「地球資本主義」

2012-04-27 06:47:28 | 「パラダイムシフト」
  


               「地球資本主義」


 世界経済のグローバル化によって、国内産業は開発途上国と呼ばれ

た国々の安価な人材コストを求めて流出し、それらの国々に経済成長

をもたらし、国内では格差が拡がっているが、しかし一方で、国家間

格差は急速に縮まっている。それらの国々は、これまで市場から締め

出されていたから負債もなく、経済成長の恩恵はそのまま国家財政を

潤している。財政危機は途上国の問題ではなく、寧ろ、経済成長を果

たした国が残した債務こそが問題をもたらす。つまり、貧乏人は借金

など出来ないのだ。ということは、経済成長の「幻想」こそが債務を

生み出す根源である。我が国は、負債を埋めるために経済成長を促そ

うとして金融緩和を行ない、それが再び債務を生み、その泥縄から何

時まで経っても逃れることができず、この二十年間、経済の「緩やか

な安定成長」を実現するためにどれ程不安定な債務を積み上げて来た

だろうか。しかも結果ははかばかしい成長さえ残せず、一方で債務だ

けは着々と増え続け財政を圧迫して今では巨額の債務を前にして「財

政再建なくして財政破綻やむなし」にまで追い込まれてしまった。借

金の返済を経済成長の幻想に縋って再び借金をして取り戻そうとして

ローン地獄に陥ってしまったのだ。私は常々思っているが、市場経済

の下で政治が経済活動を阻害することがあっても、果たして実体経済

を牽引することなど出来るのだろうか。

 経済とはものを売って利益を上げることなら、一方でものを買う者

が居なければならない。何も持たない者が電化製品や自動車を喉から

手が出るほど欲しがるのは分るが、ほとんどの家庭では大概のものが

揃っている。すでにあるものを新しいものに買い替えるのは余裕がな

ければ出来ないが、いくら金融緩和を行ってもお金は金融市場に流

れて一向に実体経済を生む消費者の懐まで廻ってこないし、それど

ころか所得は減っていくばかりだ。更に、借金をしてでも欲しくなるよ

うな新製品が生まれて来ない。より鮮明に映るテレビと言えども所詮

はテレビでしかない。今やイノベーションは既存のカテゴリーの外に

創出されなければならないが、日本の企業は相変わらず創業時から

の伝統に縛られて「創造的破壊」を試みようとはしない。例えば、この

国にもアップル創業者のスティーブ・ジョブスを崇敬する数多のジョブ

シアン(?)が存在するが、もちろん、私も彼の偉業を認めているが、

しかし、わが国には彼の功績に匹敵する人物が存在しなかっただろう

か?近々では今世紀中の発明は無理だと言われた青色発光ダイオード

を生んだ中村修二や、i p s 細胞の開発に成功した山中伸弥など何れ

も世界はその功績に驚嘆したが、ところが、我々は彼らをジョブスのよ

うには称賛しない。見方を変えれば、もしも、ジョブスが日本に於いてい

くら業績を残しても、決して我々は彼国のジョブスの様には崇めることは

なかっただろう。ということは、この国にはジョブスのような仕事を正当に

評価する社会の素地が欠落しているのではないだろうか。恐らく彼は、

世間から「変わり者」扱いされて、社会や組織を説得するために多くの心

労を使い果たして、彼国で残した業績の半分もものにできなかっただろう。

今や、この国を支えてきた技術者の多くは、正当に評価されない会社に

見切りをつけて厚遇してくれる新興国へと流出しているという。中村修二氏

の例を引くまでもなくこの社会は個人の独創性をどれほど冷遇してきたこと

か。イチローは大リーグで活躍するから称賛されているが、日本でいくら大

記録を残しても蛸壺の中の出来事で終わっただろう。つまり、個人よりも組

織が優先するのだ。断言してもいいが、ジョブスの書籍で薫陶されたこの国

のジョブシアンから二人目のジョブスは決して生まれて来ないだろう。ジョブ

スの後を追い駆けてもジョブスには為れないのだ。唯一肩を比する可能性が

残されているとすれば、自分の道を進むしかないのだが、自分の道を見失っ

た者が彼の後を追う。しかし、追随者は教祖にはなれないのだ。彼らは精々

SNSでジョブスが残した言葉をジョブス気取りで熱く語るだけだ。この国では

人々が自然循環型社会を望んでも、有ろうことか政治が既存業界の利益を

守るために自然エネルギー利用の芽を摘み取ってしまい、そんな新規起業家

の足を引っ張る保守的な産業界から画期的なイノベーションが生まれてくる

はずがないではないか。

 「経済成長なくして財政再建なし」は、経済成長と財政再建の二兎

を追うための都合のいい言い訳だった。しかし、誰も「経済成長せず

に財政危機になる」という結果を予想せずに、実は、財政再建など優

