田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『エノケンの天国と地獄』

2023-10-18 08:30:05 | 映画いろいろ

『エノケンの天国と地獄』(54)(1990.8.19.)

 かつてサーカスの人気者だった圭太(エノケン)は、天国の裁判所で生前の行いを見せられる。そこではユキ(若山セツ子)という少女との出会いと別れが映し出されていた…。監督・佐藤武。

 エノケンといっても、自分はその晩年をかすかに知っている程度で、ほとんど伝説上の人物になってしまう。それでも、最近はビデオの普及も手伝って、こうして彼の古い映画も見ることができるのだが、本来は舞台の人であり、映画ではその本領は発揮されていないという。

 また、彼の戦後の不幸な人生をまた聞きすると、彼の映画を見ても何だか純粋に笑えなくなってしまう。特にこの映画などはもはや喜劇ではなく悲劇であった。

 ドタバタをやっていた人がそこから脱皮できずに苦労する姿や、時代と合わなくなる姿は見ていてつらいものがあるのだが、誰よりも本人が一番つらいだろう。この映画が、そんなエノケンの心の内を反映して描いたわけではないだろうが、彼自身の人生の縮図を見せられたようでつらかった。

 喜劇を見て悲しくなるのも困りものだが、思えば今の寅さん(90年当時)は、もうこの域に達しているのだという気がしてがく然とした。ところで、共演の若山セツ子がとてもかわいくて驚かされたのだが、この人も先年不幸な最期を遂げたらしい。古い映画は時に残酷である。

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『エノケンのびっくりしゃっくり時代』

2023-10-18 08:00:22 | 映画いろいろ

『エノケンのびっくりしゃっくり時代』(48)(1993.12.18.)

 浮浪者の健太(エノケン)は、紳士の黒川(山口勇)に、スリのサブ公(如月寛多)に財布をすられそうだと知らせるが、逆にスリに間違われる。そこを、楽団と花形歌手の歌ちゃん(笠置シヅ子)に救われる。健太は歌ちゃんと共に黒川の財布を探すが…。監督・島耕二、脚本・山本嘉次郎、音楽・服部良一。笠置が「びっくりしゃっくりブギ」を歌う。

 先日、NHK衛星で放送された「日本の爆笑王ベスト50」で、見事に1位に輝いたエノケン。その時、司会の伊東四朗が「今の人には何がおかしいのか分からないかもしれない」と語っていたが、この映画を見て、そんな、笑いが持つ即時性や、時代差によって生じる空しさについて考えさせられてしまった。

 終戦直後に作られたこの映画で描かれた政治家への賄賂の横行は今も変わらないのに、それに対する風刺の笑いが今見るとピンとこないのだ。喜劇はその時代を敏感に捉える分、風化も早いということなのだろう。残念ながら、この映画からはエノケン伝説があまり感じられない。

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