硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」 第13話

2023-02-26 20:30:15 | 日記
それから数年後、老舗なら技術や制度の蓄積があるであろうから、まだ成長できるかもしれないと考え、ハローワークに職を求めた。
すると、偶然にもこの地区では介護保険制度が施行される前からあった施設が求人募集を出していたので、「ここだ」と思い、応募したが、相談窓口で話を聞いてくれていた男性職員さんが、僕の履歴を見て「介護の仕事以外ではダメですか? 」と言われ、とても動揺した。
確かに、不器用そうな人が相談窓口で「介護の仕事はどうですか? 」と勧められていたり、仕事を探している人に向けて初任者研修を補助金で受けられる制度をハローワークで紹介されているのを見て「介護職」のステイタスは、求人の最後の砦へと変化していたのを肌で感じたので、止めておいた方がよいのかもと頭をよぎった。
しかし、まだ、知らない事もあるはずだと、心を入れ替えて「介護職を続けたいので、よろしくお願いします」と、返答した。


そして、面接にこぎ着け、無事、採用してもらえることになった僕は、配属先の部署で「ナミ」と言う女性と出会った。
彼女は不思議な人で、僕に会うなり「あなたが来ることは分かっていた」と言われ、少し後ずさりしたが、その分、打ち解けるのも早かったが、意見の違いで衝突する事も多かった。
それは、その頃から、厚労省が打ち出した「自立支援」は、解釈の仕方が幾通りも出来るほどの曖昧さを有していたからであった。

介護施設の役割は、様々な障害や疾患をもっている人が、介護保険を使って家族にはできないサービスを受けに来ている事が前提にあるのに、「自立支援」という錦の御旗を掲げた現場のスタッフたちは、二言目には、「甘やかしてはいけない」「家では(着替えや排せつ等)を一人でできるようにするのが施設の役割」と言う、偏った解釈のみで共有されていたからだった。