雑感六題(2016~2020年作)
Ⅰ 風に流れる 雲
動かない 雲
形は変えても
雲は雲
雲は雲である事に於いて 雲
雲の本質は不変
人間存在 かく在るべし
2 化粧を施し
衣装を纏った言葉で
語るよりも
赤裸の言葉 言葉の本質
言葉の芯だけで
語りたい
施した化粧は やがて
剝げ落ち 纏った衣裳は やがて
古びて ほころびるだろう
3 詩は誰にでも書ける しかし
他人に感動を与える詩を書くのは
難しい
一つのフレーズ 一つの言葉には
その人の生きて来た人生
その人の心 が
投影される
4 紫陽花の
雨に濡れいて
母の逝く
5 母の逝った五月
紫陽花の雨の中に
母が居る
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いつか来た道 また行く道(21)
疲れ切っていた。
その場にへたり込んでしまいたかった。
でも、そうしてはいられない !
気持ちが焦った。
一刻も早くこの仕事を片付けてしまわなければならないのだ。
全身汗になっていた。息を切らしながら顔中を流れ落ちる汗を、トレイニングウエアーの腕で拭った。
下着が肌に染み付いて耐え難い不快感をもたらした。
その下着を指でつまんで引きはがしながら今来た道を引き返した。
シャベルを取って来なければ・・・・。
手の甲や腕のあちこちが焼けるような感覚で小さく痛んだ。
木の枝や野茨などで傷付けたのに違いなかった。
穴を掘る時には手袋をした方がいい。シャベルを使う為にもその方がいい。
ひ弱なわたしの手ではたちまち皮膚が破けてしまうだろう。
トレーニングルームへ戻ると手袋を探した。
何処かに軍手があるはずだ。
運動器具の手入れや、家の周囲の掃除をする時などに使っていた。
安売り店で一束十組幾らで買った軍手が見付かった。
一組を抜き取って片方を左手にはめてみた。
延ばした爪が邪魔だった。
これでは爪が折れてしまう。
その前に軍手が破けてしまうかも知れない。
それでも素手でシャベルを握るわけにはゆかない。軍手を使うには爪を切るしかない。
決心は揺るがなかった。小さな道具箱から爪切りを探し出して、その場で薄紅のマニキュアを塗った爪を大胆に切り落として整えた。
準備はそれで出来た。二組の軍手を手にするとそのまますぐに玄関へ向かい、先程の長靴を履いて玄関を出て小走りに先程用意して置いたシャベルのある場所へ向かった。
シャベルを手にすると中沢の死体が置いてある場所へ急いだ。
穴を掘る作業にどれだけの時間を費やしたのか ? その事にだけ集中していて時間の感覚が全く掴めなかった。
土は落ち葉の体積で出来ているだけに思いのほか柔らかかった。
それでも縦横に張り巡らされた樹々の根がしばしば仕事の邪魔をした。わたしの体力では大きな根は切断出来ずに、しばしば位置をずらして作業を続けた。途中で何度も投げ出したくなった。
何とか作業を続ける事が出来たのはただ、わたしがわたし自身として生きる為にはなんとしても、この仕事をやり遂げてしまわなければならないのだーーその思いからのみだった。
わたしのひ弱な手は思った通りにたちまち幾つものマメを作っていた。
軍手を嵌めた効果もなかった。
やがて、そのマメがつぶれて血が滲んで来た。
手袋の濡れた不快感で分かった。
腕も脚も腰も疲れを感じ始めると、少しの休息ではなんの役にも立たずにすぐにシャベルを放り出してまた座り込み、傍にある樹に身を寄せ掛けて身体を休めた。
汗はトレーニングウエアにまで染み込んで絞れる程になっていた。
その汗を気にする気力もなかった。
荒い息が収まると普段のわたしからは、もう動く事も無理だと思われるような状態の中で、それでも気力を振り絞り、シャベルに縋って立ち上がった。
血に濡れた軍手の不快感が気になって、潰れたマメの痛さを気にしながらその軍手を外すと穴の中へ投げ捨てた。
傍にある大型の木の葉で血だらけの手を拭って新しい軍手を嵌めた。
さあ、もう一息だ、最後の仕上げをしてしまおう・・・・自分を励ました。
闇はまだ深かった。夜明けは遠いに違いない。
それでも闇に馴れた眼は周囲の状況をはっきりと把握していた。
中沢の死体は既に硬直の兆しを見せているのだろうか ?
