守田です。(20170403 11:30 イスタンブール時間)
イスタンブールのホテルにいます。3月31日にトルコのシノップに入り、翌日、4月1日に「原子力発電所に関するシンポジウム」に参加してきました。主催はトルコ弁護士連盟(The Bar association of Turkey)です。トルコ中から原発に反対する環境派の弁護士たちが集まってきました。もちろん地元シノップの方達も。大変、熱い集会になりました!
僕の他に発言者として招かれたのは東京から日本弁護士連合会所属の甫守一樹さんとフランスのMichel PRIEUR さん(リモージュ大学名誉教授,国際比較環境法センター長)とHubert DELZANGLESさん(ボルドー政治学院教授) でした。お二人の名とも日本語では発音しにくいのでスペルをそのまま記しておきます。
甫守さんは先日不当な仮処分決定が出た伊方原発差止広島裁判への参加をはじめ、原発を止めるための活動に尽力しておられる弁護士さんの1人です。
また私たち日本人二人の発言のセッションのコーディネーターを務めてくれたのは、イスタンブール在住のアクティヴィストのプナール・デミルジャンさんでした。
ここで少しプナールさんのことをご紹介すると、彼女は日本語―トルコ語のプロの通訳として働いた経験を持ちつつ、環境運動に参加して来た方で、僕の初めてのトルコ訪問時に、彗星のように登場してきてくれました。3年前の3月のことです。
この年、僕はドイツで行われた国際医師会議にジャーナリストとして招待していただき、ベラルーシーの調査を経た後にドイツで同会議に参加し、その後、ドイツを中心に行われている別の企画であるヨーロッパアクションウィークに参加して、福島原発事故の証言者の1人としてトルコを訪問しました。
この国際医師会議の共同主催を担ったのが核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部の方たちで、このとき僕は代表のアンゲリカ・クラウセンさんと仲良くなったのですが、偶然にもそのお連れ合いがトルコ人医師のアルパー・オクテムさんです。僕は彼に伴われてドイツからトルコに向かうことになっていたのでした。
このとき国際医師会議とヨーロッパアクションウィークをつないでくれて、僕のトルコ行きを可能にしてくれたのは、ドイツ在住の桂木忍さんでした。彼女にはその後のドイツ内での僕の講演などでも通訳などのサポートをいただき、情報の共有を続けています。ポーランドで行われたチェルノブイリをめぐる国際会議にも一緒に参加しました。
さてこの3年前の初めてのトルコへの訪問の時に、一番、困ったのは通訳者が見つからないことでした。トルコと日本の間には観光などでの大きなつながりはありますが、社会運動や市民運動などでのつながりはあまりありませんでした。また観光が盛んに行われている割には、トルコの政治情勢について書いた本も少なく、今でも研究者も多いとは言えない状況です。ちなみにNHKラジオの語学講座でもトルコ語はありません。
そんな中で日本の研究者などにいろいろとあたってみましたが、通訳者があらわれず、非常に困窮しました。もうこうなったら自腹を切って高いお金を出してでもプロの通訳者に頼むしかない!ということになり、トルコのフリーランスの通訳者協会に依頼を投げたのでした。
するとそれを見つけて「これはボランティアで私にさせてください」と名乗り出て来てくれたのがプナールさんなのでした。本当に彗星のような登場でした。
プロの通訳者といっても環境問題にどれくらいの理解があるかどうか分からない。いやたとえ言葉を訳すことができても、ご本人が原発に賛成だったら、やはりこちらの熱意は十分には伝わらない。単に言葉を訳すだけでなく、思いを伝えていただくことが重要なわけですから、プロだといってもその点が大丈夫なのかどうか大変、心配だったのです。
その点、プナールさんは、トルコの環境をこよなく愛し、原発から命を守りたいという豊かな心をもたれているアクティヴィストですから、通訳にうってつけでした。
それでもあらかじめ送った発言原稿の翻訳にかなり苦労されました。原発の構造など初めて学ぶことが多かったからです。
この点で痛感したのは、実は日本に住まう人々は、2011年以降、かなりの社会的規模で原発に関する認識を深めていたことでした。例えば「ベント」という、事故前にはかなり原発に精通している人しか知らなかった単語が、説明抜きで新聞の記事で使われたりしている。
