僕と猫のブルーズ

好きな音楽、猫話(笑)、他日々感じた徒然を綴ってます。
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No Way,No Place & My Home13「何がしたいの?」

2007年12月27日 | ショートストーリー
" FACE="Osaka" COLOR="#6a5acd">何がしたいの?あなたは
鈴木祥子「何がしたいの?」

パーティルームのドアを開けると眩しい光が目に飛込んできた。
ステージ上で新薬開発リーダーの大友が社長から表彰を受けている。
社長が何か言う度拍手が起こる。大友は居心地悪そうに御辞儀した。

5年前に発生し広がった朽木病。「原因不明、不治の病」と言われた。
しかし我が社の長年の研究が実り遂に治療薬の開発にこぎ着けた。
新薬は効果絶大で多くの患者を救った。
開発チームのリーダー大友はこの成功を受けて社長表彰の運びとなった。
大友がようやく解放されて降りてきた。立て続けに握手を求められる。皆興奮してる。
「茂木・・遅いぞ」「スマン、おめでとう」「なあ」「ウン?」「ウチに来ないか?」

都内の大友のマンション。大友が結婚してから来るのは初めてだ。
僕も大友のコップにビールを注いでやる。「改めて乾杯」大友は肩をすくめた。
「ミズキさんは?寝たの?」「うん」「それにしても凄いな。同期の自慢だよ」
「下らない」「え?」「下らないと言った」「何が?凄いじゃないか?」
「俺は表彰なんてされる資格は無い・・無いんだ。」大友は大きく息をついた。

「朽木病の治療薬の開発を任せるって言われた時は燃えたさ。こんな大きなプロジェクト
を任せられるのは初めてだし何より成功したら凄いことだしな」僕は頷いた。
「人も資金も設備も使い放題。5年間オレはこの研究に没頭した。これしか頭になかった。」
そうだ大友はこの研究に熱中してた。大友は自嘲気味に笑った。
「それこそ2ヶ月会社に泊込みなんて当たり前だった。倒れた部下も10人は下らない。
でも、その甲斐あって研究は進んだ。そして朽木病の正体が分ったんだ」「え?」
「皆、朽木病を風土病と思ってるがそれは大きな勘違いだ。」「何だと言うんだ?」
「公害さ・・」大友はビールをグイと飲んだ。僕は言葉を失った。
「調査を進めて分ったんだ。朽木病が集中的に発生している山梨県の山の中にウチの
親会社の化学工場がある。そこから汚染物質が漏れて土や水を汚したのが原因だ」
「政府出資でヤバイ研究をしてたらしい。当然そんなことは公表出来ない。だから子会社
のウチで早いトコ治療薬を開発しようと焦ってたんだよ」「驚いたね、要するにオレ達は
親会社のミスの尻拭い。ハッキリ言えば、グループ総帥。社長の親父の名誉を守る為研究
してた訳だ。」「それでどうした?」「どうもこうも無いさ。云われた通り研究するだけさ。オレたちの仕事は薬の開発だ。」「でもイイのか?不正だろ?」大友は僕を見て笑った。
「皆そう云ったよ。こんな不正許すべきじゃない、公表すべきだって」「俺は皆の意見を
まとめて社長に公表する様に迫った。そして」「そして?」「懐柔された」

「こんな事バレたら社員は皆路頭に迷う。君にそんな責任を負えるのか?って云われて説得
されたよ。簡単なモンだ」大友は笑った。「イヤ違うな。オレ自身が公表したくなかったんだ。」「何?」「もし公表したら、この研究を止めなくちゃイケナイ。こんな大きな研究滅多に出来ない。このチャンスを失いたくなかった。だから社長の説得を受容れて部下に指示して口止めをした。」「部下は呆れて皆辞めていったよ。当然だろう。」
大友はビールをグイと飲み干した。
「結局新薬の開発に成功し大勢の患者を救った。不正の事実は何時か有耶無耶になった。
 オレは不正を黙っている代わりに社長表彰を受けられることになった。」
「ミズキさんはどう言っている」「ミズキは出て行ったよ」「何?」
「研究に没頭してオレは殆どウチに帰ってなかった。ミズキに電話もしなかった。ある日、
2ヶ月ぶりにウチに帰ったらミズキはボンヤリ座ってた。」「ただいまって言ったらアイツ
はオレを見ていらっしゃいませって言った」「・・・」
「気付くべきだった。あの時ミズキの変化に。なのにオレは仕事で頭が一杯で
気づかなかった。」「やっと仕事の目処が着いてまた3ヵ月振りに帰宅したら
ミズキがまたボンヤリ座ってた。オレが話し掛けるとアイツ何て言ったと思う?」
「さぁ?」「どなたですか?って」「・・・!」
「アイツ、ずっと一人でオレを待ってて寂しさで神経が参ってしまったんだ。
翌日医者に連れて行こうと思った。でも目が醒めたらミズキはいなかった。」
「しばらくして親御さんから離婚届が届いたよ」大友は目を伏せた。

「なぁ茂木」「ウン?」「オレは何やってたんだろうな」「-」「オレは正直、この5年間、
ただこのことだけに賭けてきたよ。自分でも呆れるほど夢中だった。」「-」
「それこそ我を忘れて打ち込んでた。このプロジェクトの成功の為なら何を犠牲にしても
イイと思ってた。実際いろんなことを犠牲にした。部下を何人も失い、信頼を裏切りミズキ
を失い・・」「-」「確かに新薬の開発には成功した。大勢の患者を救ったかも知れない。
でも部下に見捨てられてミズキからも見放されて・・ホントいっぱいなくしたよ」
「ホントにいっぱいなくした。何もかもなくしてしまった。確かに成功したけどオレが
得たものは・・そこまでして手に入れる価値がホントにあったのか?」「-」
「なあ教えてくれ、オレはこれからどうすればイインだ?」僕は答える事が出来なかった。
「どうしてイイか、もうわからないンだよ。何をしていいかね。」大友は力なく笑った。
「本当にオレはもうー。-ワカンナインだよ。」「-」

