田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』

2018-10-12 09:12:36 | 新作映画を見てみた
 1980年代初頭、“西のウォールストリート”と呼ばれたロサンゼルスを舞台に、実在した若者投資グループによる前代未聞の詐欺事件を描く。



 グループの中心人物のジョー・ハントとディーン・カーニーを、若手のアンセル・エルゴートとタロン・エガートンが演じているが、2人の上を行く詐欺師を演じたのが今や半引退状態のケビン・スペイシー。この映画は、彼の同性に対するセクハラが告発される前に完成していたため、公開に踏み切ったとのこと。

 2人を完全に食った達者な演技を見せられると、彼を干してしまうのはいささか惜しい気もするのだが、それとこれとはやはり別問題なのか。アンセルとは『ベイビー・ドライバー』(17)でも共演していたから、彼は無事だったのか…などと、見る側に思わせてしまう時点でアウトということなのかもしれない。

 思えば、グループの連中は自分とほぼ同世代。映画が描いた事件の狂乱と空しさが、この直後に起きた日本のバブル景気の前後に重なって見えるところもあるのだか、ハントとディーンが目立ち過ぎてグループ劇としては弱くなり、詐欺の手口がいま一つ分かりにくいところが惜しかった。

 83年を表す曲としてのデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」が流れ、87年製作の同名テレビムービーでジョー・ハントを演じたジャド・ネルソンが、今回はジョーの父親役で登場する。こういうディテールは面白い。
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『ジュラシック・パーク』再見

2018-10-08 16:54:22 | 映画いろいろ
 何の気なしに見始めたのだが、やはり面白く、結局最後まで見てしまった。当時は目を見張らされたCGも、今と比べれば粗が目立つが、カメラワークの巧みさで驚かせるスピルバーグ演出の妙が、それを補って余りあると感じた。



 また、この映画の本筋は、子供嫌いのグラント(サム・ニール)が、恐竜を媒介に、幼い姉弟のアレクシス(アリアナ・リチャーズ)とティム(ジョセフ・マゼロ)と親子のような絆を築いていくさまにあるのだと、改めて気付かされた。

 今回は吹き替え版だったので、ニール(富山敬)、ローラ・ダーン(弥永和子)、マーティン・フェレロ(納谷六朗)、リチャード・アッテンボロー(永井一郎)といった、亡くなった名声優たちの声が聞けたのも懐かしかった。

All About おすすめ映画『ジュラシック・パーク』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/36b4a39b3cce6c80c1959c029ccc300a
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【ほぼ週刊映画コラム】『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』

2018-10-06 17:52:54 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

“西洋版の落語”
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1165926
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「2018年9月の映画」転載

2018-10-05 22:05:46 | 映画の森
「9月の映画」、共同通信のニュースサイトに転載。

 

https://www.kyodo.co.jp/national-culture/2018-09-25_1922855/
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旧作映画の小型パンフレット

2018-10-05 10:10:27 | 1950年代小型パンフレット

 『街中の拳銃に狙われる男』『シェラマドレの決斗』『大砂塵』『戦略空軍命令』『軍法会議』『追われる男』『ザーレンからの脱出』『ケンタッキー魂』『男の叫び』『紅の翼』『遥かなる地平線』『砦のガンベルト』…。最近、映画DVDの「復刻シネマライブラリー」で解説を書かせていただいている。 

 そのほとんどが自分が生まれる前に作られた映画なので、当然未見のものもある。というわけで、公開時に発行されたB5版の小型パンフレット=プログラムが、当時の世相や映画の評判、スタッフ、キャストの動静などを知る上での貴重な資料となる。

 

 最近は、ネット通販が盛んだし、神保町の古書店などでもきちんと整理されて置かれているところもあるのでとても助かる。値段も、もちろん例外はあるが、以前に比べれば適正価格に近いのではないかと思う。これはコレクションしていた人が亡くなり、遺族が処理に困って安価で売るという流れとも無関係ではあるまい。まあ、興味のない人にとってはただの紙屑なのだろうが…。

 そのほとんどは、例えば「国際出版社」「外国映画社」「新世界出版社」など、無名の(今はなき?)出版社が作っているのだが、内容はとても濃い。翻訳記事も多く、読み物としてとても充実しているのである。多くの記事は、出版社や宣伝会社の人が書いたと思われるが、双葉十三郎さんのような大物の記事も載っているし、スチール写真を加工した独特の表紙にも味がある。何より、昭和20~30年代は、映画が文化の一つだった、ということを改めて実感させてくれるのだ。

