【 2015年10月20日 】 京都みなみ会館
「戦争と人間」や「ああ!野麦峠」の山本薩夫監督、「ひめゆりの塔」「どっこい生きてる」の今井正監督を中心に、新藤兼人や亀井文夫、吉村公三郎など、戦後、独立プロを立ち上げて活躍した人々の歩みを、関係者の証言などから辿ったドキュメンタリー映像である。
本では読んだことのある『東宝争議』をめぐっての生々しい記録映像が冒頭から出てきて、興味津々で画面に見入ってしまった。『来なかったのは軍艦だけ』という徹底的な弾圧で、組合つぶしをされレッドパージで映画会社を追い出されてしまった監督やその他大勢の映画人は、自分たちの望む映画を作ろうと、独立プロダクションを立ち上げ、次々と映画製作に乗り出したのだ。
山本薩夫が亀井文夫や伊藤武郎と共にカキ氷屋を始めるが商売に失敗して、争議の解決資金として東宝より振り込まれた1500万円を元手に『暴力の街』を監督して作ったという話や、今井正が屑鉄屋をしていたが、この集めた鉄屑が朝鮮戦争で武器として使用されると知って、すぐその商売をやめたという話もこの映画の中で紹介されている。『どっこい生きている』は、今井正監督の“東宝を解雇されても、どっこい、俺たちはまだ生きているぞ!”という心意気が伝わってくる。
証言者として山田洋次、香川京子、降旗康男などの映画人も登場する。面白かったのは『キクとイサム』でキク役をやった高橋エミの話である。『キクとイサム』を見たら適役と思うのだが、今井監督がだいぶ渋った挙句、役に納まった話は面白かった。
独立プロの流れは「薩チャン」、「正ちゃん」だけで終わるものではない。新藤兼人や亀井文夫、家城巳代治など多くの監督たちが、独立プロで腕を競い、数々の名作を生み出してきた。
『そのどれをとっても、戦後の労働運動、平和運動、民主運動に及ぼした影響は計り知れず、
人々に勇気や希望を与え、時には生き方を変えるほどの深い感動をもたらした。
本作に登場する人々は、映画が好きで、素晴らしい映画を届けたいと、仲間と知恵を絞って
苦労を重ねた映画人たちである。その気骨ある生き様は、それ自体が一遍のドラマであり、
独立プロの時代を知る世代はもちろん、初めて目にする若い世代に対しても、映画が持つ役割
と使命、そして自らの生き方について考えるきっかけとなるに違いない。』
と、この映画の解説文にあったが、そのとおりである。
私も山本監督や今井監督の映画をたくさん見て、感銘を受けた記憶が沢山ある。ある意味、書物より内容豊かに現実が見えてくることが映画にはある。今回の映画の中で取り扱っていなかった作品も多数あるが、その中で山本監督の『金環食』、『戦争と人間』の3部作と『ああ!野麦峠』、今井監督の方は『婉という女』、『武士道残酷物語』、『海軍特別年少兵』が思い出深い。
山本薩夫 の映画作品一覧
お嬢さん(1937年、P.C.L.)
