日常

「マリス博士の奇想天外な人生」

2013-03-21 01:14:18 | 
キャリー・マリス(著), 福岡伸一(翻訳)「マリス博士の奇想天外な人生」ハヤカワ文庫NF(2004/4/9)を一気読み。面白かったー。
翻訳は「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書(2007/5/18)で有名な福岡伸一さん!

----------------
<内容(「BOOK」データベースより)>
DNAの断片を増幅するPCRを開発して、93年度のノーベル化学賞に輝いたマリス博士。
この世紀の発見はなんと、ドライブ・デート中のひらめきから生まれたものだった!?
幼少期から繰り返した危険な実験の数々、LSDのトリップ体験もユーモラスに赤裸々告白。
毒グモとの死闘あり、宇宙人との遭遇あり…
マリス博士が織りなすなんても楽しい人生に、きっとあなたも魅了されるはず。
原題は Dancing Naked in the Mind Field
----------------

<目次>
1:デートの途中でひらめいた!
2:ノーベル賞をとる
3:実験室は私の遊び場
4:O・J・シンプソン裁判に巻きこまれる
5:等身大の科学を
6:テレパシーの使い方
7:私のLSD体験
8:私の超常体験
9:アボガドロ数なんていらない
10:初の論文が「ネイチャー」に載る
11:科学をかたる人々
12:恐怖の毒グモとの戦い
13:未知との遭遇
14:一万日目の誕生日
15:私は山羊座
16:健康狂騒曲
17:クスリガ開く明るい未来
18:エイズの真相
19:マリス博士の講演を阻止せよ
20:人間機械論
21:私はプロの科学者
22:不安症の時代に
----------------


目次を眺めるだけで、お堅い科学者とは全く違う本だという事が分かる。
常識とは常に仮初めな意識の集合体。
常識を疑い、常識を笑う。
真理に向けて一直線。果敢に突っ込む天才科学者。物理学者ミチオ・カクさんのような自由奔放な本物の知性を感じる。

生物の勉強をしたことがある人なら誰もが知っているPCR法。その発見者でノーベル賞もとったキャリー・マリス博士の自伝のような本。
ぶっ飛んでて突き抜けてます。そして、面白い!
どんな暗闇でも、突き抜けてしまえばそこは明るい。


科学や学問は、よくわからないものを虚心坦懐に追求していく学問として生まれたはず。
人間を含めた自然を日々観察していると、まるで分からないばかり。
だからこそ学べる。面白い。学ぶことがなくなると、きっと面白くない。
だから、分からないものが適切な塩梅で常に用意されている。


自分も、マリス博士のように頭を柔らかくして、既得権益や常識を月ね気手、自由な発想で森羅万象を探求していきたい。


エピソードもひとつひとつが面白い。簡単にご紹介。

■PCR法の発見で日本国際賞を授賞。授賞式で天皇陛下に会った時、美智子皇后に「sweety(かわいこちゃん)」とあいさつしたらしい。ただ、あまりにもフランクなので、美智子皇后も笑顔だったらしい。
■合成麻薬LSDが違法ではないころ、自分でLSDを人体実験してサイケデリック体験を記載している。(物理学者ファインマンに似てる)
例えば
『私たちは特別な方法で交流していた。特別に作りだされた場所からお互いの心の中を見ていたのだ。』
『LSDは私が既にもっていることを変革する力はあまりない、ということだった。LSDはいわばそこに深みを与えるものであって、方向性を与えるものではない。そういうことだった。』

■超空間を移動する奇妙な女性から命を救われる話。(これもすごい実話だったなぁ)
■マリス博士が大学院2年のとき、天文学知識はゼロだったにもかかわらず、空想と直感だけで「時間逆転の宇宙論的意味」というSF的内容の科学論文を書いた。その初論文が科学雑誌で最も権威あるNatureに掲載された、という実話。
それもすごいが、ノーベル賞をとったPCR研究の論文はNatureやScienceの一流とされる雑誌には全て落とされてしまった。このことも驚いた。
マリス博士の教訓は「賢人が世の中を正しい方向に導いてくれているというのは単なる幻想だからやめなさい」と。
『私たちは自分の頭で考えねばならないのだ』と説く。
学問世界で、あまりに進んだ考えは、それがあまりに進んでいるがゆえにすぐには理解することができない、ということ。

『社会的に重要とされる問題のうち、それが本当かどうかきちんとした実験的検証を経ているものはほとんどないのである。政策決定に必要なのは、選挙民をだまくらかしてそう思わせることだけである。』
科学的根拠がないのに一般的に「常識」と流布されている例として、
・AIDSがHIVで起きるという考え方(HIVとAIDSの因果関係を明確に示した原著論文はいまだないらしい!!)、
・化石燃料の使用が地球温暖化をもたらすという考え方、
・フロンガスがオゾン層を破壊して穴を作り出すという説
などをあげている。 
マスコミの先行報道で特に根拠もなくある説が流布されると、それが独り歩きして「常識」のような顔をして居座ってしまう。誰も検証すらしなくなると、疑われることすらなくなるという事が結構あるらしい。これはなんとなくわかる。
マリス博士が言うように『私たちは自分の頭で考えねばならないのだ』というのは、真実だろう。
今みたいに情報洪水の時代になると、意識世界で情報処理できなかったあらゆる膨大なノイズ情報が無意識にストックされ、いつのまにか意識誘導されてるのかもしれない。
■言葉をしゃべる光るアライグマ(彼は宇宙人?としている)と遭遇した時の超常現象
■占星術(星占い)はかなりすごいので科学者は謙虚に勉強しなさい、というお話
・・・などなど。


どんな世界であっても、その世界を突き抜けている人は面白い。
偏見や固定観念がなければ、僕らは子供のように自由だ。
というか、既に誰もが自由。生きているという事は、その自由さを自覚することだ。
神様も自由意思だけは侵害してこない。

どんなものでも自分が理解できないものは、こちらの知性がその理解に到達できていないだけ。それは自分の責任。
だから人生は学びの連続。終わりなく果てしないからこそ、楽しい!



----------------------------
キャリー・マリス「マリス博士の奇想天外な人生」
『そもそも私の、世界へのアプローチは、この世界になにかグランドデザインがあってそれを証明しようとする、というものではないんだ。
仮説を証明するデータがほしいんじゃない。
むしろ世界がどうなっているか知りたいだけなんだ。
それは子供のころガレージで実験していたころからまったく変わっていない。
だから最初に考えていた通りにならなくても全然かまわない。
むしろ、あれ?そうなんだ!という展開の方が楽しいよ。

でも現在の科学はそうはなっていない。みんな自分の描いた世界を証明しようとしているんだ。
エイズがレトロウィルスによっておこる、人間の活動によってオゾンが破壊され、オゾンホールができる、地球が温暖化している。これらはみんな仮説だよ。
そしてやろうと思えばそれを支持するデータを集めてくることなんてことは簡単なんだ。
でもそれは世界の成り立ちを知ろうとする行為ではない。

人類のできることといえば、現在こうして生きていられることを幸運と感じ、地球上で生起している数限りない事象を前にして謙虚たること、そういった思いとともに缶ビールを空けることくらいである、リラックスしようではないか。
地球上にいることをよしとしようではないか。最初は何事にも混乱があるだろう。
でも、それゆえに何度も何度も学びなおす契機が訪れるのであり、自分にぴったりとした生き方を見つけられるようにもなるのである。』
----------------------------