この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『流燈記』-三浦哲郎の未公刊だった小説が20数年ぶりに刊行されて、早速読む

2012-03-26 01:22:13 | 最近読んだ本・感想
              【『流燈記』-2011年12月、筑摩書房刊 】


 前回、三浦哲郎の本を読んだのは『師・井伏鱒二の思い出』であった。めったに、小説など読まないのだが、久しぶりに気持ちの安らぐ文章に出会えて、何か読みたいと思っていたところ、未刊行の小説が今回発刊されると知った。

 早速、本を手配しようと思い、仕事からの帰り道に書店で探すが見当たらない。それなら注文しようとあたるが、どの書店を尋ねても品切れ中で、版元にも在庫がないという。Amazonで探してもないから、どういうことだろうと、しばらく放っておいたが、先日たまたま立ち寄った四条の書店を覗いてみたら、置いてあった。

 他の、読みかけの社会情勢や経済、認知科学の本をさしおいて、2日で読んでしまった。文章に飢えていたのかもしれない。


 東北の海に近い、とある小さな田舎町が舞台である。戦後30年ほどたったある日、由良耕三は出身地のこの町を訪れ、かつての下宿先の倅であり、今は寿司屋の主人となっている安吉と茸狩に出かける。山をあちこちしているうちに、トーチカのような不思議な建造物に遭遇する。

 ここから話は一気に、戦火が本土にも迫った昭和18年の世界に移る。

 中学2年生の耕三は、上級生2人と共に街の安食堂の二階に下宿している。ある日、そこで異様な眼の光を放つ女性と遭遇するが、正体は定かでない。若い憲兵に追われているかもしれないという。
 その後、近くの桔梗屋という下駄屋に住み込んでいる女学生と知れるが、目の輝きばかりか、髪の毛や名前も変わっていると分かる。

 憲兵に付き纏われているかも知れないということと、上のようなことから耕三はある種の想像をする。

 一方、戦局は悪化の一途たどる。近海にも潜水艦が出没し、サイパンでも玉砕し、九州にも空襲があったことが伝えられる。サイパンに飛行場が作られたら本土への空襲も近いということも小説の中に描かれている。

 このような状況の中で話は展開し、満里亜は女子挺身隊へ志願し、耕三は、当初希望していた進路を海兵志望では《決戦》に間に合わないから、予科練志願に変えたいと言う。
 
 自分の意思だけではどうにもならない、閉塞感漂う世の中で、死を意識し生きていかねばならない若い男女の姿があった。

      ○     ○     ○

 今、この小説が刊行されたということに、何か暗示的なものを感じる。


 ずっと以前、『子どものころ戦争があった』(斉藤貞郎監督、1981年 松竹)という映画があった。

 親の反対にもかかわらずアメリカ人と結婚した二女が、敗戦も間近い昭和20年に、疎開で郷里の母の元に、《青い眼》のエミを連れて帰り、身を寄せる。姉とその子どもの太郎も疎開で実家に戻っていた。実家はその地で古くから造り酒屋を営み、女手一人で切り盛りしていた当主の野本みよ(三益愛子)は憲兵からの眼を逃れるためエミを土蔵に隠し、太郎にも絶対に2番蔵には近づくなと言いつける。
 いよいよ、エミを匿れきれなくなった最後の場面で見せた《決断》の強さ=《一家の命を預かる戸主の力強さ》《母親の強さ》に圧倒された。
 野本みよ=三益愛子の迫真の演技が、強く印象に残る作品だった。

 その映画のことも、ふと思い起こした。
 











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