田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『PERFECT DAYS』

2023-10-25 17:20:26 | 新作映画を見てみた

『PERFECT DAYS』(2023.10.23.東京国際映画祭.TOHOシネマズ日比谷)

 東京の下町で暮らし、渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)。一見淡々と同じ毎日を繰り返しているように見えるが、彼にとっての日々は常に新鮮で小さな喜びに満ちている。

 平山の楽しみは、昔の音楽をカセットテープで聴くことと、休日のたびに古本屋で買う文庫本を読むこと。そんな彼の人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、木々の写真を撮っていた。ある日、そんな彼の静かな日常にちょっとした変化が訪れる。

 渋谷区内の17か所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエーターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したビム・ベンダース監督が、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描く。役所がカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。共演に中野有紗、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。

 ベンダース流の“現代の小津安二郎映画”とも呼ぶべき傑作。役所演じる主人公の名前が、小津映画でよく笠智衆が演じた役名と同じというところで、すでにベンダースは種明かしをしているわけだが。

 さてこの映画、事件らしい事件はほとんど起こらない。そして全てを語らない省略の妙(例えば平山の過去)や、几帳面でこだわり性の平山が、毎日繰り返す規則性のある動きや丁寧な仕事ぶりを見せながら、見る者に不思議な安心感を抱かせるあたりに、小津の影を感じる。

 一方、寡黙な平山が表情や目線で語ることによって、彼がふとした瞬間に浮かべるほほ笑みの効果が倍増する。加えて、終盤の三浦と影踏みに興じるシーンから、エンディングの、平山の泣き笑いの表情をアップで捉えた長いショットにつながる一連が、平山の人生に対する満足と後悔を同時に表現していて見事だった。全ては役所の演技力、表現力の高さによるもの。平山と接する人たちや街の点描も秀逸だ。

 役所が主演した『銀河鉄道の父』の成島出監督にインタビューした際に、「役所さんのすごいところは、本当に役に成り切るところ。あの年齢で、自分の我や個性よりも役が強いという。あのレベルの俳優でそれができるのは、僕が知っている範囲では役所さんだけ」と語っていたが、この映画を見て、その言葉に納得した。


カーステ(カセットテープ)から流れた曲と古本屋で買った本。ベンダースの趣味というか、こだわりが感じられる。

「朝日のあたる家」(アニマルズ)
「ドック・オブ・ザ・ベイ」(オーティス・レディング)
「パーフェクト・デイズ」(ルー・リード)
「レドンド・ビーチ」(パティ・スミス)
「めざめぬ街」(ローリング・ストーンズ)
「ペイル・ブルー・アイズ」(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)
「サニー・アフタヌーン」(キンクス)
「ブラウン・アイド・ガール」(ヴァン・モリソン)
「フィーリング・グッド」(ニーナ・シモン)

『野生の棕櫚』(ウィリアム・フォークナー)
『木』(幸田文)
『11の物語』(パトリシア・ハイスミス )

 

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「BSシネマ」『恋愛小説家』

2023-10-25 08:00:37 | ブラウン管の映画館

『恋愛小説家』(97)(1998.6.7.みゆき座)

 潔癖症で人間嫌いなのに人気恋愛小説家の独身中年男性(ジャック・ニコルソン)と、シングルマザーのウエイトレス(ヘレン・ハント)との不器用な恋を描く大人のラブストーリー。

 今年のオスカーで、ニコルソンが主演男優賞、ハントが主演女優賞を受賞して、『タイタニック』に一矢報いた恋愛喜劇だが、ニコルソン演じる恋愛下手の小説家の改心の様子がいささか弱いし、ストーリー全体にも、同じくジェームズ・L・ブルックス監督の『愛と追憶の日々』(83)ほどのうまさが見られない。

 また、小道具の猫を使い過ぎて、その分、人間ドラマが削がれている。例えば、トリュフォーの『アメリカの夜』(73)での、猫の使い方のうまさを思い浮かべると、両者の差は一目瞭然。この辺りにも、最近のヒューマンドラマの退化が如実に表れているとは言えないだろうか。

 

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「午後のロードショー」『フライト・オブ・フェニックス』

2023-10-24 08:30:24 | ブラウン管の映画館

『フライト・オブ・フェニックス』(04)(2005.4.22.)

 テレビで『飛べ!フェニックス』(65)を再見。恐らくリメーク版の『フライト・オブ・フェニックス』の公開に当て込んでの放映だろう。さすがテレビ東京。

 この映画、女性は全く登場せず、クセ者俳優たち(ジェームス・スチュワート、リチャード・アッテンボロー、ピーター・フィンチ、ハーディ・クリューガー、アーネスト・ボーグナイン、イアン・バネン、ロナルド・フレーザー、クリスチャン・マルカン、ダン・デュリア、ジョージ・ケネディ…なんという面々!)が不時着した砂漠の真中でいがみ合うなんとも男くさい映画で、監督は、男性アクションを得意とする名匠ロバート・アルドリッチ。

 デニス・クエイド主演のリメーク版には女性(ミランダ・オットー)が登場し、CGによる墜落シーンが見ものとなる。本来、このドラマは、アクションというよりも心理劇なので、リメーク版のアプローチの仕方はちょっと違うと思う。

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「BSシネマ」『ブロンコ・ビリー』

2023-10-24 08:00:02 | ブラウン管の映画館

『ブロンコ・ビリー』(80)