1週間して新聞に親会社の公害をすっぱ抜いた記事が出た。内部関係者の告発だと言う。
会社に駆けつけると大友がいた。「これオマエがやったのか?」「ああ」大友は笑った。
「スマン、皆に迷惑かけるな」「イヤ、そんなのイイけど」「会社を辞める事にした」
「そうか」「ミズキが長野の治療所にいるって分った。」「行くのか?」「行く」
「何も出来ないかも知れないが、そばにいようと思う。今度はずっとそばに」「そうか」
「オレがアイツの笑顔を奪ったんだ。だから今度はアイツの笑顔を取戻してやらないとな」
「それがオレのやりたいことだ。やらなくちゃイケナイことなんだ」大友は笑った。
「元気でな」「ああ、落ち着いたら手紙書くよ」大友は手を振って歩き出した。
途中で振り向くと大きくガッツポーズをして笑った。
そして顔をあげて歩き出すと、もう2度と振り返ることはなかった。


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No Way,No Place & My Home12「あたしの場所で」

2007年09月23日 | ショートストーリー
" FACE="Osaka" COLOR="#6a5acd">しょうがなく生きてる、その時を生きてる、あたしの場所で。
鈴木祥子「あたしの場所で」

店のドアが開いた。サラリーマンの一団がドヤドヤと入って来る。
ここは六本木のクラブ「AYA」。アタシはここで雇われママをしてる。
前のママから引継いで5年、そこそこ流行っていて週末は戦争状態だ。
「ユウは?」「遅刻です」「また?」最後の客を送ってその後も反省会や翌日の準備
で帰宅するのは深夜4時。帰ったら疲れて寝るだけ。毎日この繰返しだ。

次の日も大忙し。今日もユウは休み。今夜は丸三商事の接待の予約が入ってる。
10人くらいのお客様が来た。客は若いキレイな女の子に囲まれ上機嫌だ。
・・・オトコなんて簡単なモンだ。フと目を挙げた。目の前に30代くらいか?
初めて見る客だ。彼は一人で黙々と呑んでた。上司やお客に愛想笑いを返すが居心地
悪そうだ。時々上司や客をチラと盗み見してた。醒めた冷たい視線だった。
ワタシは思わずそのヒトに見入ってた。彼はワタシの視線に気付いてフッと笑った。

翌日の開店前、ようやくユウが来たので皆の前で叱った。ユウはニヤニヤ笑ってた。
今日も丸三商事の接待。例の彼も来てた。早川とか言ったっけ。相変わらずつまんなさ
そうだ。早川さんを見て昔の自分を思い出してた。ワタシもいつもつまんなさそうにしてた。
いや・・・実際、毎日がつまらなかった。仕方なく生きてた。
田舎を飛び出して東京で就職したら会社が倒産。出来る仕事は水商売しかなかった。
色々渡り歩いてようやくこの店に落着いた。客商売なんか苦手、ヒトと話すのは億劫。
でも、ワタシは「生きるために」必死に勉強した。新聞や雑誌を読み話題を仕入れ
お客の好み、癖を徹底的に覚えて。結果売上NO1となり店を継いだ。
でもこの仕事をしてて、好きになったことは一度もない。ホステスという仕事もこのお店
もあくまで「生きていくための手段」。ホステスや店員ともお客さんとも必要以上の付き
合いはしない。そうやって頑張ってきた。でも、最近それが無性に空しい、無性に疲れた。
毎日の様に、丸三の連中は来た。早川さんもいた。相変わらずつまらなそうだった。
1週間ほどして、ユウと数人のホステスが辞めると言い出した。別の店に行くと云う。
ユウは最後もニヤニヤしてた。ワタシはドアを閉めたまま動けなかった。
ユウがうらやましかった。若くて自信満々でテキト-で。いいな。なんだか泣きたかった。

ユウ達が抜けて店は大忙し。フと気づくと早川さんが一人で立ってた。
「いらっしゃい」「なんか忙しそうだね」「いえ、構いません」
早川さんにはワタシ一人でついた。他のコをつけたくなかった。
「ウレシイです。一人でいらしていただいて」「こんなお店一人じゃムリだけどね」
「いえ、いつでもいらしてください」社交辞令じゃない。ホンキでそう云った。
「ママとゆっくり話したかった」「え?」「仕事してる時、ホントつまらなそうで。
 仕方なくこの仕事してるんだろうな。って思った。でも、それがよかった」
ワタシは早川さんを真っ直ぐ見た。「早川さんも皆さんと一緒の時とてもつまらなそう
でしたよ」「見抜かれてたか?」「仕事って嫌だね」「嫌ですね。でも仕事ですもんね」
「仕方ないね」「フフ」「フフ」

今日、はじめてこの仕事が楽しいと思えた。この仕事も悪くないと思った。
作り笑いしていない・・・「ホントのワタシ」が・・・ここに・・・いた。


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「No Way,No Place & My Home11「たしかめていてよ」

2007年07月01日 | ショートストーリー

たしかめていてよ ここにいると ほかになにもできることはないから
鈴木祥子「たしかめていてよ」

会議室のドアが開き、担当者が入ってきた。僕を見て少し顔をしかめた。
ここは人材登録会社。週1回、僕は人材募集の情報をもらいに来てる。
担当者は幾つかの資料を僕に見せて説明する。毎週お決まりの行事。
担当者は熱心に色んな会社を進めたが、僕の気のない返事にすっかり気分を
害し、黙り込んだ。僕は早々に打合せを切上げた。

