孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第5巻〉 (幻冬舎文庫) | |
大鐘 稔彦 | |
幻冬舎 |
孤高のメス 第5巻。
いよいよクライマックスに入る巻。
当麻医師の人命を救うひた向きな気持ちがじわじわと沸き上がる。
映画化されたストーリーがこの巻の後半部分からである。
生体間移植が残念な結果に終わった実川医師。教授選に当選し
マスコミから袋叩きにあった経験から、社会的な倫理観が
浸透せず、法的整備が整わない時代に脳死間移植は自嘲した方が
良いと進言する。
この場面が当麻医師の信念を象徴しており、共感の渦が拡がる。
ただただ、救える命は諦めず直向きに救うための努力をする。
いたってシンプルな思いであるが、阻害する人たちの画策に臆することなく
治療を進める当麻医師。
この直向きな姿勢は、このシリーズぶれることなく表現されている。
不慮の事故で最愛の一人息子をなくした母親。諦め切れない
子供への思いを、臓器を提供し、救えた命が亡き子供の
意思、魂を紡いでいくのではと考える。
そのような気持ちでいながらも、手術室に向かう最後の姿は
あまりにも悲しい別れである。
ドナー摘出手術で肝臓を取り出す途中で心臓が止まる。
この時がドナーの臨終の瞬間。この描写は、人が人の命のオンオフを
行っているようにも見え考えさせられる。
そのような中、着々と移植手術を進める当麻医師。
このシリーズ最後の巻へと進む。