もちろんあいまいにしか理解していない人が多いでしょうが、それでも原発の構造に関する知識はかなり広範に広がったと言えるのです。
これに対してトルコにはそもそも原発がないわけですから、そんなことを知っている人自体が極めてまれなのです。
加えて言葉の壁もあります。とくに技術用語は難しい。そんな中でその時にプナールさんから送られてきた忘れられない言葉があります。「とても難しいけれども、心を込めて翻訳しています」という一言です。
僕もその前に訪れたドイツで発言を通訳してもらった経験や、それ以前に同志社大学社会的共通資本研究センター在籍時に、同時通訳のプロだった方が事務を務めてくださっていて、通訳の大変さを教えてもらっていたこともあり、自分なりに通訳とはどういうものかの認識を深めていました。
さらにドイツで、日本語—ドイツ語通訳をしてくださった桂木さんから、「発言を予定原稿から突然変える事は絶対にしてはならない。通訳者は頭が真っ白になる」ことなども教わることで、話し方のこつも覚えました。(実はこれを桂木さんに通訳しもらっているときにやって、大ピンチに立たせてしまったのでした)
プナールさんは、その後もトルコ国内ばかりかトルコとヨーロッパをまたいでさまざまな反原発活動に参加するようになり、もちろん僕のトルコ訪問のときは毎回、通訳を担ってくれています。さらにポーランドの国際会議の分科会でも僕の発言の英語への通訳も担ってくれました。
通訳のことを詳しく書いているのは、国際的な連帯を進める上で通訳には絶大な位置がありながら、あまり理解が進んでいるとは言えない面があるからです。
通訳はただ単に言葉を自動的に他言語に移し替えるのではない。グーグル翻訳などとは違うのです。先にも述べたように心や思いを伝えなくてはいけない。
そのためには十分な理解とともに、何より、「ああ、この言葉を人々にきちんと伝えたい」という思いをもってもらうことが必要だし、その場合、果たしてその言葉がその国の人にどう響くだろうかなどの考慮もしてもらえると、より内容が伝わっていくのです。
その点で、実は通訳者は、講演の共同実行者なのだと僕は捉えています。
とくに僕の発言は、日本の原発輸出からトルコを、シノップを守るための発言です。ここでは僕とプナールさんは完全に思いが一致している。そこからいかに発言すると、よりトルコの方に分かりやすいか、また展望を感じられるか、僕らの通訳作業にはそんなことの検討も入っています。
だからただ書いたものを通訳してもらっているのではなく、プナールさんに「ここはもっと強調して欲しい」とか「ここはトルコの人には興味がないのではないか」とか、そんな意見ももらって発言を作っています。だから僕のトルコでの講演は毎回、チームとしての共同作業の産物なのです。
今回、プナールさんは甫守さんにも篤い関わりをしてくださいました。そのため私たちはシノップについたその日の午後、多くの人が休んでいる時間帯に、ホテルのロビーでいったん翻訳している内容についての点検、チェックの会議を行いました。甫守さんは2時間かけ、僕も1時間をかけました。その間中、プナールさんが関わっているわけですから、彼女はぶっ通し3時間、翻訳とスライドのチェックを行ったことになります。
こうして迎えたシノップでの会合で、僕らは午前中に発言することになりました。まずはトルコ弁護士連盟の方達の発言があり、続いて日本からの発言のセッションに移り、プナールさんがコーディネーターとして発言。トルコ語なので、僕と甫守さんには分かりませんでしたが、前日にしっかりと互いの思いも確認しあっているので、なんとなく安心して見ていることができました。
続いて甫守さんが発言。主に日本での原発差止訴訟等の事を話しました。中でも参加者からうなり声が出たのが大飯原発の稼働差止を命令した福井地裁の樋口裁判長の判決内容でした。
甫守さんはその幾つかのフレーズを読み上げました。これをプナールさんがしっかり翻訳していたのですが、聴衆の多くが弁護士である事もあって、どよめき起こっているのがわかりました。僕の周りにいる数人の僕と顔見知りになった方たちが、僕の肩や背中を叩いて「ワンダフル!」とささやいたり、親指をあげてGOODサインを送って来たりしてくれました。
甫守さんは他にも高浜原発の運転差止の仮処分決定が出て原発を実際に停めた事、しかしそれがつい数日前に覆されてしまったことなど、日本で起こっている攻防のリアルな現実を語り続けました。
発言が終ってからも「あの判決はすごい。もっと知りたい」との声がでるなど、かなりの反響のあった発言となりました。
