峰猫屋敷

覚え書と自己満足の場所

妹のために作った絵本 その5

2006年12月04日 17時20分40秒 | 自作品

   ◆ お姉ちゃん がさ ◆



ある夜のことです。
おとわちゃんは、突然泣き出しました。
おかあさんが、「どうしたの?」 と聞くと、おとわちゃんは昼間ころんですりむいた ひざ小僧を見ては、思い出して泣いていたのでした。
本当はちっとも痛くないのですけど、ちっぽけな傷は とてもたいへんなものに見えたのです。




おとわちゃんが あまり泣きやまないので、おかあさんは ついに怒りだしました。
「いいかげんに泣くの おやめなさい! そのくらいのことで!」
おかあさんは雷のように怒鳴ると、隣の部屋へいってしまいました。
おとわちゃんは、ますます激しく泣きました。




すると2階から お姉ちゃんが降りてきて、おとわちゃんを なぐさめました。
でも、おとわちゃんは まだ泣きやみません。
お姉ちゃんは、しばらく黙ってみていましたが、少しして おとわちゃんを だっこしようとしました。
すると おとわちゃんは、お姉ちゃんを ひじでつきとばして、もっともっと わんわん泣きました。

 


どのくらい泣いたでしょうか。
おとわちゃんが ふと目をあげてみると、お姉ちゃんは どこにもいませんでした。
そして かさが1本ころがっていました。
その かさは、少し太くて2つの ふさがついていて、まるでお姉ちゃんそっくりでした。
そうです! そのかさは、お姉ちゃんだったのです。
おとわちゃんが あんまり泣きやまないから、お姉ちゃんは悲しんで かさになってしまったのです。




次の朝、おとわちゃんが幼稚園に行こうとすると、雨が降りそうだったので赤いかさを持っていこうと思ったのですが、どうしてもみつかりませんでした。
あんまり探していると遅れてしまうので、おかあさんは、
「じゃ、ちょっと重いけど お姉ちゃんがさを もっていきなさい」
といいました。
おとわちゃんは、仕方ないので、かさになった お姉ちゃんをもっていきました。
門のところで お母さんが帰ろうとすると、おとわちゃんは、
「さびしいから帰っちゃいやー!」 って泣きだしました。
おかあさんが恐い顔をして (でも外なので、家で怒るときの半分くらいの恐い顔で) 「メッ!」 っていうと、おとわちゃんは ますます だだをこねて泣きました。




すると---
お姉ちゃんがさが、スーッともちあがって、おとわちゃんの頭をポカリッ! とたたいて、柄のところで おとわちゃんの腕をひっかけて、さっさと幼稚園の中へつれていきました。




さあ、それからの おとわちゃんは、さんざんです。
先生の見ていないうちに お友達にいたずらしようとすると、お姉ちゃんがさが トンとおとわちゃんの頭の上に乗り、パッと開くのです。
これでは いたずらもできません。
だだをこねて泣こうものなら たたかれるし、夜、なかなか寝ようとしないと、かさの先っぽで 目をつっつこうとします。
かさになったお姉ちゃんは、おとわちゃんにとって たいへんな疫病神です。





でも、いやなことばかりでは ありません。
雨の降る時、お姉ちゃんがさを さして歩いていると、疲れたなあって思うころ、ふわぁって飛んでくれるのです。
そして家まで運んでくれます。




晴れた日にも、姉ちゃんがさは 時々飛んでくれました。
かさに乗っかって ふわりふわりと雲の上を飛ぶのは、とてもゆかいでした。




姉ちゃんが かさになって、2週間が過ぎました。
かさになってからというもの、おとわちゃんは とてもいい子になりました。 そして空を飛ぶのは おとわちゃんにとっても、この上なく楽しいことでした。
でも、かさになったお姉ちゃんは、昔のように話してくれません。いつも黙ったままです。
おとわちゃんが泣いても やさしく慰めてくれません。 頭をたたくだけです。
昔のお姉ちゃんは、本を読んでくれました。
昔のお姉ちゃんは、お人形さんで遊んでくれました。
でも、今のお姉ちゃんは、ただの動くかさです。
お姉ちゃんだって かわいそうです。 2週間前かさになって以来、何も食べていないんですもの。
テレビも見なければ、おしゃべりだって しないんですもの。




おとわちゃんは月を見ながら かさのお姉ちゃんのことを考えると、悲しくなってきました。
空を飛べても、やっぱり昔の人間だった お姉ちゃんのほうがよかった。
そう考えると、涙がボロボロこぼれてきました。
  ああ かわいそうな お姉ちゃん
  おとわが泣いたばっかりに
  かさになってしまった お姉ちゃん
  何も言わない お姉ちゃん




ボロボロとこぼれた おとわちゃんの涙は、スーッと集まって 月にすいこまれていきました。
キラキラ キラキラ輝きながら、月に向かって流れていきました。
すると月が七色の光を放ち、お姉ちゃんがさを照らしました。




お姉ちゃんがさは七色の光に包まれ フッと消えたと思うと、そこには人間のお姉ちゃんが立っていました。
人間になったお姉ちゃんは、2週間ぶりに しゃべりました。
「おとわちゃん、ありがとう」
とても やさしい声でした。




おとわちゃんの流した、自分のためでない お姉ちゃんのための涙は、お姉ちゃんを かさから人間に戻しました。
それからのおとわちゃんは、ちょっと泣きたくなっても がまんするようになりました。
つまらないことで泣いてしまうと、本当に泣きたいとき、泣かなければならないときに 涙がかれてしまうと思ったからです。
涙は そういつも流してよいものではないと、気がついたからです。
さて、こうして おとわちゃんは、つよい よい子になっていき、もうすぐ立派な小学生です。




ところで、お姉ちゃんは…というと、
実は今でも かさのときの くせがぬけなくて、鼻の頭を押すと 手足をパッとひろげるんですって。
 
                        おわり





文章を直してしまいたい衝動に駆られましたが、これもそのままです。
いやいや、なんと申しましょうか。
個人的絵本ということで、今回も広い心でお読みください。

なお、これは裏表紙に製作年月日が記してありました。
1978年 8月13日 とのことで、私が19歳、妹が4歳のときでした。