中ではは総てが
過去の出来事として整理されているのです
一方 女性の方は一見 華やかに見える世界に
生きていても 心の空虚が埋めきれない 何故なのか ?
女主人公には自分の心が理解出来ない この虚しさが
何処から来るのか ? その苦しさが女主人公の心を
荒ませている そんな折り 偶然 過去に誠実に
自分に接してくれた男性に出会い その誠実な人柄に
懐かしさを抱くと共に荒んだ心が自と引かれてゆく
ですが男性は既に女主人公とは別の世界に生きている
二人の子供にも恵まれ 幸福な家庭を築いている
女主人公の入り込む余地は無い ここで既に二人の間には
決定的な溝が出来ています 二人の心の溶け合う余地は
無いのです 男はなんの迷いもなく仕事が終われば
家族の下へ帰って行くでしょう 一方 女主人公の方は
依然として 心の支えとなるものを見い出せずに苦悩を
重ねるでしょうが 何時かはきっと心を寄せ合う事の
出来る男性と巡り会えるものと期待しています
何時も肯定的に見ている とのお言葉
あえてそうしている訳ではありません 素直な気持ちです
その人の持つ欠点が特別に誰かを傷つけたり 悩ませたり
しない以上 わざわざ騒ぎ立てる必要はないのではーー
人は誰しも欠点を持つものです 暴き立てる
必要はありません
「他己と自己の気づき」気づきなくしての暗記は
何にもならない その通りです ですが世の中には
暗記だけの知識人がいかに多い事か これは「禅」
の道にも通じる事です
その気づきに気づき人は やっと 学ぶ事が出来る
その通り 良い言葉です
何時も有難う御座います