真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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生存権を脅かすアメリカの残酷な経済制裁

2023年09月24日 | 国際・政治

 先日、ウクライナのゼレンスキー大統領が国連で演説しました。でもその内容は、ウクライナ戦争のすべての責任をロシアに押しつける、一方的でひどいものだったと思います。プーチン大統領が主張しているNATOとウクライナの、ロシアに対する脅威の拡大に関する内容や、ヤヌコビッチ政権の転覆を受け入れないドンバス住民の問題、世界中の人たちが望んでいる停戦のきっかけを模索するような内容は全くありませんでした。
 だから私は、民主主義者を装っても、衣の下から鎧が見える演説だったと思います。
 ロシアを降伏させ、プーチン政権を顚覆しようとする覇権国家アメリカの戦略にもとづく内容だったと思うのです。
 また、対面の演説であったにもかかわらず、当初のような熱烈な支持や拍手はなかったように思います。それは、アメリカのウクライナ支援の裏側が少しずつ明らかになり、多くの国の人たちがウクライナ戦争の真実を知り始めているからではないかと思いました。

 莫大な金額にのぼる武器を供与しウクライナ支援を続けてきたアメリカのバイデン大統領が、射程の長い地対地ミサイル「ATACMS」を供与するとゼレンスキー大統領に伝えたとの報道が、昨日ありました。非人道兵器とされているクラスター弾を使うタイプを提供する方向ということですが、そうした武器供与を中心とするアメリカのウクライナ支援の目的や意味が、徐々にわかってきたのではないかと思うのです。 

 下記は、「キューバは今」後藤優子(神奈川大学評論ブックレット17お茶の水書房)からの抜萃ですが、敵対する国に対するアメリカの制裁が、どんなに残酷で恐ろしいものであるかが、よくわかります。
 かつてキューバのゲリラ指導者、チェ・ゲバラが、”祖国か、死か”と語った言葉を思い出します。アメリカに逆らうということは、それほど厳しい覚悟を必要としたのだということです。
 だから、そのことを踏まえて国際情勢を捉える必要があると思います。

 2022年3月の国連緊急特別会合では、日米など96カ国が、”「ロシアによるウクライナ侵攻に最も強い言葉で遺憾の意を表す」として、ロシアに対し「軍の即時かつ無条件の撤退」を求めたうえで、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の「独立承認の撤回」も要請する決議を共同提案し、141カ国の賛成多数で採択しました。その時の報道では、ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5カ国が反対し、中国やインドなど35カ国は棄権したとのことでした。多数決ではロシアの敗北です。
 でもその採決結果には、大きな力が働いていたと思われることを見逃してはならないと思います。すなわち、アメリカの制裁を恐れて、賛成せざるを得なかった国が含まれていただろうということです。
 また、アメリカを中心とするNATO諸国の、ロシアに対する挑発的・攻撃的活動が、明らかになっていなかったということや、西側諸国の、日常的なプロパガンダの影響も踏まえる必要があると思います。

 日本を含む西側諸国では、日々、アメリカの戦略に基づくプロパガンダが流されています。
 例えば、9月22日の朝日新聞「世界発 2023」には、”インフレ率数百% 700万人脱出 独裁政権続くベネズエラ”という見出しの記事が出ていました。
 でも、ベネズエラのマドゥロ大統領は、アメリカの搾取や収奪を断固として拒否し「貧者の救済」を掲げて、1998年のベネズエラ大統領選挙で選出されたチャベス大統領の後継者であり、ベネズエラ統一社会党の出身です。
 チャベス大統領死去後、チャベス政権の継承を掲げて大統領選挙で正式に後任の大統領に選出されているのです。 
 ただ、南米の資源大国なので、アメリカの厳しい切り崩しに対応せざるを得ず、政治的には行き過ぎた問題もいろいろあるだろうとは思います。でも、命がけでアメリカに抵抗するマドゥロ政権独裁政権と断定し、否定することは間違っていると思います。
 また、中国の台頭に合わせるように、徐々にアメリカ離れが進んでいることもきちんと受け止めるべきだと思います。

 先だって、ベネズエラ外務省は、中国とベネズエラの両国首脳会談で、ベネズエラのBRICS加盟、「一帯一路」など各種協力事業の推進に合意したことを発表しました。
 また、両国が日本のALPS処理水放出に反対する旨を共同声明に盛り込んだといわれています。
 
 第三次世界大戦の危険を回避するためにも、圧倒的な軍事力と経済力を背景としたアメリカの世界支配を終わらせ、民主的な国際社会を実現するために行動すべき時期がきているのではないかと思います。
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                    「国民を路頭に迷わせない」