先的には考えていなかった。だから、財政再建が叫ばれる度に経済成

長のための財政緩和が求められ、需要が冷え込んでいるにも拘らず、

経済成長のための投資が増え更に債務が膨らむ結果となった。恐らく

それらは政治家が経済界に唆されたからに違いなかった。ところが、

グローバル経済の下で、より安価なものが良いものを駆逐して、もの

の価値基準が崩壊し経済はデフレスパイラルへと堕ちていった。今や、

合言葉は「デフレ経済からの脱却」となり、果たして需要の回復が見

込めないままに如何にしてデフレ経済を克服することができるだろう

か。恐らく、金融政策だけで景気を回復させることなど出来ないだろ

う。それはバブル期、急激なインフレに対して当局がいみじくも漏ら

したように「金融政策の限界」を知ることになるに違いない。そして、

経済成長と財政再建の二兎は未だに捕まえることが出来ず、経済成長

を追うと財源不足が足枷になり、財政再建を言うとまず経済成長が求

められて逆に支出が増え、今では、緊縮と緩和の相反する政策が入り

乱れ、社会の到る所で浪費と切り捨ての矛盾する状況を目にすること

が出来る。つまり、我々はブレーキを「吹かし」ながらアクセルを「

掛けて」いるのだ。

 我が国の戦後経済は、焼け野原からエコノミックアニマルとまで蔑

まれながら奇跡的な高度成長を成し遂げ、そして余裕を寛ぐ間もなく

バブル崩壊に見舞われ、その後の失われた二十年を経て、今や財政危

機へと、天上から海底へと、まるでジェットコースターのような半世

紀以上を過ぎた。何が言いたいかといえば、我々は今や大きな転換期

にあるのではないだろうか。ジェットコースターは奇跡的に水中から

飛び出して再び陽の当たる坂道を駆け上がることはないだろう、せめ

て陸上に辿り着いて這うことが叶うにせよ間違いなく一つの物語は終

わった。過去五年を振り返っても、地球温暖化問題や大地震が引き起

こした原発事故と、近代文明の欠陥がもたらした自然環境の変化は、

継続ではなく改善を促している。何れも長いタームで我々の暮らしの

在り方を迫ることになるだろう。そして恐らく、ジェットコースター

経済は高い確率で「経済成長せずに財政危機に陥る」だろう。つまり、

破綻は避けられない。それは、自然循環を無視した合理主義経済の終

焉であり、近代文明の終焉である。その転換期にあって政治家が行く

べきか引き返すべきかを巡って迷っているのは理解できる。事実、国

民に於いても意見が分かれるところである。ただ、少し別の視点から

眺めると、果たして我々の未来には更なる豊かな暮らしが拡がってい

るだろうか。世界の全ての人々がアメリカ人の様な消費生活を営むに

は、地球があと五個なければならないそうだが、残念ながら我々の科

学技術は地球一つも作り出すことが出来ない。つまり、我々の物質文

明の限界は一個の地球の限界を越えることはない。ではいったい何が

起こるか?奪い合いである。歴史を遡れば、何時だって一つの時代が

終焉を迎える時には争いによって幕が引かれた。先んじて危機を認識

する者はいち早く逃れる契機を得るが、ところが、貪欲に洗脳された

精神はそれさえも見誤ることのいい例が、子々孫々まで生存を脅かす

原発事故の教訓でさえ、我々は一年足らずで忘れ去ろうとしている。

 私は、何も近代文明を棄てて「自然に還れ!」と言うつもりはない。

ただ、自然循環を無視した合理主義経済の欠陥を「改善」しなければ、

何れ循環性が滞り自然環境が破壊され生存が脅かされるだろう。近代

科学文明は自然との調和を失って限界を迎えようとしている。資本主

義経済は無限の資源を前提とするが、今やその前提が崩れてしまった

のだ。地球環境という有限を越えて、もはや資本主義経済は成り立た

ないのだ。地球資本主義の下では循環性から外れた物質はさながらガ

ン細胞のように自然循環を滞らせて増殖し破壊する。事実、我々は原

発事故による放射能汚染の恐怖を身近に体験したはずではなかったか。

原子力発電装置こそは自然循環性に悖る象徴的な欠陥装置ではないか。

推進派の言い分はただ経済効率の一点だけだ。それ以外の欠陥、事故

の危険性は言を俟たないが、臨界に達した原子炉は核反応を繰り返し

人為によって制御することが出来ない。更に、放射性廃棄物にしろ何

万年にも亘って生態系に影響を与える。果たして、ここ数年に起こっ

た深刻なクライシスを一過性のものと見過ごしてしまっていいのだろ

うか。地球温暖化問題は杞憂だったのか?原発事故はもう起こらない

のか?経済不安は二十年経って克服できたのか?我々は、自省心を

失ってしまっていないだろうか?




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