【 2012年3月10日 】 京都シネマ
予告編を見て、『これは是非見ないといけない』と思い、封切りを待ちかね、待望の上映初日に駆けつけて観に行った。
実話かなと思ったが、どうも違うようである。実話は実話なりの良さがあり、フィクションなら、それはそれなりの作り方があり、それで観方がある。
しかし、どうもこの映画に関してその組み合わせが間違っていたように思う。
母の遺言から、事が始まるが、その遺言というのが、なぞめいていて、しかも常識を越えた衝撃的な内容だ。
『葬儀について---
棺には入れず祈りもなし、裸で埋葬してほしい。
世の中に背を向け、うつぶせの状態で。
墓石と墓碑銘---
墓石はなし。私の名はどこにも刻まないこと。
約束を守れぬ者に墓碑銘はない。
ジャンヌ。
その封筒はあなたの父親宛です。彼を見つけ、封筒を渡して。
シモン。
その封筒はあなたの兄宛です。彼を見つけて、封筒を渡して。
2つの封筒が相手に渡されたら、あなたたちに手紙が。
---沈黙が破られ、約束が守られる。
その時初めて私の墓に墓石が置かれ、名前が刻まれる。』
と、あるが・・・。
映画を見終わって、遺言の言葉がストンと胸におち、『感動的な幕切れを迎えたか』と言われれば、そうとはいいきれない。
メッセージが伝わらないというか、あれで『怒りの連鎖が断ち切られた』とは思えないのだ。
実話なら、数奇な運命だと割り切れるのだが、そうではない。やたらと複雑すぎて、『だからどうなんだ』というのだ。よくわからない。
原作は舞台用の戯曲で、作者はレバノン出身で、題材を『レバノン内戦』に想を得ていると言うし、現在カナダに在住していると言うから、自身の過去の体験が反映されているのかもしれない。
しかし、映画の中では、どこの国の内線か、どのような対立があって、その中でどんな葛藤があったか、具体的には描かれておらず、敵も味方もつかみ所のない抽象的集団としてしか描かれていない。だから、そこにある感情も、現実的な緊迫感はなく、抽象的なものにすぎない。フィクションであってももっと背景をリアルに描いて欲しかった。
確かに、思いもよらぬ展開と、悲惨な内線の様子や、無慈悲な世の中の断片は、巧みな映像で描かれ、それなりに緊迫感を持って観ることはできる。
映画としては良くできていると思うが、自分としては、どこかもう一つ足りない気がする。
『灼熱の魂』-公式サイト