硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 12

2021-03-19 20:55:39 | 日記
「ヒラ」と呼ばれる事。「いつもの」。で、通じてしまう嬉しさにときめく私。
ふあふあしながら席に座ると、先輩が戻ってくるまで、何となく携帯をいじる。

「おまたせっ! エグチとキャラメルラテでございます。」

すごくいい声。そしてスマートに私の前にトレイを置く。接客慣れしているなぁと感心。もう片方の手で倍照り焼きチキンテリオとコカ・コーラを乗せたトレイを自分の前に置いて、「腹減ったぁ」と呟く。せんぱい、少年みたいでかわいい。

「すいません。ありがとうございます。」

「さぁ、先に食べてしまおうぜ。話はそれからでいいよね? 」

「はいっ。それでいいです。」

「話はそれからでいいよね?」その言葉になんだかホッとした。でも、緊張のせいかお昼から何も食べていなくて、今もお腹が空いているんだかいないんだかよくわからないまま、小さく小さくエグチを食べながら、キャラメルラテで流し込んだ。
左側に座る先輩は「やっぱ、うまいわ」と言いながら豪快にチキンテリオを頬張っている。マックを食べる横顔。やっぱ、かっこいいな。

先輩との時間はすごく楽しい。マックもいつもよりおいしく感じる。話も弾んで、先輩はリモート授業がメインとなった大学の事や、バイト先で起こった信じられない位に面白いエピソードを話してくれて、涙が出るくらい笑った。
私も、部活の試合がほとんどなくなった事、楽しみにしていたイベントというイベントが次々に無くなってしまっていった事などなど。この一年間に起こった事を話すと、先輩は「今年はとにかくついてなかったよなぁ。けど、愚痴ったところで俺たちの力ではどうにもならない事だしな。」と言って微笑んだ。

幸せな時間だなぁ。このままこの時間が止まっちゃえばいいなぁ。でも、ハンバーガーは私達のお腹に収まって、コップの中のキャラメルラテとコカ・コーラは、魔法が解ける残り時間を知らせていた。

流されちゃいけない。そろそろ言わなくちゃ。