どうにか、これで良しと思える穴を掘り終わって傍へ戻り、その両手を掴んだ時、何故かそんな気がした。
死体と穴との距離は二メートル程かと思われた。
あちこち、掘りやすい場所を探した結果だった。
この死体を穴の傍へ運んで行って落とし入れるのだ。
両腕を取って少し運んだ時、足を持った方が運び易そうだと気が付いた。
すぐに足元に向かい、両足を掴んで死体の位置を変えて運ぼうとした瞬間、思わぬ不快感を覚えて思わず吐きそうになり、咽喉を鳴らした。
死んだ肉体の裸のまま動かなくなった不気味さが突如として、わたしの意識を捉えていた。
暫くは握った足も放り出して吐き気の収まるのを待っていた。
ようやく気分が収まると、さあ、早くやってしまおう、ぐずぐずしている暇はない、自分に言い聞かせ、励まして再び行動に移った。
ようやく穴の傍へ死体を運び終えるといったん、手を放して穴の中を覗き込んだ。
一メートルの深さ、とまではゆかなくても死体を覆い隠すには充分な深さがあった。
闇に馴れた眼はこの時、夜行動物の眼でもあるかのように思わぬ能力を発揮していた。いちいちの行動を確認するのに、なんの不足も不便も感じなかった。
先程、運んで来て雑草の上に放り出して置いた中沢の死体の傍へ戻ると、そのまま転がす様にして穴に近付け、転げ落とした。
闇の中でもほの白く見える中沢の肉体は間違いなく、周囲の落葉や雑草などを巻き込みながら転落して穴の中に納まった。
その様子を確認すると、これで良し ! と呟いた。
罪悪感も後悔も、感傷もなかった。仕事を完遂した時の気分に似て満足感のみが心を満たしていた。
さあ、後は土を掛けるだけだ。
一気に気力を取り戻し、再びシャベルを手に取った。
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桂蓮様
体調不良の中 御眼をお通し戴き有難う御座います
知識の力動 先週 読ませて戴きました
AIの知識 分かるという事は自身の肉体に染み込むという事ですね
分かったような気分と分かるという事の間には大きな落差があります
物を読んだり見たりして知った事は分かったという事ではないのですね
知ったというだけの事にしか過ぎません
今話題のAIも知る事は出来ても分かったという部分には踏み込めないのでは
ないでしょうか
知識を寄せ集めて結論を出す事は出来てもそれから先の考えない事は出来ない
考えないで考える そうです 禅の世界です
データーの寄せ集めのAIには禅の世界へ到達する事は出来ないでしょう
核心を突いた御文章 深い共感と共に拝見しました
星四つ 満点です
ところで 御身体の具合いは如何ですか くれぐれも御無理をなさらず
何時までもこのブログを続けて下さい 楽しみにしておりますので
有難う御座いました
takeziisan様
今週も楽しませて戴きました
「寄り合い家族」
良いですね 文章に無駄がありません
話しの運びにも遊びが無くて一気に引き込まれます
次回 拝見させて戴くのが楽しみです
作文とは違います 見事に小説 物語が語られています
遣っ付け仕事では出来ません 以前 何か関係されていたのでしょうか
あるいは様々な作家の作品に数多く眼を通されているからこその
この力量ないのか お見事です
民謡を訪ねて 懐かしいですね いい番組でした
わたくしの母も民謡愛好家で全国大会などでも何度も優勝 入賞をしています
母のカップやトロフィ専用の棚が今でもそのまま残っていて
ホコリ払いが大変です
越中おわら 江差追分 良いですね その外 各地にそれぞれ良い歌がありますが
中でも九州の 刈り干し切り唄 東北の 南部牛追い唄などが特に好きです
ちょっと思い浮びませんが その他にも佐渡や四国をはじめ
様々なよい民謡があります 大事にして欲しいものです
空襲 終戦の日 以前にも書いているので改めて書きませんが
写真の光景は実際にわたくし自身 身を置いた光景です
冬の正月 夏の盆 少年時代の懐かしい思い出が蘇ります
ジャム 贅沢三昧 羨ましい限りです イノシシ出現
迷惑この上ない事ですが それだけ自然が豊か 恵まれた環境という事ではないのでしょうか
帯状疱疹 わたくしは二十代の頃 この病気に罹りました
身体の右半分に疱疹が出て激しく神経が刺激され
たまらなく痛い病気です 治ってからも二十年ぐらいは後遺症で皮膚の感覚がありませんでした
二度と罹りたくない病気です もっとも一度罹れば耐性が出来るという事ですが
お気を付け下さい
今週も美しい花々 楽しませて戴きました
有難う御座います