僕は3月に20年勤めた会社を辞めた。担当案件でトラぶって責任を取って辞めた。
自分に非があったとは思えない。客先にも会社の上司にも問題があった。
関係者がお互いに責任を擦り付け合い、誰か責任を取らないと仕方ない状況だった。
僕は面倒臭くなって自ら辞めた。もう4ヶ月。そろそろ次の仕事探さなくちゃ。
帰宅するとユミが出かける処だった。トラブルがあったらしい。
ユミは人気のデザイナー。だから僕が気に入る仕事が見つかる迄ゆっくり休めば
イイと云ってる。ユミのコトバはウレシイが、男として少し情けない気もする。
深夜目が覚めて起きた。居間でユミが疲れ切った顔で缶ビールを開けている。
声をかけようとして止めた。翌朝起きたらユミはおらず、「仕事行ってます」と
書置きがあった。
午後から紹介された会社で面接。卒なく答えたけど、おそらくダメだろう。
その時携帯が鳴った。前の会社の部下だった。会いたいと云う。
待合せの店に行くと彼はいた。優秀な技士だったが例のトラブルで体を壊して入院。
その後彼も会社を辞めたらしい。「久しぶりです。ご無沙汰してスミマセン」
「こちらこそ」「退院したら倉持さん辞めてて驚きました。」「会社にも君達にも
にも迷惑かけたからね、責任とって」「倉持さんの所為じゃないですよ」
それから彼は本題を話し出した。彼は今知人と会社をやってる。僕に来て欲しい
との事だった。事業内容、プラン、条件、すべて魅力的だった。
「僕は君達を守れなかった駄目上司だ。その僕でイイのか?」彼は云った。
「倉持さんは最後まで僕らの味方でした。また一緒に働きたいんです。是非来て
 ください」彼は頭を下げると立ち上がった。
僕はボンヤリと座ってた。魅力的な話だ。ただ僕はもう「仕事する」こと
への熱意も情熱もなくしてた。それから僕は新宿の街をフラフラ歩いた。
歩道橋に昇り街を見下ろした。サラリーマンが歩いてる。みんな働いてる。
僕以外は。再び・・・あの中に入って働く気にはなれない。
どうしようか、これから。新しい仕事を探す気はもうない。ホントにどうしよう?
仕事もせず、ウチにいてユミに食わしてもらうのか?それはイヤだ。
「消えようか?」…と思った。このままどこかに行ってしまおうか?
ユミなら僕がいなくても大丈夫、一人でやっていけるだろう。

ただその前にもう1度だけユミに逢っておきたい。それから消えよう。
帰宅して、居間に入るとユミがソファで寝ていた。スーツ姿のままだ。
テーブルの上に野菜や肉が放置されてる。会社帰りに買物してきたのか。
ユミの寝顔を見てるうちに泣けてきた。ユミは仕事でトラブルを抱えてても
チャンと家事をしてる。仕事の愚痴も言わない。なのに…僕はどうだ?
僕はじっと動かず・・・ユミの寝顔を見たまま・・泣いていた。

翌日の夕方、駅の改札口で僕はユミを待ってた。ユミはここを通るはずだ。
今日、先方の社長と会った。意気投合し即採用が決まった。明日から出社する。
陽が暮れてきた。ユミが階段を降りて来た。僕に気付いてビックリした。
僕は云った「ただいま」「え?」僕はもう1度云った「ただいま」
ユミは吹き出した。「何それ?ヘンなの?」「いいんだよ、これで」
二人は歩き出した。「仕事決まった」「そう」ユミはまた笑った。

もう1度・・頑張ってみよう。それしか僕にはできないのだから。
そして、僕はもう1度つぶやいた。・・・「ただいま」・・と。

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「No Way,No Place & My Home10「舟」

2007年03月17日 | ショートストーリー
" FACE="Osaka" COLOR="#6a5acd">
彼は死んだ、ここで殺した
わたしの手で、優しい手で。優しい手で。
鈴木祥子「舟」

ドアを開けた。「告井さん、検診ですよ」。ベッドの横に男のヒトがいた。
彼はお辞儀をした。「ご家族?」「息子です。父がお世話になっています」
「彼」はそう言うとまた頭を下げた。

ここは小淵沢にある老人ホーム。ワタシはここで係りつけの医者として働いている。

告井さんは眠っていた。「スミマセンお任せキリで見舞いにも来ないで」「いえ」
「仕事にかまけてつい」「彼」は父親を見ると溜息をついた。
「親父・・・手がかかって大変でしょう。すぐ怒るし」
確かにそれは事実だった。告井さんは他の入居者にも看護士にも評判が悪かった。
黙りこんだワタシを見て彼は少し笑った。ワタシは頭を下げると部屋を出た。

あのヒト、何故笑ったんだろう?何か見透かしたような笑い方だった。
そう言えば会うのは初めてじゃない。お父さんの入院のとき会った筈だ。
静かで・・温和しくて・・印象が薄い人だった。

夕方になってもう1度、告井さんの部屋の前を通る。ドアが少し開いてた。
声をかけようとして止めた。父親は相変わらず寝てる。
「彼」はじっと父親を見下ろしている。 腕が動いた。少しづつ前に伸びる。
・・・ゆっくりだけど・・迷いのない動きだ。
ワタシはドキドキしていた・・・声を出さなくちゃ・・・でも動けない。
「彼」の手が父親の首に届く。指が首に喰いこむ。そのまま絞めようとしてる。
「彼」は相変わらず父親を見下ろしてる。冷たい・・・蔑むような瞳(め)で。
ワタシはドアをバンと開けた。目が合った。「彼」は深くため息をついた。

「どういうことですか?説明してください!事と次第によっては警察を呼びますよ!」
事務室で彼は座っていた。「自分の父親じゃないですか?それをよくもあんな」。
「父親じゃない」彼は返事した。強く、暗い声だった。
「確かに血は繋がってる。でも、あんなの僕の父じゃない。」「説明してください」
彼は・・・薄く笑った。とても寂しそうな笑い顔だった。見てて心が凍った。
「父は最低の男でした。外づらはイイけどウチに帰ると母と僕を殴ってばかりで。
毎日地獄でした。」
「優しい言葉をかけられた事なんて無い。毎日殴られ、蹴られ・・
しばらくして母が逃げ出した。僕一人をおいて」
「僕も高校卒業と同時に家出。一生懸命働いて出世してそうしたら父親が現れた。」
「また暴力の日々。でもある日事故に合って入院。そして、ここに押し込んだ。
 やっと解放された。」「しばらくぶりに様子を見に来て僕を見たら・・・
 親父のヤツ・・あんた?誰だ?って・・すっかりボケてた。・・許せなかった。」
「散々酷い目に合わせながら・息子を忘れている事が、気づいたら首を絞めてた。」
彼は一気に話すと、黙った。「酷いですよねぇ・・忘れるなんて」彼は笑った。

