硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」第4話

2023-02-16 21:33:25 | 小説
そして、古株さんと、「親子」かと思えるほどの距離間を保ちながら、「したたか」に働いている少年少女たちも、最初は、不器用な後輩とイライラする上司の間で、どうしていいのか分からないようであったが、いつからか、古株さんに寄っておいた方が「徳である」と判断したのか、仕事は教えていたが、態度は冷ややかなものになっていった。

その様子を見ていて、いじめこそないが、このままでは、いつか「リノ」を追いやってしまうのではないかと思い、意を決して古株さんに、

「就職した事がゴールではないでしょう。これからの人生の方が圧倒的に長いのだから、会社としては彼女の成長を促すように育てていかねばならないのでは? 」

と、進言し考え直してもらうように説得を試みたが、入社して半年も経たない者から意見をされる事は、プライドが許さないようであまりいい顔はしなかった。


「リノ」も「リノ」で、強く言いすぎれば「ベソ」をかき、弱く言えば「受け流す」と言う有様で、糠に釘と言うか、暖簾に腕押しといった諺通り、手ごたえがなく常にもどかしさはあったが、「リノ」の気持ちに沿った教え方を粘り強く続けていると、とてもゆっくりとではあったが、少年少女たちも、感覚的に、どう接していけばいいのかわかってきて、長い梅雨が明けた7月の終わり頃には、現場の空気も徐々に好転し始めて、「リノ」も、その変化を感じ取ったのか、少しずつ笑顔を見せるようになった。

そして、高校生の頃から通い続けていた自動車学校もようやく卒業し、自力で通勤できるようになったと、とても喜んでいて、気持ちも環境もようやく安定してきたかなと思っていたら、また、新たな問題が発生してしまったのだった。