メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

カリスマ

2005年04月22日 | ボクヲサガシテル
23歳の頃。冬。
夜、寝むれない事がよくある。

僕は、憂鬱な気分で寝むれない真夜中には、よく散歩に出掛ける。
適当に歩く。昼間の喧騒の余韻を完全に消しさった、夜のアスファルトの感じが好きだ。
少し歩くと、少し大きな道にでる。車はほとんど居ない。
僕はわざとセンターラインの上を歩く。たったそれだけの事に非日常がある。いつもと違う景色がみえる。
夜が黒猫に姿を変え、僕の目をみつめながら道路を横切っていく。
空車のタクシーが孤独な唸り声をあげて彷徨っている。
星空の毛布にくるまった老人が黙って天を見ている。
昼の世界から弾き出された物達が、僅かな休息を過ごしている。

僕のアパートの近くの高台にはお寺がある。いつも最後にはそこを目指す。
道中、手を暖めるために、不思議と優しい光を放つ自販機でロイヤルミルクティーを買う。
寺の下に辿り着き、一旦上を見上げる。そして右足から階段に足をかける。
結構長い階段を登る。両脇には大きな木々が並ぶ。その隙間に点々と置かれた街灯の灯りの上を歩く。
階段を登りきった僕は、決っていつも息が切れている。吐き出す白い息が夜に溶ける。
お寺に続く道を右に逸れ林の中へと入る。そこは真の闇で、時々風に揺られる木々の音に、ひどく怯える。
・・・・・・2、3分歩くとすぐ林は終り、ひらけた原っぱに辿り着く。眼下には僕の住む街を望め、なかなかの絶景である。
その原っぱの真ん中には一本だけ、ひときは大きな木がはえている。
僕はそいつを"カリスマ"と名付け、そう呼ぶ。黒沢清監督の映画「カリスマ」を真似ているのである。
カリスマの下にポツンと置かれた水色のベンチに腰を下す。ミルクティーのタブを外し、それを飲む。
ホッと一息。
街が小さく、遠くまで見渡せる。気持ちが晴れていくのがわかる。

そこは、何かに息詰まったときの、僕だけの隠れ家である。
JRの駅も、私鉄の駅も、行き着けのコンビニもひとつの額の中にある。
月明かりが、看護婦のような優しさで僕を包む。

時と共に、東の空が白んでゆく。
あとは帰って眠るだけ。

こんな夜にお勧めな映画は黒沢清監督の「アカルイミライ」だ。

ちなみにカリスマは今はもう居ない。

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