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9月入学、性急すぎる

2020-04-30 12:36:07 | 学習・資格
まずは「反対」と言っておく。

仮に7月8月になっても感染症に収束が見えず、9月なら何とか学校が再開できるので9月にしたい、ならわかる。
今年に限り新学年は9月開始とし、何年かかけて(ある程度詰込みにならざるを得ないが)4月新学年に向けて
調整していく、と言うのならそれも賛成。

しかし、今年から学校全体、それこそ大学まですべて9月入学にしてしまえというのはあまりにも乱暴すぎる。

何年か前、東京大学でも、国際化、国際標準に合わせる、などと9月入学をぶち上げたことがあった。
勝手な想像だが、東大が言い出せば全国の主要大学もあとに続き、一気に機運が高まると見たのではないか。
しかし、まったく盛り上がらず、東大内部からも反発が高まったのか、いつの間にか立ち消えとなった。

今回は非常事態と言うこともあって、全国の知事の多くが賛成に回っているようだが、もちろん反対もあるし、
これを機に本当に国民の意識が盛り上がっていくのかは疑問。

9月入学が国際化だとか、国際的な人材の取り込みにつながるとか、留学しやすいとか、絵空事にしか思えない。
留学する学生ってどれぐらいいるの、少ないとすればそれは入学時期のせいなの?
時期を合わせるだけで国際化が実現できるの?

賛成の方は世界標準は9月入学とおっしゃる。
確かに欧米は9月入学が一般的なようだが、アメリカでも9月でないところもあるし、世界を見渡せば1月だったり、
3月だったり、10月だったり、4月と9月以外の国もある。
彼らの言う世界標準とは「欧米」の国に合わせること。
ISOなどの国際標準、国際規格に合わせる話とは次元が違う。

先進国の在り方に倣うべきだというのはどこかの新聞が「アジア各国は」といって特定の2か国
(あるいはあの国を入れて3か国)の意見だけを、アジア全体の意見として対応を迫るのと同じだ。

一部だけ9月と言うわけにはいかないから、小学校から大学まですべての教育機関を9月にすればよい。
学校教育法がどうのこうのいうなら改正すればいい。
障害/障壁は大したことないと賛成の方はおっしゃる。

しかし、世の中の仕組みが4月から3月を1年とすることで動いているのだから、そう簡単ではない。
学校だけ、教育機関だけが9月スタートでいいとは思えない。

会社は新卒一括採用が主流で4月入社となっている。
4月から年度が始まるのは会社の都合でも学校の都合でもなく、官公庁の会計年度が発端らしい。
学年の開始は4月が本当に適当かどうかは別として、学校が9月はじまりになったら会社は、社会は変われるのか。

そもそも、アメリカにしたって多くは9月入学だが学年の終了は6月だ。
夏休み、春休み、冬休みはなく、学年の切り替え時期(6月初めから9月まで)が夏休みっちゃあ夏休みだ。

仮に6月卒業になっても企業は通年採用すればいいだけ。中途採用も海外からの人材も受け入れやすい。
確かにそうで、通年採用や中途採用を広げていくことは私も賛成。
そうやっている企業もあるし、優秀な人材の確保がやりやすいこともある。
いわゆる労働流動性の向上で、経済活性化の切り札ともいわれる。

しかし、採用しやすいということは労働者にとって辞めやすいということでもある。
上昇志向で自分のやりたいことをやるために転職するのは大いに結構。
企業も辞められないように労働条件を改善したり、給与、手当を厚くしたりするかもしれない。

その一方で、良し悪しは別として手っ取り早く高給を求めての離職転職は増えるし、企業に対するロイヤリティも低下する。
それがいいか悪いかはまた議論のあるところで、CMにもあるようにいろんな個性の社員が増えることはいい面もある。

ただ、通年採用、中途採用が一般的になっていないのは、4月新卒一括採用が企業にとってメリットがあるからで、
単に「今までそうだったから」ではないはずだ。
通年採用に切り替えるとなると、会社ルールの見直しはもちろん、新人教育をはじめとする社内教育/社内研修制度の大幅な見直し、
事業計画や会社の中期/長期計画にもかかわってくる一大事だ。
BCP(事業継続計画)すらまともにできていない会社が大多数を占める中、この9月から新たにやりますと言えるところは少ないだろう。

いずれにしても、9月入学が簡単ではないのは世の中の仕組み自体を変える必要があることで、まさに国家全体として
どうあるべきかを考えねばならない。
感染症対策で授業日数が少なくなりそうだし、海外(欧米中心世界)は9月だから、今年から9月にすればいい、というのは
あまりにも性急すぎる。



