FPと文学・エッセイ 〜是れ日々なり〜

ライフプラン、資産設計のほか、文学・社会・芸術・文化など気まぐれに日々、FPがつづるエッセイ。

目先の損得にとらわれない これからの年金、早くもらう方法と多くもらう方法

2014-11-23 00:45:00 | シニア&ライフプラン・資産設計

年金もらい時の損得は金額だけでは測れない
年金がもらえる世代になると、年金を繰上げるかどうかで迷う人がいるかと思います。繰上げが損か得かで考えると、実際に繰上げる年からの受給総額と、65歳からの通常の受給総額を比較すればわかりやすいでしょう。例えば5年の繰上げで60歳から受給した場合の受給総額は、76歳中に65歳からの受給総額に追いつかれ、その後は受給総額が逆転し時間の経過とともにその差額は開いていきます。

5年繰上げで単純に金額で比較すれば、76歳までの受給総額では繰上げした方が多くなり得ですが、それ以降も長生きすると総額でもらえる金額が少なくなり損になります。平成25年の60歳の平均余命は男性23.14歳、女性28.47歳ですから、平均的には生涯を通じてみれば、繰上げは得ではないということになります。しかしこれだけでは、年金をもらう本人にとって、本当はどちらが得か損なのかわかりにくいから迷うのでしょう。

金額の満足度なのか、今使える満足度なのか
この年金受給については、金額的な効用のほかに時間的な効用があるから迷うのです。効用とは満足度のことです。お金については、一般に金額的には高い方を、時間的には早くもらう方を人は選好します。その方が満足度が高く得だと思うからです。自分の満足度を最大化することを人は選択するわけですが、繰上げるかどうかを選択しにくいのは、どちらの満足度が高いか測るのが難しいためです。

生活資金の不足が切迫している、あるいは逆に余裕があるならば、迷うことはないかもしれません。例えば、定年退職後の生活で年金に頼る部分が大きい人にとって、本来の受給額が減ってしまおうがさほど迷うことなく1ヵ月でも早くもらうことで、その人の満足度すなわち効用は最大化するでしょう。確かに金額でみれば損することになるでしょうが、早くもらって「今が使い時」という時間的な効用により替えがたい満足度がもたらされるのです。

一方で、年金に頼らなくても生活にそれほど困らない人は、もらえるものは早くもらって「今が与え時」となる可愛い孫の小遣いに使うとか、元気なうちに夫婦で快適な生活のためにさっさと使ってしまうということが最大の効用となります。こういう人たちにとっては、損の勘定(感情)とはならないでしょう。

効用を見極められない3つの要因
実際に繰上げるかどうかで迷う人は、損得の分岐点が微妙なバランスのところにあり、金額と時間の効用をどういう基準で判断したらいいかわからないからです。これについて受給者の立場で整理すると、次の要因が挙げられます。

1.年金の「減額率」の意味がよくわからない。
2.繰上げた時の「受給額」が正確にわからない。
3.目先の「効用」(満足度)にとらわれている。

■5年で30%の減額率の意味がわからない
1つ目には、「減額」の意味がよくわかっていないということがいえます。繰上受給では、1ヵ月当たり0.5%の年金が減額されます。1年で6%、5年では30%もの減額になります。仮に65歳からの年金受給が100万円あるとします。5年の繰上げでは、60歳の年でもらえる年金額は70万円(100万円×0.7)になってしまいます。これは、1年の減額率が6%で、その分が5年分続くから合計30%の減額率になるということではありません。金額でいうと、60歳での年金額94万円(減額率6%)がその後も5年間続くということではなく、実際には30%分減らされた70万円が毎年支給されることになるのです。簡単に書くと、「マイナス6%×5年」ではなく、「マイナス30%×5年」となります。

減額は65歳までではない、一生続く
2つ目には、年金はいったん繰上げると、減額された金額が一生(生きている限り)続くということです。誤解されやすいのは、年金が減らされるのは「繰上げた年だけ」、あるいは「繰上げた年から65歳まで」と思われがちなことです。つまり5年の繰上げでは、60歳でもらえる年金額は上記では70万円なので、94万円と思っていた額と24万円もの開きがあるわけで、これが5年間でみたら470万円(94万円×5)もらえると思っていたのに、350万円(70万円×5)しかもらえず、これが生涯続くわけですから、この乖離は総額となるとかなりのものになります。

「将来のことより今がだいじ」というバイアス
3つ目には、人間の心理として、目先の利益を最大限優先したくなることが挙げられます。これを、行動経済学では「現在性バイアス」といいます。バイアスというのは、「認知的な偏り」という意味です。将来得られるはずの利得が減ってもいいから、現在に早めて受け取りたいという心理的欲求は誰でも経験するところです。そのくせ、人は少し先の将来のこととなると、自分のことなのに急速に関心がなくなってしまいます。「将来のことなんてわからないから、今がだいじ」というわけです。このようなバイアスにとらわれていると、今の生活が少しでも苦しいと、つい1年くらいなら、と年金を早くもらいたくなってしまいます。

このように、そもそももらえる金額や仕組みが正確に把握できていなかったりバイアスにとらわれていたりすると、効用の比較などできるはずもなく、それゆえ選択に迷うわけです。なんとなく「お金が早めにもらえるなら」と思ってしまいがちですが、こういう考えこそ将来に大きな「損」を招きます。繰上げの損得を知るには、繰上げたときの受給減額分に見合った効用が「今」だけなのか、将来のどの時点まで及ぶのか、それを見極めるためにも上の3つのことに注意してもらいたいと思います。

繰下げも同時に見据えて考えてみる
もし目先のことにとらわれずにすむなら、繰下げという方法もあります。もらうのを早めるのではなく、もらうのを遅くすることで1ヵ月当たり0.7%、1年で8.4%、3年でも25.4%、5年の繰上げでは40%もの年金増額となり、これが生涯、毎年受給できるわけです。資産運用でこれほどのリターンを出すのは相当至難です。65歳過ぎても働けるうちは働けるなら、それまで繰下げて受給することで、それなりの効用は大きいわけです。ちなみに70歳まで5年繰下げた場合、80歳中に65歳からの受給総額に追いつきます。このように、年金の繰上げは繰下げも同時に見据えて今から考えるべきです。

減額による効用をイメージする
目先1年やそこらでお金が不足するためにわざわざ繰上げるのか、5年、10年、その先まで収入を補うためなのか。よくよく考えてみる必要があります。当面、目先のことだけが問題であるなら、年金を繰上げる前に、まだほかに見直せるライフプラン上の対策があると思います。まずは迷う前に、繰上げた場合にもらえる金額を出してみるといいでしょう。ちなみに年金100万円を1年早めると、今後毎年6万円、1ヵ月で5,000円ずつの減額となります。これを基準にして、あなたにどの程度の「効用」をもたらすか(プラスもマイナスも)イメージしてみてください。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