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最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『バハールの涙』-ISに蹂躙された故郷を取り戻すためにヤズディの女性と母親は立ち上った

2019-01-26 22:00:44 | 最近見た映画

    【 2019年1月23日 】     京都シネマ

 衝撃的な映画だった。

                


 この映画の制作の契機は、2014年のISによるクルド人自治区のヤズディ教徒襲撃事件である。思い出すのは、2018年度のノーベル平和賞でアフリカ人の医師とともにナディア・ムラドさんの受賞だ。
 もう一つの制作上の着想は、戦場ジャーナリストの存在のあかしだった。それは、監督インタビューで語られている。映画中の女性記者・マチルドのモデルは2人いて、ひとりは映画と同じように目を負傷して黒い眼帯をかけていたメリー・コルビンというジャーナリストで、もう一人はヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者として活動していたマーサ・ゲルホーンということだ。監督自身が、フランコ政権と戦った兵士の孫娘であるという血筋が興味を掻き立てたのかもしれない。映画の取材シーンを見た私は、シリアで取材中に亡くなった山本美香さんの事をすぐに思い浮かべたのだが。

                                  


 ISの出現以来、シリア、イラン、トルコ周辺のクルド人地域をめぐる状況は地獄のような様相を呈している。

 もともとこの地にはクルド人を中心とする「クルジスタン」という国が存在していた。それが、第一次大戦後にオスマン帝国の後始末を巡る交渉の中で、大国の利害関係と互いの都合により分割・消滅させられてしまった。(第2次大戦後のパレスティナを巡るイギリスのアラブとイスラエルへのイギリスの2枚舌外交・ご都合主義と同じ構図だ!)それ以来、クルド民族はユダヤ人(教徒)同様、国を持たない民族になってしまった。(パレスティナでは、イスラエルの建国によりパレスティナ人が逆に《大きなとばっちり》を受けてしまったが!

 話がややこしくなるのは、その後だ。2003年、ブッシュ(子)が、大量破壊兵器がイラクにあると《いちゃもん》をつけて戦争を仕掛けたのが大きなつまずきの第一歩だった。フセイン政権が打倒されイラク国内は荒れるに任された。イラク戦争は2010年に《終結》したが、そのあと事態はさらにややこしくなる。チュニジアやエジプトで始まった『アラブの春』が大国の利害関係と軍事バランスのはざまで沈んでいく中、武力みよる《実力行使》が以前に増して大手を振るい、収拾がつかなくなる。特にシリアは最悪だ。フセインもカダフィもあの世に行ってしまったが、頑迷なアサド政権とそれに対する反体制派とクルド独立派が入り乱れるシリアは戦闘のるつばのようになった。アメリカが敵か、ロシアが味方か、何が何だかわけが分からない勢力争いももと空爆と戦闘だけが続く。無政府状態の中でISが生まれる。


        

 そのシリアで、この間日本人ジャーナリストも事件に巻き込まれる。戦場カメラマンの山本美香さんが、2012年取材中のシリアのアレッポで銃撃を受け亡くなる。2015年には安田純平さんが武装グループに拘束される。後藤健二さんがISに殺害されたのも同じころだ。それでも沈むニュースばかりではない。「国境なき医師団」の看護師・白川優子さんの本を最近読んだ。「こういう人もいるんだ」と、どんなに励まされるかわからない。
 今、《自己責任》がどうのこうの言われているが、彼ら、彼女らがいなければ世界の様子を知ることはできない。

     『2015年当時のクルド民族居住地周辺の事情を漫画で見る』


 《平和な日本》にいる自分たちは、ノーベル賞を平和賞を含め何か《アカデミー賞を誰が取るかと同じような感覚》で捉えているのではないかと思ってしまう。

 「ノーベル平和賞は、平和を達成した人物を評価するというより、政治的なメッセージを送る目的で授与される印象がある。そういった場合、受賞者に敵意を持つ者に攻撃のモチベーションを与え、かえって仕事をやりにくくしている可能性もあるのではないか。」(『Newsweek』誌の渡辺由佳里さんの記事)という指摘もある。

                     

 2014年のマララさんの時もそうだったが、《紛争地の被害者》の面だけがクローズアップされてしまうと背後の本質が見失われてしまう危険もある。映画の中の記者の言葉にもあったように《クリックしてスマホの次の画面に移ってしまえばそれで終わり》というような。

                                          


 《銃弾の飛び交わない今の日本で、いったい何ができるのか》思わず考えこんでしまう。

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 『ナディアの誓い』の方はまだ見ていない。京都では新しくできた映画館『出町座』で2月9日から公開されるようだ。まだ行っていない映画館に足を運んでみようと思う。


     
           『バハールの涙』-公式サイト

     
     
     『ナディアの誓い』-公式サイト


     
     『山本美香著「ぼくの村は戦場だった」』-に関するマイブログ


     『白川優子著「紛争地の看護師」』-に関するマイブログ


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