硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」 第2話

2023-02-14 21:29:45 | 小説
もし、この職場が古い体質の縦社会だったら、「お前、やる気あるのか」と叱責されてしまうと思われる「リノ」の答えは、イマドキと言えばイマドキと言えたが、どちらも違うと思い、自分なりの言葉を探した。
そして、会社に勤め始めた頃の僕も、上司からしてみれば、きっとこんな感じだったんだろうなと思い、「まぁ、最初はそんなもんだよね」と、柔らかく言うと、「リノ」はぎごちなく微笑み頷いた。
「リノ」の素直な感情表現は「まだ私は子供なので」と、アピールしているようにも見えたが、会社は学校と違い、労働を対価に変える場所であるから、「甘えてばかりいられない」と気付けば、心境の変化も起こってくるだろうと楽観的に考えていた。

介護の仕事の良い点は、基本、自分が、朝起きる。服を着替える。身だしなみを整える。トイレに行き用を足す。ご飯を食べる。歯を磨く、お風呂に入る。寝る。という動作ができていれば、それをできない人にしてあげるだけと言う所である。
その作業が7割であり、後の3割は、報告連絡相談、整理整頓清掃、記録をつけたり、ケアプランを作成したりできれば、問題ないのである。

しかし、「リノ」は2ヶ月経っても、「覚えられないのだったらメモを取るように」と再三注意されても、その場は頷くものの、メモを取ることをせず、しかも、基本的な事もおぼつかないままで、他の職員を困らせていた。
一方、彼女と一緒に入社してきたもう一人の「ギャル女子」は、小学生のような自由奔放さがあり、就職動機も「リノ」と同じであったが、指導係が教えてくれている事はメモに取り、ぎこちなくても利用者さんと会話をして彼女なりに頑張っていたので、進歩が見られない「リノ」の存在は一層浮いたものになっていた。