踏切りを待ちながら思う ここで飛び込んだらバカ
鈴木祥子「3月のせい」
電車のドアが開いた。駅のホームに降りる。そのとき急に・・・思った。
「死んでしまいたい・・・」
ヤバイ・・ひさしぶりだよ、この感じ。最近は、おさまってたのに。
さっさとウチに帰ろう。酒呑んで寝よう。
ウチに帰って着替えるとベッドに転がった。どこかで電車の音が聞こえる。
散々な一日だった。部長にツマンナイことで延々イヤミを言われた。
しかも来週からは倉庫係に異動。サイアク。
何だか情けなくなって涙が出てきた。バカみたい。こんな事で泣くなんて。
明日は久しぶりの休日だ、映画でも見て美味いモノ食べて遊ぼう。
目が覚めたらヒドイ雨だった。・・・・サイテ-、サイアク。何だよコレ?
ワタシにケンカ売ってんのか?
仕方ない。映画はあきらめよう。近場で買い物でもして過ごそう。
駅前でショッピング。ウチで借りたビデオ見た。週末はいつもこう。
ひとりでダラダラ過ごしてる。なにやってんだろ。なんだか疲れたな。
窓から下を見下ろした。踏切が見える。電車が通り過ぎてく・・・
一度あそこに飛込んでみようかな?楽に逝けるかな?痛いかな?
慌ててワタシは首を振ってこの思いつきを忘れようとした。
気付いたら電車に乗って下町のある駅でワタシは降りた。昔住んでた町。
子供の頃遊んだ場所に行ってみようと思った。中学校、川、橋、ゲーセン。
中学校も川も橋もまだあった・・橋の上に立って思い出した。
ここでワタシよく・・・溺れそうになった。
誰も助けてくれず・・みんなでワタシを笑ってた・・。
ワタシ・・いじめられっコだったのだ。それを忘れてた・・・。
何ウキウキ訪ねてるんだよ自分。バッカじゃないの?
振り向くと踏切があった。・・・今度はホンキで飛込もうかと思った。
でも・・・・・ココはイヤだ。ココでは死にたくない。
電車にまた乗った。どっか楽しい想い出ある場所(トコ)で死のう。
最後はイイこと想い出して死にたい。でも、そのうち気付いた。
イイ想い出ある場所(トコ)なんて・・ないじゃない。そんなのないじゃない
なんなんだ?ワタシの人生。30年生きててイイ想い出の一つもないなんて。
結局、地元に戻り行付けの居酒屋で呑んだ。
顔見知りの店員が呑みすぎを注意したが、睨むと黙った。
ワタシの後ろに若い男の集団がいた。一人がワタシをチラチラと見てた。
店の窓に雨があたって音をたてる。雨音聞いてるうちに決心がついた。
店の外に出た。凄い降りだ。濡れるのも構わず踏切に向かって歩き出した。
傘をさしてる人にぶつかる。舌打ちされる。にらまれる。
無視して急ぎ足で踏切に向かった。
踏切の前に立った。電車が来た。飛び込もうと思った・・でも足が動かない。
電車がまた来た。・・でもダメだった。足が震えて前に進まない。
周囲のヒトたちが気味悪そうにワタシを見て通り過ぎる。
涙が出てきた・・とまらなかった。これで、これで死んでイイのかよ?
なんにもない人生だった。何にも楽しいことなかった・・
イヤだ・・このまま終るのはイヤだ、こんなまま死にたくない。
ワタシだってシアワセになりたい、楽しいことしたい、大声で笑いたい。
涙がとまった。側にある植え込みに座りこんだ。
顔を上げると若い男の子がこっちを見て立ってた。お店にいたコだ。
「何か用?」ついキツイ口調になった。
彼はオドオドと話した。「ヒドイ顔してたから心配になって」
「それでつけてったっての?どうして?関係ないじゃない?」
彼は必死に搾り出すように話した。
「オレも昔・・おねーさんみたいな顔してたとき・・あったから・・
死のうとしたことあったから、だから心配で」
ドキッとした。
「それで?」「え?」初めて彼はこっちを見た。
「死ななくて、貴方・・なんかイイことあった?」彼は困った顔をした。
「答えてよ、死ななくて・・生きててよかったって思えたの?答えてよ!」
ワタシは必死に聞いた。彼は答えた。「別にないよ・・そんなの、でも」
「でも?」「生きてたから、こんなキレイなおねーさんと話せたんだし」
彼はこっちを見ようとしなかった。ワタシは思わず笑い出してた。
きっと・・・彼なりの精一杯の答えだったんだろう。
このコも人付き合いが苦手なんだろうな。
「心配してくれてありがとう」彼はワタシを見た。脅えた瞳をしてる。
その瞳を見て何だか安心した。
このコはワタシと同じだ・・・このコはワタシの・・仲間だ・・・。
「お礼にお酒ご馳走する、呑みなおそう」ワタシが笑うと彼も笑った。
月曜日・・会社に行ったら辞表を出そう。そう決めた。
いつの間にか・・・雨があがっていた。。
鈴木祥子「3月のせい」
電車のドアが開いた。駅のホームに降りる。そのとき急に・・・思った。
「死んでしまいたい・・・」
ヤバイ・・ひさしぶりだよ、この感じ。最近は、おさまってたのに。
さっさとウチに帰ろう。酒呑んで寝よう。
ウチに帰って着替えるとベッドに転がった。どこかで電車の音が聞こえる。
散々な一日だった。部長にツマンナイことで延々イヤミを言われた。
しかも来週からは倉庫係に異動。サイアク。
何だか情けなくなって涙が出てきた。バカみたい。こんな事で泣くなんて。
明日は久しぶりの休日だ、映画でも見て美味いモノ食べて遊ぼう。
目が覚めたらヒドイ雨だった。・・・・サイテ-、サイアク。何だよコレ?
