【 2019年6月28日 】 MOVIX京都
直前に購入した『同調圧力』を読んでいたら、この映画の事に触れられていたのでその日が待ち遠しく、封切りの当日、真っ先に見に行った。平日の昼間にもかかわらず、いつもは3分の1も入っていない劇場の席が7割がた埋まっている。
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アメリカでは『ペンタゴン・ペーパーズ』やら『グッド・ナイト、グッド・ラック』などの政治の裏を暴いた映画はあっても、日本ではそれこそ《同調圧力》ではないが、真に迫る本格的映画がほとんど見ることができなかったが、期待にたがわず見ごたえもある内容だった。
望月衣塑子さんは、言わずと知れた東京新聞の記者で、官邸記者会見でのその果敢な姿勢で知られている。前川さん(元文部省事務次官)に言わせると、
『・・・究極のアウェイといってもいい官房長官の会見でも、くじけることなく手を上げ続けて質問を続ける。かなりのKYでなければできないと、
ずっともおもってきました。・・(中略)・・同調圧力を返すほどの強靭さをいつ、どのようにして培ったのでしょうか。一見するとそのようには見
えないのだけに、ずっと疑問に感じていたんですよ。』
とてもニ児の母親には見えない、端麗な容姿を見ると、私もこの感想に同感であるが、本人は
『そうですかね。ハハハ。』(『同調圧力』(P-142)
と答えている。
【 2016年の「武器輸出」に関する講演会場で 】
映画は、現実の題材からヒントを得たフィクションであるが、ドキュメンタリーとも思える迫力がある。望月さんを想定した吉岡記者の父親はドラマの中では、海外で活躍する先鋭的な記者だったが、誤報によって命を落とすことになっている。しかし実際の望月さんの父親は同じ記者でも、望月さんにいろいろアドバイスを与えてくれた善き父親であり、劇中のそうした事実はない。
森友事件や加計事件のことは直接描かれてはいないが、それを思わせる架空の事件を描き、真実味を出している。実際に起きた事件として「森友事件」にかかわる文書改ざんに関連して、近畿財務局の職員が自殺に追い込まれたが、世間では何事もなかったかのように忘れ去られようとしているが、映画の中で別の形で描き出され、その記憶を蘇えさせる。ただのニュースと違って映像を通した描写はやはり、人に訴えるものがある。
現実の事件としてあった伊藤詩織さんの話も登場するし、本物の望月さんも、前川さんもの【劇中の討論会の中継放送】というかたちで登場するから、よけいドキュメンタリータッチを感じさせる。セリフの中身を聴いていたら、先日読んだ『同調圧力』の内容と同じだった。
松坂桃李が演じる、内閣情報調査室に出向した杉原拓海も、真実と自己の立場の狭間で心が揺らぐ。
映画では、本の「新聞記者」よりも、内閣情報調査室の闇の部分の描写に力がそそがれている。
そうした現実の中で、新聞記者は何をなすべきか。また権力の狭間で、悪戦苦闘する良心を抱えた官僚はどう行動すべきか。そういったといを我々自身にも問いかけられているような映画だった。
隠ぺい事件や、疑惑事件が起こるたびに、《悪の巣窟》のように思われ描かれている官僚集団ではあるが、中には前川さんのような人もいる。
先日の講演会で京大の教授が言っていた言葉を思い浮かべた。
『自分の東大時代の同期は60人くらいいて、その内、3分の1くらいが権力の中枢で働いているが、彼らは自分の思ったことが言えない。
せいぜい退職前のわずかな期間しか自分を表現できない。そうした人たちが、陰で自分に応援メッセージを送ってくれる。一方、非常勤
の人も周りに沢山いて、身分の保証を考えたら自由にモノを言いずらい。だから、比較的自由な自分に、期待がかかる。その分、可能な自分
がしっかり発言し行動しないといけない。』、
と心境を述べていた。
世の中、悪い人ばかりではないと思うのだが、やはり一線を越える難しさは付きまとうのか。
世間を揺るがすような事件が起こるたびに『金環食』やら『不毛地帯』などをつくった山本薩夫監督ならどんな映画を作ってくれるかと、以前は期待を込めて思っていたものだが、ようやくそうした気骨ある監督が現れてきたような、そんなうれしい希望の持てるような感覚を覚えた。
【『新聞記者』2017年 刊 】
【 2018年の京都での講演会場にて 】
余計なことを1つ言えば、主人公の女性記者、もう少し、望月さんのような溌溂とした女性に描いてほしかった。
『新聞記者』-公式サイト
『強まるメディア統制を乗り越えるには』-昨年の望月さんの講演会のブログ』
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