「日本存亡のとき」(3)
最近の世界情勢を窺って、そして「日本存亡のとき」を読み終え
ると、その中で、どうしても残して置きたい記述があったので記し
ます。以下は高坂正尭氏が「日本存亡のとき」の中で残した記述で
す。
「私は一九世紀半ばのフランスの知識人トックビルの偉大さをあら
ためて痛感させられた。」 「トックビルはフランス革命に至る過
程を研究して、専制は人々の主張や欲求を力によって強引に押さえ
つけるものだから、不満が深く潜行する形で蓄積される。そうした
体制は人々の力を十分に利用できないので停滞し、いつかいきづま
るので、改革が必要となるのだが、改革を始めた途端に人々の不満
が噴出する。少々の権利を与えても、人々は満足しない。しかし、
いったんパンドラの箱を開けてしまった後、再び抑圧の体制に逆戻
りすることはできない。」(高坂正尭・著「日本存亡のとき」)
チュニジアで起こった「ジャスミン革命」に端を発する所謂「ア
ラブの春」と呼ばれる一連の民主化運動は情報端末の普及によって
もたらされた。携帯電話やインターネットの情報は階層や地域社会
は言うに及ばず国境さえも容易く越える。抑圧された人々はたとえ
顔を合わして話したことがなくてもて、権力者に対する不満の下に
行動を共にした。その流れは今や親米国家サウジアラビアにも及び、
サウード家の国王による絶対君主制にも綻びが見え始めたのかもし
れない。女性差別に反発した女性たちが抗議の声を上げ始め、遂に
アブドラ国王は女性の参政権を認めることを発表した。ただ、20
15年というのは如何にも先の話で、トックビルの言うように「少
々の権利を与えても、人々は満足しない」に違いない。つまり「ア
ラブの春」はすぐには終わらないだろう。
そして、その影響はアジアにまで及び、軍事独裁政権のミャンマ
ーも民主化指導者アウン・サウン・スーチー女史の軟禁を解き、経
済の「改革を始め」て 「パンドラの箱を開け」ようとしている。
恐らくそれらの動きは「改革を始めた途端に人々の不満が噴出」し
て、「再び抑圧の体制に逆戻りすることはできない」だろう。そし
て、その流れは、かの共産党独裁政権の中国にも及び始めている。
党指導者の批判の矛先が民衆から当局者へ向けられ始めた。もしも、
中国共産党による国家体制が崩壊することにでもなれば、「アラブ
の春」は「アジアの春」へと移り変わることだろう。ただ、有史以
来内乱を繰り返してきた中国は民族主義による独立国家が乱立して
紛争が頻発し、中国共産党の崩壊はアジアの混乱をもたらすことに
なるかもしれない。日本は中国を如何に民主化へと導くことができ
るかを真剣に考えなければならない。それというのも我々は取っ掛
りは何時も息急き切って始めるが、厄介が降りかかるとあっさり投
げ出してしまうからだ。「日本存亡のとき」とは我々の民主主義が試
される時である。それには日本は中国国民にとって信頼するに足る
国家でなければならない。つまり、過去の忌まわしい記憶を甦らせな
いほどの信頼を築くことで、今の北朝鮮のような民族主義的孤立主
義に戻ってはならない。
「アラブの春」が「アジアの春」へと移り変わるとすれば、日本への
期待はかつてない程大きなものになるだろう。ただ、もう二度と失敗
は許されないが。
「半分眠りながらキーを打ってるので、目が覚めたら消去するかも
しれません」
(おわり)