『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
音楽が人を幸せにすることを実感させられる
『はじまりのうた』
今週の名台詞は↓
「音楽は平凡な風景を真珠の輝きに変える魔法を持っている」
byダン(マーク・ラファロ)
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/987076
フィルムセンターの日本映画横断・東映時代劇の世界で、『風雲児 織田信長』(59)を再見。
尾張の大うつけと呼ばれた若き日の織田信長が、桶狭間で今川義元を討つまでを1時間半余りでテンポ良く描くこの映画は、未見のモノクロ、スタンダード作『紅顔の若武者・織田信長』(55)の後半部分を、カラー、ワイドでリメークしたものらしい。
両作で信長を演じた中村錦之助(後の萬屋錦之介)は、生涯ほとんど時代劇一筋に演じながら、その中でさまざまな変化を見せた稀有な存在だ。その身上でもある少々大げさでエキセントリックな演技が、26歳時のこの映画ですでに極められていたことがよく分かる。信長の代名詞でもある、人間五十年~の「敦盛」を舞う姿も圧巻。
ところで、甘える信長に対して、慈愛に満ちた厳しさで接する守役の平手政秀(月形龍之介)という関係は、二人が演じた『一心太助』シリーズの太助と大久保彦左衛門、『水戸黄門 天下の副将軍』(59)の松平頼常と光圀、そして少し形は異なるが、『宮本武蔵 般若坂の決闘』(62)の武蔵と日観のそれをほうふつとさせるものがある。
この時期の東映時代劇の魅力の一つは、若きスター(錦之助、東千代之介、大川橋蔵ら)と、彼らを脇で支えた重鎮(月形、大河内傳次郎、進藤英太郎、山形勲ら)とのバランスの妙にあったのではあるまいか。
もちろん、信長の若き日にあるはずのない天守閣を持つ城が現れるなど、おかしな場面もなくはないのだが、ジョン・フォードの『リバティ・バランスを射った男』(62)の名台詞「西部では伝説が事実となる」ではないが、この映画も、史実よりも一般に広まっている信長伝やイメージの方を重視したのだろう。細かいリアリティーにこだわらない方が映画が面白くなることもある。大画面で見ると馬やエキストラを使いこなしたスタッフの職人技にあらためて感嘆させられた。
監督:河野寿一、脚本:結束信二、撮影:坪井誠、音楽:富永三郎、原作:山岡荘八
その他の出演者は、濃姫=香川京子、木下藤吉郎=中村賀津雄、斎藤道三=進藤英太郎、今川義元=柳永二郎、蜂須賀小六=戸上城太郎、丹羽長秀=里見浩太郎、森可成=織田政雄、林通勝=沢村宗之助、柴田勝家=阿部九州男、池田恒興=徳大寺伸、佐久間信盛=中村歌昇、加賀邦男、風見章子ほか。