遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(514) 小説 <青い館>の女(3) 他 食べて眠る

2024-09-08 11:48:52 | 小説
            食べて眠る(2024.8.14日作)



 
 眠りなさい ただ 眠りなさい
 あなたが人生に何も見い出せない
 そう言うのなら眠りなさい
 眠って眠って眠って眠る
 眠りは仮相の死 一時的な死 そこでは
 何を考える事も無く 何をする事も無い
 ただ眼を閉じ闇の世界に身を置くだけ
 時には天国地獄 絵図を見る事 
 あるかも知れない それはそれ
 仮相の世界 一時的 夢の世界
 眼を開けば消える
 あなたがそうして眼を開いたなら また
 食べて眠りなさい 眠って覚めたらまた食べる
 その繰り返し 繰り返しのその中できっと何時かは 
 単調なその世界 射し込む光りが見えて来るはず
 何も無い する事が無い 虚無 無の世界
 そこに射し込む僅かな光り それこそが本物 真実あなたの
 心の世界
 眠って眠って眠って眠り 食べ食べて食べて食べる
 いったい 俺は何を遣ってるんだ !
 何時かはそんな自分が見えて来るはず
 何も考えない 何も見ない 何もしない
 虚無 無 無の世界 そこに射し込む光り
 一筋の僅かな光り その光りこそが
 真実 本物 あなたの世界 きっと
 あなたを活かしてくれる希望の光り
 希望の光り そこに向って歩いて行く
 歩いて行けばいい あなたはきっと
 そこで生きられる
   それまではただ 眠って眠って眠って眠る
 食べて食べて食べて食べる そしてまた
 眠る その繰り返し 無 無の世界
 無の世界を生きる  生きる事 ただ生きる
 そこに望みが生まれる 希望の光りが見えて来る
 それこそが本物 あなたの世界



           
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             <青い館>の女(3)




 
 わたしは酔ってはいなかった。
 少しの酒が深い霧の中でも寒さを感じさせない程に身体を温めていたが、頭も身体も動きは明晰、活発だった。
 それに、わたしはまだ物事の判断を誤る程に思考力が衰えてもいなかった。
 その中でただ、年々、加齢と共に増して来る虚無の思いだけが深くなっていた。
 絶えずわたしを脅(おびや)かし続ける心臓疾患が死に関して無関心でいる事をさせなかった。
 もう見えて来た人生の境界線、生と死の分岐点。
 その前でわたしの生きて来た過去がわたしを苦しめる。
 悔いと自己憐憫。
 哀れな男の姿だけが見えて来る。
 だが、わたしは一体、幸福だった時の自分を知らないのだろうか ?
<スーパー・マキモト>の社長としての自分を誇りに思い、得意になって、嬉々として仕事に励んでいた日々は無かったのだろうか ?
 否、そんな事は無い。
 恐らくわたしにも心の晴れやかだった日々の無かった事は無いのだ。ただ、今のわたしにはそれが思い出せない。
 思い返すわたしの過去に浮かび上がって来るのは何時も、妻と義父の姿だった。過去のあらゆる物事がその姿の前に掻き消され、呑み込まれてしまう。
 苦さと共に生きた妻との三十数年。
 屈辱と悔悟に彩られた歳月。
 しかし、今更、悔やんでみても始まらない事だった。
 もう、わたしには様々な悔いを抱いた心のままに、既に見えて来た人生の境界線に向って歩いて行くより外に出来る事は無い。
 その人生に望む物は何も無い。
 何時、変調を来すかも分からない心臓疾患がわたしの心も身体も制約する。
 年々、深くなる心の裡の虚無を抱いたままわたしはこれからも、妻との不毛の人生を生きて行く。
 息子は恐らく、わたしが居なくても大丈夫だろう。確実に会社を発展させてゆく事だろう。
 会社経営にかけては、息子はわたしより上だというのが専らの評判だった。
 そんな息子を見守りながらわたしは、枯れ木が朽ちてゆく様に朽ちてゆく。
 それにしてもわたしは一体、何故こんなにも心臓疾患に拘るのか ?
 死ぬ事がそんなにも怖いのか ?
 死んでしまえば何も分からなくなってしまうだけの事ではないか ?
 一体、わたしは生きる事の何に未練を残しているのだろう ?
 わたしには、わたしの心が分からない。
「お一人様御案内 !」
 霧に包まれた夜の街でわたしを案内した男は、薄暗い廊下にある店の薄汚れた黒い扉を開け、奥に向って言った。
「いらっしゃいませ」 
 途端に、奇術師の様に突然、扉の陰から姿を表した背の高い瘦せぎすな男が丁重に頭を下げて言った。
「どうぞ、こちらへ」
 わたしは店の外にいた若い男に案内され、漆喰の白い壁が汚れている急な階段を降りている時、ふと、自分が二十代の頃の自分に還っているかの様な奇妙な錯覚に捉われた。
 と同時に、自分に取ってはそれが青春の性の唯一の捌け口だった事が改めて思い出されて、あの頃はよく、この様な階段を降りていたものだった、と思った途端に、現在の自分が如何にも場違いで惨めな場所に足を踏み入れている様な気がして来て激しい嫌悪感に捉われた。
 このまま踵を返して地上に戻ってしまおうか・・・・そう思った時には既に遅かった。階段は尽きていた。
 黒い扉が開けられ、薄暗い内部が眼の前にあった。
「足元にお気を付け下さい」
 扉の陰から現れた背の高い痩せぎすな男はわたしに言うと、足元を懐中電灯で照らして、わたしは弥(いや)が上にも店内に引き入れられていた。
 懐中電灯で足元を照らす背の高い男はすぐにわたしの前に立って、両側にそれぞれカーテンで仕切られた個室が並んでいる狭い通路を奥に向かって進んで行った。
 カーテンの透き間からは赤色(せきしょく)の暗い明かりが小さく漏れていた。
 中から聞こえる人の蠢く気配と囁く声がわたしの不安を誘った。
 旨くこの場の雰囲気に対応出来るだろうか ?
 わたしを案内した男はカーテンの開いている個室の前で止まるとわたしをかえり見て小さく頷いた。
 男はそのまま部屋の中に入って小さなテーブルの上のスタンドランプに手を延ばして明かりを点けた。
 テーブルの前にはこれも深紅の深々としたソファーが置かれてあった。
「どうぞ、奥の方へ」 
 男は二人掛けのソファーを指して言った。
 わたしが中へ入って腰を落ち着けると男は、
「誰か、御希望の子はおりますか ?」
 と聞いた。
 怪しげな思わぬ場所へ足を踏み入れてしまった事への後悔と共にわたしは不機嫌な声で、
「いや」
 とだけ答えた。
 男はその答えには係わりなく、
「前金で一万円戴く事になっております」
 と言った。
 わたしが上着の内ポケットを探って財布を取り出し、一万円札を渡すと男はそのまま、
「時間は一時間限になっております。飲み物は追加が自由になっています」
 と、店内の規則を説明してから、
「少々、お待ちください。只今すぐに女の子が参ります」
 如何にも事務的な口調で言ってそのままカーテンを閉め、去って行った。




