僕と猫のブルーズ

好きな音楽、猫話(笑)、他日々感じた徒然を綴ってます。
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「No Way,No Place & My Home3「3月のせい」

2006年07月01日 | ショートストーリー
踏切りを待ちながら思う ここで飛び込んだらバカ
鈴木祥子「3月のせい」


電車のドアが開いた。駅のホームに降りる。そのとき急に・・・思った。
「死んでしまいたい・・・」
ヤバイ・・ひさしぶりだよ、この感じ。最近は、おさまってたのに。
さっさとウチに帰ろう。酒呑んで寝よう。

ウチに帰って着替えるとベッドに転がった。どこかで電車の音が聞こえる。
散々な一日だった。部長にツマンナイことで延々イヤミを言われた。
しかも来週からは倉庫係に異動。サイアク。
何だか情けなくなって涙が出てきた。バカみたい。こんな事で泣くなんて。
明日は久しぶりの休日だ、映画でも見て美味いモノ食べて遊ぼう。

目が覚めたらヒドイ雨だった。・・・・サイテ-、サイアク。何だよコレ?
ワタシにケンカ売ってんのか?
仕方ない。映画はあきらめよう。近場で買い物でもして過ごそう。

駅前でショッピング。ウチで借りたビデオ見た。週末はいつもこう。
ひとりでダラダラ過ごしてる。なにやってんだろ。なんだか疲れたな。
窓から下を見下ろした。踏切が見える。電車が通り過ぎてく・・・
一度あそこに飛込んでみようかな?楽に逝けるかな?痛いかな?
慌ててワタシは首を振ってこの思いつきを忘れようとした。

気付いたら電車に乗って下町のある駅でワタシは降りた。昔住んでた町。
子供の頃遊んだ場所に行ってみようと思った。中学校、川、橋、ゲーセン。
中学校も川も橋もまだあった・・橋の上に立って思い出した。
ここでワタシよく・・・溺れそうになった。
誰も助けてくれず・・みんなでワタシを笑ってた・・。
ワタシ・・いじめられっコだったのだ。それを忘れてた・・・。
何ウキウキ訪ねてるんだよ自分。バッカじゃないの?

振り向くと踏切があった。・・・今度はホンキで飛込もうかと思った。
でも・・・・・ココはイヤだ。ココでは死にたくない。
電車にまた乗った。どっか楽しい想い出ある場所(トコ)で死のう。
最後はイイこと想い出して死にたい。でも、そのうち気付いた。
イイ想い出ある場所(トコ)なんて・・ないじゃない。そんなのないじゃない
なんなんだ?ワタシの人生。30年生きててイイ想い出の一つもないなんて。
結局、地元に戻り行付けの居酒屋で呑んだ。
顔見知りの店員が呑みすぎを注意したが、睨むと黙った。
ワタシの後ろに若い男の集団がいた。一人がワタシをチラチラと見てた。
店の窓に雨があたって音をたてる。雨音聞いてるうちに決心がついた。

店の外に出た。凄い降りだ。濡れるのも構わず踏切に向かって歩き出した。
傘をさしてる人にぶつかる。舌打ちされる。にらまれる。
無視して急ぎ足で踏切に向かった。
踏切の前に立った。電車が来た。飛び込もうと思った・・でも足が動かない。
電車がまた来た。・・でもダメだった。足が震えて前に進まない。
周囲のヒトたちが気味悪そうにワタシを見て通り過ぎる。

涙が出てきた・・とまらなかった。これで、これで死んでイイのかよ?
なんにもない人生だった。何にも楽しいことなかった・・
イヤだ・・このまま終るのはイヤだ、こんなまま死にたくない。
ワタシだってシアワセになりたい、楽しいことしたい、大声で笑いたい。

涙がとまった。側にある植え込みに座りこんだ。
顔を上げると若い男の子がこっちを見て立ってた。お店にいたコだ。
「何か用?」ついキツイ口調になった。
彼はオドオドと話した。「ヒドイ顔してたから心配になって」
「それでつけてったっての?どうして?関係ないじゃない?」
彼は必死に搾り出すように話した。
「オレも昔・・おねーさんみたいな顔してたとき・・あったから・・
死のうとしたことあったから、だから心配で」
ドキッとした。

「それで?」「え?」初めて彼はこっちを見た。
「死ななくて、貴方・・なんかイイことあった?」彼は困った顔をした。
「答えてよ、死ななくて・・生きててよかったって思えたの?答えてよ!」
ワタシは必死に聞いた。彼は答えた。「別にないよ・・そんなの、でも」
「でも?」「生きてたから、こんなキレイなおねーさんと話せたんだし」
彼はこっちを見ようとしなかった。ワタシは思わず笑い出してた。
きっと・・・彼なりの精一杯の答えだったんだろう。
このコも人付き合いが苦手なんだろうな。

