硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「ストレイ・シープ」 第10話

2023-02-22 20:20:45 | 小説
彼らは自分の思うように人を操作したい人であった。
そして、自身のスキルも怪しいものであるのに、指示は出すが、手は出さない事が指導なのだと疑わなかった。
その考え方が、現場の士気を下げている事を気付けない人達であった。

そんな環境では、「先生に勧められた」と言う動機で入社してきた女子たちにとって、頑張る意味はなく、その年の夏が終わる頃、ついに「ギャル」が退職を決意した。
「ギャル」も、入社してきたときから「リノ」と同じように気にかけてきて、基本的な事から応用的な事まで、丁寧に教え、大きなミスをした時には、悪びれず笑っていたので、本気で怒ったら子供のように泣いてしまったが、それでも、何故か、嫌われることなく、色々と吸収しようとしていたので、この子なりに頑張ってくれているのだと手ごたえを感じていた。
それなのに、なぜ、と思い、「ギャル」に話を聞きに行くと、素直な彼女は、「誰にも言わないで」という前置きをして、「ここの人間が嫌いだから」と、本音を打ち明けてくれた。
現場を知らない管理職の判断と人選から考えれば、職場の人を嫌いになるまでの過程は想像に難しくないが、それでも、退職するのはもったいないので、「もう少し頑張ってみては」と説得してみたけれど、彼女の決意は固まっていて、どうする事も出来ない不甲斐無さから「君が辞めてしまうのは本当に残念だよ」としか言えなかった。

純粋な気持ちが残っていただけに仕事と割り切れず、また、「口だけの上司」と「自分の事だけで精一杯」のスタッフでは彼女たちを助ける事が出来ず、精神的に追い込むことになってしまったのだが、「ギャル」が退職した事によって、再び「リノ」の不器用さが顕著になり、指示された事を指示された通りにできない「リノ」の「個性」を理解していない彼は、愛着のなくなった服を脱ぎ捨てるように、「もう、付き合えない」と、冷たく突き放した。