BCP(事業継続計画)について一言。
今回の感染症対策において、BCPに言及する報道がいくつかあった。
2011年の大震災の後にもBCPを用意し始める企業があったようだが、その多くは天変地異やテロ暴動などの大災害を想定したもので
感染症対策を想定に入れているところは少なかったようだ。

BCPがISO規格になったのは2012年と比較的最近のことだが、私がかつて関係した会社では、BCPのパッケージ
(正確にはBCP作成のためのツールのパッケージ)を早くから、取り扱っていた。
あまりにも昔だったので一体いつごろだか忘れたが、20年は経っている気がする。
当時BCPの考え方自体が目新しいものでそれを理解してもらうことから始める必要があり、相当苦労したと聞いた記憶がある。
大方の企業の答えは「そんなもの必要ない」と言う感じだったらしい。



いずれにしても人は変化を嫌う傾向が強い。
新しいことに挑戦することは大事だと思っていても、世の中の仕組みがガラッと変わるような変化には拒否感を持つ。
単にいやだとか面倒だとか言うことではなく、どうなってしまうんだろうとの恐怖心、恐怖感があると思う。
今回の感染症が沈静化しても元の生活が戻るとは限らない。
世の中全体のパラダイムシフトが起こるであろうことは想像がつく。

じゃ、どうなるっていうんだと言われても「そんなこと急に言われても」って気がするが、
9月入学が単に学校生活が変わるとか、夏休みどうなるんだろう、で済まないことは確か。

入学は9月と言及されていても卒業はどうなるのかを誰も言わないところも謎。
それとも、入学が9月なら卒業は8月に決まっていると思っているんかですかね。

* * 追記

一つ書くのを忘れていた。
それは卒業するはずだった学年の進学と就職の話。

高校3年、中学3年と言ったいわゆる最終学年の生徒は来年度に授業を積み増しできないので、
ここは思い切って9月開始にしてほしい、と言う気持ちでいる人もいるようだ。
学校再開、授業開始が9月になればいいというわけではなく、年度を9月からにしてほしいというもの。

ただ、その場合、3月までに1年分の授業をこなすのは難しく、進学先の大学、高校も4月入学と言うわけにはいかない。
入試をどうするのかの問題も出てくる。

大学生の場合は最終学年までにどれだけ単位を取っているかで考え方がかなり変わるだろうし、
ゼミ、卒論をどうするのかの問題が出てくる。

そしてなにより卒業する予定の高校生や大学生にとっては就職どうするのかが大きい。

企業においては既に事業計画に織り込み済みの来年4月入社予定の新卒の教育計画などを作っているだろうし、
場合によっては教育会場やカリキュラム、社外講師などの手当てを行っている可能性もある。

毎年卒業見込みで採用され、実際には卒業できなかった学生生徒がある程度いるだろうことはわかるが、
来年はそれが大幅に増えて、大半が3月に卒業してこないとなれば、企業はどう対応すればいいのだろうか。

無理やりにでも3月に合わせて卒業してもらわないと困るのか、仮卒みたいに4月から就職してもらい、
何らかの方法で残りの単位を取って卒業してもらうのか。
その場合、人事的な扱いはどうするのか。
例えば、大学生の場合は、最初から大卒なのか、高卒で途中から大卒扱いに代わるのかなど。
高卒で入社し就業中に大学卒業した場合、大学卒にする会社もあるのでできない話ではないが、
そもそも社規、社則で想定していないと至急対応が必要になってくる。

仮に最終学年を9月進学、3月卒業となれば、7か月で12か月分をやることになる。
通常状態の夏休み、冬休み、春休みを除くと1年は実質9か月。
長期の休みは止め、土曜は休みにせず今の平日並みとすると、9×5:7×6=45:42。
少し平日の授業を増やせば、7か月で1年分の授業時間確保は計算上は可能になる。

その場合、部活や社会活動、遠足、修学旅行、運動会、文化祭などの行事の時間確保は難しくなるかもしれない。
大学入試/高校入試の時期もあるから高校3年生、中学3年生にとっては詰め込めば何とかなるレベルには
ならない可能性の方が高い。
いずれにしても、大学、高校の入試制度などと歩調を合わせて考えていく必要がある。
そんなことが全国一斉にできるのか。

なお、既に4月入学でない大学もあることはある。
例えば放送大学は正規の4年制大学だが、4月と10月の2回入学のタイミングがある。
しかし、何十万人といる大学進学希望の高校3年生の受け皿にはならない。
なったとしたらすごいけどね。

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