「心配してくれてありがとう」彼はワタシを見た。脅えた瞳をしてる。
その瞳を見て何だか安心した。
このコはワタシと同じだ・・・このコはワタシの・・仲間だ・・・。
「お礼にお酒ご馳走する、呑みなおそう」ワタシが笑うと彼も笑った。

月曜日・・会社に行ったら辞表を出そう。そう決めた。
いつの間にか・・・雨があがっていた。。
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No Way,No Place & My Home2「この愛を」

2006年06月01日 | ショートストーリー

ふたりはとても似ていたので 恋することはかんたんでした

鈴木祥子「この愛を」


バーのドアを開けて勢いよく店に入った。・・・中を見回したが来てない。
僕はカウンターの片隅に陣取り、ビールをオーダーした。
それから・・1時間。時計を見た、遅いな。携帯にかけてみたが、通じない。
自分から呼び出しておいて一体どういう積りだ。

彼女・・が会社を辞めて、もう4ヶ月。
彼女は、同期でセールストップの成績だった。
会社は当然必死に引き止めたが、彼女は頑として断った。
会社をやめてから彼女がどうなったかは知らない。特に噂も聞かなかった。
ただ・・・僕はときどき彼女のこと思い出してた。

そんな或る日。彼女から電話がかかってきた。大事な話があるという。
喜び勇んで来たら・・・遅刻してやがんの。
帰ろうかと思ったとき、彼女が慌てて入ってきた・・・。
僕を見つけると手をふり、ツカツカと歩み寄ってきた。

「遅い。1時間遅刻だぞ。」と言うと「ゴメン、大事な打合せあって」
「で話なんだけど・・」「おい、オーダーぐらいしろよ」
相変わらずだな・・。自分の話しか頭に無い。

「で何?」「うん、実は私、会社をはじめたんだ。いわゆるベンチャービジネスって奴」「ふーん」。別に驚かない。
彼女の才能と腕なら会社のひとつくらい作りそうだ。
「で何の会社?」「ウン、輸入雑貨の会社。独自のルートで安く仕入れて、
インターネットを通じて売ろうと思ってる。で・・・こっからが本題。是非ウチの会社に幹部として来てほしいの?」
「へ?」「御願い」「オレは事務畑だ。何の役にも立つとは思えないけど」
「いえ、そういう人が欲しいの」。

どうやら、事務方のリーダーとなる人材が欲しいらしい。
しかし僕は今の会社には不満は無い。退屈だけど気楽だし安定してる。
彼女の会社は言っちゃあ何だが海の物とも山の物ともつかない。
頭の中で天秤を図ってみた。

「悪いけど、どこまで信用していいか分らない」「え?」
「キミは信頼してる。ただ会社経営ってのは大変なことだ。来いって言われて
ハイ、そうですか、ってワケにはいかない。そっちに行って自分の人生を
台無しにするのはゴメンだ。」
「悪いけど販路は確保しているのか?チャンとした経営プランはあるのか?
簡単に信用できないな。」彼女は黙っていたが、笑い出した。
「何か可笑しいか?」と僕はムッとして聞いた。
「流石ね。相変わらず慎重で頭固いけど・・それくらいじゃないと困るわ」
「私は突っ走っちゃうから冷静な参謀が欲しいの、それは・・貴方以外考えられない」彼女は目を輝かせながら言った・・・
もっともその目には僕に対する個人的感情は微塵も無かったが。
「分った。1ヶ月考えさせてくれ。明日中にキミの会社の資料を出来るだけ沢山送ってくれ」と僕は答えた。

翌日、早速彼女からのメールが届いていた。
会社案内、経営計画、業務説明図、商品の写真、仕入先・販売先、
決算書、資金繰表・・必要な書類は全て揃っていた。
そのうえ、彼女が考える会社の強み・弱みもしっかりとまとめられていた。
彼女のやる仕事はいつも抜かりが無い。

資料をジーッと眺めながら僕は考えてた。
かなり魅力のある事業内容だ。・・・プランの内容も悪くない。
ただ・・矢張りリスクはある。

毎日、資料を読み込んで考えた。
現在の仕事と彼女の誘いを頭の中で何度も比較した。
今の仕事は・・給料は悪くない。安定してる。
このまま勤めれば部長も夢じゃない・・・夢じゃない・・が。
今の仕事には特に興奮や熱を感じない。自分の人生を賭けているワケでもない。
だけど、少なくとも・・彼女は「僕」という人間を必要としている。
そして・・・僕も彼女をサポート出来る自信がある。

