時間刻みや分刻みで、学校生活の様子を細かいところまで観察すれば、障害のある子どもを傷つけるようになる多くの行為を確認できます。
たとえば、かっちゃんの様子を見てみましょう。
【その教室では、6才のかっちゃんはいつもお母さんと一緒でした。
お母さんが付き添いを求められた理由は、かっちゃん一人では普通学級の生活は無理だとみなされたからでした。教育委員会は、かっちゃんのニーズ(レベル)にあった教室への入学を勧めました。
しかし、保育園でみんなと一緒の姿を見てきたお母さんは、普通学級への入学を希望しました。そこで教育委員会は、お母さんの付き添いを入学の条件にしました。
かっちゃんの席は、廊下側の一番後ろの席で、となりにはお母さんのイスが置かれていました。みんながワクワクした気持ちで席替えをするときも、かっちゃんの席は替わりません。
休み時間や、体育館への移動の時、クラスメートが車椅子を押していると、校長先生に注意されました。「危険だから、車椅子には触ってはいけません。
音楽室での授業も、かっちゃんは教室でお母さんと二人です。音楽室が3階にあるので、車いすのかっちゃんは誰も手伝ってくれないと上がることができません。お母さんは、一人でも抱えていこうとしましたが、校長先生は他の子どもに危険だからやめてくださいと言いました。
かっちゃんは教室の窓際に行き、空から聞こえてくるみんなの歌声を聞いていました。
遠足も、みんなのバスの後ろを、お母さんの運転する車でついていきました。
プールは入れてもらえませんでした。お医者さんはふつうにプールに入っても大丈夫ですよと言うのに、校長先生は耳を貸しませんでした。かっちゃんは、日曜日にはスイミングスクールに通っています。
学校で、母の日の絵をみんなで描いた時、かっちゃんもクレヨンでお母さんの絵を描きました。でも、その絵はただの線にしか見えなかったので、先生はかっちゃんの作品だけ教室に飾りませんでした。
あるとき、午後の授業で疲れてかっちゃんが居眠りしてしまいました。そのとき、先生は、「分からない授業を聞いているから、つまらなくて寝てしまうんじゃないですか。」「かっちゃんには、かっちゃんにあったレベルで丁寧に教えてくれる教室に行った方がいいんじゃないですか」と言いました。
秋の運動会では、「日差しが強いから、クラスの席では心配でしょう」と言われ、かっちゃんは一日中、来客用のテントの下にいました。
50メートル走は、1年生全員が走り終わったあとに、お母さんと二人で走りました。ポケモンのダンスは、ポケモンのお面を頭につけて、テントの下で見ていました。
玉入れでは、みんなの後ろで、お母さんが拾ってくれた赤い玉をずっとにぎりしめて、みんなが投げるボールを見上げていました。
運動会が終わってから、かっちゃんは学校を休みがちになりました。
1年生の終わり、校長先生と担任の先生が言いました。
「お母さん、一年やってみて分かったでしょう。かっちゃんには、みんなと一緒は無理でしたね。何一つできるようにならなかったし、一年間ムダにしてしまいましたね。今からでも間に合いますよ。かっちゃんの障害にあった教室に行ってがんばってください。かっちゃんを支えてあげられるのはお母さんしかいないんですよ」
かっちゃんのお母さんはその言葉を聞いて、特別支援学級に転校することに決めました。
新しい学校の、新しい学級で、かっちゃんはよく大声を出して落ち着かなくなりました。一日中大声で泣いている日もありました。
専門家の先生は云いました。
「一年間、普通の子どもたちのなかにいて、自尊心が傷ついてしまったのでしょう。かわいそうに。病院に行って、落ち着ける薬を飲ませてください。そうしないと、ここでは面倒みれませんよ」】
この種の恐ろしいエピソードが、「分離教育の古い文化」の中では典型的であり、例外でないことを考えるとき、「障害」に関連して個々の子どもの状態が落ち着かないことのすべてが、それ自身、いつも障害が理由だということは考えられません。
障害のある子にかぎらず、どんな子どもでも、そのような疎外、差別、扱いを、堂々と見せつけられ続ければ、「落ち着かない子にさせる」ことは実際に十分可能です。
