「めしべ」⑦
もはや人物とは言えない程デフォルメされた物体の絵は、それで
もただ乱暴に描写されただけではなく、その絵には観る者の認識を
誘う不思議な生命感を漂わせ単なる物体とは思えない緊張があった。
しばらくその絵を眺めていると、やがてわたしの理性の方が怪しく
なって来て、ものを見てそれを認識するということが極めて表象だ
けに頼った理解でしかないことを改めて知った。われわれは奇跡的
な世界に在っても百科事典に書かれた説明を読んで世界を知ったつ
もりでいる。しかし、目の前にあるコップがどれほど驚くべき過程
を経て地球上に、否、宇宙に存在しているのかなどと言うのは見過
ごしてしまう。たとえば誰も、一個のコップが宇宙空間に存在する
ことの不思議について考えたことなどないだろう。すでにわれわれ
は宇宙もコップも自分の認識の中で繋がっていると思っている。し
かし、ピカソの絵を観ていると、われわれのその認識こそが怪しく
なってくる。
酔ってしまったので(つづく)