母の曲 前・後篇(1937年、東宝)
田園交響楽(1938年、東宝)
家庭日記 前・後篇(1938年、東宝)
新篇 丹下左膳 隻手篇(1939年、東宝)
美はしき出発(1939年、東宝)
街(1939年、東宝)
リボンを結ぶ夫人(1939年、東宝)
そよ風父と共に(1940年、東宝)
姉妹の約束(1940年、東宝)
歌へば天国(1941年、東宝)
翼の凱歌(1942年、東宝)
熱風(1943年、東宝)
戦争と平和(1947年、東宝)
こんな女に誰がした(1949年)
ペン偽らず 暴力の街(1950年、大映)
箱根風雲録 (1952年、新星映画=前進座)
真空地帯(1952年、新星映画)
日の果て(1954年、松竹)
太陽のない街(1954年、新星映画)
愛すればこそ(1955年)
市川馬五郎一座顛末記 浮草日記(1955年、俳優座)
雪崩(1956年、東映)
台風騒動記(1956年)
赤い陣羽織(1958年)
荷車の歌(1959年、全国農村映画協会、全国の農協のカンパで制作)
人間の壁(1959年、新東宝)
武器なき斗い(1960年、大東映画)
松川事件(1961年、松川事件映画製作委員会)
乳房を抱く娘たち(1962年)
忍びの者(1962年、大映)
赤い水(1963年、大映)
続・忍びの者(1963年、大映)
傷だらけの山河(1964年、大映)
にっぽん泥棒物語(1965年、東映)
証人の椅子(1965年)
スパイ(1965年)
氷点(1966年、大映)
白い巨塔(1966年、大映)
にせ刑事(1967年、大映)
座頭市牢破り(1967年、大映)
牡丹燈籠(1968年、大映)
ベトナム(1969年)
天狗党(1969年、大映)
戦争と人間 三部作(1970年 - 1973年、日活)
第一部 運命の序曲(1970年)第二部 愛と悲しみの山河(1971年)完結篇(1973年)華麗なる一族(1974年、芸苑社)
金環蝕(1975年、大映)
不毛地帯(1976年、芸苑社)
天保水滸伝 大原幽学(1976年)
トンニャット・ベトナム(1977年)
皇帝のいない八月(1978年、松竹)
あゝ野麦峠(1979年、新日本映画)
アッシイたちの街(1981年、大映)
あゝ野麦峠 新緑篇(1982年、東宝)
今井 正 の映画作品一覧
沼津兵学校(1939年、東宝映画)
われらが教官(1939年、東宝映画)
多甚古村(1940年、東宝映画)
女の街(1940年、東宝映画)
閣下(1940年、東宝映画)
結婚の生態(1941年、南旺映画)
望楼の決死隊(1943年、東宝映画)
怒りの海(1944年、東宝)
愛の誓ひ(1945年、東宝)
民衆の敵 (1946年、東宝)
人生とんぼ返り(1946年、東宝)
地下街二十四時間(1947年、東宝)
青い山脈(1949年、東宝)
女の顔(1949年、太泉映画)
また逢う日まで(1950年、東宝)
どっこい生きてる(1951年、新星映画)
山びこ学校(1952年、八木プロ)
ひめゆりの塔(1953年、東映)
にごりえ(1953年、新世紀プロ・文学座)
愛すればこそ 第二話 とびこんだ花嫁(1955年、独立映画)
ここに泉あり(1955年、中央映画)
由紀子(1955年、中央映画)
真昼の暗黒(1956年、現代ぷろだくしょん)
米(1957年、東映)
純愛物語(1957年、東映)
夜の鼓(1958年、現代ぷろ)
キクとイサム(1959年、大東映画)
白い崖(1960年、東映)
あれが港の灯だ(1961年、東映)
喜劇 にっぽんのお婆あちゃん(1962年、M・I・Iプロ)
武士道残酷物語(1963年、東映)
越後つついし親不知(1964年、東映)
仇討(1964年、東映)
砂糖菓子が壊れるとき(1967年、大映)
不信のとき(1968年、大映)
橋のない川 第一部(1969年、ほるぷ映画)
橋のない川 第二部(1970年、ほるぷ映画)
婉という女(1971年、ほるぷ映画)
あゝ声なき友(1972年、松竹)
海軍特別年少兵(1972年、東宝映画)
小林多喜二(1974年、多喜二プロ)
妖婆(1976年、永田プロ)
あにいもうと(1976年、東宝映画)
子育てごっこ(1979年、五月舎)
ゆき(1981年、にっかつ児童映画)
ひめゆりの塔(1982年、芸苑社)
戦争と青春(1991年、こぶしプロ)