「先生・・血って・・・家族って何なんでしょうね」「・・・」
「父は人を愛せる人じゃなかった。家庭を持つべきじゃなかった」
「・・もし僕が隣の家に生まれたら別の人生があったかも知れないのに」
「告井さん、ご結婚は?奥さんやお子さんは?」
「出来ませんよ。僕にも父親の血が流れてるかと思うと怖くて家族なんて持てない」
「憎いのに忘れたいのに・・会わなければ気になって・・会えばまた憎くなって・・」
「いいじゃないんですか。憎めば。そこまで憎めるのは・・親だからでしょ?」
「先生はご両親は?」「死にました。15年前に」「それはどうも」「心中でした」

「高校生の時、父親と母親は心中しました。姉と弟を連れてワタシだけが残りました」
「悲しかった。家族が死んだ事が、じゃありません。ワタシだけ残されたことが。」
「それから荒れて・・大人になるまで何度も自殺未遂をして・・散々でした。」
「だからワタシも家族いません。家族を持つのが怖いんです。」
「また置いていかれると思うと・・フフ馬鹿みたいでしょ?」
彼は急に顔を覆うと泣き出した。ワタシもそれを見て泣いた。二人でオンオン泣いた。

その夜、ワタシは彼と酒を呑み・・話して・・・そして彼はワタシの部屋に泊まった。
翌日、ワタシは車で彼を駅まで送った。駅前で彼は降りた。彼とワタシは握手した。
「ありがとう。また来ますよ。親父じゃなくて先生に会いに」「ハイ、待ってます」
駅に入るところでもう彼は振り向きワタシに笑った。ワタシは手を振った。

彼の姿が見えなくなるとワタシは車をスタートした。なんか涙が出てきた。
これからは・・・一人じゃないかも・・誰かと生きていけるのかも。
車を走らせながら・・・ワタシはひたすら泣いた。


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「No Way,No Place & My Home9「言葉」

2007年02月25日 | ショートストーリー
" FACE="Osaka" COLOR="#6a5acd">あぁ 言葉とはちっとも 友達になれない
心の中 1度も 上手に話せたことがない
鈴木祥子「言葉」

部屋のドアを開けた。ケンイチは、ヘッドフォンをつけてギターを鳴らしてた。
「何?」「晩御飯」「腹減ってない」弟はそう言うとまた弾き出した。
ワタシは部屋の中を見回した。海外のパンクミュージシャンのポスターだらけの部屋。
「なんだよ?」「冷めない内に食えよ」溜息をつくとワタシはドアを閉めた。

ワタシとケンイチは同じ高校に通ってる。ワタシは3年、弟は2年。
弟は・・夏休みから・・イジメられるようになった。どんなイジメに合ったかは、
弟の名誉のため書きたくない。ともかく酷かった。
それから・・・ケンイチは・・学校に行かなくなった。
1日中フラフラ出歩いたり部屋に閉じこもってギター弾いたり。
お父さんは怒りお母さんはノイローゼ寸前。ウチの中、一気に暗くなった。

学校が終わると街に出てフラフラしてると怪しげな一角に迷い込んだ。
飲み屋やヘンな店がイッパイあるとこ。通り抜けようとしたら弟がいた。
ワタシは慌てて隠れた。ケンイチはお酒のケースを片付けてた。
いかついオヤジが出てきて怒鳴ってる。ケンイチは謝ってる。
そう言えば・・あのときもこうやって隠れてたっけ。

ワタシは思い出してた。去年の夏休みのことを。やたら暑い日だった。
河原でケンイチがイジメられてた。みんなで囲んで吊るし上げてた。
弟は泣いて謝ってた。ワタシはジッと隠れて見てた。
泣いて謝る弟がサイテーに見えた何であんな奴等に頭下げるんだよ。
やり返せばイイじゃん。カッコ悪いよ情けないよ。その後弟は登校拒否になった。

ケンイチが働いてる店はライブハウスだった。
しばらくしてケンイチが学校を辞めると言い出した。あの店で働くらしい。
お父さんもお母さんも怒り叫んでもう滅茶苦茶。でも弟の言い分が通った
ケンイチが退学届を出す前日部屋を訪ねた。
「あんたさホンキで学校やめるの?」「そうだけど」「働くのはイイよ。でも卒業
してから考えればイイだろ。思いつきで決めていいのかよ?」「うるせぇ。関係な
いだろ?」カチンと来た。「このまま逃げるのか?やられっぱなしでいいのか?
悔しくないのか?少しは意地見せろよ」「ヤだ」ケンイチの声は震えてた。
びっくりした。「何言っても通じないんだ。あいつ等には応えないんだ。」
「ムダなんだよ。仕方ないんだよ。あいつ等とはもう関わりあいたくないんだ」
どう言ってイイかわかんなかった。ケンイチにもケンイチをイジメた奴等にも腹が
立った。「サイテ-!弱虫!!」ワタシはそう言うとドアを閉めた。

翌日、ケンイチは一人で学校に挨拶に行ったらしい。あわてて学校に行った。
ケンイチは朝早く来て挨拶してさっさと帰ったらしい。教室にはよらずに。
最後まで逃げっ放しかよ。ガッカリした。授業も身に入らなかった。
フと窓の外見ると校庭に誰かいた。ケンイチだ!派手なカッコでエレキ持ってる。
みんなもケンイチに気付いて騒ぎ出した。ケンイチはエレキを鳴らし始めた。
メチャクチャ音がデカイ。学校中が窓を開けてケンイチに物を投げつけた。
ケンイチは無視してギターをひたすら激しくかき鳴らしてた。
ギターのネックをみんなに向けて何人かを指差して睨みつけた。
まるで告発するように・・罰を与えるように。
ギターを弾き終わると、ケンイチは誇らしげに拳を突き上げた。
ワタシに気づくとニヤリと笑った。そして校門を出て行った。