他の分野では、この種の行為を容認することは、人間を無能力化することとして認識されてきました。
すなわち、他の人々がわざと、「違い」のある人々がもつ能力を使わせない態度をとったり、無視したりすること。つまり、彼らが行動しようとする試みを無視したり、彼らに発言させないようにすることで、その人の能力を発揮させることができないようにさせる行為だと理解されてきました。
そして同じ課程が、障害のある子どもたちの周りに働いていることが、少しずつ理解されるようになりました。
障害のある子どもの学校問題に関わってまもなく、私は人格を奪うこれらの傾向にはっきりと気づきました。これらのエピソードにつけられる名前は「悪性の教育心理」といいます。
この悪性というきつい言葉は、その子どもらしさを深く傷つけ、おそらく身体の良い状態さえも損なう教育環境の兆候を示すきわめて有害なものを指しています。
とくにストレスと癌のような症状の発生の研究と共に、心理的環境が健康に与える影響は理解され始めたばかりです。
しかし、悪性という言葉は必ずしも学校側に悪意があることを意味しません。
なぜなら学校の仕事のほとんどは、やさしさと良心、思いやりと子どもの成長と幸せを願って行われているからです。悪性は、私たちの文化的遺産の一部なのです。
そのリストを上げてみましょう。
1・だます
子どもの関心をそらしたり、子どもになにかをさせたり、言うことを聞かせるために、だましたりごまかしたりすること。
2・できることをさせない(デスエンパワーメント)
子どもがもっている能力を使わせないこと、子どもがやり始めた行為を最後までやり遂げる手助けをしないこと
3・赤ちゃん扱い
赤ちゃんにはまだ言葉が分からないし、赤ちゃんに何かを尋ねても意味がない、というような態度で接すること。
4・おびやかす
おどしたり、力づくで、子どもに恐怖心を抱かせること。
5・レッテルを貼る
子どもと関わるときや、子どもの行動を説明するとき、自閉症、または知的障害、といった診断区分をおもな分類として使うこと。
6・汚名を着せる(スティグマ)
子どもをあたかも病気の対象、部外者、落伍者のように扱うこと。
7・急がせる
子どもがとても理解できないほど速く情報を提供したり、選択肢を提示すること。
子どもができる以上の速さでものごとをさせようと圧力をかけること。
8・主観的現実を認めない(インバリデーション)
子どもが経験している主観的現実、とくに子どもの気持ちを理解しないこと。
9・仲間はずれ
物理的に、あるいは、心理的に子どもを追いやり、排除すること。
10・もの扱い
子どもを感情のない物のように扱うこと。子どもに感情があるとは考えず、これからどこへ行くのか、何をするのかを説明しないこと。食事やトイレの時にも何も言葉をかけずに世話だけをすること。
11・無視する
子どもがその場にいないかのように、会話をしたり、他の子どもたちだけを相手に作業を続けること。子どものできないことや、失敗を、本人の前で親に告げること。
12・無理強い
子どもに何かを強いること、要求をくつがしたり、子どもの選択の機会を否定すること。
13・放っておく
子どもの願いを聞こうとしない、明らかなニーズを満たそうとしないこと。
14・非難する
子どもの行動や能力不足から起こる行動の失敗を非難することや、子どもが状況を誤解したことを非難すること。
15・中断する
子どもの行為や考えを突然妨げたり、妨げて不安にさせること。露骨に子どもなりの行為や考えを止めさせること。
16・からかう
子どもの「おかしな」行動や言葉をあざけること。いじめる、恥をかかせる、子どもをだしにして、冗談を言うこと。
17・軽蔑する
能力がない、役立たず、価値がないなどと子ども本人に言うこと。子どもの自尊心を傷つける発言などをすること。
(つづく)
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ありんこ
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