『エノケンの天国と地獄』(54)(1990.8.19.)
かつてサーカスの人気者だった圭太(エノケン)は、天国の裁判所で生前の行いを見せられる。そこではユキ(若山セツ子)という少女との出会いと別れが映し出されていた…。監督・佐藤武。
エノケンといっても、自分はその晩年をかすかに知っている程度で、ほとんど伝説上の人物になってしまう。それでも、最近はビデオの普及も手伝って、こうして彼の古い映画も見ることができるのだが、本来は舞台の人であり、映画ではその本領は発揮されていないという。
また、彼の戦後の不幸な人生をまた聞きすると、彼の映画を見ても何だか純粋に笑えなくなってしまう。特にこの映画などはもはや喜劇ではなく悲劇であった。
ドタバタをやっていた人がそこから脱皮できずに苦労する姿や、時代と合わなくなる姿は見ていてつらいものがあるのだが、誰よりも本人が一番つらいだろう。この映画が、そんなエノケンの心の内を反映して描いたわけではないだろうが、彼自身の人生の縮図を見せられたようでつらかった。
喜劇を見て悲しくなるのも困りものだが、思えば今の寅さん(90年当時)は、もうこの域に達しているのだという気がしてがく然とした。ところで、共演の若山セツ子がとてもかわいくて驚かされたのだが、この人も先年不幸な最期を遂げたらしい。古い映画は時に残酷である。