硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 10

2021-03-13 22:08:32 | 日記
だとすれば、綾乃の考え方は正解だ。非の打ち所がない。どんなに考えたって恐らく答えは一つだろう。

「私達はここで学んでいる事を通じて、次の世界を選び取るのだ。もし、ここで何も学び取ることが出来なかったなら、つぎの世界も同じことになる」

と、リチャード・バックも言っているではないか。しっかりしろ私。

「わかった。私も決めた。お互いに告白して、結果を報告しあおう」

送信する。どんな答えが返ってくるだろう。綾乃の思考は予想が付きにくい。
しかし、びっくりするくらい躊躇いなくすぐに返信が来た。

「わかった。どんな結果になっても恨みっこなしだよ」

「恨みっこなし」か。綾乃らしいな。
裏と表を使い分け、器用にうわべだけの付き合いをする子もいるけれど、綾乃はいつも真っ直ぐだ。だから私は彼女と友達でいる事が出来たのだろう。
だから、ここは綾乃の気持ちに応えなければ。

「もちろん。」

「ありがとう。心強いよ」

「私もだ」

最後に名探偵コナンの頑張ろうスタンプを送ると、とても変な頑張ろうスタンプが返されてきた。さすが綾乃。ナイスセンス。

携帯を手放して両手を広げ天井を見上げる。大きく息を吐く。卒業まで後三か月。
大学受験を控えながら、川島君にこの想いを伝えることが出来るだろうか。
いや、ぐずぐずしていては駄目だ。

「今日できないでいようなら、明日もダメです。一日だって無駄に過ごしてはいけません」

と、ゲーテも言っているではないか。

未来を憂いていても、未来は誰にもわからない。旅に出れば、新しい出会いがある。
私は未熟なのだから、まだ発展途上だ。それに、誰一人として17歳で留まっている事など出来ないではないか。
決めた。明日、この気持ちを伝えよう。川島君の気持を変える事は、山を動かす事に等しいけれど、今は伝える事が大切なのだ。

私は意を決し、重力に押し付けられていた身体をベッドから引きはがすと、机に向かい、参考書のページを開いた。