みんなは何事もなかった様に席に戻った。ワタシは急に笑い出した。
先生はワタシを怒ったけどワタシはおかしくてギャハハと笑ってた。
ケンイチ、ヒドイこと言ってゴメン、あんた弱虫なんかじゃないよ、
サイコ-だよ。あのコは逃げなかった。最後はガツンとかましてくれた。
カッコよかった。イカシてた。
その日ワタシは何だか楽しくて1日中ニヤニヤしてた。


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No Way,No Place & My Home8「どこにもかえらない」

2007年01月18日 | ショートストーリー
" FACE="Osaka" COLOR="#6a5acd">
あの場所には戻らない どこにもかえらない
鈴木祥子「どこにもかえらない」

ドアが開き、ホームに降りた。
何処からか土の香りがする。駅の裏にある山の匂いだろう。

5年ぶりの帰省。妹は「ひさしぶり」と少し怒った顔で出迎えた。
「ずいぶんなご無沙汰ね。」「忙しかった」「でも正月くらいは」「まあな」
妹の言うとおりだ。
これまでも、何度か帰って来いと親や兄弟から誘いはあったのだが
何か帰る気になれなかった。その気になれなかった。・・・どうしてだろう。

窓の外に景色が流れている。ここも随分変わった。
何だか・・・知らない街に来たようだ。たった5年なのに・・・。
いや・・もう5年も経っているのか・・・。

家に着くと、両親、近くに住んでいる兄、妹のダンナが出迎えてくれた。
久しぶりに口にする母親の手料理も美味い。色々と話して笑った。

翌日、街を歩いてみた。何だかこの街が小さく道が狭く感じた。
地元の友人と会ってみた。飲んで楽しかった。仕事の話、家庭の話。
を聞いて「みんな頑張ってるんだな」と嬉しかったし励まされた。
だけど。。少し違和感を感じた。友人の話にどこかで入り込めない自分がいた。

それから家でゴロゴロしたり街を歩いたり最初はよかった。楽だった。心地よかった。
しかし・・・そのうちイライラし出した。ウチにいるのが・・苦痛になってきた。
「5年」は長かった。「ここ」でのボクの過ごした時間は5年前に終っている。
でも、家族も友人の「ここ」での時間は5年分進んでいる。

僕と彼らの「生活」には「5年間」という「壁」が出来てしまった。
違う場所で過ごした時間、共有の時間はもはや無い。
その壁は・・空き間は・・きっと埋められない、埋らない。

家族は暖かい・・でもそれは短期間一緒に過ごしているから。
ホンの数日だから・・・穏やかに仲良く過ごせるのだ。
一緒に住みだしたら・・以前の様な諍いや口論が耐えないだろう。
数日過ごしているうちに段々この街にいるのが苦しくなってきた。
早く東京に「戻りたい」という気になって来た。
どうやら、5年という月日は僕から「故郷」を奪ってしまったようだ。
ずっと「帰りたい」と思ってた。でも、それは勘違いだったようだ。

いや、そんなことはずっと前から分かっていたのだ。
ここは、最早「帰るところじゃない」って・・。
ここには自分の居場所は「もうない」・・って。分かっていた筈なのに。
なのに・・・。
ここに「帰ったら」何かイイことがあるように思ってた。
でもそんなことある訳がなかった。
ここではもう僕は「よそ者」なのだ。

自分の「生活」は今は「東京」にあるのだ。

東京に「戻っても」別に楽しい事が待ってる訳じゃない。
恋人や友人がいる訳じゃない。
相変わらず退屈な日常があるだけだ。
独りアパートの部屋でうずくまってる夜があるだけだ。
あの部屋が、僕の「帰る場所」って訳じゃない。

だけど・・そうやって10年間頑張って来たのだ。独りで、何とかやってきたのだ。
あそこが好きな訳じゃない。あそこに幸福(しあわせ)や夢がある訳じゃない。
でも・・じゃあ何処に行けばイイというのだ?
ここに戻っても一緒だ。何処に行ったって同じだ。

1週間過ぎて、東京に戻った。「家」を出るとき母親は「またおいでね」と
寂しそうだった。少し申し訳ない気持ちだった。

もう、ここには「帰って来る」ことはないだろう。ここは僕の「帰る場所」じゃない。
楽しくなくても、苦しくても、あそこでやっていくしかない。
電車の窓を流れる景色を見てて・・・思った。
「30過ぎて・・家出したんだな」。何だか笑ってしまった。

東京に着き、部屋に「戻って」じっと座り込んでた。
どういう訳か故郷の「家」にいるより、「此処」にいる方が落着く。

もう「休暇」は終わったのだ・・・・・。
明日から・・また・・いつもの「生活(くらし)」が始まる・・・。





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No Way,No Place & My Home7「忘却」

2006年11月09日 | ショートストーリー

あたし、誰を愛してたんだっけ?―忘れた―忘れた。
鈴木祥子「忘却」

病室のドアを開けた。・・・部屋の中は白い陽光(ひかり)に包まれてた。
彼女は・・今目覚めたようだ。眩しそうに僕を見た。。
「今日、仕事でしょ?大丈夫?」「いいの、どーせヒマだから。」
30分くらい話した。仕事のこと、共通の友人のこと、適当に「話を作って」。

彼女を見舞うのは今日で何度目だろう?見舞いの数だけ僕は彼女にウソをついている。
見舞いの後、廊下で看護婦とすれ違った。「あれ?先生、今日は奥さんの見舞いですか?」
その後気付いたように言い直した。「奥さん・・ってどっちの奥さん?」「馬鹿殴るぞ」
僕が睨むと、看護婦は慌てて逃げてった。溜息をつくと、僕は階段を下りてった。

特別治療室で僕の「妻」は眠ってる。その体には沢山のチュ-ブが繋がってる。
あれから・・半年、「妻」は未だに意識が戻らない。
この病院には僕の「妻」と呼ばれる女性が二人いる。一人は本当の妻、もう一人は赤の他人。

僕は市内病院に勤める医者。半年前バスの横転事故があって多くの患者が運び込まれた。
その中に僕の妻と、若い夫婦がいた。ご主人は即死。奥さんは昏睡状態。
そして妻は二度と目を覚まさなかった。生きてはいるが、ただ息をしてる。それだけだった。
2ヵ月後奥さんが意識を取り戻した。そして僕を死んだご主人と思い込んでしまった。
事故のショックで記憶が混乱したらしい。奥さんのご両親の依頼で僕はご主人を演じる羽目になってしまった。以来、僕はご主人のフリをして奥さん-「彼女」を見舞ってる。

