FPと文学・エッセイ 〜是れ日々なり〜

ライフプラン、資産設計のほか、文学・社会・芸術・文化など気まぐれに日々、FPがつづるエッセイ。

人は人生航路のリスクをどう生きればいいか

2015-12-05 16:45:49 | シニア&ライフプラン・資産設計

 ●人生航路のリスクを意識する時

人は「リスク」をどういう時に最も強く意識するか? 危機や災害が目前に迫った時、あるいはまさに現実に起こっている時か。しかし、現実に危機が起こってからでは遅すぎる。

テロ、災害、事故、病気、ケガ、失業、破産、老い、そして死―。 

もしあなたが今幸せなら、その人生は順風満帆で波風立たない平和な航海であると言っていいだろう。そこには難破、漂流する原因となるものは何もない。しかし、それはないのではなく、当面見当たらないだけなのかもしれない。目前に暗礁があってもそれを感知することができないだけなのかもしれない。何の障害もなければ、なぜ人は保険に入るのか。 

今、漂流していると思ってみるといい。人生を漂流と思うのは(陳腐な譬えではあるが)今順風な人にとっては難しいかもしれない。であれば、航海と思っていただければいい。たとえ豪華客船だろうがいつ難破するかわからない。あなたはこれまでの人生でいいこともあれば悪いこともあっただろう。ずっといいことばかりの人生だって、これからは悪いことが起こるかもしれない。 

さて、幸い小さなボートがある。ボートには30日分の食糧と水が積まれている。つまり、これから嵐や鯨の大群の体当たりに遭遇しない限り、何とか30日は生きられそうだ。日除けテントもあり強い日差しでやられてしまうこともない。30日の時が流れるまでに救助の船が通りかかれば、助かる見込みはある。 

こう考えると、漂流直後にパニック状態であったのが冷静になってくる。最初は孤独であるが怖れはなくなる。しかし、孤独であることは不安でもある。不安は先が見えないから起こる。事態が見えだしてくると、不安は怖れとなり、おののきとなる。漂流とは外界との隔絶である。 

●危機を前に座して待つか?

さて、この大海原の小ボートの上で、あなたのリスクとは何か。明らかに30日経過すると飢えて死ぬことである。30日経たなくても暴風雨に遭い、ボートは破損するかもしれない。あるいはその前に孤独に苛まれて気がふれてしまうかもしれない。いや、もっと簡単に絶命できる方法はある。この絶海で、微塵でも生きる望みを諦めれば、そこで息絶えることはできるのだ。誰の助けもないのだから。いずれにしても、この30日間の状況そのものがリスクなのだ。 

さあ、どうする? ひたすら座して待つか? 何を? 救いが来るのを。海では、声を上げども声は届かず、潮で涸れて声も出ない。それでも神や仏を祈り、信仰的境地となって命涸れるまで目を閉じて瞑想状態でいられるか。 

ところで、ボートの中をもう一度見てみよう。簡易調理用のナイフがある。これで生き物を殺すことができる。海は、魚の宝庫ではないか。少しは食いつなぐことができる。さすがに海水は飲めない。だが、器に雨水を溜めることができる。そうするうち、小さな島に漂着するかもしれない。貯蔵食も切り詰めれば日を持たせることができる。つまり死は、30日後ではない。とはいえ、不慮があれば一日で死に至る。リスクを目の前にとらえられないということは、限りなく確実に死、破滅に向かっていくことなのだ。 

●リスクを目の前に現実化する

人は、この30日が10年、20年、いや30年先だとリスクとしてとらえることはできない。というより、そんな先にリスクなどないのだと思う。リスクのない人生を生きられればこんな楽で幸せなことはない。 

まず、リスクを現実化することである。漂流して30日分の食糧と水しかない。それと同じような状況をイメージ化する必要がある。何も自分が広い海の中で小舟に乗って流されているのを思い浮かべることはない。目の前に危機があるかないか、あればそれを具体的に現前化(眼前に現実として現す)ことである。 

老後の破滅はどうか。65歳からの年金が15万円であれば、月いくらで働ければいいか。働いて月15万円稼げて合わせて30万円でやっていけるなら、無理な運用など考えなくてもいい。70歳以上でも働ける会社は増えている。退職してまで人に仕えて働くのは嫌だというなら、退職後も月15万円が入る技量を身に付けておくことだ。 

―― プロでもないのに、そんなことができるだろうか。

と、思うだろうか。

あなたが40代、50代なら十分に仕事で知識と技術と経験を身に付けているはずだ。30代でも、この先それが可能である。20年も30年もやってきたことが「プロではない」で通じるであろうか。病気や事故は、それとは別に今から保険と貯蓄(と無理からぬ運用)で備えればいいことだ。 

問題は、漂流中の30日のリスクをどう生きるかだ。



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