3カ月に1回、都内某所で行われている熱烈な西部劇ファンの同好会「ウエスタン・ユニオン」の例会に出席。今回は会報誌「ウエスタン・ユニオン・特急便」に寄稿させていただいた。
http://members.jcom.home.ne.jp/mich/union/
■フォードのことを楽しそうに語る映画人たち
西部劇には無縁とも思える各国の映画人が、ジョン・フォードの西部劇や彼から受けた影響について、楽しそうに語る場面に何度か遭遇した。
今回はその中から幾つかのエピソードをご紹介したい。
まずは、古代と現代の中国を行き来する冒険映画『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(08)から。監督のロブ・コーエンがDVDの音声解説で「古代の万里の長城は土で造られていたけど、映画では石やレンガで造られた現在の長城に近いものを登場させた。観客はこちらの方になじみがあるのだからそれでいいと思ったんだ。ジョン・フォードも『事実よりも伝説を取る』って言っていたよね」と語っていた。おっと、これは『リバティ・バランスを射った男』(62)の名セリフじゃないか!
次に、フランス人のベルトラン・タベルニエ監督(淀川長治先生から「ベルトを“食べる煮え”と覚えるのよ」と教えられた)は、ジャズミュージシャンのデクスター・ゴードン主演で『ラウンド・ミッドナイト』(86)を撮った際に、こんなコメントを残している。
「私は『怒りの葡萄』(40)でニューディール政策を学び、『荒野の決闘』(46)で西部の話を知りました。ハリウッド映画から真面目に学べるものは何も無いなんて説は馬鹿げていますよ。私はそれらの奥が見たい、そのテーマの真実をもっと知りたいと思いました。そうした映画のおかげで、私は何かを探究することの必要性と純粋性を得たのです」。
また、私がベルギーのダルデンヌ兄弟監督に『ある子供』(05)の公開時にインタビューをした時、「普遍性」ということが話題に上った。すると兄のジャン・ピエールが「ジョン・フォードの映画は普遍的です。もちろんヨーロッパにカウボーイやガンマンはいないけれど、ヨーロッパの人にもその雰囲気や気持ちは分かるのです。要するにそこには人間が描かれているということです」と楽しそうに語ってくれたことを思い出す。
■さまざまな映画に現れるジョン・ウェイン
続いては、ジョン・ウェインにまつわるさまざまな引用についてお話したい。
高層ビルジャックを描いた『ダイ・ハード』(88)には、犯人グループの西ドイツ人ボス(アラン・リックマン)が、敵対するマクレーン刑事(ブルース・ウィリス)を「カウボーイ」と呼び、孤立無援の彼を『真昼の決闘』(52)のゲーリー・クーパーになぞらえて「グレース・ケリーと一緒に去っていくことはできないぞ。ジョン・ウェイン」とからかうが、逆にマクレーンから間違いを指摘される場面がある。
フランスのリュック・ベッソンが製作した『ロックアウト』(12)は、囚人たちの暴動が発生した宇宙刑務所を舞台にした脱獄アクション。
彼らの人質となった大統領の娘を救い出す屈強な元CIAエージェント(ガイ・ピアース)の苗字は、見た目に反してかわいらしくスノー(雪)という。さらに、ラストで大統領の娘から「あなたの軍歴を調べたら名前はマリオンだったわ」と暴露されると、「おやじがジョン・ウェインのファンだったからさ」とちょっと恥ずかしそうに答える。
『グッド・バッド・ウィアード』(08)を撮った韓国人監督キム・ジウンと、御年67歳のシュワルツェネッガーが組んだ『ラストスタンド』(13)は、『リオ・ブラボー』(59)をほうふつとさせる集団劇。メキシコ国境付近の町を守る保安官と住民が手を組んで、超凶悪犯の逃亡を阻止するために奮闘する姿を描く。町の雰囲気や保安官の存在、畑と砂漠の風景などに、現代版の西部劇を思わせる楽しさがあった。
最後に、今年のアカデミー賞授賞式での出来事を。式全体のテーマの“ヒーロー”を紹介するダイジェスト映像に、スーパーマンやスパイダーマンと伍して何とデュークが登場! いまや彼は、人間離れした存在と見なされているのかと思うと笑いがこみ上げてきたが、これはアメリカでのデュークの根強い人気と、ヒーローとしての存在感の大きさの証明でもある。
淀川先生も黒澤明監督も「映画は世界語」とおっしゃっていたが、フォードとデュークが今も世界の映画を結んでいる、と思うと何だかうれしくなってくる。