メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

楽園

2007年03月24日 | なんとなく書いてます
友達が死んだ。
人生でも最大級の衝撃だった。
彼は10年の付き合いがあった大学の後輩だった。
音楽が大好きで、自らもずっとバンドをやっていて、沢山の作品を残していった。
そして自らの意思で自らの物語に終わりを告げてしまった。

まるで夢を見ているような数日間だった。
僕とは常に適度な距離があったから彼の本当に繊細な部分は僕にはわからなかった。
器用で楽器の演奏も優秀で、クリエイティブの才もあり、麻雀やテレビゲームなんかも強い奴だった。
3ヵ月程前に一緒に飲んだのが最後の思い出になってしまった。

3月20日、訃報を聞いた僕は沢山の仲間に連絡をいれ訃報を知らせてまわった。
悲しみとショックのあまり話し込んでしまう事もしばしばあった。
通夜と告別式を合わせれば親族以外に100人位の人間が集まっただろうか。
それが彼が生きた証明、財産なのだろう。

式は彼の地元で行われる。
彼の地元と僕の地元は近い。
通夜の日僕は会社を休み早めに行こうと15時頃に家を出た。
その二日後に従兄弟の結婚式が控えていたためそのまま実家に帰る予定だった。
沢山の荷物を持って斎場を目指し家を出た。

平日のその時間、電車は空いていた。
空いていたが僕は座席に座らず窓の外を見ていた。
混乱した頭のまま西日にオレンジ色に染まる町並みを見ていた。
何だか嘘みたいで悲しみは無かった。
何度か電車を乗り換えやがて目的地の駅へ辿り着いた。
待ち合わせた二人の後輩と一緒に歩いて斎場を目指した。
その場所が近づくに連れて会話は無くなった。
どこまでも嘘みたいだった。

到着すると彼が最も親しくしていた友達が待っていた。
彼は親族並に色々な手配をしていたため疲れていた。
彼に「顔見てやって」と言われ僕らは棺桶に向かった。
まるでスローモーションのような時間。
心が変な恐怖を覚える。
現実を直視しなければならないのだが嫌な鼓動が止まらない。

覗き込むと彼はそこに居た。
生きているときとあまりに変わらないその姿はまるで眠っているようだった。
そのせいで彼の亡骸を見てもまだ信じられなかった。
冗談が好きなおもろい奴だったから
きっとタチの悪いドッキリなんだろうと僕は真剣に思った。

しかし徐々に集まってくる仲間達の中には泣き崩れるものも居る。
何故か冷静な僕だが、彼の写真を前にお焼香をした時自然と少しだけ涙が零れた。
「俺は今何をしているんだ?」
そう心で呟いた。
その夜は親族が用意してくれた会席の場で久々に会う仲間達と悲しみを忘れてお酒を沢山飲んだ。
みんなも何処か嘘みたいな気持ちだったのだろう。
彼のおかげと言うのも変だが、一生会う事も無かったかもしれない仲間達と再び楽しくお酒を飲む事が出来た。

みんな帰った後、斎場に泊まっていく人間以外では一番最後に僕は帰った。
ウチに泊める二人の後輩と3人で夜中になりかけの世界の中家を目指した。
誰もが何かから目をそらしているような時間が続いている
僕はそんな風に感じた。

翌日、車で再び斎場に向かった。
残酷で冷たい、雲ひとつ無いような青空だった。
着いた後棺桶を覗いてみたが彼は昨日と変わっていなかった。
そわそわしながらみんながタバコを吸ったりしている。
廊下には前日から彼の幼い頃のアルバム、彼のCDが置かれ、彼のライブ映像がエンドレスに流されていた。
それをみんなで見たりしていた。

やがて告別式が始まりだんだん後に戻れない空気になり僕は内心焦っていた。
もしも数時間後彼が本当に骨にでもなっちまえばもうドッキリではなくなってしまう。
それは真実になってしまう。
しかし僕の期待とは裏腹に最後の別れの時間がやって来た。
みんなが順番に彼の棺に花を手向けて行く。
次々と泣き崩れるものたちが出てくる。
あちこちから悲壮な泣き声が聞こえた。
そうなるともう僕も涙が止められなくなってしまった。

花を手向けられ、火葬場に運ばれた彼はついにその姿をこの世から消してしまった。
僕らは順番に収骨して彼とお別れをした。

もう彼と話が出来ないなんてなんという現実だろうか?
この先どんな楽しい場面にも彼はいないとはなんという現実だろうか?
彼のアイデンティティは一体どうなってしまうのだろうか?
心やメッセージや感情は今何処に行ってしまったのだろうか?

人は何故この世に誕生し、苦悩して、そして去っていってしまうのだろうか?
死んだら人は何処へ行くのだろうか?

人間を大まかに分類するならば僕は彼ととても近い場所に居る気がしていた。
僕と何が違っていたのか?
それが僕を悩ませた。
僕は見送ってばかりいる。
僕に救う事などは出来なくても、ほんの少しくらいは楽しませてやれたのに。

彼には生きた証がある。
みんないつか消えて無くなると言うのならば存在とはつまりなんなのか?
そんな存在不安がいつものように僕を埋め尽くす。

今、生意気で面倒くさい後輩だった彼に言葉を送るならやはりありふれた
「ありがとう」
になってしまう。
でも本心では
「もったいない」
だね。

心安らかに楽園に辿り着いてください。
バイバイ

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。