確かにリスクはある・・・
ただ、30数年生きてきて危ない橋を渡ったことは一度も無かった。
一度くらいそういうムチャをするのもイイかも知れない。

そして・・・何より「彼女」と一緒に働ける。
それだけでも賭けてみる価値はあるんじゃないだろうか?
彼女が僕に特別な感情を持ってるとは思えない。
だけど、彼女といれば今よりはオモシロイ人生が送れそうだ。
そこまで考えて気付いた・・なんだ、オレ、もうすっかり行く積りじゃないか。

よし、明日電話してOKの返事をしよう。いやいや明日まで待ってられない。
早速これから会いに行こう。僕は彼女の携帯に電話した。
会いたい旨を伝えると、彼女が返事する前に電話を切った。

そして、部屋を飛び出ると車を発車させた。
何だかドキドキしてる、気分がハイだ。
車を走らせながら、知らず知らずのうちに口笛を吹いてた。
さぁ、次の角を曲がれば、彼女の会社だ。

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No Way,No Place & My Home1 「Swallow」

2006年05月17日 | ショートストーリー

ただ 帰りたくて 帰りたくて 帰ったのに
街では 何もなかったよに 風が吹いて一日がまた始まる
-鈴木祥子「Swallow」-

ドアを開けて中に入った。「こりゃひどい」思わず呟いた。
テーブルも椅子も調理場も埃だらけだ。5ヶ月も放置されてたから当然だ。

20年ぶりの我が家、故郷・・・。
親父と喧嘩して飛び出した自分が、まさかこの店を継ぐ事になるとは・・。

昨年、父が亡くなった。町一番人気のレストランだった。
父の死後、遺品から沢山のレシピが見つかった。
それを見つけた母が店を継いでほしいと言い出した。
ホントは断わる積りだったが、僕の東京の洋食屋は潰れる寸前だった。
駅前のグルメショップに客を奪われ、借金を抱え・・破産同然。
母と妻の熱心な薦めに従い店を売り借金を減らし父の店を継ぐ事にした。

まずは店の掃除だ。僕は溜息をつくと雑巾を手に掃除をはじめた。
幸い調理器具は痛んでいない。洗えば、すぐにも使えそうだ。
道具を大事にする頑固者の父らしい。
そう、父は頭の固い人だった。職人気質で、古くて、弟子や母や息子の
言う事に耳を貸すことなんか無い。
いつも一人で何でも決めてた。そんな父に反発し、僕はこの家を出た。

それから3日間、掃除した。調理場も客席もピカピカになった。
4日目は商店街を歩いてみた。客層、ライバル店、調査しないと。

僕がいたころと町の様相は変わっている。
昔は田舎の下町だったのに、今は「近郊の住宅街」って感じだ。
商店街は、昔ながらの魚屋、野菜ショップ、豆腐屋が残っている。
一方で洒落た創作料理屋や洋風レストランも沢山ある。
この中で特徴を出すには、かなり頑張らないと。


翌日も商店街を歩き、帰りに昔馴染みの喫茶店に寄ってみた。
マスターは昔と変わっていた。僕と同じくらいだ。もしかして同級生?
彼は僕に気付かなかったようだ。僕も特に声は掛けなかった。
昔は汚い店だったのに、今は小奇麗なカフェに変身してる。
コーヒーもそこそこイケル。昔はホントに不味かったのに。

窓の外の人の流れを見て「ここも変わったな」思わず口に出してた。
この町を出て20年・・いつも帰りたかった。帰りたくてたまらなかった。
でも、実際帰ってみたら、そこはもうとっくに別の町になっていた。
町も人も変わるのだ。
昔のままで変わらないでいてほしい・・・
なんてのは外に出た人間の勝手なセンチメンタリズムだ。

それから1ヶ月・・・開店の準備を進めた。
少しづつ商店街の連中とも顔見知りになった。
中には小中高が同じ連中もいたが、誰も僕を覚えていなかった。

店の名前は・・・悩んだが父親時代とは変えた。
これは最早父親の店じゃない・・・自分の店なのだ。

いよいよ明日が開店という日、東京にいる妻に電話した。
彼女は東京で保険のセールスレディをして娘を養ってる。
「開店して落着いたら、そっち行くね」と言っていた。
調理器具の手入れがチャンとしていたこと話すと、笑っていた。
「そういうお義父さんの頑固な処、あなた引継いでるよ」って言ってた。
そうかな?全然似ていないと思うけど。
そう思ったが、反論はしなかった。

店の内装もすっかり変えた。
ただし、父親の使っていた道具と・・レシピだけは残した。
これだけが唯一、父親と僕をつなぐモノだ。

町も人も変わった・・。
僕も変わった・・。
ここは僕にとっては新しい町だ。
ここに帰ってきたんじゃない。移住してきたんだ。

明日、「僕の店」がオープンする。

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