『記憶にございません！』－三谷幸喜の最新作、「ラジオの時間」から２２年、久々の会心作！

　　　　　　【 ２０１９年９月１３日 】　　　　　ＴＯＨＯシネマズ二条

　三谷幸喜、久々の映画である。

　『ラジオの時間』は文句なしに面白かったが、その後の『みんなのいえ』『Ｔｈｅ有頂天ホテル』『マジックアワー』『ステキな金縛り』も見たが、大騒ぎし過ぎでドタバタ喜劇調であったり、もう一つ焦点がはっきり銭司、いまひとつという感じだったが、今回の『記憶にございません！』は、それまでのもやもやを晴らす出来栄えで、満足のいく会心作だ。


　　　　　　　　　　　　　

　話は、演説中に聴衆の投げた石を額に当てられた支持率最低の首相が記憶喪失になり、性格まで変わってそれまでの悪政ぶりが庶民思いの態度に改まるというおとぎ話のような内容。個性的な俳優陣の演技と巧みな演出によって、会場は相槌をうったり、時には笑いが起こったりで、見ている人を楽しませると同時に、指導者はこうあって欲しいという希望のようなものも感じさせてくれる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　今の政治を直接取り上げ、批判をしているわけではないから緊迫感はなく、娯楽映画の部類に近いのだが、それでも今の政治の愛想をつかしている観客には解放感と爽やかさを与えてくれる。

　　　　　　　　　


　ただ、《記憶を喪失しただけだ人の性格ががらりと変わるか》と言えば無理があると思う。人の性格とは《外界からの働き掛けに対し対外的に放出する、その個人の反射システムの総体》なのだから、高々記憶の一部を（一時的に？）失っただけでは簡単に変わるものではない、と思うのだがそこは娯楽映画である。


　　　　　　　　　　　　


　もう一つ敢えて注文をすれば、もう少し《わさび》を利かしてもよかったのではないか。《つま》が「消費税の値上げストップ」と「サクランボの押し売り」だけでは物足りない。そとれと、せっかくタイトルに「記憶にございません」というフレーズがあるのだから、それに絡ませた国会答弁の場面とかをもっと具体的に挿入するとか、首相の性格豹変の前の《めちゃくちゃな言動ぶり》－その悪政の実態をもっと挿入すれば、対比が利いてよかったのでは。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　構想から１３年と言われているが、今の政財界からの圧力や、マスコミ一般の退廃ぶりから考えて、これが監督の立ち位置の限界かとも思われた。それでも、庶民の生活を顧みず、全く耳を持たず、無慈悲で、嘘で塗り固められた言動を繰り返す安倍政治の元で現実に暮らす観客にとっては、《心変わりした》黒田首相の言動に対し、歓喜の拍手に希望を込めた応援メッセージを送りたくなるような、そんな映画であることも間違いない。


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　記憶喪失と関連して時の権力者＝独裁者を痛烈に批判した映画にチャップリンの『独裁者』がある。こちらは独裁者当人が《記憶喪失》したのではなく、全く別人の一庶民、しかも独裁者に瓜二つの容姿・外見をもったゲットーで生活する散髪屋である。戦火の中、独裁者と間違われ、独裁者ヒンケルになり替わり、最後の場面で、全世界に希望と平和を呼び掛ける演説は圧巻だった。ふと思い出す。

　　　　　　　　　　　　　



　　　

　　　
　　　　『記憶にございません』－公式サイト