発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

資生堂のテレビコマーシャルの放送中止にまつわるエトセトラ 一体全体何がまずかったのかわからないと単なる言論統制と間違える。

2016年10月08日 | 日記

◆放送中止のコマーシャル

 資生堂のテレビコマーシャルが、女性差別だセクハラだということで放送中止となったということである。それでテレビをほとんど見ない私までYouTubeで見ることになった。差別だセクハラだ放送中止だということで表現が及び腰になってしまうと、世の中に面白いものなどなくなってしまうような気もするが、ともかく見ないことにははじまらない。

 で、見てみたよ。とりあえず、「バースデー編」。これは25歳になった女の子(私から見ればね)とその友人の、いわゆるガールズトークに終始する。「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされないし、ほめてもくれない」「カワイイという武器はもはやこの手には、ない」一回見たところ、絵的にはむしろ面白かった。「ある程度の年齢になると、天然でカワイイとはいえなくなるので意識してアップデートする必要がある」ってことでしょ。「カワイイをアップデートできる女になろう」というメッセージはそう悪くはない。だが違和感はあった。何が気分悪くさせるのだろうか。だってさあ「キレイでカワイイを武器にチヤホヤされている立場の女優さんたち」が「カワイイという武器はもはやこの手には、ない」っていったってなあ、共感得られるだろうか。

◆「女の子の気持ちのわからない会社には未来はないのよ」

 考えてみれば「あんたはもう女の子じゃない」というフレーズも、化粧品会社としては致命的である。市場の全否定である。ネガティヴ表現を使って宣伝活動をするのは、細かい注意と配慮をしないといけないが、たぶん成功していない。

 あらゆる年齢の女性のハートには「女の子」がいる。年代を問わない女性たちのハートに住む女の子の部分が、レースのポーチやシェニール織の小物やスワロのチャームなどなどなどの、乙女チックでかわいい品物を自分用に買って行くのである。もちろん程度には各人差がある。化粧品についていえば、少なくともマスカラとつけまつげと頬紅は、完全に脳内の「女の子」パートが買っている。女性の脳内に「女の子」パートがなけれぱ、マーケットは縮小する。店頭に積み上げられた美しい色合いといい香り立ちの石けんも売れたりはしないだろう。「女の子の気持ち」に訴えかけなくてどうやって女性にものを売るのか? 第一「もう女の子じゃない」のに「カワイイをアップデートできる女」になれるのか?このあたりの文脈の不整合が違和感を呼んでいるところもある。

◆束ねられるのはやだな

 さらに違和感は、はっきりきっぱりターゲット年齢で線を引いちゃったからかな。25歳になった全国の女性に厳しくダメ出ししているが、十把一絡げにするのは時代遅れだ。「わたしを束ねないで」(新川和江)的な気持ちになる。多様性を否定するところに古さを感じちゃうんだなぁ。

 ただ、このCMが気に入らなければ、資生堂を買わなければ済むだけの話なのである。商品が売れなかったらそれは出来の悪いCMのせいであり、一企業の自業自得というところだ。放送中止にする必要まではない。

◆電波媒体の性質についての基礎的見落とし

 問題なのは、テレビという媒体は、ターゲット(20代中盤の女性)以外にも広く露出することである。このCMの夏帆の台詞「あんたはもう女の子じゃない……」、これ、よく見知った友人同士の内輪のガールズトークなら許されるが、同じ台詞をオフィスや飲み会で、男性が女性に向かって言ったとすればどうだろう。周囲の男どもが、テレビを見て「ほら、あんたもう25なんだからさあ、若かないんだからさあ」と調子に乗ってダメ出しするようなことがあればそれはセクハラである。このコマーシャルがセクハラを助長することは十分考えられる。ああ、まずかったのはここだ。社会的に非常にまずい。

 でも、このCMだけではセクハラの存在は、よくわからない。ガールズトークにセクハラというのもおかしい。ひょっとして見る人間の深読みかも知れない、制作側の意図はどうだろう、と、思ってたところに第二弾である。

「それ(仕事にがんばってる様子)が顔に出るようじゃプロじゃない」と、男性上司が女性部下に向かって言うのである。

 あちゃー。見た目の好印象が売り上げに直結する仕事(接客とか)してるわけじゃないんだから。顔よりは仕事の進捗状況と品質について気にしてくれ上司、というか、まんまセクハラだ。この第二弾のせいで「バースデー編」もあわせて、女性差別思想が根底にあると思われてしまい、批判が炎上し、放送中止に至ったのだろう。女性相手の企業がセクハラまがいのことをしてどうする。

「本来意図したメッセージが伝わらなかった」(資生堂)というのはテレビコマーシャルとして失敗である。というか、大丈夫か、資生堂?



最新の画像もっと見る

コメントを投稿