「これって浮気じゃないよな?人助けだよな?」僕は妻に話し掛けた。勿論、妻は答えない。
妻が目覚めて僕の名前を呼ぶ事はもうないだろう。それについては、とうの昔にあきらめる。

その日は急患続きで疲れてた。知らずに僕は彼女の病室を訪ねていた。
彼女は起きてた。僕は仕事のグチを彼女にぶちまけてた。彼女は黙って聞いてた。
それから、妻を見舞う事が減った。彼女を見舞う事が増えていった。
僕は話さない妻に会うのが億劫になってたのだ。そして誰かと話す事に飢えてたのだ。
その日・・・妻が死んだ。急に容態が悪化し・・そのまま亡くなった。
僕は後悔した。。もっとチャンとそばにいるべきだった。チャンと診てやるべきだった。
僕は妻を裏切ってた、妻でなく彼女を選んでいた。僕は彼女の病室に足を向けてた。
もう本当のことを話そう。ウソはもう終わりだ。こんな作り話、もうやめるべきだ。

病室に入り、僕は彼女を見ると、急に大声で泣き出してしまった。
「どうしたの?」僕は何もいわずただ泣くだけだった。彼女はすこし笑ってた。

今日は素晴らしく陽気がいい。彼女を車椅子にのせて庭に出た。
結局、あのとき真相を話せなかった。僕は相変わらず彼女の夫を演じている。
いやそれ処か最近では演じる事が楽しくなってる、彼女と話すのが楽しみになっている。
このまま彼女の記憶が戻らなければいいな・・・そんなことを考えたりする。

この感情が「愛情」なのか?「同情」なのか?「現実逃避」なのか?
そんなのわからないし、わかりたくもない。
いつかはきっと、このウソはバレるだろう。それまでは未来(さき)のことは忘れよう。
いまは・・・ただ、この女性(ひと)といたい、この女性(ひと)と話していたい。

最近死んだ妻のことを忘れてる。妻の顔を声を・・思い出せなくなってる。
それは・・・イケナイことだろうか?

ボクはホントは誰を愛してたんだろう?誰を愛してるんだろう?誰を愛して行くんだろう?
もう・・ワカラナイ・・・もう・・・思い出せない・・・
もう・・忘れた、忘れた・・忘れた・・
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「No Way,No Place & My Home6「ひとりぼっちのコーラス」」 

2006年10月15日 | ショートストーリー
だから今は ひとりがいいの ひとりきりがいいの
鈴木祥子「ひとりぼっちのコーラス」

カフェのドアが開き少女が入ってくる。挨拶し席に着く。インタビュー開始。

はじめまして、6月1日無人島レコードからCDデビューしました。
よろしくお願いします。「ロッキンアウト」学生時代よく読んでました。
Q1.デビューしてすぐって言うのに凄い人気ですね。
   ハイそうらしいですね。スタッフは凄く売れてるって言うんですけど。
   正直ワタシの何を皆そんなに気に入ったのかよく分らないです。
Q2.そうですか?同世代の心を丁寧に描いてるって評判ですよ。
   そうなんだ、へぇ。ワタシ別に同世代の為に歌ってる訳じゃないけど。
Q3.どんな子供だった?
   いつも教室の隅にいて本読んでる地味でおとなしいコでした。
   トモダチもいなかったな。
Q4.イジメられてたの?
   別に..ただ「フツーじゃない」ってよく言われました。
   後「気取ってる」とか「カッコつけてる」って。
Q5.なんで?
   ワタシお掃除好きで教室の床の隅から隅までピカピカに磨くんです。
   皆掃除サボっててワタシ一人で一生懸命掃除してるの見て皆に
   に「フツーじゃない、おかしい、変わってる」って云われました。
   後、テストで1位取ったことあって。また皆、「カッコつけてる」って。
Q6.自分で自分が変わってるって思う?
   わかりません。でもみんなそう云うから。やっぱそうなのかな?
   変わってるのかな?ワタシ、変わってますか?
Q7.イヤァわかんないけど。音楽との出会いは何時?
   大学入って、はじめて彼氏できて音楽詳しくて色々教えてくれました。
Q8.どんなの聴いてたの?
   色々、ビートルズ、U2、パティ・スミス、佐野元春、ブランキー、
   ナンバガ、ミシェル、Coccoも聴いた。
Q9.特にお気に入りはあった?
   パティ・スミスとCoccoはスキでした。憧れです・・フフフ。
Q10.歌い出したきっかけは?
   聴いてる内に自分でも歌いたくなって。それまで詩は沢山書いてて。
   その詩に自分でピアノ弾いて彼にギターで伴奏つけてもらって。
   路上で歌ってたらレコード会社のヒトにデビュー誘われました。
Q11.こういうヒトに聴いて欲しいとか、訴えたいテーマはある?
   ないです。ワタシは歌いたい事歌うだけ。
   ヒトがどう思おうが知ったこっちゃない。別に伝えたい事も無い。
Q12.ヒトに伝えたい事もないなら何故歌うの?
   ウタしかないから。ワタシが世の中に繋がる手段・・武器?・・
   それはオンガクしかない。他に何もできない、やれない。それだけ。
   もし、伝えたい相手。。いるとしたら子供時代の自分ですね。
Q13.何を伝えたい?
   あなたはフツーじゃないかも知れない。でも少なくともウタはうたえる。
   ワタシはあなたを認める。そう云ってあげたい。そう伝えたい。
Q14.キミを「フツーじゃない」と云ったヒトを恨んでる?憎んでる?  
   別に昔のことだし。あれ以来逢ってないし。ただ聴いてもらいたくない。
   ヒトを簡単に「変わってる」「フツーじゃない」って言い切る奴等には
   聴かせたくない。まして分かるなんて絶対言って欲しくない。
Q15.ライブも予定ないんだよね。バンドで演奏したりしないの?
   ヒトに直接聴いて欲しいって気になれなくて。スタッフはライブすべき
   って言うんですけど。バンドも・・今は別にイイなぁ。
   大勢のヒトを相手にすると疲れるし1人でピアノ弾いて歌うの楽しいし。
Q16.寂しくない?ライブしない、一緒に演奏する仲間がいないって。
   別に。ずっと一人だったから。一人でやってきたから。
   寂しいなんて感じない。感じる必要もない。これがワタシの「フツー」。
Q17.じゃぁ最後の質問・・・「誰かといたい」って感じることは無い?
   無い。せいぜい家族と彼だけかな?でもいつも一緒にはいたくない。
Q18.ひとりが好きなんだね。
   ハイ、ひとりでいるのって楽しいです。ワタシひとりでいるのが好き。
   ヒトから見たらフツーじゃないかも知れないけどワタシはワタシが好き。
   ワタシはワタシを認めたい。ワタシはワタシの為に生きてる、歌ってる。
   自分ひとりだけで、ウタで何ができるか知りたい。それだけです。
Q19.ありがとう。楽しかったです。
   こちらこそ、ありがとうございました。あの・・実はそのファンなんです。
   握手・・・・してくれますか?

