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【『独裁者プーチン』 名越健郎著 文春文庫 2012年5月刊 】
折しも上の本を読み始めていた時に、『ベレゾフスキー、ロンドンで死亡!』のニュースが飛び込んできた。25日の朝のことである。
一般のマスコミではほとんど報道されていないので、気が付いていない人も多いと思う。
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このニュースを聞いてすぐに思い起こすのは『リトビネンコ事件』註*と『アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺』である。
註* FSB(ロシア連邦保安庁-KGBの後身)出身のプーチンがエリツィンの後継者になるに際しての混乱の時期に起こした一連の事件の裏側の情報を握っていた、同じFSBのエージェントであったリトビネンコが真相を公表したことにより、自らの身の危険を感じ、イギリスに亡命したものの、その後、ロンドンで何者かに放射性物質のポロニウムをもられ暗殺された事件。
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リトビネンコだけでなく、プーチンの闇の部分を明らかにし追求しようとしたポリトコフスカヤは自宅のエレベータ内で殺害されているし、上の記事にあるように、昨年もロシアの実業家が暗殺されている。
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この本の弱点は、自ら多くの現場に立ち会っているにもかかわらず、プーチンの《独裁者》としての資質を、ブログなどの風評と伝聞だけで語ろうとしている点であり、事実と思われる点に着いて裏付けをとり、深く問題を究明しようとしないで、領土問題も、経済発展策も何もかも同列において、あたかも《客観的に・第三者的に》論じようとしている姿勢である。
大事なのはプーチン彼自身の《才能》や彼がどんなに《タフな人間》で物事を的確に素早くこなすかの能力への評価の問題ではなく、《誰に対して何をしてきたか》という事実であり、それに対する価値観の問題である。
一国の最高責任者の資質として、自分の出世・保身のために何も罪のない《人間の生命を簡単に奪う感覚》と、《領土交渉、経済協力の交渉能力の善し悪し》の問題を同列に論じるような無神経さはいらない。
どんな内容の本かと、《ある期待》を持って読んだが、この事件の報であらためて思い起こす『ロシア・語られない戦争』の方が、ずっとよかったし、そこに真実があるように感じた。
『ロシア・語られない戦争』のブログ記事