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『生きる』の「ゴンドラの唄」

2018-10-04 11:40:26 | 映画いろいろ
 東京建物のCMのバックに“大正時代のラブソング”「ゴンドラの唄」(作詞・吉井勇、作曲・中山晋平)が流れる。
https://www.youtube.com/watch?v=atZPdc60xxY



 この曲のことは、大学生の頃、並木座で見た黒澤明監督の『生きる』(52)で知った。志村喬演じる主人公の渡辺勘治が、キャバレー(ピアノ伴奏は市村俊幸)と、雪の公園でブランコを漕ぎながら歌うシーンはあまりに有名だ。

 ところが、前者は自分ががんで余命わずかであることを知った勘治が、死に怯え、昔を懐かしみながら歌ったもの。後者は公園を完成させ、人生を全うできた喜びから歌ったものということで、両者は全くニュアンスが違う。つまり、この曲が勘治の心の変化を表現するのに、重要な役割を果たしているのである。

 「いのち短し 恋せよ乙女~」の詞と哀愁に満ちたメロディは、この映画のテーマである“生きるということ”を見事に言い当てているともいえる。音楽の早坂文雄は「『ゴンドラの唄』を使うことを考えついた時、この映画の音楽は半分できたと思った」と語っていたという。そんな早坂が手掛けたオープニングテーマと、エンディングで公園を見詰める日守新一のバックに流れるメロディだけの「ゴンドラの唄」もとてもいい。
https://www.youtube.com/watch?v=FXX0RpALVbA
https://www.youtube.com/watch?v=EImdE3OzesQ

 さて、先日、ある飲み会で「ひょっとして渡辺勘治は今の自分よりも年下かもしれない」という話題が出た。昭和20年代後半の定年間近という設定だから、勘治は54、5歳。確かに同年代か…。

「東京音頭」の中山晋平と黒澤明の『生きる』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/240c52b087410c9315520fa3f587f947

名画投球術No.2「ダメな人間ばかり出てくる映画を観て安心したい」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5b428edd45778476ab0530bc08c0ef67
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「中国映画を支えた日本人 満映映画人 秘められた戦後」

2018-10-02 19:30:16 | 映画いろいろ
 今日の新聞に、映画編集者・岸富美子さんの自伝『満映とわたし』(15)(石井妙子共著・文藝春秋)を舞台化した『時を接(つ)ぐ』の公演に関する記事が載っていた。岸さんや満映のことを、NHKのドキュメンタリー「中国映画を支えた日本人 満映映画人 秘められた戦後」(06)で詳しく知った身としては興味が湧いた。



 現在98歳の岸さんは、奇しくも原節子、山口淑子(李香蘭)と同じ年。15歳で第一映画社に編集助手として入社し、溝口健二監督の『浪華悲歌』『祇園の姉妹』(ともに36)に参加。原主演の日独合作映画『新しき土』(37)の編集助手も務めた。その後、映像カメラマンだった兄の渡満に従い、39年、国策映画会社の旧満州映画協会に入社し、映画編集者として活躍する。

 番組には、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』(87)で坂本龍一が演じた満映所長の甘粕正彦や、同じく渡満した監督の内田吐夢も登場する。後に『私説 内田吐夢』(鈴木尚之)も読んだが、内田は満州時代に関しては複雑な思いを抱いていたようで、多くを語っていない。その意味でも、岸さんは、まさに“満映”の生き証人と言ってもいい人なのだ。

 岸さんら、満映にいた多くの映画人は、戦後、中国に残り、共産党のプロパガンダ映画に携わりながら、中国の映画人に技術を伝えた。番組の中で、中国共産党がナチスドイツ同様、映像の力で民衆を啓蒙せんとして製作したプロパガンダ映画の『橋』(49)『白毛女』(50)の一場面が映ったが、その迫力ある映像には驚かされた。映画は編集次第でどうにでもなることを改めて知らされたのだが、どんな題材でも、きちんと仕事をしてしまう、岸さんたちの職人としての性(さが)も同時に感じさせられて、複雑な思いを抱かされた。

 ただ、北京市の朝陽にオープンした中国電影博物館の開館セレモニーに、日本人として唯一人招待された岸さんが、中国人の愛弟子たちと再会する場面を見ていると、映画作りは国境を超えるという、一縷の希望を感じることができた。
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