【 2013年7月6日 】 京都シネマ
パレスチナのイスラエル占領地域で、パレスチナ人を追い出しイスラエルの入植者を守るために、かつてベルリンを東西に分けたような『巨大な壁』が建設されている、というニュースは以前どこかできいたことがある。
この映画は、そうした分離壁によって自分の土地を分断され農地を奪われた農民が、実際行った抵抗運動の記録映画である。
記録映像の制作者でもあり、話の中心人物であるイマードは四男のジブリールが生まれたとき、息子らの成長を記録しようと最初のビデオカメラを購入する。折しも、彼らが住むビリン村の中央を分断するように分離壁が建設されることが明らかになる。
家族の成長の記録をするはずだったカメラが、イスラエルの占領政策を告発し、抵抗運動を進めるパレスチナ人とそれを支援するイスラエルの人々行動を記録する《武器》になろうとは、はじめは思ってもみなかったのではないか。
抗議運動の中で、1台目のカメラが銃弾で壊される。
2台目もそれ以降5台目まで、同様に破壊されるのだが、カメラだけ壊れてどうして生命までも落とさなかったか不思議に思ったが、この映画で初めて知ったのだが、イスラエル軍がパレスチナ人のデモなどの抵抗運動を抑えるのに、実弾は滅多に使わずゴム弾や催涙弾を多用しているということだった。ここビリン村の抵抗運動のやり方が、毎週金曜日のデモという形で『非暴力』を貫き、その後世界に広まったという《特殊事情》があったのかもしれないが、それまで考えていた『無抵抗の人々に銃弾を浴びせる』とか『無差別爆撃を繰り返す』といったイメージとは少し違うようである。
イスラエル人の中にも政府の強硬なやり方に批判的な人々が増えてきたということは、以前見た『バシールとワルツを』(邦題:「戦場でワルツを」)を見たときに知った。
今回の共同制作者のひとりはイスラエル人だし、「戦場でワルツを」の監督も元イスラエル兵士であった。だから、現在の時点で『イスラエル国民全体が侵略主義者』というのは間違っている。「サブラ・シャティーラ事件」が起こってから20年以上もたっているのだから、何の進歩もないのも考えてみればおかしな事である。
時間がなかったので、映画の始まる直前に映画館に飛び込んで、終わったら次の予定のため飛び出すつもりでいた。ところが、今回はこの上映の初日で講師の先生を迎え、30分の講演を予定しているという。後の予定をやめて、講演にお付き合いすることにしたが、新たな認識を得て結果的には大変よかった。
講師は京都大学教授でパレスチナ問題に詳しい岡真理さんだった。以前にも「京都シネマ」に登場したそうであるが、初顔合わせである。何度もパレスチナに足を運び、今回の映画の件でイマードさんともあっているという。
ビリン村の現状の話しに続いて、この村から始まった『非暴力抵抗運動』の話あり、パレスチナ人とイスラエル人が敵味方という関係でなく、平和を求める協同の関係が広がっている話などがあった。
『ジェノサイド』という観点から見ると、インドネシアやカンボジア、ソマリアやウガンダで起きた大量虐殺とパレスチナでの問題は同列にはおけず『スペーシオサイド』という概念が広まっている話は、初見でなるほどと思った。
短時間ながら、他にも有益な情報が得られて満足して会場を後にした。
『壊された5つのカメラ』-公式サイト
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