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愛と幻想のファシズム(上) を読んだ。 先見性を感じる作品です。

2011年01月20日 01時21分34秒 | 読書評
愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)
村上 龍
講談社


愛と幻想のファシズム(上)を読みました。

もう20年以上前の作品だと思うが、発売当初より話題となり記憶の片隅に
タイトルが残っていた。

村上氏の作品は、これで2冊目で多くは読んでいないが、この作品は
20年前のバブル期に書かれた作品で、日本全体が豊かさを満喫している
時に経済恐慌、政治不信、生活苦というものを描いており、これが
今となっては、妙に日本の衰退とマッチして、読むと危機感が煽られて
しまう。

主人公のトウジは、ハンターで生と死の狭間で勝者となってこそ生き残る
価値があるという考えの持ち主で、世の中で生存するに値するのは、強者で
弱者にはその価値がないという主義でカリスマ性を鼓舞する。

その背景には、恐慌という経済破綻のなかで暮らすことさえできない
市民生活があり、そうなる前に経済と国民生活を担保することが出来な
かった政府を排除し強者、生存価値のある者だけで衰退する世界で
生き残れるという論理がある。

破綻まではしていないが、現在の世情と合い通じるものがあり、ある面
薄気味悪ささえ感じる。

トウジというカリスマとそれを独裁化するための狩猟社という政治団体が
存在し、世の中へのアプローチを際立たせファシズムというものを高揚さ
せる姿が背筋への寒さを感じる。

これほど極端な世界ではないにしても、現代生活、政治、経済の面で
ひとつの絵姿として読むと異様なリアリティさを感じてしまう。

それにしてもあの浮かれた時代にこのような世界を描ききる著者の先見性
というものが際立つ作品だと思う。

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