ワタシにケンカ売ってんのか?
仕方ない。映画はあきらめよう。近場で買い物でもして過ごそう。
駅前でショッピング。ウチで借りたビデオ見た。週末はいつもこう。
ひとりでダラダラ過ごしてる。なにやってんだろ。なんだか疲れたな。
窓から下を見下ろした。踏切が見える。電車が通り過ぎてく・・・
一度あそこに飛込んでみようかな?楽に逝けるかな?痛いかな?
慌ててワタシは首を振ってこの思いつきを忘れようとした。
気付いたら電車に乗って下町のある駅でワタシは降りた。昔住んでた町。
子供の頃遊んだ場所に行ってみようと思った。中学校、川、橋、ゲーセン。
中学校も川も橋もまだあった・・橋の上に立って思い出した。
ここでワタシよく・・・溺れそうになった。
誰も助けてくれず・・みんなでワタシを笑ってた・・。
ワタシ・・いじめられっコだったのだ。それを忘れてた・・・。
何ウキウキ訪ねてるんだよ自分。バッカじゃないの?
振り向くと踏切があった。・・・今度はホンキで飛込もうかと思った。
でも・・・・・ココはイヤだ。ココでは死にたくない。
電車にまた乗った。どっか楽しい想い出ある場所(トコ)で死のう。
最後はイイこと想い出して死にたい。でも、そのうち気付いた。
イイ想い出ある場所(トコ)なんて・・ないじゃない。そんなのないじゃない
なんなんだ?ワタシの人生。30年生きててイイ想い出の一つもないなんて。
結局、地元に戻り行付けの居酒屋で呑んだ。
顔見知りの店員が呑みすぎを注意したが、睨むと黙った。
ワタシの後ろに若い男の集団がいた。一人がワタシをチラチラと見てた。
店の窓に雨があたって音をたてる。雨音聞いてるうちに決心がついた。
店の外に出た。凄い降りだ。濡れるのも構わず踏切に向かって歩き出した。
傘をさしてる人にぶつかる。舌打ちされる。にらまれる。
無視して急ぎ足で踏切に向かった。
踏切の前に立った。電車が来た。飛び込もうと思った・・でも足が動かない。
電車がまた来た。・・でもダメだった。足が震えて前に進まない。
周囲のヒトたちが気味悪そうにワタシを見て通り過ぎる。
涙が出てきた・・とまらなかった。これで、これで死んでイイのかよ?
なんにもない人生だった。何にも楽しいことなかった・・
イヤだ・・このまま終るのはイヤだ、こんなまま死にたくない。
ワタシだってシアワセになりたい、楽しいことしたい、大声で笑いたい。
涙がとまった。側にある植え込みに座りこんだ。
顔を上げると若い男の子がこっちを見て立ってた。お店にいたコだ。
「何か用?」ついキツイ口調になった。
彼はオドオドと話した。「ヒドイ顔してたから心配になって」
「それでつけてったっての?どうして?関係ないじゃない?」
彼は必死に搾り出すように話した。
「オレも昔・・おねーさんみたいな顔してたとき・・あったから・・
死のうとしたことあったから、だから心配で」
ドキッとした。
「それで?」「え?」初めて彼はこっちを見た。
「死ななくて、貴方・・なんかイイことあった?」彼は困った顔をした。
「答えてよ、死ななくて・・生きててよかったって思えたの?答えてよ!」
ワタシは必死に聞いた。彼は答えた。「別にないよ・・そんなの、でも」
「でも?」「生きてたから、こんなキレイなおねーさんと話せたんだし」
彼はこっちを見ようとしなかった。ワタシは思わず笑い出してた。
きっと・・・彼なりの精一杯の答えだったんだろう。
このコも人付き合いが苦手なんだろうな。
「心配してくれてありがとう」彼はワタシを見た。脅えた瞳をしてる。
その瞳を見て何だか安心した。
このコはワタシと同じだ・・・このコはワタシの・・仲間だ・・・。
「お礼にお酒ご馳走する、呑みなおそう」ワタシが笑うと彼も笑った。
月曜日・・会社に行ったら辞表を出そう。そう決めた。
いつの間にか・・・雨があがっていた。。