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               takeziisan様


                有難う御座います
               取れ過ぎちっゃて困るのよ
               贅沢な悩み 大腸がん手術をしたので 日頃
               野菜を多く取る食事をしています
               その野菜の高いこと高いこと 総てがべら棒値
               年金生活者には堪えます
               出来たら貰いに行きたいものです それにしても
               雑草 こいつには全く困りもの 屋上のプランターでさえ
               たちまち雑草の山 人間もこの位 活力があるといいのですが
                たったこれだ ?
               何事も実際の実入りとなると少ないものですね  
                旅愁 観てないですね 昭和二十七年 まだ中学生
               田舎に居ました 曲は勿論 知っています
                夜霧のしのび逢い これは観ました
               あの主題曲と共に終末部分の二人の別れのシーンに
               ジーンと来た事を今でも覚えています
                主題曲と共にもう一度 観てみたいですね
               自分の感情が何十年も経ってどの様な反応を見せるか
                荒野の七人 矢張り原作には敵いません
               七人の侍 封切を日劇で観ました あの雨の中の決闘シーン
               その迫力に圧倒されました
               名場面ですね 黒沢監督が四つのカメラで撮ったという事で
               話題になりました
               映画史上十指に入る名作だと思います
                20度 ? ちょっと考えられないですね
               気違いじみたこの暑さ 今日も既に猛暑です
                なかなか腰が上がらない
               実感です 年々 動く事が億劫になって来ます
               かと言って動かないでいると衰えるばかり
               生きるという事もなかなか辛いものです
               もう少し 生きていたいと思いますので
               弱音を吐いたら終わりと頑張っています
                    カマキリ この獰猛な生き物 以前 NHKテレビで
               舳倉島でカマキリが小鳥を捕まえて食べるシーンを放送していました
               小鳥がカマキリを食べるのではなく
               カマキリがあの鎌で小鳥を捕まえる びっくりしました
               世の中には何があるか分からない
               この世の中の複雑怪奇さ 単純な自分勝手の思い込みは通用しない様です
                有難う御座いました