 キューバでは、共産党大会は原則として五年ごとに開かれる。前回の第三回大会は1986年に開かれており、したがって第四回大会は91年に開催が予定されていた。そのため、本格的な経済危機対策はその時まで待つこととし、当面は緊急対策でしのぐことになった。
 この間に取られた政策はいかにもキューバらしいものであった。学校給食など無料サービスの有料化や配給品の値上げは避けられなかったものの、不足する物資を次々と配給に組み込んでいったのである。「金のある者、力のある者だけが豊かな生活を享受するのであってはならない」という理念にもとづくものであり、たとえば、ほとんど輸入に頼っていたために最も不足の激しかったミルクは、乳幼児と高齢者と病人だけに配給切符が配られた。
 一方、原料も部品も燃料もなければ工場は動かせない。しかし、工場を閉鎖したり操業短縮すれば多くの失業者を出し、国民を路頭に迷わせることになる。そこで政府は91年10月に余剰労働力に関する政令を出し、リストラ労働者は転職させるか、または職業訓練を施し、その間、6ヶ月は元の職場と同じ賃金を支払うことにした。しかし、次々と企業が閉鎖に追い込まれているときに、転職の可能性があるはずはなく、結局、雇用の確保のために赤字企業に財政補填を行ない、維持する以外になかった。
 こうして91年10月の第四回共産党大会を迎える。キューバでは何か大きな問題が起きると「全国民的討論」が繰り広げられる。このときにも党大会を前に90年3月から、いかなる政策をとるべきかについて、共産党の下部組織だけではなく、労働組合、女性団体、青年団体、住民組織などで「全国民的討論」が行われてきた。だが、党大会直前には経済状況は予想以上のスピードで悪化しており、ソ連の解体すら予想される事態になっていた。これは大会の議論にも影響を与え、指導部も相当の危機意識をもって臨んだ。カストロ第一書記の基調報告も刻々と変化する情勢を前にして、即興の演説となった。
 もしもソ連解体という事態になれば世界での孤立は避けられない。米国はカストロ政権追放の好機とみなし、経済封鎖をさらに強化してくるであろう。キューバにとって非常に厳しい事態であったといえる。
 第四回党大会ではさまざまな決議が出され、さまざまな経済危機対策が打ち出されているが、ソ連消滅が避けられない以上、取るべき基本的政策は決まっている。結局、「経済決議」で打ち出されているように、(一)世界のあらゆる国々と経済関係を打ち立てる。(二)外貨収入確保のため新たな砂糖輸出市場を確保し、さらに非伝統的輸出品を開発する。(三)輸入に頼らない自給的経済体制を打ち立てる、ということになるが、ソ連消滅によって米国の一極支配体制ができれば、これも非常に厳しい。
 米国の対キューバ制裁法、つまりクリントン大統領が96年に署名して成立したヘルムズ・バートン法(「1996年キューバの自由と民主主義連帯法」)は、ブッシュ政権が制定したいわゆるトリチェリ法(正式には「1992年キューバ民主主義法」)が効果を上げていないとして制裁をさらに強化したものであるため、非常に厳しいものとなっている。世界のどこの国で作られたものであれ、キューバ産物資を含む物品の輸入は禁止され、キューバに立ち寄った船舶は六ヶ月間、米国の港に入ることができない。大型の貨物船は各地の港を回っていくから、これは第三国に対する対キューバ貿易の禁止を意味する。しかもキューバと取引した国や企業も制裁され、またキューバを援助した国は米国の援助が停止されるため、とくに、累積対外債務をかかえる近隣のラテンアメリカ諸国には大変な脅威である。
 経済回復はいうまでもなく、砂糖輸出の増加にかかっている。しかし、国際市場での取引はほとんどが二国間協定になっておりキューバが食い込むのは難しい。そのため、自由市場で売らざるを得ないが、砂糖の国際価格は「ゴミ価格」といわれるほどに低迷している。砂糖に将来性がないとすれば、輸出できるものは全て輸出し、生き残りを図らなければならない。その中で新たな外貨収入源として観光開発に力が注がれたことは有名だが、この他、いかにもキューバらしいものとしては、医薬品の輸出やスポーツコーチの派遣がある。いずれも革命後、医学の発展やスポーツの振興に力を注いできた成果である。医薬品では脳髄炎ワクチンがよく知られており、スポーツについては野球やバレーボールなど、ラテンアメリカ諸国を中心にコーチを「輸出」し、外貨を稼いでいる。そのために、パンアメリカン・スポーツ大会などはそれまではキューバと米国の争いの場という感があったが、他のラテンアメリカ諸国は強力な相手として台頭しており、ジレンマでもある。
 外資の積極的導入も打ち出された。やはりホテルの建設や経営が中心だが、スペイン、カナダなど多くの企業が進出した。ハバナや世界的な有名な保養地であるバラデロ海岸などはホテル建設ラッシュとなっているが、それでもホテルの客室数はまだ足りないという。外国人観光客はすでに年間百万人を超え、外貨収入も砂糖のそれを上回り、全体の50%を超えた。観光客が多いのはスペイン、イタリア、ドイツ、フランス、カナダ、それにアルゼンチンなどのラテンアメリカ諸国といったところである。


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