それを受けて僕の発言になりました。甫守さんが僕の発言に入っていない重要なことをたくさん述べてくれたので、実に入りやすかったです。
僕は始めに、これが4回目のシノップへの訪問であることを語り、だからもはや故郷のようなもので「僕はふるさとを守るために頑張ります」と発言しました。やんやの拍手をいただけました。
僕がその後に述べたのは、「日本の首相は大嘘つきなのでけして騙されないでください」ということでした。これにも会場は熱く反応してくださいましたが、僕は日本人としてこのことをはっきり、鮮明に伝える事がとても大事だと思っています。
なぜならトルコは親日国で、日本人のことをとてもよく思ってくれているからです。そのトルコの方たちを安倍首相と三菱重工は嘘でだまし、安全性などとても確保できていない原発を売りつけようとしているのです。
そんなことは断じて許せないし、何よりこれが大嘘であることをトルコ中の人々に機会あるごとに伝えなくてはいけない。それこそが信頼に報いる道だとも思うのです。
続けて今回、僕が話したのは、日本の原発メーカーのトップを走っていた東芝が大崩壊を迎えていることでした。ちょうど30日に東芝がウェスチングハウスの売却を発表した事もあり、このことで安倍首相の原発輸出路線そのものが大きく揺らいでいることを強調しました。
さらにシノップに原発輸出を狙っている三菱重工もかなりの苦境にあえいでいること、そもそも三菱とあらたな原発会社であるアトメアを創設したフランスのアレバがすでに倒産状態になっており、フランス政府からそのアレバを救済するための投資を問われて、三菱がしぶしぶ応じている状態にあること。社内で大きな反対の声があり、なおかつ日本の経済界からも不安視する声が強まっていることなども話しました。
また三菱重工製の原発には、蒸気発生器に致命的な欠陥を抱えていて、技術的にかわせておらず、アメリカのサンオノフレ原発で三菱製のこの部品が故障して同原発が廃炉になってしまったことなども話し、三菱自身がかなり苦しい状態にあることも強調しました。
そして僕はこの東芝の大崩壊の背後にあるものこそ、世界の民衆の脱原発の精力的な動きである事を語り、原発輸出をとめる展望が大きく切開かれている事、だからともにさらに頑張るべきことも訴えました。最後に「必要ならば何度でもトルコに来ます。Power to the People」と発言をしめくくりましたが、これにもとても熱い拍手が返してもらえました。
発言後も何人もの方達が寄って来てくれて、握手したり、ハグをしたりしてくれてとても嬉しかったです。
ともあれこのように僕は甫守さん、プナールさんとともに重要なミッションを終える事ができました。自画自賛ですが、私たちの講演は大成功だったと思っています。
続く
次回はフランスの方達の発言について触れます。
日本に帰ったら、シノップ発言の原稿も掲載します!
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今回のトルコ訪問、7月のドイツ訪問に支援を訴えていますが、さらにその後にさらにヨーロッパとの連携を深められる可能性が今回開かれました。こうした原発をなくすための国際連帯行動のためにぜひ力をお貸しください。
以下に振込先を記しておきます!
振込先 郵貯ぎんこう なまえ モリタトシヤ 記号14490 番号22666151
本記事(1365)に誤記と思われる部分がありましたので、コメントを投稿させていただきました。
・「ですからから」
→「ですから」
「明日に向けて(1367)アレバは沈みかかり三菱重工も追いつめられている(トルコで訴えたこと−2) 」にも、
・「訴え事」
→「訴えた事」
・「国産発の」
→「国産初の」
・「高めてましょう。」
→「高めてゆきましょう。」「高めましょう。」
いつも誤字を丁寧にご指摘いただきありがとうございます。対応まで時間がかかってしまって恐縮ですが、ここでご指摘いただいたことをようやく反映して訂正しました。残りのものもまた追いかけていきます。
それともトルコ人はハイパーインフレの中、エネルギー購入のために働き続けろ!って事でしょうか?
日本のように資本や技術力が有る国ではないのに、そこに日本人が乗り込んでいって「原発反対!」は余りにも品の無い行為だと思います。
原発は確かにリスクだが、トルコにとっては無い方がはるかにリスクが高いんですよ?
きっと、現地で数年一生懸命働いて貯めた金が紙切れになっていくのを体感すれば解っていただけると思います。