硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」 第11話

2023-02-23 21:19:01 | 日記
不器用な「リノ」であったが、人間の持つ本能的な営みには、本能的に従えてしまえた事が、彼に大きな誤解を生じさせていた。
彼はそれに気づけない人であった。
そして、彼らは、自身の仕事を低く査定していたので、求人募集をかければ、「簡単に」補充できるものだと考えていた。

しかし、世間の思う介護のイメージは変化していて、その年の、「来週には梅雨入りするでしょう」と、気象予報士の女性がアナウンスし始めた頃、自腹で6年間行き続けていた「福祉研修会」において、それを体感する事となった。

最初に参加した年は、キャパシティ300名位のホールに老若男女の福祉関係者が集い、基調講演を行った代表の女性が発する言葉もポジティブで、講習の内容も希望があってわくわくしたが、6年目には視聴覚室で行われていて、50脚の椅子も埋まらず、参加者の顔触れも50代以上の人ばかりになり、代表者の女性もどこかネガティブで、講演会の内容も、終始、研修会を主宰する組織の維持について語られていた。

時の流れや、流行と言ったものは儚く移ろうものであった。

重い足取りで帰路についた翌日、いつになく惰性で仕事をしていると、「リノ」から相談を受けていた入所施設の女子職員が「リノが辞めるって言ってるから、いっしょに相談に乗ってあげられないかな? 」と、相談を持ち掛けてきた。
福祉職に希望を失いかけている者が退職したいと言っている人に頑張れとは言えない。しかし、ほうっておく訳にもいかず、しばらく考え込んでしまったが、話を聞くなら職場以外の方が遠慮なく話せるだろうと、三人でご飯を食べに行くという体をとって、「リノ」の言い分を聞くことにした。