ビデオ通話で西部劇談議
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/447fae79d2365428fabf78355a9fdf9a

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【ドラマウォッチ】「下剋上球児」(第2話)

2023-10-23 20:56:48 | ドラマウォッチ

「『どんなことにだって解決策はある』という言葉に感動した」
「ウルウルしながら見ていたら、先生の秘密にびっくりして涙が引っ込んだ」

https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1409109

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東京国際映画祭2023開幕『PERFECT DAYS』「小林一三生誕一五〇年展」

2023-10-23 20:49:23 | 雄二旅日記

 東京国際映画祭2023開幕。オープニングのP&I上映(TOHOシネマズ日比谷)で、ビム・ベンダース監督、役所広司主演の『PERFECT DAYS』を見る。ベンダース流の“現代の小津安二郎映画”とも呼ぶべき傑作だった。(詳細は後ほど)

 隣の日比谷シャンテの3Fでは「『小林一三生誕一五〇年展 -東京で大活躍-』宝塚歌劇と東宝を創った男」をやっていた。いわゆる“ゴジラ伝説”に一三はあまり登場しないが、ここでは続編の『ゴジラの逆襲』(55)の製作にゴーサインを出した東宝の社長として紹介されていた。1階には、東京国際映画祭2023のクロージングでも上映される新作『ゴジラ-1.0』のゴジラがいた。

 

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『美女と野獣』(46)

2023-10-23 07:49:52 | ブラウン管の映画館

『美女と野獣』(46)(1978年9月29日『想い出の名作洋画劇場』)

 ジャン・コクトー監督、ジャン・マレー主演の『美女と野獣』をNHK BS4kで何と45年ぶりに再見。植草甚一氏の一文を読むと「この映画を見た日は興奮して眠れなかった」とあるが、今となってはその大仰な演出と演技が時折コントのように見えてしまうのは時代差のせいで仕方ないところか。とはいえ、CGのない時代にアイデアを駆使して一流のファンタジーたらしめたことは、今の目から見ても驚きに値する。

 野獣のメイクや豪華なコスチューム、独創的なインテリアといった美術デザインを担当したのはクリスチャン・ベラール。撮影はアンリ・アルカン、音楽はジョルジュ・オーリック。今回は4kということでモノクロ映像が一際映えた。ただ、ヒロインのベルを演じたジョゼット・デイがどうにも魅力的に映らず困ったのは、45年前も今回も同じだった。

 

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【ほぼ週刊映画コラム】『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『ザ・クリエイター/創造者』

2023-10-20 10:30:11 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
3時間26分が長く感じない『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
人間とAIの問題に一石を投じる『ザ・クリエイター/創造者』

詳細はこちら↓

https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1408674

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「午後のロードショー」『アンストッパブル』

2023-10-20 08:30:19 | ブラウン管の映画館

『アンストッパブル』(10)(2010.11.30.20世紀フォックス試写室) 

トニー・スコットの最高傑作

 兄貴のリドリー・スコットが馬を駆使した『ロビン・フッド』なら、弟のトニー・スコットはアイアンホース(鉄の馬)の暴走を描いたこの映画を撮ったといったところか。これまで監督したどの映画にも中途半端さを感じさせたトニーだが、緊迫感とスピード感に満ちたこの映画は、彼の最高傑作ではないかと思う。

 実話の映画化で、たいした説明もしないままにいきなり機関車の暴走が始まるという設定は、黒澤明が、幻となった『暴走機関車』で描こうとした手法と同じ。その点では、アンドレー・コンチャロフスキーが黒澤らの脚本を基にして撮った『暴走機関車』(85)よりも、この映画の方が黒澤的だといえるのかもしれない。ベテラン機関士としてのプライドを随所ににじませるデンゼル・ワシントンはやっぱりうまい。

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財津一郎の出演映画『ふたたび SWING ME AGAIN』

2023-10-20 06:19:30 | 映画いろいろ

『ふたたび SWING ME AGAIN』(10)(2010.11.13.MOVIX亀有)

 老優たちがジャズバンドを組む映画と聞いて、ぜひ見ておかねばと思ったのだが…。旅、ハンセン病、老い、音楽仲間、家族問題と、いろいろと描き込もうとした努力は買うが、残念ながら全てが中途半端な描き方になってしまっていた。

 とはいえ、財津一郎の熱演、将来を期待させる孫役の鈴木亮平の好演、ボケ老人を演じた犬塚弘がベースを弾き始めると鋭いプロの目付きになる変化の妙、そして特別出演の渡辺貞夫のサックス。これらが見られただけでも良しとするか。藤村俊二が演じたトロンボーン担当は、谷啓が元気だったら彼の役だったかもしれない。

 ところで、音楽映画といえば、『グレン・ミラー物語』(54)のジェームス・スチュワートはトロンボーン、『ベニー・グッドマン物語』(56)のスティーブ・アレンはクラリネット、『五つの銅貨』(59)でレッド・ニコルズを演じたダニー・ケイ(谷啓は彼にちなんで芸名をつけたとか)はコルネットを完璧に吹いているように見せたが、今回の財津一郎のトランペットも、指遣いは完璧だったと渡辺貞夫が褒めていた。


『ふたたび SWING ME AGAIN』舞台あいさつ(2010.10.27.東京国際映画祭:TOHOシネマズ六本木)
(左から)塩屋俊監督、青柳翔、MINJI、鈴木亮平、財津一郎、藤村俊二、佐川満男、渡辺貞夫

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