少女はおずおずと手を出した。握手をすると嬉しそうに・・無邪気に笑った。
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No Way,No Place & My Home5「paingiver」

2006年09月30日 | ショートストーリー

誰かのインクで、書くのはやめてね。明日からせめて責任をもってね。
鈴木祥子「paingiver」

事務所のドアを開けた。やっぱり「カミサマ」はいた。資料を作ってた。
ワタシに気付くと、いつもの笑顔を向けた。
「カミサマ」-神明(ジンアキラ)さんは北斗銀行羅王支店総務課長だ。
事務を一人で切り回してる。前は本社の人事部長だったけど、リストラで
この店に来たとの噂だ。優しくソフトな語り口に女性社員は皆「カミサマ」と
呼んで慕ってる。ただし、男性社員にウケは悪い様だ。
面倒な仕事ばかり押し付ける。本社指示で辞めさせようとしてるらしい。

その週、カミサマは3日位支店にいなかった。本社に呼び出されたらしい。
仕事は大きく滞った。事務処理はミスだらけクレームも多かった。
4日目カミサマはやっと出社し席に付くとトラブルを次から次へと処理した。

1ヶ月後、本社から内部調査室が抜き打ちで来て監査が始まった。
支店長や副支店長が何度も呼び出され、真っ青になってた。
監査が終って直ぐ、支店長が解雇された。新支店長が説明してくれた。
本社の営業本部長の指示でウチの支店長が不正をしていたこと。
お客様のお金を不正に使い政治家やヤクザと癒着してた事。
内部告発があって、その事実が発覚した事。
不正はいろんな店であって多くの幹部が解雇されたと。
ワタシ等はワケ分からず、お客様にお詫びの挨拶訪問を続けた。

事の発端がカミサマにあった事を知ったのは、すぐだった。
内部告発したのはカミサマだったらしい。
カミサマが営業マンに問い詰められたり殴られたりしてるのを見た。
とめたかったが怖くて出来なかった。
それからのカミサマへの嫌がらせは酷い物だった。それはイジメだった。
でも、カミサマは毎日出てきた。誰もカミサマに話しかけようとしなかった。
カミサマはただ目の前の仕事を淡々とこなしていた。

しばらくして・・・カミサマが会社を辞めた。
退職の日、カミサマは挨拶回りしたが、誰もが無視してた。
ワタシの席にも挨拶に来てくれた。何か言いかけたワタシを制し、
カミサマは笑って手を振った。

1ヶ月後カミサマからメールが来た。会いたいと言う。
指定のお店に行った。聞きたい事がイッパイあった。
カミサマは静かに話出した。

本社で人事部長してた頃500人の社員のクビ切りをした事。
でも、それは営業本部長が対抗する派閥をつぶすため仕組んだこと。
それを知ってカミサマが怒ったこと。
「気付いたら営業本部長を殴ってた。そして支店に飛ばされた。」
「支店で酷い目にあった。それは自分に対する罰と思った。
 知らないとは言え、あんな事したんだ。罰せられて当然だ。
 だが営業本部長だけは許せなかった。罰すべきと思った。」
「調べたら彼も彼の配下の支店も不正だらけ。必死に証拠を集めた。」
「そして内部告発。ようやくアイツを追い出せた。」

このヒト誰だろう?ワタシは・・・誰と話しているんだろう。
このヒトはワタシが知ってるカミサマじゃない。まるっきり別のヒトだ。

「課長のお怒りは分ります。でも皆家族や生活があります。
 キレイ事じゃ済まない事ってあるんじゃないですか?そこまでしなくても」
カミサマはワタシを真っ直ぐと見た。怖いくらい真っ直ぐとした目だった。
「そうは行かない。彼らは悪いことをしたんだ、多くのヒトを苦しめた。
罰を受けるべきだ。適当に済ませてイイワケがない」
「何々ですか?貴方何様ですか?貴方にヒトを裁く権利があるんですか?」カミサマは可笑しそうに笑った。
「キミたちは僕のことカミサマって呼んでたんだってね」ワタシは慌てた。
「僕はカミサマなんかじゃない。カミサマの様に誰でも許せはしないよ」
ワタシは黙り込んだ。

店を出た。カミサマはワタシに向かって手を出した。
「ここでお別れだ。握手してくれるかな?」ワタシはその手を握り返した。
「実はあの店で働くのキツくてね。何度も辞めようかと思ってた。」
「でも最後まで頑張れたのはキミがいたからだと思う」ドキッとした。
「キミには僕の本当の姿を知って欲しかった。だからもう1度逢いたかった」
「ワタシも・・」と言いかけたのに声が出なかった。
「もう逢うことはないだろう。元気でね。ホントにありがとう。」
カミサマはそう言って歩き出した。

ワタシは・・・カミサマの後姿をずっと見送ってた。
カミサマの姿はやがて小さくなって見えなくなった。
それでも、ワタシはいつまでもカミサマがいた所をボンヤリ見てた。
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No Way,No Place & My Home4「モノクロームの夏」

