「超国家主義(スープラ・ナショナリズム)」の更なる続き
理論物理学者のカルロ・ロヴェッリは著書「時間は存在しない」
の中で、過去と未来の違いを表す唯一の物理式は、Sはエントロピ
ーの量で「 △S≦0 と書いて、『デルタSは常にゼロより大き
いかゼロに等しい』と読む。これは『熱力学の第二法則』(第一法則
は、エネルギー保存則)と呼ばれるもので、その核心は熱は熱い物体
から冷たい物体にしか移らず、決して逆は生じないという事実にあ
る。」(同書) 一般にこれは「エントロピー増大の法則」と言われて
いるが、「熱による運動には、トランプのシャッフルを繰り返すの
と似たところがある。順序よく並んでいるカードも、シャッフルす
ると順序が崩れる。こうして熱は熱いところから冷たいところに移
るのであって、その逆は決して起きない。」(〃)そこで彼は、「な
ぜ時間の二つある方向のうちの片方、わたしたちが過去と呼んでい
るもののほうが事物が秩序だっているのかが問題になる。宇宙とい
う名前の一組の巨大なトランプは、なぜ過去に順序立っていたのか
。どうして昔はエントロピーが低かったのか。」たとえば、「もし
も一枚目から二十六枚目までのカードがすべて赤で、その後の26
枚がすべて黒なら、そのカードの並びは『特別』、つまり『秩序立
っている』ことになる。今、カードをシャッフルすると、この秩序
はなくなる。最初の並びは『エントロピーが低い』配置なのである
。ただし、元々の配置が特別なのは、赤と黒というカードに注目し
たからだ。色に着目するから特別なのだ。」つまり、「『特別』と
いう概念は、宇宙を近似的なぼんやりとした見方で眺めたときに、
はじめて生まれるものなのだ。」カルロ・ロヴェッリはこの著書の
中でオーストリア出身の物理学者ボルツマン(Ludwig Eduard Boltz-
mann, 1844年2月20日~1906年9月5日自死)の功績を
絶賛しているが、そこで、「ボルツマンは、わたしたちが世界を曖
昧な形で記述するからこそエントロピーが存在するいうことを示し
た。」「つまり、熱という概念やエントロピーという概念や過去の
エントロピーのほうが低いという見方は、自然を近似的、統計的に
記述したときにはじめて生じるものなのだ。」つまり、われわれは
52枚のカードを色や数字の違いによって並び替えて『エントロピ
ーが低い』『秩序立っている』と思ってしまうが、色や数字が描か
れていることを知らないカードからすれば過去も現在も何一つ変っ
ていない。つまり、われわれがカードに印した色や数字に拘ろうと
するから、過去と未来の違い、つまり「エントロピーの変化」が見
えるのだ。カルロ・ロヴェッリは、「事物のミクロな状況を観察す
ると、過去と未来の違いは消えてしまう」(同書)と言います。
(つづく)