硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」 第9話

2023-02-21 20:59:50 | 小説
「リノ」にとっては、理屈よりも五感に訴えてくる快楽の方が現実であった。

そして、自分の想い通りに事が進んでいるので、泣くほど彼から叱られても、好きな人からの叱責は感情を揺さぶられるので、その場だけは辛くても、構ってもらっているという気持ちの方が上回っていて、それがミスを減らす原動力になっていた。

しかし、事態は関係のない者の手によって急展する。

ある日突然、施設長から個人のスキルアップ図るため、通所施設と入所施設の職員を2名トレードするお達しが出た。
その方針に「なぜ、いまさら」と思ったが、現場を知らない上司は誤った判断を下していても気付かないものなのだなと改めて認識した。
しかし、雇われている身なのだから、決定された事には従わなければならないので、出しゃばらずに静観していようと思っていたが、他の職員は、口々に「レクリェーションが嫌」と主張していて、古株さんも、そんな「子ども達」を手元から放したくなさそうであった。
その様子を傍から見ていて、いずれ声が掛かるのだろうなと思い、「僕、前職が通所なので、移動してもいいですよ」と手を挙げると、その二日後、入所現場でレクリェーションをうまくやっていた男子と通所介護現場に、通所からは、口ばかりで動かない中年女性が移動する事になった。

そして、部署が移動になったことで、「リノ」の様子は次第に分からなくなっていき、トレードの結果といえば、通所ではいろいろな変化が生まれていったが、「動かない人」が入った入所施設は、動かない人の分が個々に回ったため、次第に淀んでいく事になった。
しかし、「動かない人」は、「上」の人にはへつらう人であったので、古株さんと彼の地位はいよいよ盤石になり、その翌年、再び移動が発令されると、古株さんと彼は、自分たちにとって使いにくそうな人を移動させ、入所部署の君臨者となった。

しかし、数か月経つと、僕が入社した以降に入社してきた人たちが次々に退職してゆく事態になった。