2006年08月19日 | ショートストーリー

夏を止めて 永遠のなかに 会えなくなる前に
モノクロームの夏が逝く
鈴木祥子「モノクロームの夏」

エレベーターのドアが開き、タラップから関西空港に降り立った。
空港の外に出た・・ムッとした熱気と湿気が襲いかかる・・。
汗を拭うと僕はナツキに電話した。ナツキの眠そうな声が聞こえた。

「今、関空に着いた。これから行くよ・・・夕方までには着くと思う。」
お義父さんは寄合で帰りは夜になるらしい。来るのは夜でイイらしい。
電車で奈良に向かう。・・窓の外の景色が懐かしい・・・。
考えてみれば奈良に来るのって・・・実に15年ぶり・・結婚式以来だ。

僕とナツキは奈良の旧市街の産まれ・・幼馴染だった・・・・
中学校のとき、幼馴染がガールフレンドに変わり、高校時代に僕が引っ越しても
その付き合いは続いた。彼女も東京の大学に進学。卒業後、すぐ結婚した。
あれからもう15年・・いやまだ15年というべきか。その15年も、もうすぐ・・

奈良駅前で降りた。駅前はヒトでイッパイだ。よく一緒に遊びにきたな。
僕は時計を見た。まだ昼すぎだ。夜まで、どう時間を潰そうか。
ふと・・・どこからか土と草の匂いがした。懐かしい匂い。
東京の暮らしでは有り得ない。子供の頃、僕はこの匂いの中で暮らしてた。

ひさしぶりに「なら」を歩いてみよう。昔、一緒に遊んだ場所を訪ねてみよう。
駅前の「噴水広場」は相変わらずにぎやかだ。待ち合わせによく使ったな。
「東向き商店街」を歩いてみる。携帯電話の店が多いな・・・。
確か・・この辺に・・・あった、あった。懐かしのカフェ。
僕は甘いモノが好きで、ここでチョコカフェをよく食ったな。
ナツキは美味そうに食べる僕を見て、笑い転げてた。
元興寺にも行ってみた。奈良の夏の風物詩「万燈会」。
二人で見た無数の灯火・・・。今でも想い出す。

結婚して・・・シアワセだった。毎日楽しかった、すべてうまくいってる。
そう思ってた。そう信じて疑わなかった。仕事はふたりとも順調だった。
お互い忙しかったけど、ヒマを見つけて一緒に温泉やライブに行った。
トシを取るごとに仕事は益々忙しくなった。楽になんかならなかった。
仕事なんかより・・ナツキを大事にしたかったのに。
まだ早いがナツキのウチを訪ねる事にした。電車に乗って山に向かう。

寂れた駅のホーム。15年の間にますます寂れた・・・。
僕が東京に引っ越す時ナツキは見送りに来たっけ。
駅を下りると白い道が広がってた。どこかでヒグラシが鳴いている。
白い壁、古い街並が続く。・歩いてみた・・・・ゆっくりと・・・・。
どういうワケか高校生の自分がみえた。まだ何も知らなかった17歳の自分。

ナツキとの事を思い出すとき・・・なぜか夏の想い出ばかり蘇る。
ふたりで川で泳いだ事、元興寺の万燈会を見たこと。
どしゃ降りの中をふたりで笑いながら自転車を飛ばしたこと・・・。
どういうわけか想い出すのは・・夏なのだ。
ふたりでこの白い道を黙って歩いたっけ。お互い話す事も無くて、
手をつなぐのも照れくさくて・・ひたすら黙って歩いたっけ。

この街は全然かわらない。昔のままだ。壁の匂い、風の涼しさ、
あのときとなにもかわっていない。でもあのとき見た「いろ」が想い出せない。
すべてがモノクロームに・・・灰色に塗つぶされている。
気付くと神社の前にいた。学校帰りに二人でよくここに遊びに来たっけ。
ナツキとはじめてキスしたのは・・・ここだった。

陽が暮れてきた。駅にもどる。曲がり角が続く長い道・・・。
角を曲がると、あのときの自分とナツキに逢えそうな気がした。
ふっと目の前を若い女のコがとおりすぎた・・・
そのコの横顔に・・・17歳のナツキが重なった・・・。
思わず・・・立ち止まって見惚れた・・・そのまま動けなくなった・・・。

「どうしたの?」ナツキのコエが聞こえた。ふりむくとナツキがいた。
「いや・・・」「なに?」「むかしをおもいだしてた」「うん?」
「昔オマエとあるいた場所をいろいろあるいてみた」「ふ~ん」「あのさ・・」
 「うん?」もう1度オレたち・・・と言いかけて・・コトバをのみこんだ。
「なに?」「・・いや」、ナツキは溜息をついて僕をみた。
「それは・・・もうムリよ、わかってるでしょ?」「うん」

「今日たのむよ、チャンといってよ」「だいじょうぶさ」
「どうだか、肝心なトコで弱気になるからなぁ」「だいじょうぶさ」
そして、ナツキとふたりで黙ってあるいた。むかしみたいに。

ナツキのウチに着いた。お義父さんとお義母さんが帰ってた。
ふたりはにこやかに迎えてくれた。「暑かったやろ?いまお茶いれるな」
ふたりの穏やかな笑顔をみると・・・すこしココロが痛んだ。
「やめようか」と思った。ナツキが僕をつつく。
仕方なく僕は「今日は・・・お話したいことがあって来ました。
お茶はいいから座ってくれませんか?」そういって正座した。
ナツキは僕の横に座った。両親は僕の改まった様子に驚き、座った。
僕は・・・「やっぱり、やめようか」と思った。コトバがでてこない。
ナツキが僕を見てた・・・まっすぐと見てた。僕を頼りに信頼してる瞳だった。

決心がついた。この瞳にこたえよう。顔をあげて僕はいった。はっきりと。
「このたび・・・僕とナツキは・・・・リコンすることになりました」
そのとき、ナツキがなぜか、わらった。・・・・
僕の夏が、いま・・・終ろうとしていた。



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